津波の霊たちーー3・11 死と生の物語

  • 早川書房
4.31
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152097422

感想・レビュー・書評

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  • 津波の犠牲者をその周りの人々がどのように受けとめたのか。もちろん受けとめ方は人それぞれなのだが、それらがうまく構成されたドキュメンタリの中に編み込まれている。構成の軸は大川小学校の事件。この事件を詳細に見ていくだけでも、様々なことを考えさせられる。誰が悪い訳でもないが、問題はこじれていく。それを少しでも解きほぐすことができないか。当事者でもわからないことを一読者がわかるわけもないのだが、この問題を考えるのに必要な様々な問いかけが、この本によって提示されていると思う。

  • 3.11関連はこれが初めてだけど,読むのが苦しかった.外国人が書いている点も興味深い.
    よく取材されてるし,事実も東北人の性格や国民性もよく分析されてる.日本人は全てを受け入れ,我慢することが美徳だと思ってる.でももう聞き飽きた.そろそろ欧米みたいに声を上げて変えていこう!という指摘.
    自然災害の多かった日本で,「全ては無に着する」「ありのままを受け入れていくしかない」という仏教が根付いたのはやはり当然のように思える.
    それに慣れすぎてしまったから,自然災害に限らず自分から変えようとしない.そこには政治も含まれる.
    政府への低い期待感がプラスに働き,回復力と自立精神に拍車をかけるようになったというのは面白い指摘.何という皮肉.

    あと,私は東北出身だけど,東北のことが「理解しづらい方言,どんよりとした雰囲気・・現代日本人にとっても異国情緒溢れる場所」とか書かれてて苦笑.

  • 前半は嗚咽をこらえきれず、後半は終始震えが止まらなかった。

    どんな言葉をもってしても足りないに違いないが、それでも誰かが記録しなければならない。取材・調査の真摯さ、それを受け止める精神的なタフさ、そして”外国人”の目であることで客観性とも言える距離が保たれたことも幸いしている。
    決して類として見ず個としての生命の尊さに向き合いながら、ここまで構成する力量と人柄には敬服以外にない。

    ものすごいものを読んでしまった。

  • 311から13年経とうとしており、あの大津波災害が朧げになっていないかと、『思い出せ』という気持ちで年明け旅行の本に選んだ。
    まさかの、元旦の能登半島地震。津波。
    最近の地震は津波を伴わないものが続いてたけど、起こるとまた甚大な被害を引き起こした。

    本では、まずは大川小学校。ニュースでよく聞いていた名称であるが、個々人の思いや、何故裁判にまで及んだのか、わからないままの事、隠蔽されたままの事は何なのかがよくわかる。教育委員会をはじめとする行政の闇。組織を守る第一主義。

    イギリス人が書いてるから、我々にとって当然の事に名前をつけられて、所々ではっとする。宗教や信仰は希薄なようで、先祖崇拝が強い。これが自然体すぎて宗教や信仰と繋がっていないけれど、これも信仰か。

    我々は苛烈な自然現象が多発する国土に住っているから、『受け入れる』ことや『我慢する』『耐える』世界に入りすぎているのかもしれない。受け入れたら、この先も良い社会にはならない事だってたくさんある。この生きる姿勢に気付き、行動する。とんがっててもいいじゃないか。
    そんな事を考えた。

  • 映画「生きる - 大川小学校 津波裁判を闘った人たち-」を観たあとの監督のお話に、遺族の間にも色んな立場の人がいる、彼らは大川小学校遺族の代表のように写るけど実際は立場は様々である、と伺い、もっと知りたいと思い手に取った一冊。
    読めば読むほど、遺族の間の立場にも様々であることをより深く知れた。さらに、金田住職の話はとても興味深く、霊的現象を信じない私でもそういうこともあるのか、と感じざるを得なかった。
    そして、こういう感想を書いてる時点で、私もやはり非当事者の域を出ることはないのだなと、考えさせられた。

  • 日本人ジャーナリストが取材した海外のNFを読むような感覚。
    3.11については無意識に当事者的な視点と感情を内面化してしまうので、冷静な他者の視点が暗黙のうちにインストールされるのが新鮮でした。

  • 幽霊談はただのオカルトや怪談ではなく、生者が死者に折り合いをつけ納得していくための物語だ。大川小学校の逸話は嗚咽なしに読めなかった。
    保護者たちは皆、子供たちが避難したと思い込んでいた公民館で寒さに震えてるのではないかと心配し、温かい飲み物や食べ物を用意して、もはや帰らぬ子供達を待ち続けていたのだ。
    子供がいない自分でも辛い。子供がいる家の人は頭がおかしくなるんじゃないかと思う。

  • 最近出た文庫版をパラパラと読んでみて衝撃を受けたので単行本の方をちゃんと読んでみました。

    学校に残っていた児童78人のうち74人、教師11人のうち10人が津波によって死亡した大川小学校。
    その悲劇はもちろん聞いたことがあったのですが、あまりにも多くの人が亡くなった東日本大震災であり、原発のこともあり、当時の私は受けとめることができていなかったと思います。10年経ってやっと向き合うことができるようになったと感じます。

    著者は20年以上、東京に暮らすジャーナリストで、日本への理解とともに、外国人としての客観性を保ちつつ、膨大なインタビューと取材をもとに大川小学校に何が起こったのかを描き出しています。

    東日本大震災においては、迎えにきた親とともに津波にあって亡くなったケースがほとんどで、学校に残っていた児童が亡くなったのは大川小学校だけ、ということも今さら知りました。

    幼い娘を失ったばかりの母親が高齢者と子どもたちの世話を優先させられるという事実、「がんばろう東北」というスローガンに対する違和感、子どもが生き残った親と亡くした親の間のみならず、遺体がすぐに見つかった親と探し続ける親の間にも生まれる亀裂、学校をめぐる裁判に見られる日本の民主主義の空洞、などなど、その視点の鋭さが圧巻です。
    (これ日本人だとここまで批判的には書けなかったと思う。)

    もうひとつのテーマである震災後に見られた心霊現象について、当時はマスコミがエンターテイメント的に消費している感じがして受け入れにくかったのですが、日本人の宗教観として、また生き残った人々の心情として、きちんと描かれていると思います。
    (遺体を探す母親に警察が捜索の手がかりとして占い師や霊媒師からアドバイスをもらってはと提案することにびっくりしますが、やがて占い師から聞く死んだ子どもの言葉によって仕事に復帰していくあたりの話は簡単に片づけられるものではないです。)

    プロローグで著者が見たというテレビの映像、津波が田んぼを、家を、車を飲み込んでいく映像、私も当時、会社で見ていました。ほぼリアルタイムの映像だったこともあって、真剣に見ることができず、「映画のCGみたいだ」と茶化しながら見ている一方で、あの車や家から人々は避難しているのだろうかと思ったことを覚えています。東京では多くの人が見たであろうあの映像をその後見ていないので封印されているのでしょうか。

    以下、引用。
    
    阿部さんが説明する地元の姿、彼の記憶のなかの子ども時代は〝ふるさと〟(日本語で「理想郷(アルカディア)に相当する言葉)の姿そのものだった。
    
    翌日、真一郎さんは家族に別れを告げ、避難者の世話を手伝うために市街地の中学校に戻った。妻であるなおみさんは、その行動に疑問を呈することはなかった。家族の誰ひとり、その行動を奇妙だとも高尚だとも考えなかった。同じように、幼い娘を失ったばかりの嘆き悲しむ母親に、料理、皿洗い、掃除を求めることも、この家ではまったく奇妙なことではなかった。
    
    真一郎さんが学校を離れ、自分の子どもの捜索に行ったとしても、同僚は誰ひとりとして彼を非難したりはしなかっただろう。ところが、仕事に誇りをもつ日本人の教師であれば、安易にそんな行動をとることはできなかった。真一郎さんが自らの子どもの捜索よりも職場の業務を優先したことは、公務員に日ごろから求められる忠誠心の一例にすぎなかった。
    
    「みんな泣きたがりません」と金田住職は言った。「泣くことを利己的だと考えているんです。仮設住宅の住人のほとんどは、家族の誰かを失った人々です。誰もが同じ船に乗っているからこそ、自己中心的だと思われたくないのです。」
    
    「信心深い人たちは誰もが、それがほんとうに死者の魂なのかどうか議論しようとします」と金田住職は私に語った。「私はその議論には参加しません。重要なのは、実際問題として人々がそういうものを見ているということです。震災のあとのこの状況下では、まったくもって自然なことでしょう。あまりに多くの人たちがいっときに亡くなった。自宅に、職場に、学校に波が襲いかかり、みんないなくなった。死者たちには、気持ちを整理する時間がなかった。残された人々には、さよならを伝える時間がなかった。家族を失った人々、死んだ人々ー両者には強い愛着があるのです。死者は生者に愛着があり、家族を失った者は死者に愛着がある。幽霊が出るのも必定なのです」
    
    「欧米社会における死者と日本の死者は、同じように死んでいるわけではない」と宗教学者のヘルマン・オームズは指摘する。「われわれよりも死者を生きた人間に近いものとして扱うことが、日本でははるか昔から当たりまえだとされてきた…死は生の変形であって、生の反対ではない」
    
    「東京人は危険に鈍感であるどころか、それを強く感じとることによって、生活にリズムと張りを見いだしているのだと言えるかもしれない」と、同じころに東京にいたピーター・ポパムは綴った。「世界史上類を見ないほど精巧でよく整備された機械の歯車であるという満足感に、その機械が底なしの深みにいまにも落ちそうな位置にあるという認識によって、エロティックなひねりが加えられるのだ」。東京という都市について、彼はこう結論づけたー「みずからを救うことのできない都市、破壊と生命の喪失をどこか深層のレベルで甘受している都市」。
    
    この〝民主主義の赤字〟の理由は? 日本の政治システムは、なぜダイナミックな政治を生み出すことができないのだろう? これは、現代日本の謎のひとつといっていい。
    
    当時、別の日本語の単語を使ったスローガンもいたるところに掲げられていたーがんばろう。これは難題や苦難を乗り越えようという激励の言葉で、簡単な英語に翻訳すると、〝persevere〟〝stick at it〟〝do your best〟などとなる。〝がんばろう〟は試験勉強に勤しむ子どもにかける言葉であり、スポーツ選手を応援するかけ声でもある。震災後、「がんばろう東北!」と書かれた横断幕が、鉄道駅や公共施設の建物など多くの場所に掲げられた。この文言は、圧倒的大多数の日本の住民ー震災によって個人的に影響を受けなかった人々ーによる連帯感を宣言することを意図するものだった。しかし、哀悼の意としては言わずもがな、同情を示す表現としても奇妙な言葉に思えた。
    
    「マラソン選手のように耐え抜け」とほぼ同じような意味の言葉をかけられることが、自宅や家族を失ったばかりの人々にとって、ほんとうに慰めの源になったのだろうか?〝がんばろう〟という言葉に、私はいつも違和感を覚えた。
    
    「最近多くの人が幽霊を見たと訴えているのは、トラウマのせいなんです。幽霊を見たと話していますが、実際には家庭でのトラブルのことを話しているんですよ」
    
    「似たような話がたくさん出てくるだろうな、とみんなで話していましたよ。個人的には、私は霊魂の存在を信じていませんが、そんなことは重要ではありません。誰かが幽霊を見たと言うなら、それでいいんです。それ以上詮索する必要はありません」
    
    「都合のいいように解釈しているだけだと思います。人が幽霊を見るとき、人は物語を語っている。途中で終わってしまった物語を語っているんです。物語の続きや結論を知るために、人は幽霊のことを夢見る。それが慰めとなるのであれば、いいことだと思います」



  • 知らない事とかもたくさんあり
    子供達のこと遺族のこと
    読んでていて辛いとこがたくさんありました

  • 知らないことばかりだった。特に大川小学校のこと。ニュースで聞くだけだと、あそこまでのツナミは誰にも予想できなかったのだから、と体制側に少し同情を感じてたけど、これを読めばある程度納得。
    残された人、あの日いなくなってしまった人のエピソードを丁寧に集めてある。丁寧な取材であれば、こうやって思いを話すことがセラピーになるようにも感じる。少なくとも私なら、いなくなってしまった大切な人の話を誰かに伝えたいと思うだろう。

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著者プロフィール

英『ザ・タイムズ』紙アジア編集長および東京支局長。1969年生、英マージーサイド州出身。オックスフォード大学卒業後、1995年に『インディペンデント』紙の東京特派員として来日。2002年より『ザ・タイムズ』紙に属し、東京を拠点に日本、朝鮮半島、東南アジアを担当。アフガニスタン、イラク、コソボ、マケドニアなど27カ国・地域を取材し、イラク戦争、北朝鮮危機、タイやミャンマーの政変を報じる。著書に、『狂気の時代』(みすず書房、2021年)のほか、日本を舞台にしたノンフィクション『黒い迷宮』(2015年)、『津波の霊たち』(2018年。ともにハヤカワ・ノンフィクション文庫)がある。『津波の霊たち』で2018年ラスボーンズ・フォリオ賞、2019年度日本記者クラブ賞特別賞を受賞。

「2021年 『狂気の時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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