書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 早川書房
3.30
  • (8)
  • (19)
  • (39)
  • (8)
  • (2)
本棚登録 : 382
感想 : 32
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153350335

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 全てが「スクリーン」で事が足り、「ボット」が些事を片付けてくれる世界。脳スキャンされた「物語の作者」が「貸出」できるようになっていた。処分寸前の「彼」は久しぶりの「貸出」にわくわくしていたが……。なんだろう、このだらだらしているのに楽しい感じ。ジーン・ウルフってこんな感じだよなあ。

  • 亡くなった人のDNAと脳のスキャンで複生体として図書館の書架に住む蔵者が存在する世界。小説家のスミスは、コレットから借りだされた。スミスが書いた本を彼女が手に入れ、どうしても知りたいことがあるという。蔵者だなんて、なんという世界だ。蔵者のスミスが頭をひねり、いや体をかけて、コレットの知りたい謎を解く。

  • 表紙に惹かれて何となく借りたもので、この著者の作品は初めてです。

    図書館の蔵書ならぬ蔵者、が主人公です。死んだ作家の脳をスキャンして作ったクローンで、外見も記憶も言動も(多分思考の方向性も)オリジナルそのもの。一人の作家に対してクローンは複数作れるし、長期間借り手がなければ売られるか、買い手がなければ焼却!される。面白いけれど、増えてきたら図書館は管理が大変だろうなあ。

    いずれクローンの人権とかも問題になるだろうけれど、まだそこまではたどり着いてない、未来のいつかの話です。

    自分を借り出した女性と一緒に危険に巻き込まれていき、謎解きをしていくわけですが、読み終わってちょっと不完全燃焼です。なぜ鍵がこの著者の作品でなければならなかったのか? 途中出場の素敵な協力者たちは、その後どうなったのか? で、何がどうしたら(物理法則をどういじったら)それを実現できたのか? 続編があればそこで明かされるのかもしれません。気ままに待ってみます。

  • 署名から図書館が舞台の探偵小説かと思っていたが、なんと、探偵が図書館に所蔵されていて、文字通り書架に並んでいた。作家の遺伝子と記憶をもとに作られた複製人間。原題のA Borrowed Manが示すように、駆り出されて、探偵役を務める。設定はSFだが、ミステリとしても、しっかりとした構成になっている。

  • 推理作家のクローンが書棚に置かれていて、たまたまその著作に関して起こった事件の当事者としてそのクローン(書籍)は借り出され事件解決に向けて活躍....
    クローンが書架に置かれて借り出されるシステムとかの説明があまりに簡素で、普通の、ごく普通の探偵モノに思えます。
    探偵モノとしては、まあ、普通に読めるんですが...

  •  図書館の蔵書は借り出されることを待っているか? きみが来るのを待っているんだよなんて童話がありそうだが、では、図書館の蔵者はどうか。
     待っているのである、借り出されることを。
     舞台は何百年か未来。図書館の書架には小説家や芸術家のクローンが暮らしている。彼らは生前のオリジナルから脳スキャンで採取された記憶がインストールされている、作家の複製なのである。彼らは閲覧されたり、借り出されることを待っている。あまり借り出されないと焼却処分となるからである。

     さて、わたしは少し身構えながら本書を読み始める。ジーン・ウルフの小説、何が仕掛けられているかわからないからだ。しかし話はわりとスムーズだ。蔵者である「わたし」、E・A・スミスは『宇宙のスカイラーク』の作者ではなく、ミステリ作家だった。もちろん『火星のプリンセス』の作者でもないが、『火星の殺人』なんて本は書いたことがある。そんな「わたし」のもとにコレット・コールドブルックという美しい女性が来て、「わたし」を10日間借り出していく。
     コールドブルック家は謎の多い一家である。コレットの父は投資家で一代にして巨額の富を得ているが、最近亡くなった。自宅には子どもたちを入れさせない秘密の実験室がある。母もすでに亡くなっているが風変わりな人物だったらしい。父が厳重に保管していたのは1冊の紙の本。金庫を開けてその本を取り出したコレットの兄は何者かに殺されてしまう。しかしその本はコレットの手に渡っており、彼女はその本に何か秘密が隠されているのではないかと考えている。そしてその本とは『火星の殺人』なのである。

     「わたし」は図らずもコレットに付き添って探偵のような作業を始めることになるが、「わたし」だって自著に何の秘密があるのかはわからない。そこにコレットの兄を殺した者たちの手が迫ってくる。
     「わたし」はE・A・スミスの一生分の知識を備えながら、しかしたいへん若く、日がな一日、書架で過ごしていただけの何の経験もない男。しかも真正な人間ではなく、人権もない。コレットが誘拐されてしまうと、「わたし」にはもうなすすべがなく、自分の所蔵館に戻るしかない、というのが、はじめのほうの展開。

     さて、登場早々にウルフはコレットに「女は嘘つき」などと語らせており、話者であるスミスのオリジナルが生きていたのは一世紀以上も前で、世間のことも十分にはわかっていない。これは信用ならない依頼人のミステリか、あるいは信用ならない語り手のミステリか。
     よく当たる投資家だったら、タイムマシンでも発明したのかなどと予測しながら読むが、『火星の殺人』並みの展開があることは保証する。ま、火星は出てこないが。

     ウルフの小説にはいつだって含蓄深い言葉が埋め込まれているのだが、所蔵館へとトラックで連れ戻される途上、「わたし」はトラックの運転手をみくびっていたと思い、こう独りごちる。人が人をみくびるのは主として人が自分自身をみくびっているからだ、と。
     原題は『借り出された男』。上記の設定を説明しないとわかりにくいので『書架の探偵』と訳したのはいい。しかし、「書架の探偵」のイメージは安楽椅子探偵である。書架ですべてを推理するのかというと、そうではなく書架から出るところから話は始まる。スミスは行動的である。特に自分を見くびっていたことに気づいてからは。
     行動する探偵の一人称の物語とはハードボイルドなのが普通。しかしウルフはそれも裏切る。蔵者はオリジナルらしい喋り方をするように脳に調整がなされていて、「わたし」は、本文の描写によると「大学教授のような堅苦しい喋り方」をするのである。翻訳だとむしろ執事のようだ。それがこの「探偵」に奇妙な味わいを付加する。
     オリジナルの生きていた時代から1世紀以上も未来の世界を歩きながら、文明論的な観点にもちょっと触れつつ、SF的な筋立てをへて、しかし最後はしっかりとミステリらしい謎解きになる。
     そしてスミスは書架に帰る。書架に帰って次の事件を待つ。続編が予定されているらしいのだよ。高齢のウルフが蔵者にならないかぎり、いずれそれは読めるだろう。

  • 図書館で借りた本。
    しまった!SFであったか。というのが最初に抱いた感想でした。想像力が乏しいからか、SFは苦手なんです。とはいえ、読み始めてしまったので、最後まで読了。主人公が図書館に蔵書されているヒト。元作家の脳をスキャンして作られたヒトなのだろうか。ある日、この作家を借りたいという女性が訪れ、二週間駆り出されることになった。この女性は父を亡くし、最近兄までも何者かによって殺されてしまったのだという。兄が父の遺品のなかで見つけた本がカギを握ると考え、その本の作者である作家を借り出したのだという。

  • 未来の話で、SF絡みで、けれど不思議と没頭できました。自分の身近な世界のように。正直、設定に無理があるような気もしますが、単純に楽しめました。また、続きがあるのなら読みたいですね。

  • 亡くなってる作家のクローンを作り、図書館で閲覧、貸出ができる未来。彼らは一定期間に閲覧、貸出がないと焼却される運命だ。ミステリ作家E・A・スミスのクローンがある女性に借り出された。彼女の父親が残した本の謎を解いてほしいという。その本はスミスの著作なのだが、死んだ作家の記憶を完コピしてるはずのクローンには全く覚えがない。とにかくSF的なガジェットが多数ぶっこまれてるのに、スルーされるネタが多すぎる。いったい何の意味があって登場したのか分からない人物や、異星につながってる謎の部屋等、何も説明してくれない点が多いのがこの作者らしい。あらすじはハードボイルド調で、謎の女には裏があり、探偵役のクローンも礼儀正しいお人好しでは終わらないのが面白かった。

  • 図書館の書架に住む蔵書=蔵者としての主人公。ていう突飛な設定の割に意外と横道なハードボイルドミステリ。
    面白く読めたけど、ジーン・ウルフってもっとぶっ飛んでなかったけか。ミステリとして楽しんじゃった分、あんまり読めてないのかも。

全32件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

1931年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。兵役に従事後、ヒューストン大学の機械工学科を卒業。1972年から「Plant Engineering」誌の編集に携わり、1984年にフルタイムの作家業に専心するまで勤務。1965年、短篇「The Dead Man」でデビュー。以後、「デス博士の島その他の物語」(1970)「アメリカの七夜」(1978)などの傑作中短篇を次々と発表、70年代最重要・最高のSF作家として活躍する。その華麗な文体、完璧に構築され尽くした物語構成は定評がある。80年代に入り〈新しい太陽の書〉シリーズ(全5部作)を発表、80年代において最も重要なSFファンタジイと賞される。現在まで20冊を越える長篇・10冊以上の短篇集を刊行している。

「2015年 『ウィザードⅡ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ジーン・ウルフの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×