美しい距離

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (165ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163904818

感想・レビュー・書評

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  • 大事な人を看取ったときの小さなことまでも思い出してしまったぐらい、繊細な心の揺れとか動きが伝わった。

  • 別サイトでおすすめしていただいた一冊。
    短いページ数に淡々と、だけど深甚な文章で綴られる夫婦の最期の時間。「未来があまりないことは知っている。未来が消える瞬間が来ることも知っている」けど「希望を失っていない」ことを、お医者さまをはじめ周りの人に伝えるのが難しいことが強く心に残った。本で読むのでなく現実で聞いたら、私もきちんと理解できないかもしれない。
    読後、タイトルにしみじみ感じ入った。
    それぞれの関係・想いにとっての、それぞれの美しい距離があるのだと。そしてそれは遺されたものにとって、かわらないものであり、日々、かわっていくものなのだと。

  • 末期がんの40代の妻を看病する(そして看取る)男性の話。
    とてもリアルで、ドキュメンタリーを読んでいるようだった。「死の瞬間」もいたって静かに描かれていた。
    心理が丁寧に丁寧に描かれていた。

    血の繋がった親や子よりも、配偶者のほうが関係は近いらしい。親のほうが一緒に過ごした期間が長いのに、と男性は思う。
    私だったら、そんな時に一番そばにいてほしいのは、配偶者かもしれないなと思う。

    配偶者って不思議な関係だ。血も繋がっていないのに「家族」になる。しかも「一番近い」家族に。
    毎日一緒にいる近さでも、もう2度と会えないくらいの遠さでも、濃くても薄くても、心地いい距離は人それぞれだ。関係さえあればいい。
    これを「美しい距離」と呼ぶのかなと思う。

    がんにはマイナスなイメージが多い。
    けれど、ほかの病気にはない「死ぬための準備期間のある」病気という解釈には、確かに明るいイメージが持てた。

    巻末の著者紹介に「目標は『誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい』」と書いてあって、いいな、と思った。

    クロワッサンのサンドイッチが食べたくなった。

  • ガンの妻に寄り添う夫目線の話だが死にゆく妻、ではなく「今日生きている妻」に淡々と会いに行く中で、少し傷ついたり誰かに腹を立てたりすることが丁寧に描かれていて引き込まれた。

    夫婦とか親子じゃない小さな関係もちゃんとその人を作ってるんだよなぁ。

  • 余命は一ヶ月。残された時間を過ごす中で夫が、医師や看護師、ケアマネ、妻の職場の人の態度。夫目線で感じた周りへの思いに深く共感。

    特に元介護員としては、患者や利用者に子供のように接する態度は本当に何度も何度も何度も何度も注意しても治らない人もいた。タメ口で話すなんて当たり前。利用者や患者を下に見ている人なんてゴロゴロいる。
    家族なら尚更余計に不信感になるのも当然。

    そういうのを私はもっと、世の中の人はクレームつけてもいいと思うし、虐待なんかはニュースでたまに見るが、あんなの氷山の一角にすぎないが、ケアマネの言動についてしっかり小説に書かれていて安心もした。


    誰もが死に向かっているし、いつか必ず皆死ぬ。
    その時に死=悲しみだけじゃない事、近くに感じるだけがいい事ではない事も知った。

    病気のヒストリーは亡くなった人自身の人生の一部であって全てじゃないんだ。亡くなった人の人生はそれだけじゃない。
    何度も読み返したくなる箇所があった。
    美しい距離とは、故人と個人にだけある距離。遠くても近くてもそれが光輝く距離。

  • 病気の妻と、それに寄り添う夫の物語。

    人の人生への寄り添い方の一面を学ばせてくれる作品と感じた。とても感動した。

    夫が主人公なのだが、その心理描写がとても細かい。悪く言えばクドく、良く言えば理論的な表現。
    お見舞いに来る人や、妻の母、医者、関わる人との関わり一つ一つに、妻を愛するが故の自身の心の機微を描いている。

    とても自立した考えの持ち主で、そして素直に負の感情を把握して堪える冷静さをもつ。正直、自分としてはとても共感し、尊敬できた。

    終盤を外で読んだので、泣くのを堪えるのが大変だった。

    ちょっとだけネタバレ












    がんは死への準備が出来る病気だ、、、そういう考え方もあるか。人に優しい考え方だ。
    死にたち会うことも大事に感じていたが、それまでどう接してきたか、の方が大事。うん、その通りだと思った。














  • 夫と妻…物理的に遠く離れてしまっても、二人の関係は程よい距離感を保っている。
    この心地好さは二人にしか分からない。

    四十代初めの夫婦は連れ添って15年。
    子供はいないけれど妻はこだわりのサンドウィッチの店を持つ等、豊かな生活を送っていた。

    そんな妻ががんを患う。
    しかも助かる見込みはないという。

    妻も夫も、妻の病を冷静に受け止めていることに一番驚いた。
    確かに受け止めるまで葛藤はあったと想像する。
    けれどこの二人の病室でのやり取りはとても自然。
    妻は「死ぬまで修行中」と仕事のことが頭から離れずにいる。
    そして夫…。
    こんなに妻に献身的な夫は見たことがない位、常に妻に寄り添う。妻が少しでも楽に過ごせるよう考え悩む夫の姿が印象に残る。
    病に犯されて痛くても苦しくても、その瞬間瞬間を生ききった妻が羨ましい。

    「来たよ」「来たか」と入院中片手を挙げ合って挨拶を交わした同志の二人。
    この二人の関係を理解できない人は多いかもしれない。
    でもこれが二人にしか出来ない生き方だと思う。
    物語は淡々と進む。けれど山崎さんの言いたいことが心にじわりじわり染み込んできた。

  • 初めての山崎ナオコーラ。去年のlifeで取り上げられていたこと興味を持った。現代小説はあまり追いかけていないが、とっても有意義な読書体験になった。

    妻が死病を患い、夫がゆっくりと看取っていく話。作品はシンプルに良かったんだけど、読みながら下重暁子の「家族という病」を思い出した。あれは一元的な家族という連帯的なイメージにうんざりして、家族の意味と個としての人間のあり方を問うたものだった。メッセージとしては同じではないと思うんだけど、イメージ的には近い感覚がある。

    戦後と高度経済成長が作り出した「日本」という大きな物語。そこでシンプルに作りだされた画一化された人生観が、個々の実存にぶつかり、ほどけて重力を帯びるような感覚。家族であったり、死であったり、概念としての抽象名詞が固有名詞化されていく。しかしその実存もあくまで個別的なので、それぞれが描く自己であったり他者の物語が棘のように刺激する。特に死という終局の実存だからこそ。

    この話のキーは「距離」。惑星間の距離の拡大から話は落ち込んで、人間の距離として進む。妻を愛する夫の敏感な心が、妻の死を目前により先鋭化される。思い残しと同時に、弱くなった妻を介護しながら満たされていく愛情。妻とそれぞれの距離を持つ人たちの物語の中での「死にゆく妻」に違和感を覚えながらも、それを受容しようと努める。作中、中ほどでの夫の言葉が印象的。「愛するということは相手を所有することではなく、相手のもつ社会を受け入れること」。

    そして妻は死んで、受け入れがたい葬式を終えて、一人になった。日に日に妻に対する実存感が薄れていきながら、仏壇に向かい合う心も言葉遣いも変わってしまい、距離は遠のいていく。しかしそれが悪いわけではない。愛したという実感が残っている。それも一つの物語である。

  • サンドウィッチ屋さんを営む妻と保険屋の夫の話。妻が末期の癌患者となり、お見舞いに通う夫はこんなにも妻に尽くしてくれるものなのか。羨ましくもあるが、反発心もある。

  • 「ライオンのおやつ」から打って変わって非常に現実的な、悲しくて苦しくて美しいお話。「未来を思い描く」以外の「希望」はあるのか。死と向き合うことのつらさと希望が描かれていた。

    「医療従事者の態度」について分析されていたのもよかった。そんな風に見えるんだ…と気付かされた。

    確かに「5年生存率10%」と言っても、「90%」と言っても、患者さんにとってはその人生が100%なわけで、こちらはそれを重々承知のうえで数字を口にしている。そういうことをちゃんと理解できる人とできない人がいるということもわかっている。わかっていてもどうにもできない。

    最後のページの著者の紹介文
    「目標は、『誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい』。」にしびれた。

著者プロフィール

1978年生まれ。「人のセックスを笑うな」で2004年にデビュー。著書に『カツラ美容室別室』(河出書房新社)、『論理と感性は相反しない』(講談社)、『長い終わりが始まる』(講談社)、『この世は二人組ではできあがらない』(新潮社)、『昼田とハッコウ』(講談社)などがある。

「2019年 『ベランダ園芸で考えたこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山崎ナオコーラの作品

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