夜の真義を

  • 文藝春秋
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163299907

感想・レビュー・書評

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  •  冒頭、いきなり縁もゆかりもない人物を殺す場面から、19世紀ビクトリア朝のロンドンを舞台にした壮大な復讐劇が始まる。卑劣な手で大学を追放された主人公エドワードが、個人的な恨みと自己の出生に秘められた真実を証明するため、仇敵フィーバスへの復讐を決意する。

     600ページも続く重々しい文章は読み進めるのがややつらいが、当時の風習や人々の意識から、緻密なロンドンの描写、ペダンチックな文学・美術への言い回しなど、ビクトリア朝の雰囲気に存分にひたれるのは確か。本書は、エドワードの告白書が大学図書館で発見されたという形式をとっているが、本当に19世紀に書かれた文学として読んでも面白い。

     長年秘匿されていたメモや都合のいい情報提供者が次々と主人公の前に現れ、真相が徐々に明らかになるストーリーは大河小説の王道といった感じ。本当にそんなことが大罪をおかす動機になるのか、という違和感を封印して楽しむ本。訳者あとがきで、構想30年の、しかも処女作と知ってびっくり。

  • 翻訳ミステリーシンジゲート2012、第2位のヴィクトリアン・ノワール。切り裂きジャックみたいな冒頭といい、殺したいほど憎む相手がはっきりと登場しないまま、ラストまでズンズン引っぱるのがスゴイ。読了後に燃え尽き感がある!

  • このミス2012海外編10位

  • 重厚長大だが冗長ではなく、凝縮された文で構築されたゴシック建築。一気読みではなくゆっくり時間をかけて毎日少しずつ読みたい本です。続編もあるようなので楽しみ。

  • 一人称小説なので、当然ながらすべての登場人物はエドワード視点で語られており、いろいろなところに含みを持たせていて・・・さあ、どんなどんでん返しが待っているのかとわくわくしながら読んだのだけど・・・あらら、そのまんま復讐劇でした。帯にも「リベンジ小説の傑作です」ってあるじゃない。その通りです。

    最後で引用されている「汝の敵の悪意をさほどに重んずるなかれ。汝の惨苦はそれゆえなり。・・・・・・・」に思わずうなづいてしまう。
    頭いいのに、どうしてそこが最初からわからんかなぁ・・・というのが素直な感想だけど、人間ってそもそも愚かなものなんだよね。

    19世紀の英国という舞台にふさわしい格調高い文章、しかもこのボリューム。なのに、すらすらと読めてしまう。味わい深い小説でした。

  • 自分の出自を捜し求め、ついには仇敵の殺害を企てるまでに至った男の生涯。

    告白書と言う形をとっているので、仇敵をはじめ関係者の描写が物足りないように感じた。
    特に主人公の親友などいい味を出しているのに、結局何もせず(させてもらえず)終わってしまった。
    仇敵にしてもその行動ばかりにが表に立って、いやらしい人間の分部が伝わってこず…残念に思えた。
    全体としては冗長で、ラストもあっけなく肩透かしを喰ったよう。

    それはさておき。
    訳文の語彙の豊富さと文体がいかにも後期ビクトリア朝と言った風で、読んでいて大変楽しかった。
    原文がどうなのか知るよしもないが、これは訳者の越前氏をただただ賞賛したい。

  • かなり分厚く、これも挫折かと思ってたら、一気読みになった。
    話の展開が上手く、飽きさせない。
    が、ラストは平凡な気がする。
     
    せっかく親が、お金と地位とは無縁でも、自立した人生を送れるようにしたのに、地位とお金に拘った主人公が哀しい。
    それだけ生活が厳しいということだろうか。

  • これを映像化したいと思う映画人は多いだろう。英国史上最高の落札額というのは伊達じゃない。

    物語自体は比較的シンプルな復讐劇。
    舞台は1850年代。

    赤毛の男を殺したあと、私はその足でクインズへ向かいそので牡蠣の夕食を認めたーーで始まる物語は、復讐に人生を捧げた男、エドワード・グライヴァーの手記の形をとっている。
    その才をもって名門イートン校の入学をも果たし、前途洋々な未来が待っていたはずのエドワードが、どうして今やエドワード・グラプソンという偽りの名を名乗り、暗闇でナイフを握りしめる身となったのか。運命に弄ばれ汚泥にまみれたエドワードの半生が静かに語られ始める。

    仇敵フィーバス・ドーントとの出会いはイートン時代。
    エドワードは豊かな学識から校内でも一目置かれていた。ところが、イートン卒業後ケンブリッジに進むための奨学金もほぼ間違いなく手にしようとしていた矢先、高価な稀覯本を盗んだ罪を着せられて放校されてしまう。
    全てはフィーバス・ドーントの企みだった。
    学位のないものに約束された未来はない。
    輝かしいものになるはずだった未来が奪われたその日からエドワードはフィーバスに復讐を誓う。
    一方、フィーバス・ドーントは、その奨学金を得てケンブリッジへ進み、今や新進気鋭の詩人として高い評価を得ている。
    エドワードは失意のうちに欧州を放浪した後、母の遺産を整理しているときに偶然自分の出生の秘密を知る。
    もしかしたら自分は小説家の母の実の子供ではなく、母の親友であったデュポート男爵夫人の子供なのではないか。
    だとしたら、自分は英国きっての名門貴族タンザー卿 デュポート男爵の全てを継承すべき人間だ。
    自分はあのどうしようもない父親だったグラーヴァー大尉の息子ではない。エドワード・デュポートなのだ。
    エドワードはその親子関係の立証するための証拠を探し求めるが、またしてもそこにあのフィーバス・ドーントが立ちふさがる...。

    著者のマイケル・コックスが一番影響を受けたのがディケンズの「デイヴィッド・コパフィールド」なのだそうだ。
    さもありなん。雰囲気も似ている。
    それに、あらすじからして演劇的というか、面白そうでしょ?

    また、ラテン語による章のタイトル、著者の文学的教養があふれんばかりの文章と恐ろしいほどの脚注など、ヴィクトリア文学をかなり巧く模倣した形で描かれている。
    といっても古典に詳しいわけじゃないのだけど...。

    ボリュームも圧倒的。なにせ二段組みにして600ページ弱もある。
    けれども冗長さは微塵も感じなかった。これが読ませるのだ。
    帯にもあるヴィクトリアン・ノワールとは、まさにこれほど本書を表すキャッチはないだろうと思う。
    残念ながらマイケル・コックスは鬼籍に入ったが、本書には続編もあるとか。
    この余韻が消えないうちに続編の日本語版を出版して欲しいと思う。

    ちょっぴりネタバレはこちらをどうぞ。
    http://spenth.blog111.fc2.com/blog-entry-109.html

  • もう少し主人公に共感したかったなあ。

  • “ヴィクトリアン・ノワール”と評されたらしいが、まさに本作品の特徴を一言で巧く言い表している。

    19世紀のロンドンが舞台。華やかさは一切なく、裏家業に精通する主人公の影の部分に寄り添うが如く、仄暗く寒々しいトーンで描かれている。混沌としたロンドンの街並みや人々の暮らしぶりを多彩なディテールで表現し、質感や空気感が作中から伝わってくるような感覚はとても新人とは思えない。構想に30年かけたという作者の執念が伝わってくる。

    冒頭でいきなり見ず知らずの人物を殺害する主人公。読者の信用を失ったマイナスからのスタートなのに、この長い物語をどうやって乗り切るのかと不安と期待の入り混じった序盤だったが、あっという間に引き込まれていた。主人公の書き残した書物を紐解くというスタイルで、語り口は一人称である。いかにして自分は復讐しようと決意したかというのが大きなテーマなのだが、主人公の語り口だけで進んでいくのはアンフェアである。仇敵側から見たシーンが皆無で、果たして主人公の主張するように彼は本当に稀代の悪党なのか? という引っ掛かりが消えないのだ。だがこの語り口が、とりたてて特徴があるわけでもないのに妙に説得力があり、数少ないまともなキャラの助力も相まって、徐々に信憑性が高まってくるから不思議。

    それまでどっしり構えて進んできたのに、後半になってバタバタと慌てるのが惜しい。どこまでが事実でどこまでがフィクションなのか、その曖昧なボーダーラインや各キャラの後日談が気になったりと、読後は多々の余韻に浸っていた。600ページの長編だが、それを超える豊富な人間ドラマが詰まっている秀作。続編の刊行が待ち遠しい。

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著者プロフィール

マイケル・コックス Michael Cox
イギリス生まれ。サッカージャーナリスト、解説者。2010年、サッカーの試合やチーム、戦術史を独自の視点で解説するウェブサイトZonal Marking を立ち上げる。
当時のイギリスでは珍しかった戦術分析の専門家の一人として注目を集め、様々なメディアに寄稿を開始する。
現在は『ガーディアン』や『インディペンデント』等の高級紙や、『ESPN』等で健筆を揮う傍ら、解説者としても精力的に活動。
戦術分析で高名な先駆者、ジョナサン・ウィルソンに憧れてジャーナリストに転身した第二世代にあたり、本書が初めての著書になる。

「2019年 『プレミアリーグ サッカー戦術進化論 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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