ならずものがやってくる

  • 早川書房
3.58
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本棚登録 : 296
感想 : 33
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152093233

感想・レビュー・書評

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  • 少しずつ繋がった登場人物達の連作短編集、なのだけど、同時代の横の繋がりだけでなく時間を遡っての縦の繋がりと織り上げられていき、まるで大きな河の流れを見るようだった。
    作者の凄まじい手腕。
    タイトルの「ならずもの」が何なのかわかった時には涙が出た。
    とてもシビアだけれど、読後感はすっきり。

  • 最近、新しい作家のアイデアや感性を味わうのが楽しい。もともと古典が大好きなのだが、新しい本を読まなくてはならないね。本書にはパワーポイント小説まで挿入されている。このアイデアたるや。
    内容は音楽プロデューサーのルーを共通人物として、友人、仕事仲間、家族など近いまたは遠い関係の人々が、時間と場所を変え、人称を変え、語り口も変えつつ、異なる物語を紡いでいく。それぞれは独立しており、完成度の高い短編集のようだ。巧みな構成力と物語。ただ、通勤で細切れに読んでいると、それぞれの登場人物の関連がフォローしきれなかった。読み終わって再度ぱらぱらと読み返すと、もやっとした部分がパズルのようにはまった。
    主人公はルーでも、関係者の誰か一人でもない、「ならずもの」であるところの「時間」なんだろう。容赦なく人を老いさせる時間、その中で小さな希望を抱きつつ歩いていく人間たちを俯瞰する。

  • チャーリーとロルフの物語が好き。最後の、こっそりとロルフと呼んでいる息子が見せる「あのとき空を見上げていた夢見るような表情を見てとる」s-ン。その情景がはっきりと浮かんでじーんときた。
     レアとルーの会話も好き。「この世界に溢れてるクソッタレなやつらの言うことを聞くな。オレの言うことを聞いておけ」
    「あんたもそのクソッタレなひとりだ」でも、彼の言うことを聞いた。

    何年か後に読み直したら、また感じるところは違うんだろう。
    私があの日に、過去の瞬間を思い出したみたいに。未来のどこかで、今この瞬間が蘇るみたいに。
    何年たってもこのものがたりと一緒にいたい。そんなふうに思わせてくれる小説。

  • あるバンドのベースマンに関係した人物に関する13の短編からなる小説。

    それぞれで視点人物、表現方法が異なっている。それぞれがどこかでつながり、最後の章は最初の章へと関連していき、全編として一つの世界を形成している。

    異なった視点人物で話が進み、相互に連関していくという手法は新奇なものではないだろう(登場人物が多くて把握しきれず、関係図を書けと言われると困るが…)

    盗癖のある失踪した姪サーシャへの恋心を秘めてナポリに探しに行ったテッドが、彼女の粗末なアパートで二人で夕陽を見る描写が心にしみる「11グッバイ、マイ・ラブ」、本作品を含めた長編小説の存在を危うくするパワーポイント形式で表された「12偉大なロックンロールにおける間」、流行市場に背を向けたレーベルオーナーベニーが元バンド仲間スコッティをアレックスらと情報を駆使して売り出していく現代社会批判を含んだ展開と、アレックスが実はサーシャと関係があったことを思い出す、「1見つかった物たち」へと連関していく構成が絶妙な「13純粋言語」が良かった。

    一つ一つの物語はそれほど起伏のあるものではなく、全体で世界が形成される完結性、そこに流れる時間の厳粛性認識にだまされている感が個人的にはなくもない。

  • これもまた、ソローキンの『青い脂』と同じく、2012年の海外文学好きの間で話題になった作品。それだけで気になっていたわけではなくて、「ならずもの」という語感がひたすら気になっていた。原題は“A VISIT FROM A GOON SQUAD”。

    第1章は、盗癖を隠している女とそれを知らない男の、あるひとこまのエピソード。化粧室で財布をすり取ろうする女の高揚感と、思いがけない事態に遭った狼狽の描写が鮮やかで、ややありきたりかなあ?と思ったものの、これだけ読んでも短編として十分面白い。しかもこれをスタートに、しりとりのように、でも不規則にリレーされて物語がつながっていく。この作品を数章読んだ印象は、「エリザベス・ストラウト『オリーヴ・キタリッジの生活』の構成と同じじゃん」という、ちょっとさめた感じだった。ピューリッツアー賞の受賞作に共通なんじゃないかと思わせる、巧みで明晰な筆致も同じように思え、「こんなんでいいのかなあ」という、ちょっとした失望感があった。

    でも、そこを我慢して(というのは不適切かもしれないけど、まあそんな感じ)進んでいくと、ある時点から鮮やかに、キャラクターや物語の受け渡しが像を結ぶ。ルーの周りのグルーピーだった男女、彼・彼女らのパートナーや仲間、家族…成功をつかんだものもいれば、リアリティ・バイツに立ち上がれなかったものもいる。少しだけ未来のことが意外な形で書かれていたり、ずっと過去のことが描かれていたりと広がりながら行きつ戻りつし、大回りして鮮やかなエンディング。なるほど、これが「ならずもの」の正体…でも、不愉快になるわけでもなく、「そういうもんだよね」と大人の静かな笑みで読み終えることができたように思う。

    各章に文章のさまざまなテクニックが凝らしてあるので、そのテクニックに気が取られて、登場人物の関係が見えにくくなってくる。思わず、「ハヤカワ文庫NVみたいに、カバーに『登場人物一覧』、プリーズ!」と何度もつぶやいてしまった(笑)。でも、それぞれの凝った構成が、簡単に登場人物の関係や心理を読ませない目くらましになっているんだろう。それほどに多様な視点とテクニック満載の作だと思う。特に第12章の表現方法が新しすぎてまいった。小説家志望のかたは、絶対お読みになったほうがいいですわよ!

    60年代くらいからのアメリカ音楽がそこここにちりばめられているので、そのへんに弱い私には、それが作り出す効果がピンとこなかったようにも思う。うーん、現代アメリカ小説を読むには、ロック・ポップスに明るいほうが5倍くらいは確実に楽しいのだな!と、ニック・ダイベック『フリント船長がまだいい人だったころ』と同じ教訓も得たのでありました。そこが、自分に対する減点ポイントかも。

  • 様々な人生がおりこまれて、それがまた様々な角度で書かれている。ぐるんぐるんと視点を変えることが若干しんどくもあり面白くもあり。

  • アリの巣のように、
    仕上げた空間から細い通路を伸ばして、
    また別の空間を作る。
    そこからまた通路を伸ばしてさらに別の空間。
    最終的に見事な作品が完成する。

    2010 年 全米批評家協会賞小説部門受賞作品。
    2011 年 ピューリッツァー賞フィクション部門受賞作品。

  • 「シャンタラム」で始まった2012を、この小説で締めくくれて満足。お見事

  • レコードのような構成が特徴的。「ならずもの」と人生の不思議なつながりが描かれている。パワポ形式はとても斬新。

ジェニファー・イーガンの作品

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