- Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163902319
感想・レビュー・書評
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音楽家として、読むととても面白いです。
ただ、普通の、音楽を専門にしてない方には説明が足りないかも?
ベルリンの壁崩壊直前の東西ドイツやハンガリーの切羽詰まった感じに巻き込まれていく音大生たち。
そもそも、東ドイツでのクラシック音楽の立ち位置など、とても興味深く読みました。
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話が進むにつれて、ぐいぐいと引き込まれ、最後は展開に目が離せなかった。
ベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツに音楽留学をした日本人男性 眞山柊二。
当時の東ドイツは、「二つの人間関係しかない。仲間か、そうでないか。」それは、すなわち「密告しないか、するか」ということ。
そんな監視しあう町で、柊二はその二つの人間関係の渦中に巻き込まれて行く。
密告する側には密告する側の”正義”がある。
でも、密告される側からすれば、それは正義では全くない。
「底辺に落とされてもなお、安全な家畜であることよりも、自由な人間であることを選んだのです。自由とは必ずしも美しいものではありませんし、時に害悪ともなる代物です。ですが、知っておいていただきたいのです。音楽は自由な魂からしかうまれないということ。家畜となることを選んだ途端、その人間がつくる音楽は、ただの雑音になるのです。」(p250)とのヴェンツェルの言葉は辛辣だが、その通りなのかなと思う。
「どう生きたいか」それは、一人一人違う。その生きたい姿に向かって、生きていくことが大切なのだと思う。
後半の、
「どちらが正しく、どちらが卑劣かということではない。それでもやはり、選択をつきつけられた時、誰もがもがき苦しみ、そしてもう一方の道を選んだ者には複雑な思いを抱く。」(P320)
との言葉が、この本の登場人物の心情を表しているのだと思う。 -
#読了。2015年大藪春彦賞受賞作品。初読み作家。
1989年、日本では昭和から平成へと移る際に、眞山柊史はピアノ留学のため東ドイツに渡る。東欧自由化へのうねりの中で、自らの音楽、国に縛られた人間関係に悩みながらも成長していく姿を描く。
時代が変化する圧倒的な人間の力とともに、音楽の繊細さと力強さが圧倒的な強さで伝わってきた。暗い国・街の中で奏でられる音楽との協調や対比も素晴らしかった。クラシックに造詣が深ければなおよかったのだろうが、面白かった。 -
『革命前夜』で第18回大藪春彦賞受賞、第37回吉川英治文学新人賞候補。
冷戦下の東ドイツを舞台に、一人の音楽家の成長を描く。
厚みのあるストーリーでした、教会や街並みをネットで観たり、曲をユーチューブで聴きながら読みました。
ドイツの街並み、クラシック音楽、歴史がクロスして
素晴らしかった。 -
読み応えあった〜
ベルリンの壁崩壊前の東ドイツ、若き音楽家たちが時代に翻弄されながら革命の渦に飲み込まれてゆく悲しい青春の物語…もとい歴史エンタメ。
序盤はバッハを始めクラッシックネタが多くてなかなか入り込めなかったが、中盤から面白くなります急に。共産主義国で抑圧されてきた民衆の不満が、極々小さなものが徐々に大きくなり終盤で音楽を通じて大きく弾けていく様子にゾクゾクした。フィクションだけど東西ドイツの歴史を知るという意味でも面白いし、ちょっとクラッシック聴いてみようかな?という気になった。
北朝鮮留学生の李のセリフが的を得ていて考えさせられる。 -
ベルリンの壁が崩壊したのは1989年今から32年前という事になります。
僕がちょうど15歳の頃でとてつもなく凄い事が起こっているという感覚はあれど、世界の状況が全然わかっていない状況だったので、TVから伝わってくる熱気等は感じていなかったと思います。
そんなベルリンの壁崩壊前夜の東ドイツに音楽留学したピアニストの青年の目から見た、共産主義の崩壊とそこに住まう人々の絶望と希望。妬みや嫉み。友情と裏切り等色々な物がどろどろと渦巻く中、希望や夢が切り花のように飾られた美しさをちりばめられています。
恋といっても、そこにはこの世界から脱出できるかもしれないという打算も含まれていて、ひりひりするような葛藤を誰もが抱えています。どんなに純粋に考えていたとしても、どこかで頭をもたげる東側社会から抜け出す手段としての結婚や恋愛・・・。
密告を奨励している世界では、どんなに信頼関係が有っても、人と人の関係を蝕んでいくものですね。
重厚で安易に衝撃的なものに頼らない、背骨のがっしりとした物語で読みごたえがありました。 -
17:東ドイツの、息詰まるような状況に翻弄される日本人留学生がですね、つらい。でもめっちゃ面白いです……。音大生なんですけどスランプ中でね、さて音楽がどう彼を救うのか、あるいは救わないのかみたいな話かと想像しつつ読みましたが、当たっている部分もあるし、読みが浅すぎる部分もありました。
空が晴れるような話ではないです。密告と裏切り、閉塞感の中で音楽を志した若者たちは、それぞれに弱さと才能の間でもがいていて、政治よりも改革よりも音楽を信じていたんだなと。最後のページまで神経が張りつめてるし、提示されたものがあまりに無垢であることに鳥肌。すごい。
ヴェンツェルは天才で、しかもミューズなんですよきっと。でもあまりに近いところにいるから、その才能を目の当たりにした側も深手を負う、みたいな。彼ひとりだけ立ってる場所が違う。KZのユージーンからここまで来たのかって思うと……ほんと……すごい……これが読める世の中ありがとう……。3月に文庫化とのこと、買っちゃうだろうなあ。 -
優れた音楽小説は、読んでいると奏でる指が見え、その音がはっきりと聞こえてくる。だからこれは、紛れもなく”音楽小説”である。むしろミステリ風味はもっと薄くてよかったかのじゃないかと思う。
ラストは素直に鳥肌が立つ。 -
東西に分断されていた時代の東ドイツに、ピアノ留学をした男子学生が主人公。共産主義国での特殊な暮らしをとおして、音楽的にも人間的にも成長していく。
『また、桜の国で』に次いで手に取った本作も、少し前の欧州を舞台に重みのあるテーマを扱った一冊だった。
例えばオリンピックで東ドイツの選手は強いなどという具合に、東西ドイツの事情には曖昧な記憶しかなく、テレビでは見ていたものの国を分断するベルリンの壁についての知識もいい加減だったことに気づいた。
留学先に東ドイツを選んだ理由は弱いが、その国の当事者ではなく無知な日本人を主人公にしたことで、共産圏の様子を内外から客観視できたのが効を奏している。
12月の忙しさを口実に、本は読んでもレビューは後回し。結局年が明けてから、遡って何冊分もまとめて書く始末。いい作品ほど記憶の鮮明なうちに書かないとね…。 -
一気に読破した。時間のあるときに読むのがおすすめ。
筆者の筆に乗せられて、作品世界を「駆け抜けた」印象が強い。
時代が、歴史が、など苦手意識を持っててもするする読めます。というより否応なしに頭の中に入り込んでくる感じ。
読んでよかった一冊。