パーク・ライフ

著者 :
  • 文藝春秋
3.05
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163211800

感想・レビュー・書評

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  • 『死んでからも生き続けるものがあります。それはあなたの意思です。』という日本臓器移植ネットワークのキャッチをみて、「ゾッとする」という主人公の言葉で、『そんな考え方もあるのか…』と、改めて感じてしまう。

    臓器を提供「する」あるいは「しない」を決めるのは、自分の意思ではあるが、『生き続けたいと思って、臓器提供する人がいるのだろうか?』と疑問に思う。それは死んだ後にも生き続けるあなた自身の意思。この作品では「死んでからの生き方」という印象的な臓器提供のキャッチコピーに思わず、地下鉄で間違って話かけてしまった女性と同じ公園で過ごしていることから、物語が動き出します。でも、特にストーリー性はなく、女性とのその後の進展もなく…

    ただ、読み終えて、日々の暮らしは何となくこんなふうに過ぎていくのかもしれないと感じる。

    昼間の公園のベンチにひとりで座っているというのは私にはないが、確かに公園には常に人がいる。大きな公園をランニングしていると、スケートボードをしている少年たち、トランペットの練習をしている年配の人、犬の散歩途中にベンチに座りスマホをいじっている青年…が、目に入ってくる。

    スタバのコーヒー片手にという人は立地的な条件から外れているために、見たことはないが、きっと、ベンチで座っている人から見れば、私は観察をされる側の人間なのであろう。

    日常が、淡々と描写されているだけなのだが、何となく引き込まれてしまう本作。それは、言われないと気がつかないけれど、言われたら同意する描写が散りばめられているからだろう。スタバ女性たちは、窓側の席から店の外に目を向けることがない。着飾っているのに、「私を見ないで」オーラを発している。ダ・ヴィンチのモナリザは間違いだらけの人体解剖図。赤ちゃんはお腹の中ではただの異物。自分の身体から離された途端に自分の一部だと母性本能ご芽生える母親。猫背やイカリ肩の体型に合わせた服は標準体型の人には、エレガントになるなど。
    また、年齢とともにできなくなることが、増えていくが、できなくなったことの代わりにできることが増えてはいないというような描写があり、それらが頭から離れない。

    ただ…正直に言うと、本作が芥川賞受賞作にもかかわらず、それほど感動も関心もなかったことに、自分の理解力が足らないことを思い知らされる。

    また、本作には、flowersというタイトルの物語が収録されている。

    「初出勤の朝、妻・鞠子に見送られ、僕は帝国ホテルから仕事場へ向かった。」にしばらく思考がとまる。これはいったいどんな物語なんだろう…

    が、この後、思わず「大丈夫?」と物語の主人公の懐具合を心配してしまう。

    日比谷公園前の帝国ホテルから出勤した主人公の僕は、喜劇女優を目指す妻が劇団のオーディションに合格したのを故郷を東京にきた。そのため、主人公も、従兄弟が経営する九州の田舎の墓石会社勤めていたが、退職し、清涼飲料水やお茶やコーヒーを運ぶ月給25万円の配送トラックの運転手となる。
    そこで、先輩配送ドライバーの望月元旦の助手となる。掴みようがない性格の先輩ドライバー。妻の情事を知らずに会社社長に意味なく怒られる永井。
    ある日のシャワー室で起こった暴力を含め、人間の欲望や感情がむき出しに表現されているように思え、怖くなる一方で、興味を持った自分がいた。

  • 作品終盤でも、主人公が相手の女性の名前も知らない、っていう設定には全然共感できなかった。都市ってそんなもん? そこまで親密になったら流石に名前くらい聞くんでないの?

  • さしたる憎悪もないんだけれど、愛情も希薄というのか淡白というのか、そんな人間関係の中で日々をやり過ごす彼ら。友人であっても親子であっても夫婦であっても、共有する時間が鬱陶しく、さりとて縁を断ち切ることも面倒で、距離を保ちながら気ままに生きようとする。気になる異性とでさえ一線を越えず、でも別れたくはない。付かず離れずに徹するライフスタイルは、気苦労がないようで、でもどうなんだろう。気心が知れない分、相手の胸の内を推量し、かえって要らぬ気苦労をしょっているようで、むしろ面倒くさそう。常に誰かを思いやっていることが、ある意味心の糧となり得ないなら、かくも空虚な今が流れていくんだ。

  • 第127回芥川賞。
    ・パーク・ライフ
    ・他一遍(flowers)

    公園を中心に描かれる若者の話し。

    3-

  • 嫌いじゃないけど、今の自分が求めてた世界じゃなかったかな。先に読んだ世之介の方が好き。

  • 2020.11.04
    祝日後の水曜日 良きかな

    パークライフ
    日比谷公園で出会う男女の話
    そして空から公園を見たい
    気球おじさん
    名前も知らない2人
    謎の居候生活
    スタバで1人の女
    良い女だが近寄り難い
    なんてことない話
    でもなんだかほっこり
    ちょっぴり切ない物語

    flower
    とにかく元旦
    この人の謎すぎる存在感
    そして花を生ける行為
    2日で読んでしまう
    あっという間
    主人公の奥さんは
    きっと浮気してたんだと思う
    なんでかわからないけど
    そう思った物語

  • 見なくてもいい他人の日常をのぞき見しちゃった感じだな。好奇心はあるけど、みんな似たり寄ったりな訳で、全部を知らないほうがワクワクするんじゃないかな。からだという入れ物のなかに各々が自我を持っていて、実はお互いにわかるのはからだだけなのかなぁ、なんてことを思った。極端な言い方をすれば、外見がその人そのものじゃないのかって。「パーク・ライフ」も「flowers」も元気が出る物語ではなかったな。

  • パークライフは気取った雰囲気、フラワーは「悪人」に通じる人間性の掘り下げ、どちらも秀作でした。

  • 日比谷公園でいつも見ているけれど、声まではかけない他人同士の二人。たまたま同じ電車で間違えて話しかけた事がもとで知り合いに発展していく。

    でもお互いの勤め先も、名前すら知らない。

    なのに、公園で見つければ話しかけるし、写真展に一緒に行ったり、気球を飛ばす不思議なおじさんに話しかけたりする。

    付かず離れず、このくらいのひやひやするような関係って新鮮ですね。

  • 日比谷公園でとる昼食中の人間観察。
    仕事と関係ない人と知り合うのって楽しいと思う

著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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