言葉でたたかう技術

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163734309

作品紹介・あらすじ

正直で誠実、勤勉…だけど口下手で議論に弱い「島国の民」の美点と弱点を論じ尽くした画期的日本人論。

感想・レビュー・書評

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  • 本を読む順番の神様、ありがとう!

    この本では、海外に留学した日本人が、現地の習慣などとのギャップでどのような苦労をしているか、というのを読みたかった。
    このギャップを「パーセプション・ギャップ」と呼ぶ。
    パーセプションギャップの例として、日本人の笑いのパターン以外に、日本がどう見られているかが記されており、太平洋戦争関連もあった。
    まさに今、この関連の知識を自分に蓄えようとしているものの、一情報。
    「原爆は日本人のために落とした」とアメリカ人が本気で信じていることは既に知っていたけれど、優るとも劣らない驚きがあった。

    「日本人のノーモアヒロシマは、リメンバー・パールハーバーの広島版だと思われている」

    嘘じゃないの……って本気で思った。
    日本だけがあの戦争を起こした責任があるように書かれている碑は、ABCD包囲網によって起こされた経緯を知れば、疑問を抱くものではあるけれど「もう戦争を起こしませんから、安らかにおやすみください。過ちはくりかえしません」という心には、賛同する。
    あの平和記念式典は、死者を悼み、平和の大切さに毎年思いを新たにするものだと思っている。
    が、アメリカでは真珠湾攻撃の日に、リメンバー・パールハーバーのサイレンが鳴る地域があるようだ……それと同じで、日本人は執念深く原爆攻撃への報復を誓っていると思われている、と。

    霞が関の庁舎に深夜まで灯りがついているのは、「日本人が今度は経済で世界を支配しようとしているんだろう」と解釈されている。と。

    著者は、こういった誤解に対しては、自分の立場、意見を論理立ててくり返すことで否定し、正しい立場を伝えることが重要だと。日本人はこれをしていないと言う。納得。
    経済支配についても、その意見を持った外国人に、それは解釈が違うと伝えていた。
    この部分に関しては私の立場はちょっと違う。
    日本は売る物的資源がなく、一次産業ではやっていけない島国なんだから、技術、知識、貿易で国を立てないといけない。
    経済で支配というのは、経済制裁で相手を意のままに操るという、まさに武器なので、確かにこの解釈ではいけないよね。言い換えると、日本は経済を外交の道具とする、くらいのことをすべきだと思っているので。
    美輪さん言うように、日本はひとつの国に頼らず、あちらの国こちらの国と仲良くして、この国がダメならあちら、と、どことケンカしても困らないようにしなければ干上がっちゃうのだから。
    アメリカが「TPPに参加しなければ天然ガス輸出しない」って言うのへ窮地に立たされて、カナダが「金さえくれればどこにでもうちのガス輸出するよ」って言うので救われる。その手段があることが大事で、そして、それを買う金がなきゃやってけないしね。


    驚くばかりの話だった。
    海外で留学し夫婦の学費を稼いだ著者の体験談。
    日本人の論文は、自分たちで論理的と思っていても、論文の組立も、議論も、外国人からすれば論理的でないから通じないという現実。
    島国国家である日本は世界を相手とするために、自分たちをどうアピールしたらいいか。
    国連常任理事になれない日本が、既に国連にこれだけの拠出金を出している現状をどう訴えるか。
    クウェートが、湾岸戦争で貢献した国に対して感謝の言葉を『ワシントン・ポスト』『ニューヨーク・タイムズ』などの新聞に掲載したのに、日本が増税してまで集めた130億ドルに対してたったの一言も謝辞がなかった。国名さえなかったこと。
    英語を話せないのは私も恥ずかしく思っているけれど、そうではないのだそうだ。日本人の大半が日本語しか話せないのは、日本が他国の支配を受けて公用語を変えさせられた経験がないという証明なのだ、と。これはものすごい驚きだった。日本には悪い部分もあるけれど、いい部分もこんなにたくさんあるよ、と、書いてあった。


    よしながふみが「私はこんなにいつもご飯のことを考えているんだから、おいしい店にめぐりあう縁があってもいいと思う」というようなことを描いていたけれど、そうだよね
    何事につけ、それを求める人の元には集まりやすいものなんでしょう。
    読んでいた本の事項に関連する本にめぐりあうたびに、「本の神様、ありがとう!」って思う。
    この本から、戦費に関する本にもちょいと手を伸ばそうかな。

  • ただの弁論術ではない。
    コミュニケーションのあり方を通した日本人論であり、また、前半は筆者の留学時代の経験が綴られているが、その姿に生きるエネルギーがふつふつと涌いてくるような良書。

    日本について思うアンビバレンツな感情。
    僕も普段世の中のこういうところがイヤだ、とかもっといい社会にならないかな、っていうのはしょっちゅう思ってるわけだけど、でも他の国々と較べて日本がダメな国か、劣ってる国かっていうと決してそう思っているわけではなく、世界の中でも最上級の素晴らしい国なのではないかと思う。

    この本は日本・日本人・日本的コミュニケーションの美点と弱点をそれぞれ説明する。
    たとえば、日本人が婉曲的な表現を使うのは相手の心情を思いやるため。
    だけど、時としてそれは意思疎通を拒んでしまうことになってしまったり、また、島国で平和すぎる環境の国だからできること・・・だとか。

    僕たちが他人とどうやって接すればいいか、どうやってモノを表現していったらいいか、そんなことを考えさせてくれるフックになる。
    タイトルから受ける印象よりも、もっと多くの人に必要とされるべき本ではないかと感じた。

  • 「過去五十年、欧米人と議論や口論をして、私は負けたことがない」と著者は言う。
    そんな著者のケンカ修業の原点は住み込みのメイドをしながら大学に通ったアメリカ留学にある。そこで出会ったアリストテレスの『弁論術』にはこう書かれていた。
    「言論による説得には三つの種類がある。第一は語り手の性格に依存し、第二は聞き手の心を動かすことに、第三は証明または証明らしく見せる言論そのものに依存する」
     つまり真実でなくとも真実らしく証明すればいいのである。
    「原爆は日本人のためにも落としたのよ」と言うアメリカ人にどう反論するか。交渉の場ではどんな表情をすればいいのか。割り込みしてきたアメリカ兵をどう叱るか。
     また、その一方で著者は、外国人が語る日本人の美質――正直、誠実、思いやり、繊細――などを紹介しつつ、その美質が逆に議論の場では短所になることを指摘する。
     どうやって言葉で世界と闘うのか。本書は、著者の闘いの記録と雄弁術のテクニック紹介であるとともに、島国で独自の文化的伝統と性格を育てた日本人論でもある。
     尖閣問題などで歯がゆい思いをしている日本人にぜひ読んでほしい一冊!

  • "この本の題名にだまされてはいけない。交渉の単なるハウツーものではない。
    この本では、日本人が世界でしっかりと発言をしていくことの大切さを学ぶことができる。
    そのためには、我々はどう対処すべきか?
    ・日本の歴史や文化をしっかり学ぶこと。
    ・多くの国の文化や歴史を学ぶこと。
    ・宗教にも精通していたほうがよい。
    ・大陸と島国であった民族の思考法の違いを理解すること。
    などなど、多くのことが学べるすばらしい本。"

  •  
    ── 加藤 恭子《言葉でたたかう技術 20101207 文藝春秋》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4163734309
     
    …… 正直で誠実、勤勉…だけど口下手で議論に弱い「島国の民」の美
    点と弱点を論じ尽くした画期的日本人論。
     
    …… 過去五十年、欧米人と議論や口論になった場面で、私は負けたこ
    とがない。(引用の織物)
    http://ctenophore.hatenablog.com/entry/20110806/1312658321
     
    ── 加藤 恭子《伴侶の死 198904‥ 春秋社 199709‥ 中公文庫 20130510 文春文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4393363183
     
    http://amarimichi.web.fc2.com/asiato/read/13.12.21_hanryonosi.html
     人生の余り道(時の足跡)
     
     加藤家の人々 ~ ~
     
     藤井 百太郎   医学 18‥‥‥ ‥‥ 19‥‥‥ ? /号=玄対/日佛文化功労章“藤井式壓戟治療法”
     加藤 淑裕 生物発生学 1924‥‥ 東京 19880423 63 /学会長/三菱化成生命科学研究所/, Yoshihiro
    ♀加藤 恭子 中世仏文学 19290526 ‥‥ /旧姓=藤井 玄対(百太郎)の娘/淑裕の妻/評論/Katou, Kyouko
    ♀恒吉 僚子 教育学   1961‥‥ Baltimore /旧姓=加藤 淑裕の娘/東大教授/Tsuneyoshi, Ryouko
    http://www6.plala.or.jp/guti/cemetery/PERSON/K/katou_yo.html 墓誌
     
    ── 恒吉 僚子《アメリカへ行った僚子 198504‥ 朝日文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4022603216
    https://booklog.jp/author/%E6%81%92%E5%90%89%E5%83%9A%E5%AD%90
     
    (20180422)
     

  • 冒頭の「自分は口げんかで負けたことない」みたいな話でそっと本を閉じようかと思ったが、内容はそれなりに面白かった。
    抑制のきいた「日本良いとこ本」。これくらいなら十分に許容範囲である。

  • 161210 中央図書館
    終戦後、まだそれほど経過しない時期に、著者は夫とともに学生としてカリフォルニアへ留学した。その時、住込みのアルバイトで雇い主とのコミュニケーションの齟齬に色々と苦労した。その経験を通じて、日本人が日本人だけとのコミュニケーションで慣れているやり方では、外国人とのコミュニケーションで誤解が生まれやすいこと、誤解を避けるために、「切り替えて」、「はっきり物を言う、理由を言う」というようにするべきことを学んだ。
    この本は、著者の経験を踏まえ、国際コミュニケーションの心得を平易に歯切れよく説明している。いわば、若かりし日に著者がアメリカで切った啖呵のようなリズムがあり、元気がでる。

  • 最初は彼女の留学生活のところから始まり、読みやすかった。これから日本人が外国人に対してどういったコミュニケーションあるいは交渉をしていかなければならないのかを考えていかなければならないと思った。どんな分野でも弁論は必要だと思うし、自分も学びたいと思った。それにはパーセプションギャップ、異文化間の考え方の違い、ズレを学ばなければならない。コミュニケーションを測るには相手を知ることも必要である。そのうえ、自分の国のことももっと知っていなければならない。色々考えさせられた本だった。

  • ・外国人とコミュニケーションを取る際は、「パーセプションギャップ」に気を付ける。あとは、絶対的な英語力が必要
    ・言論による説得には3つの種類がある。第一は語り手の性格に依存し、第二は利き手の心を動かすことに、第三は証明または証明らしくみせる言論そのものに依存する
    ・友好的な場では、「島国人間」そのままのやり方。対立的になったら、変わる
    ・欧米人は、責任追及される状況・損害賠償される局面では謝らない
    ・交渉においては、相手の「内在的論理」を理解する。そして、攻撃する。攻撃は最大の防御

    いい本だった。

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著者プロフィール

加藤 恭子 (かとう きょうこ)
1929年、東京に生まれる。
1953年、早稲田大学文学部仏文科卒業と同時に渡米・留学。
1957年、ワシントン大学修士号。フランス留学、再渡米を経て1961年、帰国。1965年、早稲田大学大学院博士課程修了。1965年からマサチューセッツ大学。
1973年から上智大学講師。専門はフランス文学。
現在 (財)地域社会研究所理事、「加藤恭子ノンフィクション・グループ」代表。
第43回日本エッセイスト・クラブ賞、第11回ヨゼフ・ロゲンドルフ賞、
第65回文藝春秋読者賞受賞。
著書『英語を学ぶなら、こんなふうに』(NHKブックス)
『アーサー王伝説紀行』(中公新書)
『「星の王子さま」をフランス語で読む』(ちくま学芸文庫)
『やさしい英語のリスニング』(ジャパンタイムズ)
『日本を愛した科学者—スタンレー・ベネットの生涯』(ジャパンタイムズ)
『老後を自立して』(NHKブックス)
『田島道治—昭和に「奉公」した生涯』(阪急コミュニケーションズ)
『昭和天皇「謝罪詔勅草稿」の発見』(文藝春秋)
『ニューイングランドの民話』(共著、玉川大学出版部)
『直読英語の技術』(阪急コミュニケーションズ)
『昭和天皇と田島道治と吉田茂—初代宮内庁長官の日記と文書から』(人文書館)など

「2006年 『昭和天皇と田島道治と吉田茂』 で使われていた紹介文から引用しています。」

加藤恭子の作品

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