愛の顚末 純愛とスキャンダルの文学史

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163903606

作品紹介・あらすじ

悲恋、秘められた恋、ストーカー的熱情など、文学者たちの知られざる愛のかたちを追った珠玉のノンフィクション。●小林多喜二――沈黙を貫いて亡くなった小林多喜二の恋人、田口タキ。多喜二に深く愛されながらも、自分は彼にふさわしくないと身を引き、それゆえ伝説的な存在になった。●近松秋江――女性に対する尋常でない恋着を描いて明治・大正の文学史に特異な足跡を残した近松秋江。いまでいうストーカーのごとき執着と妄執は、「非常識」「破廉恥」と評された。●三浦綾子――旭川の小学校教師であった三浦綾子は、敗戦による価値観の転倒に打ちのめされ退職、自死を図る。光を与えたのはクリスチャンである一人の青年だったが、彼は結核で逝き――。●中島敦――母の愛、家庭のぬくもりを知らずに育った中島敦が選んだ女性は、ふくよかで母性的な人だった。だが彼女には親同士が決めた婚約者がいた。そこから中島の大奮闘が始まる。●原民喜――最愛の妻を失ったときから、原民喜はその半身を死の側に置いていた。だが広島で被爆しその惨状を目の当たりにしたことで、彼は自らの死を延期したのだった。 他に梶井基次郎、中条ふみ子、吉野せい、宮柊二など。

感想・レビュー・書評

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  • 副題〈純愛とスキャンダルの文学史〉から、もっと軽い読み物を予想していたら、最初の「小林多喜二」ですっかりやられた。

    小林多喜二といえば「蟹工船」で「プロレタリア文学」で、虐殺されて、というお勉強的知識しかなかったのだけど、この短い章で、初めて一人の人間としての姿にふれた気がした。酌婦(つまり売春婦)だったタキという女性を愛し、貧しい生活の中でお金を工面し身請けする。その後の生活には紆余曲折があり、多喜二の短い生涯でともに暮らした期間はさほどないとはいえ、確かに「永遠の人」であっただろう。タキさんは2009年に101歳で亡くなったが、多喜二について語ることは一切なかったそうだ。その沈黙が重い。

    多喜二の母セキさんがまた、忘れがたく心に残った。セキさんは、夫に死なれ苦しい生活をしながら、多喜二が賞与全額と借りた金でタキを身請けすることに反対せず、それどころか家に引き取ることをすすめ、タキがやってきた日は赤飯を炊いて祝ったという。小学校にも通わせてもらえなかったというセキさんの、この優しさに、心を深く打たれた。

    多喜二は、音楽が好きな弟のために、最初の給料でバイオリンを買ってやったそうだ。繰り返すけれど、貧しい厳しい暮らしのなかで、である。こういう人たちがいるのだ。貧しさに、心の温かさや美しいものを愛する気持ちを奪われることのない人たちが、確かにいるのだ。それは「希望」としか言いようのない思いを呼び起こす。多喜二の弟は、後にプロのバイオリニストになったそうだ。

    全部で十三人の文学者が取り上げられているのだが、そうだったのかと初めて知ることも多く、どっぷり浸って読んだ。近代文学に興味のある人はもちろん、そうでない人も興味深く読める一冊だと思う。

  • 梯久美子さんの「この父ありて」で、作者の「目」に感服してので、他の本も読んでみた。
    後半になるにつれて、作品を読んだことのない人が次々と登場するので、記憶に残りにくいのがとても残念。(自分の浅学のせいなのだが)
    こんな文学者がいたのだ、という驚きと発掘してくれた作者にやはり感服。
    一番印象に残ったのは、寺田寅彦の3番目の妻「志ん」だった。この時代にこの奔放な生き方。この人はかなり深いところを生きたのではないかと思わせる。寅彦が負けているところが微笑ましい。こんなふうに、世に出た夫の陰で豊かで才能ある妻たちが確実に生きてきたのだなあと、その存在にしみじみする。
    最後に登場する吉野せいは、夫なき後、76歳にして、その才能を世に知らしめた、「間に合った」女性。この人を最後に登場させるなんて、梯久美子さん、ホントにいいです。

  • 大好きな梯さんの本。
    今回は愛をテーマにした文学史。

    最初の小林多喜二さんからもう心をつかまれる。
    多喜二さんもお母さんも、本当に優しくていい人だったんだなあ。
    あんな形で殺されなきゃいけなかったなんて、ホントに残念。

    三浦綾子さんの「氷点」は、学生時代に夢中になって読み、友達と卒業旅行で冬の北海道に行った時も、「旭川は外せないよね!」と外国樹種見本林にわざわざ行ったほど。
    タクシーの運転手さんに「なんであんなとこ行くの?」と不思議がられたなあ。
    記念文学館は、その当時はまだなかったなあ……。

    原民喜さんはお名前は知っていたけど、どんなものを書いた人なのかとか全然知りませんでした。
    これを読んで、シャイというか神経過敏な性格も含めて興味が出てきました。

  • 文学
    ノンフィクション

  • 1961年生まれ、梯久美子さんの「愛の顛末(純愛とスキャンダルの文学史)」、2015.11発行です。「小説を書くというのは、日本橋のまん中で、素っ裸で仰向けに寝るようなものだ」とは、太宰治の言葉だそうです。本書は、小林多喜二、三浦綾子、中島敦、梶井基次郎など12人の作家について、文字通り、いのちをかけた真剣ないきざまを綴ったものです。

  • 尊んでやまない三浦綾子氏のことも書かれていると知り、新聞の書評を切り取ってあった。
    調べたら市立図書館にあり、すぐに借りに行きました。こんな本があるなんて。
    三浦綾子氏のことは、知っていたことを読み直して改めて素晴らしいご夫婦であったことを思いました。
    それよりも、最近読んだ蟹工船の小林多喜二氏のことがびっくりしました。
    背景を知り、作品を知ると、より深まります。
    まだ読んだことのない作家の方もいますので、これから手に取ってみようと思いました。

  • こういう種類の本を文学少女?時代よく読んだものだと懐かしく思う。

    近松秋江の私小説、読みたくなった。

    吉野せいの夫混沌の「無謀が真実」という言葉が、今の私に響いた。

  • 12人の作家の恋愛や夫婦としての愛のあり方,三者三様,12者12様で興味深かった.宮柊二の戦場からの手紙には感動した.

  • 三浦しをん氏の朝日新聞での書評を読んで購入したく思っているもの。

    父親が近松秋江や正宗白鳥が好きで、家には多くの全集等があった事も懐かしく思う。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1961(昭和36)年、熊本市生まれ。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。2005年のデビュー作『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。同書は米、英、仏、伊など世界8か国で翻訳出版されている。著書に『昭和二十年夏、僕は兵士だった』、『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』(読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、講談社ノンフィクション賞受賞)、『原民喜 死と愛と孤独の肖像』、『この父ありて 娘たちの歳月』などがある。

「2023年 『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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