水声

著者 :
  • 文藝春秋
3.28
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本棚登録 : 646
感想 : 109
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163901312

作品紹介・あらすじ

過去と現在の間に立ち現れる存在「都」と「陵」はきょうだいとして育った。だが、今のふたりの生活のこの甘美さ!
「ママ」は死に、人生の時間は過ぎるのであった。

感想・レビュー・書評

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  • 終始、穏やかで静かな語りに不穏な空気が混じる。この家族には一体何が隠されているんだろうと、耳を傾けるように読んだ。
    今にも電池が切れる時計の針のように、ゆっくりとした危うい時を最後まで刻んでいた。それが思い出語りの、現在と過去を行き来する様子と重なって、パラパラと崩壊していく姿を見ているようだった。時系列もバラバラに語られるのに、身体にすうっと吸収されていくのが心地よかった。

  • 素敵な装丁に惹かれて。

    時間がいったりきたりだけど、視点は主人公のままなのでわかりやすい。
    テーマに対して、さらさらと綺麗な表現。

    「人間は、人間であるかぎり、それほど違っちゃいないよ」

  • 静かに空気が流れて、時間はいつのまにか過ぎていく。
    母の影響がやはり強いのかな。背徳の正当化。

  • 『水声』読了。
    ママとパパ、わたしと遼の4人が織りなす奇妙な家族の物語。
    戦前から現在までの約70年の時系列を行ったり来たりするんだけど。
    常に生活の中心にはママがいて。ママの死後もママのことを考える姉弟とパパ。
    少しずつ明かされる4人の出自。
    だけど全然それが変でもなく普通なところがいい。
    4人とも、自分の気持ちを大事にしてる。
    それが優しくてね。
    読んでいて心地よかった。
    平気で道徳に反しているけれども。
    誰からも邪魔されてないってのがいい。
    まるで世界から見捨てられたような。
    だけど、ママは短命で生を終える。
    悔しかっただろうな…
    でも、姉弟のその後を知らなくてよかったのかな。
    久しぶりに川上弘美の本を読んだけど。
    この季節に似合う本でした。
    ビリー・アイリッシュの曲を流しながら最後は一気に読んじゃった。

    2019.6.4(1回目)

  • 時間を見失ってしまったかのような家で、都は時々の記憶を行きつ戻りつする。従姉の奈穂子と弟の陵と三人で一緒に過ごした子供の頃の記憶。母が生きていて、父と母と弟と四人でこの家で暮らしていた頃の記憶。
    思い出と夢と現在がモザイクみたいに並べられて結ぶ像は、一つ一つの細部が意味を有しながら、全体として漠たる何かを語ろうとしてくる。
    現在を押し流してしまいそうに重ねられる思い出と、何でもない小さな一コマとして差し入れられている、実際に起こった幾つかの記憶に残る事件。取り返しがつかないと思えるどんな出来事も、全て行き過ぎてただ現在へと流れ込んでいる、とでも告げるかのように。
    静かな語り口の筈なのに、センシティヴな文章に密かな胸苦しささえ覚えながら、この物語は何処へ流れ着くのだろう、そんな焦燥感を抱いて読み進んだ。

  • 死と背徳。
    でもどうして、こんなに淡々としていられるんだろう。

  • こういう作品は感想が難しいです。
    流れるような言葉、文章。繋ぎ目。
    淡々とした日常、一生。
    主人公の独り言を聞きながら彼女の日々を感じ、自分の過去と死んだ大切な人たちを感じ、読みながら別のことを思い巡らせました。ストーリーは二の次のような印象です。
    よくよく考えるとかなりショッキングな内容なのに、そういう感じが全くしないのが川上さんのすごいところなんだと思います。それから、装丁画は駒井哲郎さんの銅版画です。駒井さんを好きな私としては、駒井さんの作品が伝える空気感を期待したのですが、装画から受けるイメージと小説のイメージはかなり違いました。

  • 50代の姉弟、都と陵。
    幼い頃からの二人の道なりを辿っていく物語。

    忘れることの出来ない「あの夏の夜」から30年。
    家族というよりもっと近い、互いが「もう一人の自分」のような存在の二人。
    それは好きとか恋とか簡単に言い表すことの出来ない感情。
    胸が締め付けられる想い。
    水のように形がはっきり定まらず、ふわりふわり静かに流されていく。
    互いに距離を持とうと離れた時期もあったけれど、やはり離れられない二人は家族とか恋人等の枠に囚われない生き方を選ぶ。
    例え他人に咎められようとも、隣で生きていきたい、ただその想いのみ。
    とても穏やかで、けれどとても情熱的で狂おしい物語だった。

  • 姉と弟。そしてふたりの母親。

    母と娘の関係。
    死の「呼び声」

    時間軸があっちこっち動くのに、はちゃめちゃにならない。
    むしろそのせいで歪んだ家族関係が徐々に見えてくる。

  • あわない

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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