アルモニカ・ディアボリカ (ミステリ・ワールド)

著者 :
  • 早川書房
4.06
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本棚登録 : 746
感想 : 111
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152094223

感想・レビュー・書評

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  • 好評だった「開かせていただき光栄です」の続編。
    18世紀後半の英国での事件をムードたっぷりに描きつくします。

    あれから5年。
    連続殺人事件の後、解剖医ダニエルのもとを二人の愛弟子エドとナイジェルが去った。
    解剖学教室はほぼ閉鎖され、暇になった弟子たちアル、ベン、クラレンスは、盲目の治安判事ジョン・フィールディングのもとに集い、犯罪情報を載せる新聞の発行を準備していました。

    解剖学のさきがけとなった奇人ダニエル・バートンは実在の人物。
    盲目の判事というのも作り話のようだけど、実在していたんですよね。
    当時はまだイギリスには公的な警察組織がなく、まともな裁判は行われていなかった。
    賄賂を出せるかどうかで判決が決まってしまうほど。
    事態を憂える判事は自宅を公邸とし、裁判もそこで行っていました。
    判事の姪で目の代わりとなるアンも、活躍。
    すがすがしさが救いとなっています。

    悪魔を呼び出すという楽器アルモニカ・ディアボリカがあるという噂‥
    天使が羽を広げて落ちていくのを見たという出来事‥
    後に遺体が発見され、天使と見間違えたとされるが、そこには謎が?

    見世物小屋でケンタウロス(半人半馬)となっている男。
    行方の知れない恋人を探し続ける娘エスター。
    ガラス職人がフランクリンに依頼されたこととは。
    一方、精神病院ベドラムで繰り広げられた暮らしも挿入されます。
    医療も未発達な時代、精神病院に入っても治療とは名ばかり、監禁が目的の場合すらあったという。
    さまざまな段階で絡み合う人々の運命、それはやがて‥?

    18世紀の話だから訳語が古いのは仕方ないよなとか、硬くて読みにくくても仕方ないよな‥とか、ふと思ってしまったり。
    いやいや、21世紀の日本人が書いた小説なんですが。
    時代色たっぷりで、惜しげなく熱筆がふるわれ、引き込まれます。
    恋人達の再会はほっとしますが、哀しい別れも‥
    全部ハッピーとはなりえない設定でしょうけど、切ないですね。
    皆川博子小説ならではの読み応え、ありました!

  • 最後の二行のためにある長編小説。
    最後の二行だけで、ミステリーが切ない愛の物語になる。

    皆川先生天才か。

    人物の多さに覚えるのが大変でしたが、「それより読み進めたい」と思わせる謎に次ぐ謎。
    しょっぱなは「ラピュタ」を思わせるファンタジー性に満ち溢れ、けれど陰惨な事件、衝撃の事実になだれ込む怒涛の展開。
    奇妙な楽器を巡る事件、ナイジェルの過去が絡み合う……

    構成も無駄がなく(大変入り組んではいるが)、これだけの人数、伏線を一人一人に役割を持たせ、ちゃんと収めているところが本当にスゴイ。
    傑作だと思う。「開かせていただき光栄です」よりずっと読み応えがあった。

    「開かせて~」から出ている登場人物たちにはよりいっそうの愛しさを感じるし、悲しい恋人たち、患者たちの行く末にもそれぞれハラハラせずにはいられない。

    そして何より、エドが出てくるボリュームの絶妙さ。
    あれしか出ないから、読者は彼の悲しみ、嘆き、怒りを想像するしかない。
    彼がナイジェルと過ごした時間、彼を愛した時間を想像するしかないのだ。

    天・才・か(二度目)

    しかもナイジェルは手紙でしか登場しない。
    彼が残した痕跡でしか登場しない(エドの絵とか。グハッ萌える)。

    そしてラスト二行である。
    私はリアルに「ひゃあああああ」と声が出た。
    あの二行。あんな切ない愛があろうか?????
    たった二行でBLは完成するという見本でもある!!!
    皆川先生天才!!(断言)
    もう、読者は皆川マジックに翻弄されるしかないのだ……!

    久々に「読みたいとにかく読みたい」と思わせる本だった。
    ハ~。至福。先生ありがとう;;

  • うーん、すばらしい!「開かせていただき光栄です」に続編があったとは。おまけにそれが前作を上回る面白さ。物語を読む楽しさを満喫した。

    華麗にしてグロテスク。ダークでありながら上品。「少年十字軍」「海賊女王」そして本作と、ここのところ精力的に新作が出ていて、そのこと自体が驚異的だ。作品の趣はそれぞれ違うが、そこには一貫して透明な空気が流れている。こんな風に書ける人が他にいるだろうか。もうこれは唯一無二の皆川ワールドだ。

    舞台となっているのは18世紀の英国で、その時代のことなどほとんど知らないに等しい。にもかかわらず、ああ、きっと人々はこんな風に生きていたんだろうと思わせられる、確かな感じがある。それはきっとこの世界が、作者の血となり肉となったものから生まれているからだろう。その厚み、陰翳の濃さに圧倒される。

    ああだこうだと考えず、ただただ物語の流れに身をまかせて最後まで運ばれていく、こういう読書ができることはめったにない。堪能しました。はぁ~。

  • つらすぎる!!!

  • 「開かせていただき光栄です」の正統なる続編。前書を読んでない場合は、本書を読むのを禁ズル。というほどに前作から物語が引き継がれている。意味深なタイトルと不気味に美しい表紙をそのままに、5年後の世界が描かれている。ジャンルはミステリーだが、楽しむべき方向性は謎解きよりも、格式高く幻想深い文章と、登場人物のシニカルでユニークなやり取り。悲しいけれど、どこか可笑しい独特の世界にハマったら抜け出せない。

  • 2014年最初の一冊でした。
    ナイジェルの素性が明らかになると聞いてからずっと待ってました!

    直前に「開かせて~」の文庫版読んでて良かった。前作ありきの続編。
    登場人物が多い分人間関係も複雑で終盤はちょっと頭がこんがらがるかな?いくつもの事件や関係者の繋がりとか。
    早く続きが読みたいのに、もったいなくて進めない。
    サー・ジョン目線のストーリーが中心。前作では完璧とも言える探偵役だったサー・ジョンにも法に携わる者としての苦悩が描かれてる。でも全体的に群像劇っぽいかな。バートンズがダニエルの元を離れているので、ちょっと寂しい気も。

    とにかく凄かった・・・!
    でもショックも大きかった。
    脅迫なんてしなければ、アボットが死ななければ、天使の姿に別の遺体or作り物を使っていれば・・・考えたらキリがない。
    ラスト2行がもうダメです。表紙見ただけで思い出して泣きそう。
    同性愛的な部分が強いけれど、そんなの全く気にならない。とにかく手記にモノローグが入ってくるあたりから切なくて仕方なかった。

    エドはどれだけ一人で抱えこむのだろう?モノローグが全くないのでどう思っているのかが解らない。続編の構想もあるということなので、エドに救いが欲しい。ナイジェルがいない今、エドを救えるものがあるのか解らないけど。


    ミステリマガジンの編集さんがtwitterでアンの嫁ぎ先の話をしていたけど、アンがとても好きなので幸せになってほしい!

  • 切なく、悲しく、美しいストーリー。

  • 続編は肩透かしも多いけど、前作越え!
    ナイジェルは死んだと見せかけて、本当は生きてるんじゃないかとおもったけど、そこは深読みしすぎた。が、出自を知るにつけ、彼には強かに生きてほしかった。ここでまたポーの一族に頭シフトさせると、アランポジションだから?!
    事件のピースの繋がりかたが、現実はそんなにうまくいかないよね、とは思うけど、謎の開陳がスムーズで気持ちよくて、次をどんどん読みたくなる。
    人物が生き生きとしていて、読んでいて物語にうんと惹き込まれる。
    改めて、研究馬鹿のダニエル先生好きだな〜!
    アルの大活躍も、ネイサンの成長もニマニマしながら読める!

  • 再び18世紀英国へミステリの旅をしてきました。
    『開かせていただき光栄です』の続篇です。

    一つの事件を発端に広がる謎…。

    登場人物のそれぞれの過去や起こった出来事などなどなどの線。
    その線の繋がりや謎が後半になると徐々に解れていく快感が私には堪りませんでした。

    途中途中得意の相関図を描いて頭の中を整理しながら読み進めましたよ^ ^

    もはや皆川ワールド!

  • 最後の文章で心が震えました。切ないです。

著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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