六つの星星

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163723402

作品紹介・あらすじ

精神分析、生物学、文学、哲学をめぐって、第一線と語りつくす。川上未映子の思考の軌跡。

感想・レビュー・書評

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  • 川上未映子さんの対談集。
    すごく面白かった。

    対談を読むといつも感動するのは、向かい合って(きっと)話している2人が同じ言葉を共有して通じ合っていることの不思議。
    そして、いつも話しているはずの日本語なのに、私にはその言葉のほんの一部しか分かった気にもなれないということ。
    それにも関わらず、交わされる言葉にドキドキする不思議。
    本当に面白いなぁと思う。

    特に、福岡伸一さんと穂村弘さんとの対談が良かった。
    人間は蚊柱に過ぎないという話。
    神様の初期設定に抗いたいという話。
    考えたこともないような新しい視点を覗けたような気がした。

    残念だったのは『ヘブン』が未読だったので、永井均さんとの2つめの対談がちゃんと楽しめなかったこと。
    『ヘブン』を読んでからもう一度読みたい。

  • ・女性性の本質は存在しない。結局それは身体性に行き着く。身体性=女性の無根拠性。これが精神分析のロジック。(斉藤環)

    ・生物には固定した「輪郭」がない。人間も蚊柱みたいなもの。壊れながら秩序を保つ。ミミズにも自我がある。(福岡伸一)

    ・「ワンダーとシンパシー」。「社会性を持った共感の言葉」を発することができない。神様の初期設定の中で人間の生が終わってしまうことに抗いたいからこそ、最高のものが見たい。(穂村弘)

    ・頭=理屈、身体=その他ではなく、頭以上に複雑な思考回路が身体である。形而上と形而下ではなく「形而中」、絶対にありえない場所に立ち、書くこと・読むことの不可能性を意識しながら書く。(多和田葉子)

    ・死刑や殺人は重いが、それが最終という点に疑問。人間がみんな生きたい、楽しく生きたいって思っている前提がなければ成り立たない理論。抽象的で超越的な罰を与えるべき?手の内を見せない神が死んでしまった現状では、手の打ちようがない。猫は人間社会に属してないから何を言ってもよい。(永井均)

  • 川上未映子の対談集 7年程度の前のものなので現状とは異なり(出産した?)現況の気持ちは変化したのでは?感あるが、作品創作のこと、目指すもの等が彼女なりの個性(感性」に基づいていることがよくわかる。特にひらがなの使用が目での印象によるとの指摘(音ではなく)はその感性に興味(好感?)が持てた。できれば今時点での対談時との感性の異なった部分(変化した部分)を書いてほしい。

  • 各界の著名人と未映子さんとの対談集。
    表紙とタイトル、とても良いです。シンプルだけど、それが良い。対話された方々を星に喩えて「六つの星星」ということで良いのかな。

    彼女の作品に関する内容も勿論あるので、より楽しみたい方は既刊の「わたくし率~」「ヘヴン」「乳と卵」「先端で~」あたりを読んでおくと良いのかもしれない。
    ちなみにわたしは上記の作品はどれも未読ですが、十分に楽しめました。

    哲学的、生物学的なことはすべてを理解するのって難しいと思うけど、なんとなく指先で各分野に触れることが出来たような気持ちになる。

    自身の身体に対する感情が、男女で違うかどうかなんて考えたこともなかったし、どんどん透明になってしまう男性の身体とか、男性と性器の関係性も突き詰めて考えると、他者との共存、ということになるんですかね。

    それから「完璧な本」に対する未映子さんの思いだったり、死に向かって生きている矛盾の残酷さ、そこに向かう線上ではなくて「点でいたい」という欲望、言葉の持つ最大の制約と最大の自由の話、とにかくどの章も濃厚な対話で満ちていて、交わされた言葉のすべてが文学として成立している素晴らしい一冊。

  • 作家・川上未映子の対話集。精神分析、生物学、文学、哲学などをめぐり、6人と語り尽くす。
    川上未映子の感受性と知性にどうしようもなく憧れてしまう一冊。

    ・女性について、その身体性
    川上未映子の文体、文学的主題にある種の身体性が含まれているために、この対話集の中でもそれについて繰り返し語られています。
    生物としての構造的に、女性は男性よりも自分の身体に対して他者性を感じるし、身体を描くことができる。だから女性の方がヘテロセクシズムから自由である、と。女性は「他者から欲望される主体であるための知識を身につける」ことを要求されている。ふうん。
    ていうか、松浦理英子の話を聞いて(読んで)、性を超越したいという願望の女性一般に対する普遍性を改めて思い知った。これも女性が身体性を持つが故なのかな?女性とか男性とかに意味を与えすぎないでいたいというその気持ち、本当にわかる。

    ・主語の無い世界へ
    上記に関連して、性別はもちろん、もう個体と個体との間に差異があるのさえ嫌だと。主語の無い世界。

    ・絶対性を希求する
    これで個別ではなく全員の全表現で、っていう、川上未映子が全体性を感じてて、それにもびっくりしちゃったんですけど、なんかほむほむの表現があまりにも素敵で。宇宙人がやってきた時のために、っていう。こんな風に愛らしく物事を表現出来る人がいるなんて本当に素敵だと思った。

    ・「ヘヴン」の解釈
    すっきりした。コジマが僧侶のようになってくこと、「僕」の友情だとか、あの小説から感じ取られることがはっきり言語化されて、なおかつあの小説がその言語化に絡めとられないものをわたしに残しているからこその「すっきり」であれる、その喜びたるや。

    この本から得たものはまだまだたくさんありますがまあこのへんで。最初から死ぬってわかってて生きるって、暴力的なシステムだなあと思った、という、その感受性。こんな風にあらゆることをするどく感じ取って、考えて、生きている川上未映子はほんとうにすごいなー。

  • 「からだ・ことば・はざま」と題された、多和田葉子との対談が面白い。漢字の「以」を初めて見たときに、ものすごい力の間に何かが浮かんでいるイメージ、たまらなく運動中みたいな感じがあって、この字を好きになった、というところや、「身体と頭のふたつに分けたくない気持ち、形而上、形而下と分けるのではなく、その真ん中の混ぜ混ぜになった形而中を私たちはどうやっても生きているんじゃないかという思いがあるんですね」というところ。言葉、文字、読み、リズム、意味、いろいろなものを組み合わせて、あれこれ実験しているようなところが、川上未映子の書くものの魅力。

  • 自分が今この形になっているのが心地よい、自分の編成が話している相手によって変わる、でも変わりきれない余りがある話が好きだった。
    うれぱみん。

  • 六つの星星
    (和書)2010年06月06日 22:51
    川上 未映子 文藝春秋 2010年3月25日


    言葉のやりとりが興味深く感じた。

    対話者もいい。

    読んでみたい本が増えた。特に多和田葉子の作品は読んでいないので是非読みたい。

    『ヘブン』は予約してあるから楽しみ。

  • p.2010/4/8

  • 「方言には身体性がそなわっている」や、

    p141-142の
    「読書は自分の知らないうちに出来上がってしまっている遠近感を捨てて、
     更新する力を持つものだと思います」の一文に深くうなづく。

    著者の「蚊柱」のたとえがとても秀逸。

    人間は細胞の集合体であり、
    言ってみれば蚊(細胞)が集まってできた蚊柱みたいなものだとしたら、
    その蚊柱には蚊柱としての意識があるのか。

    人間の細胞は日々生まれ変わる。
    一説には人間は60兆個の細胞で形成されていて、
    人間の血液は120日、肌は28日、
    筋肉や肝臓は60日、骨細胞で90日など。
    見た目には変わらない人間の体は、
    細胞レベルでは約5~7年で
    ほとんど入れ替わっているという事実。
    変わらないようでありながら、ほぼすべてが変わっている。

    それでは、過去の記憶はどこにいったのだろう、
    と不思議な気持ちになる。

    福岡伸一さん曰く、

     人間の記憶とは、脳のどこかにビデオテープのようなものが
     古い順に並んでいるのではなく、
     想起した瞬間に作り出されている何ものか。
     つまり過去とは現在のことであり、懐かしいものがあるとすれば、
     それは過去が懐かしいのではなく、
     今、懐かしいという状態にあるにすぎない、とのこと。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』で第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。2019年、長編『夏物語』で第73回毎日出版文化賞受賞。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』など著書多数。その作品は世界40カ国以上で刊行されている。

「2021年 『水瓶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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