- Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163913049
作品紹介・あらすじ
本書は毎日新聞のキャンペーン報道「優生社会を問う」をベースに、
担当した2人の記者が書き下ろしたものです。
旧優生保護法が改正されて四半世紀近くが過ぎましたが、
障害者への社会の理解は深まったのでしょうか?
障害者を取り巻く環境は改善されたのでしょうか?
新型出生前診断(NIPT)が拡大するのを利用した数多のクリニックの「検査ビジネス」は急成長中で、「不安ビジネス」として社会問題化しています。
障害者施設が建設される際、いまだに周辺住民の反対運動が、最初の大きな壁となります。
そして、実の親による障害児の社会的入院、治療拒否……。
障害者入所施設・津久井やまゆり園(相模原市)での大量殺人が世間を震撼させている今日、
いまだ弱者が切り捨てられるわが国の現状を検証します。
感想・レビュー・書評
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要なしの人間なんているわけはないと
神様はいつも僕に言うけど
本当のところは口をつぐんで
誰も言おうとしないけど…
読み終わってから、THE BOOMの「気球に乗って」の歌詞が何度も頭の中でリフレインしている。
障害者施設「津久井やまゆり園」の大量殺戮事件。
犯人は「障害者は不幸を作ることしかできない」と言った。
およそ常識からかけ離れたその言動に、ついつい犯人のことを狂人だから、と線をひきたくなる。
しかし、LGBTの人を「生産性がない」と公然と差別する政治家(国民の代表者だ!)まで出現してしまうとそんなことも言っていられなくなる。
「優生思想」は狂信的なヒトラー支持者みたいな特別な人だけでなく、誰もが持ち合わすものなのではないか?あなたもそうではないのか?
そんな問いをこの本は投げかけてくる。
出生前診断、ゲノム編集、受精卵診断、 NIMBY(Not In My Back Yardの略語で「施設の必要性は認めるが、自らの居住地域には建てないでくれ」と主張する住民エゴ)、障害児の社会的入院、「地域移行」理念以前の障害者入所施設の実態、そしてコロナ禍の「命の選別」など、取り扱う分野は幅広い。
弱者はただただ切り捨てればよいのか?
多様性を認めない社会は、結局は自らの、広く言えば人類全体の首を絞めることになるのではないか?
我々は今どんなに健康でも、老いれば身体の機能低下や病気の出現で障害を負うようになる。
つまりは、長生きすれば将来必ず弱者の立場になるのだ。その時、社会がどんな形であってほしいか。
そして、コロナ禍で不要不急の外出を制限され、ソーシャルディスタンスを求められる、強いストレスを感じている。でも、このしんどさを、実は障害者は常に感じているのだ。
だから、コロナ禍の今こそ、誰もが新たな差別の対象となるディストピアへ向かうのか、それとも、分かり合える社会を築くのか、その分岐点にある、という。
とても考えさせられた。
ちなみに、この本は日本経済新聞の書評で知った。
昨日(2/13)の日経に「コロナ禍で読書SNSが人気」という記事が載っていて、ブクログが紹介されていた。利用者が異例の伸びなのだと言う。
コロナ禍で読書人口が増えている、と言うことなのだろう。読書は人の内面を豊かにする。
豊かな内面の人間が集まれば豊かな社会が生まれる。
なんだか少しだけ明るい将来が垣間見えた気がして、勇気づけられた記事だった。 -
出生前診断には目先の利益、妊婦へ不安を煽る。思っていたより広まっているのだな。
特に興味深かったのは障害者を拒み施設反対運動をする地域住民の話。地価が下がるという根拠のない話から何をするか分からない危険因子を取り除く…など言い分は様々で説明会は聞く気がないから意味をなさないとかみんなで一致団結して工事を妨害するのが楽しいといった当事者の声など知ることができて良かった。
中には地道な努力で地域の反対者を味方につけられた例もあって希望もあった。お互い許し合うことができるなんてすごいじゃないか…
何かを排除したい気持ちにフォーカスを当てた本を読みたくなった。 -
まず圧倒的な取材力と熱量を感じた。これだけの内容を2人だけでカバーしているのは単純にすごい。筆者たちは冒頭で、『「論」ではなく「事実」を地道に積み重ねることで、社会の通奏低音を明らかにするとともに、誰も幸せにすることのない優生社会化を問い直す糸口を探りたい』と志高く宣言する。容易なことではないはずだが、まさにジャーリストが担うべき仕事であり、見事にそれを達成している。
生命倫理の分野で「リベラル優生学」や「新優生学」という言葉が登場して久しい。筆者たちはそうした知見は踏まえながらも難解な専門用語で誤魔化さず、ビジネス化の現場や学会の利権争いに踏み込み、時には「善良な」市民にも問いをぶつけ、それがどういうメカニズムで進んでいるのかを冷静に綴っていく。
一つの章だけで新書一冊ほどの情報量が詰め込まれている。序盤はテンポ良く進み、ゴッドハンドや黒幕のカーテン屋などの描写も印象的。途中の章で読みにくくなったり、気分が重くなるのは否めないが、それだけ「事実」にこだわる執拗な取材であることや、著者たちが「われわれの問題」であると訴えたいことも伝わってくる。それぞれの章は違うテーマを扱っていて、独立しても読めるが、少しずつ相互に絡み合っていて、全体を通すと現代社会の歪みが立体的に浮かび上がってくる。圧巻は、ゲノム編集の発展と日本医学会による優生学の検証を対比させながら、物語に仕立てた4章。なぜ日本だけ障害者らへの強制不妊が21世紀目前まで続いていたのか、その反省や教訓は先端技術による遺伝子操作にどう生かされるのか。これらの問いに現代の生命科学の問題が集約されている。2020年のベスト3に入る労作であり、地味だがもっと読まれるべき良書であろう。 -
障害児と関わる仕事をしています。周りに健常児より、障害児の方が多い環境にいると、この世界での「多数派」としての価値観が、世間一般では「ごく少数派」としての価値観だということを忘れがちで、そこが乖離を生む要因の一つになっていると感じます。
「ごく少数派」の私たちも、「多数派」がどうかんがえているのか、目を背けず、向き合っていくことができれば少しはさまざま前進するのでしょうか。 -
重い内容だけれども目をそらしてはいけない問題であるし、真面目に議論しなければならないことである、その議論のもとというか共通理解として持っておく情報を提供してくれる。良質のルポルタージュである。ときに熱くなりがちな筆致が見られるけれど全体的にクールで冷静な語り口が貫かれている。強制不妊から続く問いだけれども、この本とペアで読んで欲しいのは森岡正博氏の「生まれてこないほうがよかったのか?」。どちらが先でもいいのでぜひ多くの人に読んでもらいたい。手始めに学生ゼミで輪読させようと思うのだった。
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ものすごいよかった(語彙力)
出生前診断など、現状に衝撃を受けた。
ずっとずっと考えていきたいテーマ。
くりかえし読んで、落とし込みたい内容。 -
オランダには、ダウン症の子供がいない。
NIPT新型出生前診断が公費で受けられる。
日本では、自費だし、受ける要件は、日本産婦人学会により決められていたが、今は厚労省が、音頭を取りガイドラインを策定中。
NIPTを受け、陽性となった場合、障害者を産む可能性がある為、中絶する。
先天的な障害者を無くす、旧優生保護法の思想に近いものがある。
医療費、社会保障費の軽減にもなりうる。
障害者差別解消法では、その障害児を産みたくないから中絶する、と言う概念でもう差別しているのだが。
権利意識として、知る権利、障害者を持たない権利を口にされると弱いのだが、レイシストだね。
しかしね、障害は、先天的じゃなく後天的な物もあるのだよ。
また、産婦人科医が経験するのは、もし治療したら生きられるが、医療的ケアは要らないが障害児で生まれて来た赤児の治療を拒否、挿管して呼吸器をつけ、大学病院の医師はなんとかして治療を受けさせたいが、延命を拒否。
高齢者の場合、今まで自分の意思を表明することができるが、生まれたばかりの赤児は意思を表明することができない、親が判断することになる。
拒否するのは、ほとんどが父親のようだが、なんということだ。
産婦人科医や小児科医は、児童相談所や病院内の倫理委員会に申し立てをするが、時間が欲しい。
高齢者のACPと赤児のACP。
まったく違う。
障害がある我が子を受け入れられないから、延命しないでくれ、=見殺しにしてくれ。
彼らを理解する医療者がいるが、
私は何無責任な事言っているのだろう?と思う。
なら、もう二度と子供を産まない、
子供ができるような行為はすべきではない。
他人に殺人を強要し、職業人としての倫理を侵させる行為を平然と言ってのける、
それが、その親の障害では?
他人を慮れない。
レイシスト
障害がある子を育てられる社会保障制度がなっていないと、言うが、前提にあるのは、レイシストである親の無責任さ、無自覚さ、
存在の耐えられない軽さ、
障害があっても、我が子、自分が育てないと、
育てられないなら、最初から妊娠する行為をしなければ良いし、まさか、障害児を産むとは思わなかったのか?
しかし、もしかして後天的に障害児になったら、
社会のせい、そうは思わない、あくまで育てにくさは
本来は、自分たちの中にある。 -
毎日新聞上で2019年4月から続けてキャンペーン報道「優生社会を問う」をもとに新たに書き下ろされたもの。
全体に冗長だが、相模原の障害者殺傷事件以来の国内の状況はよく追えている。元が新聞の報道記事だから仕方ないか。
社会から見えなくしていることにより、知らないが故の不安と、見えない場所の管理不全。
コロナのような影響がないと社会は変わらないし、倫理基準は批判を受けつつ改善していくしかないが、可視化された問題は解決する努力はして欲しい。
https://mainichi.jp/ch190843744i/%E5%84%AA%E7%94%9F%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%82%92%E5%95%8F%E3%81%86 -
「なかったことにしたい」「遠くで暮らして欲しい」「生まれないで欲しい」それが本音だとしたらなんと悲しいこと。傍観者として眺めているだけならなんとでも言える。「現実は過酷だ」当事者にそういわれたら、返す言葉はない。「ほっと一息つく暇もない」それでも幸せは思わぬ瞬間に感じるもの。自分も家族も健常で、一見平穏な暮らしにみえても、生きていくのは楽ではない。ハンデがある人もそうでない人も、身近にいて、助け合いながら暮らして行く。そんな古くて新しい世の中であったらいい。いろんな問題を読み進めながらそう思った。
「コロナ禍で読書SNSが人気」の記事遅ればせながら読みました。ありがとうございます。コロナは勘弁してほしいですが、...
「コロナ禍で読書SNSが人気」の記事遅ればせながら読みました。ありがとうございます。コロナは勘弁してほしいですが、読書してアウトプットする人が増えるのはよいニュースですね。
コメントありがとうございます。
コロナははやく収まってほしい。でも、外で遊べない分、お金も時間も本に費やすことがで...
コメントありがとうございます。
コロナははやく収まってほしい。でも、外で遊べない分、お金も時間も本に費やすことができるのは、悪いことではないなぁと思ってます。
読書は心を豊かにしてくれる経験。アウトプットする人が増えて、本から得たものを共有できる機会が増えるのもいいこと。
コロナが過ぎても定着してくれるとなお良い、ですよね。