樹木たちの知られざる生活: 森林管理官が聴いた森の声

  • 早川書房
3.89
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本棚登録 : 220
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152096876

作品紹介・あらすじ

樹木はさまざまな手段を使って語り合い、助け合い、森の命を繋いでいるのだ。ドイツの森林管理官が、長年の経験と科学的裏付けをもとに語る、新しい森の姿。世界的ベストセラーを記録している、至高のネイチャー・ノンフィクション!

感想・レビュー・書評

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  • “植物学者の大半は植物の行動を、知性や記憶あるいは感情の蓄積とみなすことに消極的だ。動物の行動と比較するのを嫌い、植物と動物の境界があいまいになるのを恐れているようだ。ーでもそれのどこがいけないのだろう。
    情報を得てから行動に移すまでに時間がかかるからと言って、生き物として価値が低いことにならないはずだ。動物と植物の間に多くの共通点があることが証明されれば、人は植物にもっと優しくなれるだろう”
    著者の気持ちが凝縮された箇所だと思う。

    樹木の友情、子育て、社会福祉、これらの言葉は単なる擬人化による比喩じゃない。偉大なる先達である樹木が持つ精緻なシステムへの驚嘆、敬意を表わすのに、他に言い換えようがないのだと分かってくる。

    リチャード・パワーズ著『オーバーストーリー』には、本書にインスパイアされたと思しきキャラクターであるパトリシア博士が登場する。
    彼女の台詞に『木を切る時は、木よりも価値があるものを作らなければならない』がある。
    今、沖縄石垣島でゴルフ場建設の是非が問われている。地元の議論は様々として、百年後を想像したときに、ゴルフ場跡地と化すものと森が育むものとを比べて議論すべきじゃないかと、思うのです。
    僅かな寿命しか持たない人間が、自分が亡くなった後も本来なら生き続けられるはずの樹木の命を簡単に奪うことー。
    もっと慎重でありたいと強く願います。

  • 木の生態を全て擬人化して書いているので、科学的な根拠があるのかが伝わりにくい感じが気になりました。けれども、筆者が長年森を管理してきた経験に基づいて書かれており、明確な根拠なんて無くてもきっとそうなのだろうと思えました。

    森林セラピーの体験に行った時、目を閉じて手と頭を木にぴったりとつけ、何を感じるかというプログラムを行ったことがあります。人それぞれ感じる事は様々ですが、私はその木から森全体の広がりが見えたような気がしました。1本の木は森全体と繋がっているんだなと思ったのですが、この本にはまさにその事が詳しく書かれていました。

    木は、人間には見えない地下の大きな世界で、根どうしが物理的に繋がるだけではなく、地中の微生物を介して地下に大きなネットワークを形成していて情報を伝えあっているそう。森の一部を破壊することは、森全体に影響を及ぼす。

    この本を読んでいると、人間社会以上に緻密に作られた森の社会を、体験することが出来た気がしました。

  • 疲れがたまってくると、森林に行きたくなる。
    緑の風景、葉づれの音を聞きながら、時間を過ごすと、いつのまにか疲れが軽快している。
    森林セラピーという言葉を知りながらも、自分は、樹木のことを全く知らなかったのだなーと。

    森の中では、樹々たちが、根や葉、菌類の情報ネットワークを通じてコミュニケーションをはかっている。
    生き物であることは、ずっと前からわかっていたが、仲間とコミュニケーションを取っているということは、考えたことがなかったかも。
    今まで、自分が森の中で聴いていた「葉づれの音」は、単なる葉づれの音ではなく、会話中の樹の声だったのかも。。と、思ったら、次回、森に行くときが楽しみになる。

  • 森や木のことについて、ほとんど何も知らなかった、ということに気づかされた。
    植物は生き物。
    それすら、実感としてわかっていたのか、疑わしい。

    この本を読んでから、街路樹に目を向けるようになった。
    すると、まるで切り刻まれてあらゆる枝を掃われたかのような街路樹も多いことに気づいた。
    人間の都合で植えられ、傷つけられている植物が、痛々しく見えた。

    原生林、というものが、日本にはどれだけ残されているのだろう。
    人間の手が加えられていない部分なんて、ほとんど無いのではないか。
    共生するということは、一体どういうことなのか。
    エゴの強い人間が、植物についてどこまで理解できるのだろう。
    とても難しいことのように思える。

    知るということは、尊重することにつながる、のかもしれない。
    私の植物に対する視線が、少し変わる予感がする。
    読んでよかった。


    【memo】
    樹木は、根で栄養の受け渡しをすることがある。

    樹木の電気信号は、1分で1センチしか進まない。
     →たぶん、細胞壁の加減かな?

    P63 「多様性こそが、原生林を維持するカギとなる」

    P94 「ひとつかみの森の土の中には、地球上のすべての人間よりもたくさんの命が含まれている。ティースプーン1杯分の土だけでも、そこに含まれる菌糸の長さは1Kmをこえる」

  • 20181209 学生時代から山登りを趣味にして来て、日本の森林には何回となく入って来た。一度も木の会話を聞いたこともないし、単なる物としてみて来た事が反省させられる。この本を読んで、公園でも良いので木の下でゆっくりと会話したくなった。又、山に行った時の自然との触れ合い方も変わってくる予感がする。

  • 森の中で助け合いつつ生きる樹木と違う街路樹をストリートチルドレンと呼んでいる。根を伸ばしたら道路にぶつかる、下に伸ばすと水道管にぶつかる、傷ついたら誰にも助けてもらえないんだと思うと街路樹がかわいそうになってきた。

  • 他の木を援助するような強い友情は天然森林にしか見られない
    木の表現手段=芳香物質…草食動物にかじられたら毒を出す、害虫の唾液を分類して天敵の好きな匂いを発する
    衰弱した木は抵抗力だけでなくコミュニケーション能力も弱まる
    根を使って情報交換する=豊かなものは貧しいものに分け与え、貧しいものは遠慮なく頂戴する

    年をとる
    =再生率が低くなり樹皮にシワ
    =背が伸びなくなる
    =先端に栄養を運べなくなり太る
    =先端が枯れる=背が低くなる

    内陸でも乾燥しない仕組み
    =海岸から続く森林
    =森のポンプ

    社会の真の価値=最も弱いメンバーをいかに守るか

  • 木は栄養を分け合って助け合っていることを知って驚いた。それは地中の根を通じて行われる。何百年も前の切り株が、周りの木に栄養を与えてもらって生きていることもあるのだ。木のコミュニティには強い団結力があり、弱いものも参加できる社会福祉システムのようだ。ドイツの職人たちが好んで口にする、「社会の真の価値は、その中の最も弱いメンバーをいかに守るかによって決まる」という言葉は、樹木が思いついたのかもしれない。親が種を蒔いて芽が出た子どもは、100年も大きく成長できないほど我慢を強いられるが、その間は親が栄養を与えてくれる。そうしてゆっくり育つと、中身がしまった強い木になる。古い木よりも若い木の方が生長が早いと思われているが、国際的な研究チームが70万本の木を調査した結果、木は歳をとればとるほど生長が早くなることがわかった。若返りというと聞こえはいいが、年老いた木を伐り倒して若い木を植えるのは間違いだ。
    木は化学物質や電気信号で情報を交換しているが、 菌類の助けを借りている。森の土をティースプーンですくうと、数kmもの菌糸が含まれている。たったひとつの菌類が数百年で数平方kmにも広がり、森全体にネットワークを形成して、害虫や干ばつの情報を知らせる。根は最も大切な部分で、脳のような働きもしている。
    樹冠はせめぎあいだが、仲間の木の場合はお互い邪魔にならないように遠慮しあっている。
    世界最大の生物はキノコだ。アメリカのオレゴンでは9平方kmもの範囲に広がり、重さ600t、推定年齢2400歳というものが見つかっている。ただこのキノコは、樹木と栄養を奪い合うライバルだ。
    森は海からの水分を内陸に運ぶポンプであり、熱帯雨林でもシベリアのタイガでも同じだ。ブラジルでは木を切りすぎて、アマゾンが乾きつつある。
    樹木はフィルターの役割を果たしてくれるので、森の空気は澄んでいる。除去される物質の量は年間で1平方kmあたり7000tにもなる。これは草原の表面積の100倍にあたる。
    樹木は睡眠もとるようだ。アメリカのある都市で立ち枯れしたナラを調査したところ、4%は夜間に点灯している人工の光が原因だった。
    樹木は生物であると誰もが知っているが、まるで物のように扱われる。しかし暖炉の中でパチパチとはじけるのは、火に焼かれるブナやナラの死体だ。東武駅は、人間が必要以上に森林生態系を自分のために利用していいのか、木々に不必要な苦しみを与えてしまってもいいのかということだろう。家畜と同じで、樹木も生態を尊重して育てた場合にだけ、その木材の利用は正当化される。要するに、樹木には社会的な生活を営み、健全な土壌と気候の中で育ち、自分たちの知恵と知識を次の世代に譲り渡す権利があるのだ。少なくとも彼らの1部には寿命を全うしてもらい、林業を食糧生産における有機農業に相当する択伐林業で営むべきだ。その際、あらゆる年齢と大きさの木を組み合わせて営林し、幼木が親の下で生長できる環境を作る。そして時折、ほかに悪影響が出ないように慎重に木を倒し、その幹を馬で運び出す。そして老木にも配慮して、森の5%〜10%には手をつけずに保護する。残念ながら、中央ヨーロッパでそのような林業が行われているのは全体の5%程度で、残りの95%では、いまだに単一林で大きな機械を使って伐採が行われている。

  • この本を読みはじめてすぐに、樹木のことを何も分かってなかったことに気付きました。

  • 表紙に惹かれて手にしたが、内容も正に表紙のような自然に浸れるものだった。
    優しい語り口で樹木の心を代弁している。樹木が心を持つだとか、教育だとか、冷静になれば受け入れ難い話も違和感なく入ってくる。ただそれは、以前「植物は知性を持っている」を読んでいたから入りやすかったのかもしれない。
    しかし、ナラやブナは本当に良く出てくる。日本で言うスギやヒノキに当たるのだろうか。しかも、これらは樹木の中では逞しい方のようで、他の樹木の生育を阻害するようだ。植物の世界でも弱肉強食があるのだなと思った。

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