• 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (159ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163278209

感想・レビュー・書評

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  • 四本を含む短編集、実際に入手したのは他の収録作品「お父さん大好き」に改題された後の電子版にて。

    きっかけはJapan Societyにて開催された2023年度JAPAN CUTS映画祭にて上映された「手」(2022) の鑑賞がその発端。日活ロマンポルノレーベルの生誕50周年を記念して制作された三作の内の1本ということで、もちろんその往年の撮影基本ルールである「低予算」、「定期的な性行為シーン」といったものには沿って撮られた作品となっているわけであるのだが、その最後のルールである「他は作り手の意匠に任せる」といった部分が往々にして名作を生み出していることがあることは、同会場であるJapan Societyにおいても数本の秀作の紹介を通して教育を受けていたので、その上映時にもただのポルノ映画と受け止めて鑑賞を開始したわけでは当然なく、その裏に透けているものをきちんとつかめるかという意気込みを抱いて上映に臨んでいた。

    果たしてその衝撃は十分なものであり、しかも原作は短編であったという事実も加勢した結果、映画祭も終わらぬうちに本書を手に取るまでに至った次第。映像としてながめたイメージとは裏腹に、性描写は非常にあっさりと綴られており、この作品を絶妙なバランスの「ロマポル」に変換しつつその文学性を失わせない制作者側の力量に改めて感服させられてしまった。

    原典に寄りたいと望んだ理由のひとつは主人公サワコが彼女の脳内や声帯を通して発する「オッサン論」がガシガシとオッサン側の立場である自分の脳に響いてきたからであって、普段注視しないように努めている自身の中のなにかきたないところをあばかれたような感覚を活字を通して復唱しなければという義務感に駆られたことが理由だったように思われる。誰だって自分を少しは聖人的に扱いたいと思うのだが同時に認めたくない外道な一面を(もしくは二面も三面も)持ち合わせているのだよという事実を突然身近な誰かに指摘されて崩れ落ちるより、できれば事前に予習をしておきたい…、そんなオジサンには課題図書的な作品であったかと。自身の慢心が鼻についたりしたら山崎ナオコーラ著作にまた手を伸ばしたい。

    映画脚本との印象の違いについてはいつか映画側のレビューにでも書き記してみたい。

  • ナオコーラ作品をちまちま読み返している最中。
    どの作品でもそうだけど、ナオコーラさんが描く女の人、私嫌いじゃないんだよなぁー。
    いや、リアルにいたら友達になれるタイプかって言ったらそれは違う気もするけど。
    みんな芯が通ってるし、他人に揺さぶられてないし、今回の表題作の主人公もそう。おじさんが好きで、盗撮したおじさんのパーツを、自作のホームページで公開してる寅井がいちいち考えることが、なんだか可愛らしくも見えた。

    それと会話の描写が本当に唯一無二。

    四つの短編のうち、「お父さん大好き」が好きだった。

  • 2009年、第140回芥川賞候補

    --------------------------------------------------------------------------------------------
    芥川賞第140回 平成20年/2008年下半期
    (平成21年/2009年1月15日決定発表/『文藝春秋』平成21年/2009年3月号選評掲載)

    受賞
    津村記久子 「ポトスライムの舟」

    候補
    鹿島田真希 「女の庭」
    墨谷 渉 「潰玉」
    田中慎弥 「神様のいない日本シリーズ」
    山崎ナオコーラ 「手」
    吉原清隆 「不正な処理」

  • 図書館で題名に惹かれて手に取りました。著者の短編集を何冊か読んだ事があり表題作の"手"主人公の女性は通ずる世界観があるなと感じました。マイノリティな趣味とか?そんな人が周りにいたらおもしれと思いながらもさらっと読める文章が肌に合うようです。

  • 表題作『手』について

    サワコにはいつだって年上の男友だちがいた。三十一歳年上、四十四歳年上、五十二歳年上。セックスはしないけど、デートはする。
    会社で働くサワコ、おじさんとデートするサワコ、そしてサワコにはもう一つの側面がある。「ハッピーおじさんコレクション」というホームページをひとりで運営しているのだ。
    盗撮したおじさんの写真や文章を載せている。サワコはおじさんが大好き。

    自分の父親とは仲の良くないサワコ。同僚だった森さんと何度もセックスするサワコ。年上の男友だちとの別れ方を知っているサワコ。生きていても小説を読むぐらいしかすることがないと考えるサワコ。父親の耳の調子を心配するサワコ。

    ---------------------------------------

    人にはいろんな顔がある。仕事をしているときと、デートしているときでは別の顔だ。
    おじさんを愛でるホームページ運営に精を出すサワコの顔は、誰も見たことがないだろう。他の人には見せない顔、というのもあるのだ。

    顔がいくつもあればいいと思う。もし仕事でつらいことがあったとしても、別の場所で別の顔になれば切り替えられる。

    昨日、カフェレストランで受け取った直後のお茶を倒してしまった。すぐにテーブルと床を拭き、店員さんにも謝ったのだけど、店内にいる人全員が自分を見ているようでとても恥ずかしかった。すぐに気持ちを切り替えられなかった。
    いつまでも感情を引きずらない。そんなふうに過ごせたらいいのにな。

  • あーこの独自の視点と文体ー!

  • 森さん(若い)、大河内さん(おじさん)、父(おじさん)。
    主人公の周りの男たち。
    男はいくつになっても変わらないとも言えるし、年を重ねると若いときよりもいいようにも、そうでなくも思える。

    ほかの短編も独特の風味。

  • 社会になじめない25歳女性の、孤独ゆえの不安定さを見事に描いた力作。
    どこの会社にでもいそうな平凡なタイプが主人公。社内の27歳の同僚と50過ぎの上司の2人に言い寄られ、両方の男とデートする話が交互に描かれる。
    両方の男とデートしているときに生じるある種のズレが、主人公の心の機微を通して描かれる。
    女性のさめた目線と、毒のある会話がリアル非常に生々しくてGood。

    個人的には、主人公のつかみどころのない性格は、魅力的でもあり面倒くさい感じがする。
    結構こんな女性、男からすると厄介なタイプなんだよね。
    それゆえ、この作品では主人公の女性は傷ついたりする。

    この作品は、現代の幸せ探しのある側面を語っていると思うし、幸せを手に入れることの難しさを、男女関係のズレを通して描いていると思う。
    軽快な文章で語るので、嫌な後味は残らないが、漂泊しつづける主人公の魂が孤独感で悲しくもある。

    他四つの短編を同時に収録しているが、こちらは佳作程度。

  • これぞナオコーラって感じ。
    今回もナオコーラの経験に基づく小説なのかしら?と思わせる内容。

    すごく丁寧。

  • 一人の人とだけで留まりたくない。多くの人と緩やかに繋がっていたいという女性が描かれることがこの人の作品には多い気がする。少し前に枯れ専といわれた私には、個人的にタイムリーな短編集だった。

著者プロフィール

1978年生まれ。「人のセックスを笑うな」で2004年にデビュー。著書に『カツラ美容室別室』(河出書房新社)、『論理と感性は相反しない』(講談社)、『長い終わりが始まる』(講談社)、『この世は二人組ではできあがらない』(新潮社)、『昼田とハッコウ』(講談社)などがある。

「2019年 『ベランダ園芸で考えたこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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