小さいおうち

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163292304

感想・レビュー・書評

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  • 今年に入って既に100冊以上読んだが、今年のベスト1かもしれない。
    図書館で8か月も待ったかいがありました。

    バージニア・リー・バートンの「ちいさいおうち」へのオマージュ作品。
    昭和初期、東京の平井家で女中として働いたタキが、晩年、当時を思い出しながら綴る手記という構成で進んでゆく。

    平井家での家族との暮らしぶりが生き生きと語られ、微笑ましく、ちょっとした事件があったり、時代が時代だけに、きな臭い話も混じるのはいたしかたなくも、ほっこりとした気分で楽しめる読み物だな、と読み進めたが、まさかこんな風につくられていたとは!
    この構成が見事としか言いようがない。
    すっかり著者にしてやられた気分だ。
    読み終えて、じわじわと胸に広がる何ともいい難いこの感覚。
    久々に、こんな見事な小説を読んだ。

    読み終えるなり、子供の本棚からバートンの「ちいさいおうち」を引っ張り出して眺めてしまったのは私だけではあるまい。

    著者の「花桃実桃」も予約中。順番が来るのが楽しみ~。

  • さすが直木賞小説。

    中島京子さんは好きで、デビュー作以降すべて読んでいる。
    どの本も読んで失敗だったということはない、
    信頼できる作家さん。直木賞受賞もとても嬉しい。

    今回は赤い三角屋根の家で美しい奥様と過ごした女中奉公の日々を
    振り返るタキのお話。60年以上の時を超えて語られる当時の日々。

    戦前の話が好きなので、読み始めてすぐに物語に入り込んで
    しまった。戦前の景気の良い頃から、戦中、戦後まで語られる。
    戦前の景気の良い時の美しい奥様と可愛い坊ちゃまとの日々が
    読んでいてすごく好きだった。でもいつまでも同じように
    良い日々が続くわけではない。その辛さが痛いほどわかった。

    途中語り手がかわり、新たな事実が明かされていく手法が
    面白かった。ただ元気なタキさんも老後は悲しいものだったのが
    いかにも現実で悲しい。でもそんなタキさんを慕う孫のような
    存在の健史がいて良かった。

    読後感もとても良く、読んで後悔しない作品。また読みたい。

  • なかなか読む時間が取れず時間切れ。結構面白かった。また借りて続きを読みたい。

  • 第143回直木賞受賞作。
    昭和初期、東京の山の手の洋館に女中として働いていたタキが、
    晩年に「心覚えの記」として書き記したものを孫の健史が読んでいた。
    その後読んだことすら忘れてしまっていたが、タキが亡くなり、そのノートが出てくる。
    その洋館に住んでいた人たちはどうなったのか・・・健史は洋館を訪ねる。

    昭和初期から戦後までの生活が丁寧に書かれていて、独特の世界を感じる。
    洋館というものがまさにそれで、
    その時代の成功者の住まい・生き方も垣間見れてとても興味深い。
    タキが記したものを読んで、健史が歴史で学んだことと照らし合わせて、
    「この年には○○が起きたんだから、こんなウキウキした生活している訳がない」
    「過去を美化しちゃいけない」とタキに言ったりするのも、興味深い。
    過去のことって、歴史上の大きな出来事しか知らないけど、
    その時代、女性たちは良いことでも悪いことでも何かがどこかで起こっていても、
    日々細々としたことをこなして生活している。
    それは今だって変わらないこと。情報伝達の速度が違うだけ。
    起きたことが生活の中に影響をもたらすのは、ずいぶん時間が経ってからなのだ。
    あと、もうひとつ興味深いのは、
    タキは女中でありながら、海外のメイドとは違って絶対的な階級の差は感じず、
    家族のように大事にしてもらいながら働いていること。
    主人である奥さま(女中にとっての主人は家庭を切り盛りする奥さま)とも良い関係で、
    時には相談にのり、時には一緒に楽しみを分かち合い、時には一緒に知恵をしぼる。
    女中であっても友人のような姉妹のような・・・でもやっぱり女中。
    そんなタキが誰にも言えず心にしまいこんだ内容は?
    後悔していることとは?
    ぞくぞくしながら読み進めた。
    最終章・・・時が経ち、その時代に生きた人はほとんどいなくなり、
    生活が変わり、何もかも変わってしまったけど、
    その時代に生きた人が残したものから想像できる心の中に渦巻く感情や思い。
    その切なさが理解できるのは、いつの時代も変わらないからかもしれない。

  • 私の知らない時代の話がほとんどで、興味深く読みました。日々の幸せな生活とそこへ入り込んでくる戦争という影。当時の政府の状況を表した言葉、まるで今の原発対応を彷彿とさせられました。最後に小さな仕掛けがあって、そこも良かったです。

  • ≪内容覚書≫
    戦前から戦後を女中として生きたタキさんの手記。
    中でも、長く奉公することとなった、赤い三角屋根の平井家の話。
    優しい旦那様に美しい奥様、そしてかわいらしいぼっちゃん。
    幸せな日々が語られ、戦中を迎える。

    ---そして、戦後。
    タキの甥っ子健史の手元には、タキの手記とともに
    一通の宛名のない手紙が残された。

    この手紙の語る真実は…?


    ≪感想≫
    戦前、戦中、と聞くと、もっと暗いイメージ、
    それこそ健史のような印象を持つ。
    あくまでも、これは小説なので、ここで語られる昭和が、
    どこまで史実に沿ったものかはわからないが、
    暗いだけじゃなかったはずだよな、と当たり前の事実に気付かされた。

    女中、に関しても、イメージが変わった。
    市原さんの家政婦のせい(笑)もあるんでしょうが、
    女中がいるようなご家庭の奥様は料理や掃除なんてしないかと。
    采配をふるって、一緒にしていたんですね。

    そういう、思い込み、というか、刷り込みを払しょくしてくれた良い作品。

    時子奥様の、心の栄養、というような話のあたりは、共感。
    何かで読んだ「女がおしゃれを楽しめないような時代は間違っている」
    というフレーズを思い出した。
    ムチャクチャだけど、真理なのかも。

    手紙に関しては、どうなんだろう。
    あのお手紙がタキさんの手元にあった、ということは、
    やはり、あの最後の日、板倉さんは来なかったのだろうな。
    タキさんは手記に嘘を書いた。
    だから健史に見せにくくなった。
    正直者で律義なタキさんだからこそ。
    でも、真実は書けなかった。

    奥様の恋愛事件は、タキさんのせいで、
    きちんと話し合いの場をもつことなく終わってしまった。
    終わるにしても、話をした上で終わりなら、タキさんに後悔はなかった。

    でも、もし、あそこで二人の恋愛が終わっていなかったら…?
    ぼっちゃんのためによくないことになった。

    でも、それは、本当にぼっちゃんのため?

    タキさんから時子さんへの仄かな感情。
    恋愛ではなかったとしても、
    二人の間に割り込んだ板倉さんを、
    タキさんがどこか疎ましく思ったこともあるだろう。
    友人に彼氏ができたら、ちょっとさみしいもの。

    タキさんは、うしろめたかった。
    多分、奥様やぼっちゃんのためじゃなく、
    少なからず自分のために手紙を届けなかったから。

    そして、そのうしろめたさに奥様は勘付いたのかも。
    女は鋭い。

    板倉さんの客観的な視点もそう捉えた。
    あの小さなおうちは、旦那さまも板倉さんも、
    激しく吹き荒れる戦争という猛威さえ入り込めず、
    奥様とその息子、そして女中さんの世界だった。

    でも、人にとっての世界なんて、多分、その程度のものなのかも。
    現在社会において、世界は広がって見えるけれど、
    結局自分の世界は、自分の周りの人と築く小さなお家。
    それが現実。

    そんなこんないろいろ考えさせてもらった。
    久々の★5。

  • おもしろいおもしろい~!

    出たばっかりの頃なんとなく気になった(絵本「ちいさいおうち」と似てるので)けど忘れてた本

    女中さんをずっとやってたおばあちゃんの覚書
    大正?昭和の好景気や太平洋戦争など激変の時代の
    ある家庭のひみつの恋やあれこれ

    映画やドラマやテレビや漫画で見たことある
    パレードやデパートや昭和の華やかで明るい映像が浮かんできて
    でも戦争の悲惨な話もあって
    タイムスリップしたような感じを味わいました。

    おもしろかったなー
    中島京子さんって他の読んだことないので
    よんでみよ~

  • 中島京子は『さようなら、コタツ』を読んだことがあった。あまり印象に残らなかったし、他の本を読みたいとも思わなかったので、直木賞を受賞しても「ふーん」という感じだった。
    でも、この本はなかなかよかった。ものすごく調べて書かれているのがわかる。実在の人物に取材して書かれたみたい。
    読後、間違いなくGoogle検索!

  • 戦前の良き時代がわかりやすく描かれていて楽しく読めた。
    なにが一体真実なのかわからないところが、昔っぽくていいのかも。
    今はなんでも心に留めず、口に出してしまう時代だもの。
    ミステリーっぽい。

  • 最後がよかった。
    知らない時代のことがわかる話だった。

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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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