小さいおうち

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163292304

感想・レビュー・書評

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  • ようやく読めた、直木賞受賞作。
    思っていた以上の内容の濃さに、読了後、しばらくは余韻に浸りっぱなしだった。
    戦時下の昭和…赤い屋根の、こぢんまりとした和洋折衷の小さいおうちの平井家。美しい時子奥様のもとで働く女中のタキ。地方から上京し、健気に働くタキの一途さ。美しく優しく、だけどどこか危うい時子奥様。どんどん戦争色濃くなる日本、タキの暮らす平井家も否応なく巻き込まれていく。
    物資が入りにくくなる中でも様々に工夫し、おいしそうな料理をこさえていくタキの腕には脱帽!フード描写にもそそられたが、時子奥様がお召しになる美しい着物、そしてモダンな洋装の描写も読んでいてうっとりした。そんな当時の東京を知るのもまた楽しかった。
    もともと戦時下という舞台設定が好きで、重苦しい時代ながらもまだ前半はほのかに明るく、平井一家の歩みを、アルバムをめくるような感覚で夢中で読み進めていった。ものすごく面白いけど、中島京子色は薄めかも、なんて思っていたが、それは最終章で一転する。
    私も大好きな絵本の名作、バートンの「ちいさいおうち」との絡みは、ここでようやく明らかになる。まさかこんな展開になるとはと驚きっぱなしであったが、それでこそ中島京子。ものすごく胸をぎゅっと締め付けられる思いだったが、それでも、あの赤い屋根の「小さいおうち」で暮らした平井家での思い出はタキだけでなく、私の胸にも温かく余韻を残している。
    読み終わってから改めて表紙・裏表紙を見ると、また様々な思いに満たされる。

  • もともとは、バージニア・リー・バートンの「ちいさいおうち」が大好きで、興味を持った本。

    おばあちゃんの、ほっこり思い出ストーリーかと思いきや、
    最終章はミステリちっく。

    解釈は色々だと思います。

  • 昭和初期から戦争が終わる頃まで、東北の出身の女性が東京の山の手家庭で女中さんとして暮らした日々を、おばあさんになってから思い出して手記を書いている(という体の小説)。

    モダンな昭和初期の東京の様子が良いです。
    戦争中も人々の普段の生活はこんな感じだったら(悲惨一色よりも)嬉しい。

    不思議なお話。
    タキちゃんは本当はどちらが好きだったのかな。
    どこまでが思い出したこと、どこからが願望だったのかな。

    私も一時の感情で動くタイプですが、後々の後悔というのがこんなに辛いものならば、自分の為に考え直さなきゃいけない、と思いました。

  • 図書館で予約してから、かなり長いこと待って、
    ようやく順番が回ってきました。

    そして読み出したら止まらなくなり、
    ほぼ一気読みに近い形で読み終わったので、
    せっかく長いこと待ったのだから、もうちょっと
    ゆっくりのんびり読んでもよかったかな、と。

    「ちいさいおうち」と言われると、私はまず
    間違いなく、あの有名な絵本を思い浮かべて
    しまうのですが、やっぱり関係していましたか。

    私はもともとこのくらいの時代(戦前~戦中)の
    ことを書いた話が好きなため、とてもおもしろく
    読めました。

    私はどうしても「戦争中」というと、東京大空襲の
    ことや、広島や長崎の原爆から、「当時の人々は
    とても悲惨で貧しくて、恐怖と戦う生活を
    送っていたんだなぁ」と思いますが、本当にB29が
    日本の空に現れるまでは、この本のように人々も
    割とのんびりと構えていたのかもしれないなぁ。
    なんたって新聞なんかは、「撃墜せり」みたいな、
    日本勝ってるぜ!的な話題ばかりだったんだから。

    タキさんとこの健史が、やけに時々出てきて
    なんだね君はと思っていたけど、まさか最後の最後に
    こんな登場の仕方をするとは。

    もう一度読み返したいので、文庫化を待つか、
    待ちきれずに単行本を買ってしまうかもなぁ。

    余談ですが、みづゑ。
    私もかつて、たまにこの雑誌を購入していたことが
    ありましたが、まさかこんな昔からある本だったとは。
    驚きでした。

  • 後輩に読んでいてわからないところがあったので
    ぜひ読んでと言われてやっと読みました。


    私もわからない部分が笑



    けっきょく本当に会ったのか、会っていなかったのか。
    これって解釈次第?



    全体的にはすごく好きな1冊でした。
    昭和初期の暮らしぶりがすごくリアルに感じられる。
    私はもうこの頃のことを年表や事件のイメージで想像するしかできないけれど、私たちの「毎日」だっていずれは「歴史のイメージ」の一部になるんだなぁと思うとおもしろいです。

    日本は戦争しているはずなのに
    一般人の暮らしにその影がおちてくるまでは
    時間差があって。

    少しずつ少しずつ「毎日」がなくなっていく様が
    リアルで静かにこわいと思いました。

  • 女の目から見た戦争物語・・・。
    私たちが教科書、テレビ、新聞等で習ったり読んだりした声高の戦争反対ではなく、じわじわ日々の暮らしに攻め寄ってくる怖さをとても感じました。
    でもこの時代に東京で暮らしたタキさんの誇らしさ、少しわかる気がします。
    奥様とタキさんの関係、女子校育ちの私はわかりますね。

    とても素直に私の心に入ってきた1冊です。

    2012/ 6/10再読

  • 昭和6年から昭和19年頃のストーリーで、赤い家に住む若く美しい時子奥様と過ごした女中奉公タキの記録。

    奥様との出会いからはじまる穏やかな家庭生活や、切ない恋の物語。

    読み始めたらとまらないお話です。
    ぜひ読んでみて下さい。

    【中村学園大学】ペンネーム:Y.O

  • 先日「連合艦隊・山本五十六」を観たが、
    たまたまなのか、時代背景の解釈がとても似ていて、
    思いがけず途中までまったく予期せぬ視点から、
    甥と同じような目線で読み進めていたりしました。
    (小さい頃からのすりこみからか、わたしが知っている「戦争」って、敗戦までのほんの1~2年で、そこに至るまでの時代背景や庶民の感情って、実は案外わかってないのかなと思わされるほど、その描写があまりにも2作品共似ていて、このタイミングでこの作品を読むのも、なにかの縁だな、と)

    とはいえ、この作品は戦争小説ではないし、むしろその頃をあくまで時代背景に生きた、主人公の生きた時間の中で、出会った人とのかかわりやつながりの中で、やはり最後まで心の中に残ってしまった思いが、甥を通じて最後に繋がっていく・・・みたいな。

    淡々と、しかしながら奥深く、今まで読んだことのないタイプの作品で、
    わたしはけっこう好きでした。
    余韻が残る作品。

  • 女中タキの語り口が、優しくてとても素敵。
    劇的な出来事があるわけではないが、日々の営みが丁寧に語られていく。
    昭和の美しい東京が感じられる。
    不思議な味わいのある作品だった。
    http://koroppy.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-23ce.html

  • 同名の絵本が大好きだったので手に取ったが、久しく読んだ事のない文学タイプの小説だった。直木賞受賞作とか?納得。戦時中のイメージに新しい風を送ってくれた1作。

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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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