- Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163764306
作品紹介・あらすじ
ニミッツは決断する「情報力をもって戦力差をあえてひきうける」真珠湾攻撃によって戦艦のほぼ全てを失った米国。英国のZ艦隊も、日本の航空攻撃で壊滅、圧倒的な戦力差で、正確な時刻表のように、太平洋地域を、席巻する日本陸海軍しかし、そのころハワイの秘密部隊が着々と日本軍の暗号解読作業を進めていた。圧倒的な戦力差を、情報力で覆すことはできるのか?あなたが山本ならニミッツならどうしたか?長期的戦略、瞬時の判断を考える教科書
感想・レビュー・書評
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図書館で借りた。三部作に及ぶ本シリーズを一言で言えば「米国人から見た太平洋戦争」である。第一部の下巻である本書では「シンガポールの戦い」と「フィリピンの戦い」から「ミッドウェー海戦」までとなる。訳文が読みづらいとの評判も一部であるが、そのような印象はなかった。各戦闘の詳細な描写もそうだが「ミッドウェー海戦の頃には日本の暗号無線はほぼ米軍に筒抜けだった」との事実は知っていたものの、米軍側がどのようにして暗号解読に挑んだかの詳しい説明は本書を手にするまで、あまり読んだことがないので、とても勉強になった。
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ふむ
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単なる歴史書でなく、前線の兵士の証言も収録し、ドキュメンタリー調で読ませる。戦争の悲惨さ
ルーズヴェルトはバターンの米軍に、チャーチルはシンガポールの英軍に降伏させようとはしなかった(チャーチルはその後わりとすぐ降伏を認めるように考えを変えたが)。日本軍もバターンをノンビリ兵糧攻めすることは許さず強攻策を取った。
東南アジアでのABDA司令部の敗北の後、太平洋における連合軍の指揮は米軍が取ることに。しかし米軍内部でも主導権争いがあり、南西太平洋地域をマッカーサーが、太平洋地域をニミッツが指揮する折衷案が取られた。これはガダルカナルのような境界地帯で陸海の摩擦をもたらした。
日本軍は想定をはるかに上回るスピードで進出した結果、次の作戦プランがなくなるところまで来てしまった。陸海の異なる見解、海軍内部でも軍令部と連合艦隊との異なる見解を調整することは困難で「あらゆる関係者に望むものの一部を与えるように巧みに仕組まれた決定」にいたった。ただ何にせよハワイもオーストラリアもインドも手の届かない戦争目標と思われるが。。。
ハワイ攻略の布石あるいは妥協案としてミッドウェイ作戦を山本は推していた。ただ占領できたとしてもハワイからの反撃は激しいだろうし、ミッドウェイは飛行哨戒の基地としても(簡単に迂回されるので)たいして役に立たないだろう。攻勢が太平洋艦隊の残余を真珠湾から誘い出すという期待については、そもそも敵が応じないという懸念もあった。
東京空襲を敢行したドゥーリットル隊の空母ホーネットはサンフランシスコから出港した。陸軍の双発爆撃機であるB-25を甲板に縛り付けた姿は異例だった。任務について聞かされていない乗組員のあいだではB-25を真珠湾でクレーンで下ろすのだろうといわれていた。まさか空母からB-25が離陸するとは思っていなかった。(B-25はホーネットから発進したが、攻撃後は中国まで飛んだ)
真珠湾にあった極秘の暗号部隊ステーション・ハイポ。最初は日本軍の暗号文はまったくの謎だったが徐々に解読が進む。既知の場所における既知の出来事に関する通信は、暗号解読の手助けとして非常に貴重だった。マーシャル諸島への攻勢やドゥーリットルの東京空襲はハイポを大いに助けた。
<blockquote>この秘密主義の仕事には自分で自分の目的を否定するようなところがあってね。もし誰にもそのことをいえないのなら、どうしてそれを利用できるかね? − ロシュフォートが自分の率いるハイポの仕事を評して</blockquote>
珊瑚海海戦はミッドウェーの影に隠れて目立たないが、ここが日本軍の攻勢のターニングポイントであったのではないか。日本はレキシントンを沈めて戦術的勝利を収めたかにも見えるが、ポートモレスビー攻略という戦略目標を果たせなかった。その背後には延びきった兵站線というどうにもできない要因があった。ラバウルといった基地からの航続距離一杯に位置していたので、マレー半島やオランダ領東インドであたような空海の支援は見込めなかった。またインド洋で暴れてきた機動部隊の疲労も蓄積しており、加賀が急遽ドック入りするなど2隻しか投入できなかった(空母6隻の機動部隊で具体化された源田実の空母航空兵力集中の構想が。。。)。また、ここで米軍の新型レーダーが実戦ではじめて効果を発揮したのも示唆的である。
東京空襲に参加したホーネットとエンタープライズも珊瑚海には間に合わなかった。奇しくも日米空母は2対2となった。
珊瑚海海戦でのかみ合わない索敵。知らぬ間にお互い背後に位置していたり。攻めるは強いが守りに弱い機動部隊の特性(これは今日でも同じでは?)。空母が被弾した際のダメージコントロールの重要性。まさにミッドウェーの前哨戦。
翔鶴、瑞鶴ともにこうむったダメージゆえミッドウェーに参戦できなかった。一方、ヨークタウンはミッドウェーにも参戦。
井上成美のポートモレスビー攻略部隊反転の判断。敵機動部隊を撃退したとはいえ、十分な空の援護を提供できない(軽空母祥鳳は沈没、翔鶴は戦闘不能、瑞鶴の航空戦力も39機のみ、艦船の燃料不足)状況での上陸作戦はギャンブルには違いなかっただろう。連合軍にはまだオーストラリアからの空の援護もありえた(地の利!)。だがあまりにも臆病として疑問視された。戦争のひとつの大きな転機だったのは間違いない。
ミッドウェーの皮肉かつ面白いところは、米軍が事前に日本軍の作戦内容をかなり詳細に把握しながらも、その主たる、かつ唯一有効と思われる作戦目的である米機動艦隊のおびきだしに半分以上は乗っかっているところ。キングは味方機動部隊を危険にさらさないように指示したが、スプルーアンスの追撃自重をのぞけばあまり遵守されたとも言いがたい命令だったと思う。ただその一方で、連合艦隊は、米機動部隊が誘いに乗ってきたにもかかわらず、ミッドウェー環礁の攻略か敵機動部隊の捕捉・殲滅かで、戦略レベルでも戦術レベルでも目標を絞り込めなかった。そのもっとも大きな要因は米機動艦隊の所在がまったく分からなかった情報不足だが、それを脇においても作戦計画そのものの不明確さは否定しがたい。
高級将校が芸妓に情報を漏らすなど情報統制ができていなかった日本軍。悲壮感すらあった米側と実に対照的。 -
シンガポール、フィリピン攻略の快進撃から、ミッドウェイの敗戦に至るまで。日本側の非統制的なミッドウェイ攻略決定に至る混乱と、米軍の暗号解読とニミッツの決断と様々な偶然がミッドウェイでの日本機動部隊壊滅に繋がったことを論理的にまとめている。
ミッドウェイにおける暗号解読がこれほどまでにギリギリでしかも信頼性に欠けていたとはついぞ知りませんでした。そしてアラン・チューリング同様に守秘義務の霧の中で暗号解読者が歴史が検証するまで報われなかったことも。しかし日本語の暗号を解読するとか、それだけでもエニグマの何倍も難しそうな気がしますがな。
ミッドウェイに勝てても日本側に打つ手が無かったのは散々論じられていますけど、ミッドウェイが勝ち目の無い無謀な作戦でも無かったというのも又神話で、米国側も敗北のリスクを取りながら乾坤一擲の勝負に出たというのがよく分かりました。
翻訳がいまいちなところがところどころあって、特に接続詞の繋がりが悪い箇所が多かったのが残念。 -
日本語訳に難あり。
南雲提督について、理論的に書かれていてよかった。 -
【日本がアメリカに戦争で勝っていた六カ月】日本は戦争に勝っていた。アメリカの戦艦をほとんど沈め英国の主要艦も撃沈。連合軍は壊滅状態だった。日米海軍から見た最初の半年。
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・ 日本軍の司令官、本間雅晴将軍は、自分の部隊がマニラを占領すればフィリピンの戦いは終わったも同然だと確信する過ちを犯していた。
・ 公報や報道は絶対嘘を言っちゃならんので、嘘を言うようになったら戦争は必ず負ける
・ 日当丸の乗組員は空母の一席が双発爆撃機を搭載していたことに決定的に気づかなかった。
・ 1942年4月後半にかれの幕僚が行った研究は、戦争のその段階でアメリカが持っている最も重要な利点は情報であることをあきらかにした。
・ 撃破された木っ方に爆弾や魚雷を浪費して、4席の的巡洋艦と一席の駆逐艦をみすみすのがしたことに失望した。 -
上巻に記載
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日本軍の組織が一方的にダメな訳ではなく、米軍も組織として結構ダメな所があったという話は興味深い。
・ミッドウェー海戦で米軍の勝利に多大な貢献をしたホノルルの暗号解読グループ。しかし政治的手腕にのみ秀でるものの暗号解読には無能なワシントンの暗号解読グループにその手柄を横取りされてしまう。その上ワシントンチームのリーダーは昇進し、ホノルルチームのリーダーは左遷されてしまう。
・フィリピンに日本軍が侵攻した際、マッカーサーは事前に定められたの作戦計画を無視して即座に後方へ撤退せず、迎え撃とうとして貴重な時間を空費してしまう。 -
上巻は歴史の流れ部分が多かったのであちこち気になったけれど、下巻は海戦ばかりで、どうもそちらには興味がないとわかった。
さすがにミッドウェイ海戦のあたりは戦闘が派手で、読んでいて加賀、赤城、蒼龍、飛龍とことごとく空母がやられていくのに悲嘆したけれど……
負け戦と知っていても、やっぱり日本側が負けているのは悔しく、アメリカの空母エンタープライズがやられたりすると、ちょっと喜んでしまうのだが、すぐにこれは戦争で、実際に人が死んでいるんだったと思って、虚しくなった。
ミッドウェイ島を、アメリカ攻略の足がかりにしようという話。
山本五十六が強引に押し通した案。
机上の模擬演習を、自軍の弱点を洗い出したり対策を立てるために役立てるべきところを、敵艦の動きまで自分たちの願うとおりにシナリオ作って、望ましくない結果は補正していた……なんていう話に、呆れるばかり。
洋上決戦が日本の理想だったとは散々書かれているけれど、太平洋上にぽつんと浮かんで、周囲からの援助も行えないようなこのミッドウェイ島の攻略作戦がなんのためにあったのか、ちっとも理解出来なかった……
空母だったか巡洋艦だったか忘れたけど、沈む艦から脱出する際に、アイスクリームをカップで配って、脱出ボートやなんかの上で食べた。という記述があった。
戦艦でアイスクリーム!?
日本軍は、兵隊がどれだけ疲れていても精神力でしのげると思っていて、アメリカはこんなに物量も兵隊に対する考え方も違って。
最終的には「人間」という物資の消耗戦である戦いをしているのなら、これだけ物量面や兵隊というものの疲労に対する対応、兵隊自体の動員数で違いがあるのなら、勝てるわけがない……と実感。 -
日米海軍の発足から太平洋戦争中盤ミッドウェイ海戦までの戦史を、アメリカの視点、日本の視点の両側から記述している。後編は、日本軍のマレー半島攻略、ドゥーリットルの東京空襲、珊瑚海海戦から、ミッドウェイ海戦までの経緯と、その分析。第二次世界大戦中のアメリカ軍事戦略研究の良いテキストになると思う。
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下巻に入っても日本軍の侵攻は止まらずABDA司令部は崩壊する。アメリカはインド洋はイギリス軍太平洋はアメリカ軍が受け持つ事を提案し英連邦のカナダ、オーストラリア、ニュージーランドをアメリカの影響下に置く事をチャーチルは不本意ながらも受け入れた。キング提督はヨーロッパに向けるはずだった戦力を太平洋に割りふり太平洋艦隊司令長官のニミッツと南西太平洋地域司令長官マッカーサーに率いさせた。
戦争開始4ヶ月後日本艦隊は事実上無傷で国民は浮かれていた。しかし山本五十六は休戦の可能性を妨げる勝ち誇ったプロパガンダー「国内の軽薄なる騒ぎ」ーを忌み嫌っていた。事実日本軍はアメリカ軍はたいした事が無いとなめはじめあまりにも早く侵攻が進んだために次の計画は立てられていなかった。日本としては消耗戦は避け連合国に壊滅的な打撃を与え1942年末までに講和を求めざるを得ないようにする方法を見つけなければならなかった。海軍の一部はオーストラリアやインド攻略を提案したが陸軍は大陸から大規模な部隊を動かす全ての案に反対した。陸軍はドイツがロシアを破った際にシベリア侵攻できることを目論んでいたからだ。陸軍は米軍の海上交通路を遮断するポートモレスビー攻略を主張する。一方海軍はオーストラリアの孤立化には同意し、ニューカレドニアからフィジーまでを占領することを提案する。ここで山本五十六はミッドウェイ攻略を主張する。この本当の目的はアメリカの空母部隊をおびき寄せ撃破する事だった。4月16日大本営は次の3ヶ月の目標の順序を説明した。5月ポートモレスビー占領、6月ミッドウェイとアリューシャン列島占領、7月ニューカレドニアとフィジーを占領。
4月18日アメリカはB−25による帝都攻撃を実行した。空母に着陸はできないがなんとか発艦はできる。飛んでしまえば中国におりる事はできるというギャンブルにも似た作戦だった。空母に気づいた漁船はB−25には気がつかず日本軍はまだ米空母が攻撃距離に入るには時間が有ると見積もった、B−25を発見した哨戒艇の報告も誤報と片付けられている。進入機を発見した目撃者は敵機と気がつかず手を振って迎えている。山本はミッドウェイはアメリカの脅威の要で有るとし6月1週にミッドウェイ攻撃が実施されることになる。
アメリカ軍は着々と反攻の準備を整えていく。ひとつがハワイの暗号解読部隊でミッドウェイ海戦における日本の機動部隊の情報はかなり正確に掴んでいくことになる。もう一つは新たなレーダーの開発で日本軍より索敵範囲が広くなった、そしてゼロ戦対策は単独での空戦を避け2機がセットで1機のゼロ戦に対峙する。
日本軍のポートモレスビー攻略では珊瑚海で史上初めて空母同士の海戦が行われた。空母レキシントンを沈め、給油艦と駆逐艦も沈め空母ヨークタウンに損害を与えた。軽空母翔鳳と軽巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、輸送船1隻と砲艦4隻を沈められた。損害は米軍の方が大きかったように見えるが航空機とパイロットは日本の被害の方が大きかった。珊瑚海海戦は戦術的には日本の勝利、戦略的にはアメリカの勝利と言う昔からの評決に著者のイアン・トールは異を唱える。珊瑚海からミッドウェイを一連の戦闘と見た場合、
ヨークタウンが修理されミッドウェイ海戦に参加したのに対し、空母翔鶴は損傷し瑞鶴は艦載機を失いミッドウェイ海戦には参加していない。そして元々の目標のポートモレスビー攻略にも失敗している。戦術的にもアメリカの勝利だったというのがその評価だ。
ハワイの暗号解読部隊は6月3日のアリューシャン列島、4日のミッドウェイ攻撃を読み取り戦力はミッドウェイに集中させていた。ヨークタウンはそれに合わせわずか3日でとりあえず動かせる程度に修理された、つぎはぎを当てたと言った方がいいかもしれないがそれで充分だった。ミッドウェイ海戦もアメリカ軍が洗練されていたわけではない。いくつものドタバタ劇が有ったが重要な点は先制攻撃を仕掛けたのはアメリカ軍で爆撃や雷撃は外れ続けたがやがて当たり、日本の空母に損害を与えるたびに戦力の均衡は傾いていった。
何が勝敗を分けたのか?アメリカ軍にいくつもの幸運が有ったのは確かだが、持てる航空戦力を結集し、先に敵艦隊を見つけ、先制攻撃を行った。そしてアリューシャン列島の攻撃には目もくれなかった。ミッドウェイが重要だったのはアメリカ側の視点ではもう一つある。ハワイや西海岸への攻撃の危険を排除する事でソ連をドイツと戦わせ続ける事ができるようになった事だ。1940年から43年の間にソ連とドイツは戦時生産量を2倍に、イギリスは3倍に、日本は4倍にしたがアメリカは25倍に拡大した。もし日本につきが有り勝っていればどうなったか。ますます調子に乗る日本では講和は実現しなかっただろうし、アメリカの工業力は何一つダメージを受けておらずいずれは消耗戦になっていただろうと思う。
この本には多くの実際に戦闘に参加した日米両軍や市井の一般人など様々な人の見方で当時の出来事が綴られている。主人公と言えるのは山本五十六やニミッツやスプルーアンスであり暗号を解読したロシュフォートだが同じくらい名も無き人々の様子を描いている。 -
太平洋戦争の趨勢を一転させたと言われるミッドウェー海戦。日本艦隊敗北の原因として機動部隊司令官の南雲中将の決断の迷いに関して言及されることが多いですが、現場司令官の判断を迷わせるに足る様々な伏線が実はあったこと。作戦の目的が複雑であったり、索敵情報の不確実さによって翻弄されたミッドウェー海戦の前哨戦の経験であったり。その一方で、戦力の劣勢を情報によってカバーしようとしたアメリカ。結局、航空機が主役となる時代を自ら呼び起こしながら、情報、索敵という部分では目視で大砲を打ち込んでいた時代の概念から脱却できなかった思考の硬直化がもたらした結果であったのかも。人間が判断を誤る状況に陥るときには、それをもたらす様々な背景が必ずあるということでしょうか。
ミッドウェー海戦の勝敗を分けた、様々な側面を特にアメリカ側からの視点で丁寧に解説している良書だと思いました。 -
真珠湾攻撃からミッドウェイまでのアメリカが負けていたあいだの日米戦争を、主にアメリカ側の視点で描いた書である。真珠湾、ウェーキ島、マーシャル諸島、ドゥリトル空襲、などイベントを時系列で追っているので、各戦闘が次にどう影響を与えたか、どのような背景で行なわれたかがよくわかる。
また、提督から兵隊まで満遍なく描写されており、将官の苦渋、摩擦、決断や兵士の覚悟、本音、未帰還の同僚への寂寥、など様々な感情は敵味方に関係なく満ち溢れている。また、劣勢にあるアメリカの不安や自信のなさなどは思っていた以上であった。
戦闘の勝敗は、運を含む多くの要因が複雑に絡みあって決まるもので、南雲提督の優柔不断がなければなどと論評するのは事を単純にしすぎているとの思いを強くする。アメリカも合理的な人ばかりではなく、日本にだって独創的な人はいたのだ。太平洋戦争を知るのに、本書はお勧めできる。多くの文献や記録にあたり、日米に等距離で書いていることもあって、いろいろなことを改めて考えさせてくれる。 -
midway
暗号の解読 -
この本を読むまでミッドウェー海戦は、事前に米側に暗号を完全に解読されていた時点で、負けるべくして負けた、振り返るのも気の重い戦いだと思っていた。敗戦の決定的な要因は、暗号解読ではない。もちろん作戦が筒抜けだったのだから、さすがに日本側の完勝はあり得ないが、少なくとも痛み分けもしくは不戦敗ぐらいにはできたのではないか。勝敗を分けたポイントは、一度は見失った日本空母を再び発見できたという幸運とヨークタウンのあり得ないほどの不沈ぶりと日本側の消火のまずさ。下巻の翻訳がもう少しこなれていたら今年のベストだった。
索敵自体はその前の珊瑚海海戦でもそうだったように、必ず発見できるというわけではなく、もたらされる情報も不確かだったりしたのだから、これが一番のポイントではないだろう。それより、日本側が米空母から発艦してきた編隊でまだ来ていない爆撃機への警戒を怠ったことの方が重要だろう。一斉に編隊を組んで来て討ち漏らしたのではなく、バラバラに飛んで来て、しかもポイントを見失ってようやく探し当てて来たのだから、時間的余裕があったはず。それまでにゼロ戦は悉く返り討ちにしてしていた。
これまで言われてきたように、ミッドウェー海戦は米側が日本側の暗号をまるごと解読できたから負けたわけではない。苦労しながら少しずつの成功だっため、現場では不確かで矛盾する情報に最初は信じられなかった。確かに、事前に日本軍の攻撃目標がわかり、さらにその日時までつかめたのは、「空母機動隊二個分に匹敵する価値」だった。念のため、ひっかけをして再確認が取れた時も、その目標の戦略上の重要度の低さのため、日本側がかついでいるのではと疑ったくらい。これを読んでわかったが、暗号解読者のその後は不遇で、きちんと評価されはじめたのは戦後しばらくたってから。
前もって攻撃目標と日時が分かっていたにもかかわらず、米側は勝利までに犠牲を出し過ぎ、その勝ちさえも幸運によってひろっている。ただ、空母に群がる米軍機が悉く返り討ちにあったことで、それまで動揺していた日本側の油断を誘ったというプラスの面はあるかもしれないが、それは意図せざる結果。
スプルーアンスは攻撃隊が全機揃って発艦する前に攻撃を命じているが、これは日本軍に比べて発艦にそもそも時間がかかりすぎていたことと、日本側にこちらの艦の所在を知られたためであるが、それによって第8雷撃飛行隊はすべてゼロ戦に撃ち落とされている。むしろ、それだけ発艦に時間がかかるのに全機揃って編隊を組んで向かわさせようとしたので、著しく時間をロスしており、事実目的地に駆けつけた時には日本軍はおらずただ大海原が広がるだけだった。探し回った末にたまたま運良く見つけることが出来たのもパイロットの勘がすぐれていたことと、南雲提督があろうことか米空母に接近するよう命じていたため。
第一撃でミッドウェー島の攻略に成功しなかったことと、ありえないほど早く敵空母が周辺海域に現れていることをもって、作戦を中止し撤退していれば良かったが、南雲艦長はむしろ敵艦に向けて前進したことが、一度は見失った敵パイロットに発見される不運を招いた。
飛竜の山口提督とパイロットも致命的なミスを犯している。一度は大破させたはずのヨークタウンがまだ沈まず動いていて、戻って再度二艦目の標的を探していた日本側にまたもや発見されて致命的な打撃を受ける。日本の潜水艦が魚雷を見舞うまで沈没しなかった。珊瑚海海戦から数えて4回目の攻撃でやっと沈没すると言う不沈ぶり。
最後の総括で、日本軍の索敵の不十分さの指摘はあっても、暗号が解読されていることへの疑いが出なかったことを挙げていないのはなぜなのか? 空母戦がガラスの顎をもったリーチの長いハードパンチャー同士の戦いであるなら、あらかじめいるはずだと思って索敵する場合といないだろうと思って索敵する場合で違いが出るの当たり前なのだが。
ミッドウェー海戦に勝利したからといって、太平洋戦争全体の趨勢が変わったとは思わない。せいぜい敗戦が延びたくらいか。ただ、これによりアメリカは大西洋に戦力を集中することができたため、独ソ戦の行方に大きな影響を与えたことは確か。 -
第7章 ABDA司令部の崩壊
第8章 ドゥーリットル、奇跡の帝都攻撃
第9章 ハワイの秘密部隊
第10章 索敵の珊瑚海
第11章 米軍は知っている
第12章 決戦のミッドウェイ
終章 何が勝敗を分けたのか -
アメリカ軍が太平洋初期の劣勢をいかに捉えたて直したかについて、各作戦細部ではなく人間にフォーカスして書かれており読みやすかった。ただ翻訳がイマイチだった。