統合失調症の一族: 遺伝か、環境か

  • 早川書房
3.79
  • (54)
  • (85)
  • (70)
  • (11)
  • (3)
本棚登録 : 3149
感想 : 103
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152101686

作品紹介・あらすじ

第二次大戦後、ギャルヴィン一家はコロラド州に移住し、12人の子宝に恵まれた。しかし子どものうち6人に異変が起きる。修道士のようにふるまう長男、自分はポール・マッカトニーだと言い張る末っ子……。彼らはなぜ統合失調症を発症したのか。家族の闇に迫る

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 統合失調症は、遺伝か環境が?はたまたストレス脆弱説か。はたまた母親か
    結局、遺伝子の変異とやはり家庭環境、本人のストレス耐性。
    発症した人は、やはり周りから見ると大変そう。そして家族も。
    兄弟姉妹も、家族システムの中で苦しむ。
    そのストレスの中で発症してしまう人もいる。
    家族は、同じ遺伝子をもっており発症しやすい。ストレスに打ち勝ち発症しない人もいる。発症しないだけで、統合失調症にかかりやすい人は、かなりたくさんいるように思う。
    そして治療の辛さは、半端ないなと思った。
    いまでもそうなのかな…。
    統合失調症という病気のことを、少し勉強できました。

  • 統合失調症、聞いたことはあったけれど、どんな病気なのか知らなかったが、この本を読んで、「怖い病気なんだな…」と思いました。
    統合失調症とは、100人に1人弱がなる病気。
    また、この本はノンフィクションなので、尚更統合失調症の実態について、身近に感じた。

  • 精神病多発一家ギャルヴィン家のノンフィクション。
    12人の子ども(男10人、女2人)のうち男6人が精神に異常を来す(長男は1945年生、末娘は1965年生)。

    興味本位で手に取ったことを後悔した。キツイ。
    幼少期から延々と描写は続き、当時の医療の現場と同様、読者である私も混乱したまま話は進む。

    1人、また1人と精神を病む。幻視、妄想、無秩序、暴力、性虐待、薬物。
    逮捕と繰り返される入退院。この無限のループ。

    43章(全45章)に至り、ようやく現時点での医学的回答と、ささやかながらも家族の前向きな未来が示されたように思えるが….。

  • まさに衝撃の一冊だった。1970年代のアメリカ、ギャルヴィン家では、厳格な父母のもと、12人の兄妹が暮らしていた。空軍に務める父親、それを献身的に支える母親、そして容姿端麗でスポーツに秀でた子どもたち。一見、理想的な家族に思われたギャルヴィン家だったが、子どもたちの半数が次々に統合失調症を発症していく。

    意味不明な宗教体験を口にして修道士のように振る舞う者、幻聴に苦しむ者、己をポール・マッカートニーだと思い込んでいる者…。当初、父母はそうした子どもたちの異変を見て見ぬ振りをしていたが、そのつけは健常だった幼い2人の妹が払っていた。発症した者たちは薬漬けとなり、未発症の者はいずれは自分も…と恐怖の日々を過ごす。そして、悲劇が訪れる。

    はたして統合失調症は、トラウマなど生育環境に要因があるのか、それとも遺伝的な要因なのか。本書はギャルヴィン家の物語を中心に据え、統合失調症の真実に迫るルポルタージュである。基礎研究に励む医師と市場原理で動く製薬会社のやり取りなどが生々しい。発症せずに済んだ末の2人の姉妹の行く末には、ケアの視点からも思わせられるところがある。一人は家族から距離を置き、一人は献身的に介護する道を選んだ。

    統合失調症は幼い頃に発症するのかと思っていたが、ギャルヴィン家の兄弟はみな成人後に発症しており、そうではないことを知った。一家族の中で多くの統合失調症者を出したギャルヴィン家のケースは、この分野の遺伝子研究を大きく推し進めたという。地道な基礎研究の大切さとそれを支援する体制の不可欠さがよくわかった。

  • ギャルヴィン家の12人の子供たち。
    そのうちの6人が統合失調症という驚き。
    遺伝か環境かとても興味深かった。
    病気になった子供、そうでない子供、親にとっても非常に苦しい人生だったろう。
    読んでいても途中から苦痛になり、早く読み終えたいと思った。
    最後は少し希望が持てたのが救い。

  • この100年の統合失調症研究の歴史を交えながら、12人子供の子供の半数が統合失調症になってしまった家族の半世紀をたどったノンフィクション。だれも病気になっていなくたって、親が外面ばかり気にして精神的なケアをしなかったら子供たちの暮らしは相当過酷だ。それなのに、12人の子供のうち6人ぞくぞくと統合失調症になってしまうのだ。そして戦前生まれの親は頼り先の知識がなく自力で解決/なかったことにしようとして大変な苦労をし、そのとばっちりが子供たちに降りかかる。密室化した家庭内の権力闘争。家族という集団が怖い。

    そもそも特段に富裕なわけでもない夫婦がしまいには医師に止められても12人も子供を持ってしまうのがホラーじみているのだが、その謎に強固な意志で子供たちを封じ込めかつ世話し続ける母親がひときわ怖かった。自分だったら逃げ出す一択な道行きなのだが、末娘が最後に怒涛の頑張りを見せて両親を見送り病んだ兄たちを支え続ける。末娘あんたのパワーは母親譲りだよ。血がつながっているだけでそこまでできるのか、家族ってすごいな、とうっすら感動しながらも、そういう謎のダイナミクスを生む集団はやっぱり怖い。

    そしてさすがアメリカと思ったのが、親は子供の病状が限界を超えるとあっさり病院送りにするし、妹のサポートを受けながらも統合失調症の兄たちは福祉サービスを使って一人暮らしができている。日本でもそれはできるのかな? そうであってほしい。

  • 「ニューヨーク・タイムズ」や「ウォール・ストリート・ジャーナル」の年間ベスト10など、各所で注目を浴びたノンフィクション。原著は2020年刊。

    第二次世界大戦後、アメリカにはベビーブームが訪れた。その最中、飛びぬけて多くの子供を作った一家があった。
    ギャルヴィン家。
    夫のドンが元々カトリックであったことも無関係ではないが、どちらかといえば妻ミミの方が強い意志で次々と子供を産み、育て続けた。実にその数、12人。男の子ばかり10人続いた後、女の子が2人。最終的には医学的見地から医師が子宮摘出手術を促し、ミミもしぶしぶ同意した。
    家計は楽ではなかったが、ミミは規律を持って子供たちを育て、日曜にはきちんとした服装で教会に行き、子供たちのあるものはスポーツに秀で、あるものは音楽の才を示した。
    ところが、順風満帆に見えた一家の中で、徐々にひずみが生じていた。

    最初に病の徴候を示したのは長男のドナルドだった。きっかけはおそらく、ガールフレンドとの破局。大学2年のころ、自殺未遂を起こしたり、猫を手にかけたり、と異常な行動が続き、統合失調症と診断された。問診では、それ以前から問題を抱えていたようにも見えたが、確かなことは誰にもわからなかった。
    次には4男で、バンドを率いるハンサムなブライアン。明るく皆にも好かれていたが、彼もガールフレンドとの別れ話から、大きな悲劇を引き起こす。
    子供たちは、一人、また一人と精神疾患を発症し、最終的に6人もが統合失調症となった。

    子供たちが育った家庭には、一見、大きな問題はないように見えていたが、実のところ、かなりシビアな状況だった。
    父のドンは仕事で不在がちであり、母のミミは家庭をうまく回すように奮闘していたが、目は届き切らなかった。幾分、放任主義でもあったため、男の子たちは始終取っ組み合いの喧嘩をしていた。20年の間に12人の子供。年の近い子供たちが精神的に不安定となる思春期を迎えたら、そのすさまじさは推して知るべしである。子供たちが少年・青年期であった1960年代、70年代はLSDなどのドラッグが席巻したころでもあり、多くが実際、摂取していた。そうした薬剤もよい影響は与えなかっただろう。
    ミミは子供たちの誰も見捨てるつもりはなかった。しかし、ことは手に負える段階を超えていた。

    一方で、医療が一家を助けたかといえばそうとも言い難い。
    映画「カッコーの巣の上に」でも描かれたように、この時代の精神科病院は控えめに言っても必ずしも患者の助けになるような場所ではなかった。強い薬で患者を廃人のようにするなど、治癒に向かう状況からは程遠かった。
    また当時主流だったのは、統合失調症は、家庭に、特に母親に問題がある、いわゆる「統合失調症誘発性の母親」が作り出すという説だった。これはミミには耐えがたいことだった。

    きょうだいたちが発症していく中、発症しない子供たちもいた。
    だが、彼らの人生も楽ではなかった。きょうだいたちの所業を噂されては傷つき、また自分も発症するのかと恐れを抱いた。
    そんな中で年少の2人の少女たちは兄たちから性的虐待まで受けている。だが、母のミミは彼女たちのことまで手が回らなかった。
    かろうじて知人の富豪家族が手を差し伸べ、女の子たちは自分の道を歩み始めることになる。

    本書では、ギャルヴィン家の困難な道のりと、精神医学研究の歴史とを、丁寧に綿密に追っていく。
    実のところ、統合失調症は遺伝的なものなのか、それとも環境によるのか、議論はあり、今でも完全には解明されていない。親族に発症者がいれば発症する確率は上がるなど、遺伝的要因はある程度はある。だがそれは0か1かというものではなく、また関与する遺伝子もおそらく1つではない。ギャルヴィン家の場合は、遺伝的素因があったうえで、環境要因が加わり、多くの発症者が出たということになるようだ。
    統合失調症の家系を多く調べてきた研究者の話も本書の1つの軸となっている。

    家を出た女の子たちはどうしたか。
    1人は家族とはやや疎遠となったが、1人は両親亡き後も兄たちの面倒を見続けた。
    そう、これは1つの病気をめぐる物語であると同時に、1つの家族の物語でもある。次の世代へとバトンは渡り、最終章では希望も感じさせる。

    多くの部分はギャルヴィン家の人々や関係者の証言による。困難な物語を語りきった彼ら、またそれを丹念に聞き取った著者による労作である。

  • なによりもまず「事実」のすさまじさに圧倒される。子ども12人中6人が統合失調症と診断された家族の歴史が詳細に綴られているのだが、ここまで掘り起こした著者にも、出版を許した当事者にも、恐れ入りましたと言うしかない。この家族史と並行して、統合失調症の原因と治療をめぐる医療側の探求の歴史にも、多くのページが割かれている。今現在に至っても、決定的に有効な治療法はないようだし、一家の苦闘も続いていて、カタルシスがあるわけではない。どちらも一筋縄ではいかなくて、わかりやすいストーリーに落とし込まれてはいない。そこが美点だと思った。

    しかしまた、それだからこそ、特に最初のあたりはちょっと取っつきにくいのも確か。直訳調の翻訳(と思う。自信はないけど)が読みにくく、意味を取りにくい文もしばしばあった。また、焦点は統合失調症に合わされているのでやむを得ないとは思うが、もう少し突っ込んだ考察があってもいいのではと感じる点が複数ある。家族内での性暴力、聖職者による性暴力、幼児性愛、ヒッピー文化、若者間でのLSDや大麻の蔓延、露骨な経済格差などなど。「長すぎ」と「もの足りない」という相反する感想を抱いてしまった。

  • 重く厳しい内容である。あまりに極端な家庭環境から、遺伝か環境かの判断はつかない。統合失調症治療についての歴史のみならず、この本のキーワードはヒッピー文化であるように思う。若者が気軽にドラッグに手を出す情景と統合失調症の幻覚が奇妙に交差する場面が多々現れる。辛い内容に加え、訳文が私の好みの文体リズムでないことも重なり、非常に時間がかかった1冊。

  • 統合失調症の一族

    1944年に結婚したドン&ミミのギャルビン夫妻は十男二女に恵まれたが、子どもたちは次々と統合失調症に罹患し、最終的に男子6名が診断を受けることになる。アメリカの文化もあってか、薬物乱用や銃による無理心中、妹への性的虐待など、陰惨な事件が続き、家族は疲弊すると共に、次はいつ、誰が発症するのだろうという不安を抱えながら生きることになる。

    精神医学の発展も、家族の疾病観に大いに影響する。すなわち、学界も一番最初は統合失調症に生物学的な要因を探し求めようとしたが、優生学運動が隆盛したことにより、脆弱な遺伝子を持つ者が一掃されてしまう可能性が出てきたため、その反動として心理学的な要因が熱心に探求されることとなった。精神分析の流れを組むフロム=ライヒマンが「デボラの世界」で統合失調症は心理学的な要因で起こるのであり、それは完璧すぎる母親の養育態度(統合失調症誘発性の母親)によるものだとすると、これが支持されて優生学的な懸念は後退したが、実際に患者を子どもに持つ親は非常なストレスを感じるようになり、患者を医療機関につなげることを躊躇させることになった

    続いてやってきた薬物療法の時代にあってもギャルビン家の兄弟は治療効果が出にくく、副作用ばかりが目立った。比較的若くして心臓疾患で亡くなった二人について、薬物療法を選択したことは正しかったのか、残された家族は悩む。

    本書のもうひとつの軸は、家族研究によって遺伝の役割を明らかにしようとしたフリードマン、デリシ(よく見る名前だが、女性だというのを初めて知った、、、)の奮闘である。統合失調症が多因子遺伝であるからこそ、その遺伝因子を究明するためには家族内発生率の高い家系を調べるべきだと考えたデリシらによって、SHANK2やニコチンα7受容体などの以上が明らかにされる。これらの異常は今の所まだ実際の創薬には結びついていないが、ギャルビン兄弟の末妹の子が研究者を志向し、2017年にフリードマンの研究室に入るところで終わる。途中はやや救いがない感じで陰鬱なトーンだが最後のこのシーンで救われた感じ。読後感は良かった。

全103件中 1 - 10件を表示

ロバート・コルカーの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×