本心

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (449ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163913735

感想・レビュー・書評

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  • 「ある男」がとても面白かったので手に取った、平野啓一郎氏の小説。部隊は2040年ころの近未来である。
    最初のところは設定などとっつきにくく、読むのをやめようかと思ったが、最後まで読んで本当に良かった。
    「自由死」(自分で望む安楽死に近いニュアンス)を希望していた主人公の母は、事故で死んでしまう。息子はどうして自由死を望んだのか理解したくて、母のヴァーチャルフィギュアを作り、生前の母に似せていく。母一人子一人で育った主人公は母の死後失意の日々を送るが、母の同僚だった女性や、母が読んでいた小説の作家や、仕事を通じて知り合ったアバターデザイナーと出会い、自分が生まれてきた意味、母の人生について考える。
    社会の不公平さなど政治的なテーマも暗示されるが、ストーリー全体に一貫するのは「生きるとはどういうことか」という哲学的な主題である。ヴァーチャルフィギュアを作ったものの、それは母ではありえず、自分の父が誰なのかを母から聞くことも、母の本心を知ることも結局できない。
    平野氏の心理描写はとても繊細で微妙で、すごくよくわかるのだが、よくそれをこんな風に表現できるなと感心しながら読んだ。とても興味深かった。彼の著作を全部読みたいと思った。

  • 「わたしも宇宙の一部だって、感じ取るの。わたしと宇宙との間には区別がなくて、宇宙そのものとして死後も存在し続けるって。」

    「最愛の人の他者性と向き合うあなたの人間としての誠実さを、僕は信じます」

    死ぬべきか、死なないべきか
    死の一瞬前はどういう自分でいたいか
    こういうことを考えるってことが生きることなんじゃないかと思った。

    「最愛の人の死にどう向き合うか」だけではなく「自分はどう生きたいか」ということについても考えさせられた作品だった。

    そして、みんなにそれを考える権利があるということについてもっと身近なものとして考えなければいけないと思った。

  • 好みかどうかとか読みやすさは置いといて、ここ数年の平野啓一郎の著者は社会性のあるテーマそれも人間としての本質的な部分に関わるものが多くて、“得られるもの”が多い印象。

  • 二回目読了 2022.11.18

    まだよく理解できない言葉があるのでしばらくしたら再読したい。

  • もはや哲学!
    面白かったけど、深すぎてなんかすごかった。

    今から30年後くらいの日本が舞台で、人々は当たり前のようにVRを使って生活している。
    なくなった母のVF(ヴァーチャルフィギュア)を制作し、「自由死」を願った母の本心をなんとか聞こうとする主人公。

    結果的にそれはうまくいかないのだが(そりゃあ、AIだからうまくいきっこない)母以外の「生きてる」いろんな人との出会い・対話・経験を通して主人公がいろいろ気づき、成長していき、最終的にはハッピーエンド。

    ざっくりあらすじとしてはそうなんだけど、生きること死ぬことについて、読みながらいろいろ考えこんじゃう1冊でした。

  • テーマがいく層にも重なっており、読者は層ごとに別々の問題について考えることが可能となっている。仮に以下の通りにテーマが分類できたとする。
    ・テクノロジは未来をどのように変えるのか
    ・所得の格差を各自がどのように捉えるか
    ・自由死は積極的に認められるべきか
    ・親を知らない子がどのような影響を受けるか
    ・本心の所在はどこなのか

    他にも性的暴力に関して過去から現在にかけて何が変わって、変わらなかったのかや、物語の背後にちらつく政府の福祉に関する問題など様々であるが主要なテーマとしてとりあえず上記は挙げられるだろう。
    そのうえで、感想という枠組みと、体力的な問題で全部は語り切れないので3つ目の自由死についてここでは考えてみることとする。

    『本心』では「もう十分」と呟いて死んだ主人公の母がなぜ死を選択したのか、死は積極的な自由意志によって成し遂げることが可能なものなのか、主人公の葛藤を通して物語られている。ただ、自由死と呼ばれるその行為が世界全体でどのように捉えられているのか、選択する人それぞれにどのような経緯があるのかについては描かれていない。

    そもそも自由死というのは、様々な言い方がなされるもので、安楽死、尊厳死、そして意図に反して否定的な言い方として自死が存在する。海外とりわけキリスト教圏では聖書で自殺は明確に否定されているため自死を匂わせる言葉の定義は避けられている。そのため、表現される言葉としてはdeath of dignityとの表現が多用される。列挙したもののうち、尊厳死に該当するものである。私は自死ではない意味あいで自ら死を選択する人々とそれを取り巻く制度との関係を宮下洋一氏の著書で知った。日本ではまだ認めれていない安楽死がスイスやオランダでは明確な制約のもと認められている。日本で認められていないのは法改正に対する消極的姿勢が主な理由であるが、家族的な紐帯が生死の選択よりも優位に立つという見方があると著者は述べている。現実において、海外でも安楽死をよしとしない人々もいるわけで、その意見に対して死を処方する医師たちは痛みを取り除いてあげている、と反論する。事実、現実に安楽死を遂げる人々は薬や手術では取り除けない神経痛や不治の病に冒された人でおる場合もあるのだ。
    何が言いたいのかというと、『本心』では上記の実情を一度クリーンアップして自ら死を選択することの意義を問い詰めている。具体例が不足していると批判はできようが、この本ではむしろ抽象度を高めることが狙いだったのだろう。ただ一読者としては自由死つまり安楽死とはどういうもので、どんな人々が選択するのかを具体的に知っておかなくては机上の空論にならざるを得ないと考える。この本を手に取り、自由死に関心を持った人はぜひノンフィクションの著書も併せて読むのが妥当であると思う。

    最後に、このままでは自由死に対して一言言いたい人間のまま終えてしまうためこの本に対する感想を述べることとする。というか、本当はこっちについて語りたかったのにも関わらず、冒頭に並べたテーマが悪さをして頭の中に色んな想念が駆け巡ってこうなってしまったのである。今回は一つのテーマを少しだけなぞったばかりであり、他のテーマでもこの枠内では収まらない長さを必要としたであろう。この本はそのように問題を提起し、読者に考えさせるためにあったのだろうという気もする。エピローグの在り方のように、この本で何かが決定づけられたり、理解されたりしないのだ。あくまでこの本は始まりであり、読者はそれをもとに考え始めなければならないのだと感じた。 

  • まだ最初の50ページも読み終わってないのに
    刺さりまくってるので
    記録しつつ読むことに。



    プロローグからもう一気に引き込まれる。
    え…



    愛する人の死に向かい合えるか

    愛する人の最後の希望が「自由死」
    つまり死を選ぶことであったら
    その希望を叶えてあげることが
    幸せなのか

    死の瞬間に愛する家族に見送られたい
    いつどこでかもわからず
    一人ぼっちかもしれない死の瞬間より
    それを選びたい
    という気持ち…

    自死の是非…

    自分が長生きすることと
    早めに逝って子どものためになることを
    自分の意志で選ぶ…



    その人をVRで蘇らせることの是非
    (でも自分もその時が来て可能なら…
    だって300万くらいでできるなら)

    【以降 読後】

    リアルアバターという職業とか
    イフィーの存在
    三好さんの存在など

    とにかく考えなきゃいけないところがたくさんあって
    ぱーちくりんの脳みそには
    許容量オーバーなのだけど

    この
    これってどうなんだろう…
    って思う気持ちをなくさないためにも
    読書体験は必須だと思う


    読み始めと後半では
    後半のほうが少し気分が重くなっていく

    母が亡くなって
    AIの偽の母と暮らすという
    残酷でありながら甘やかな前半は
    もしかすると
    過去を振り返って
    その甘美さに浸りがちな私みたいな人間には
    希望にもなるのかもしれない

    対して後半は
    イフィーや三好との関係が
    自分の理性や信条を優先させると
    そこに自己犠牲というか
    欲望のままに進めることはできなくなるわけで
    単純な簡単な感情にはなれなくなってしまう
    このあたりがとても文学的な感じがした

  • 面白かった。この作者が描く近未来はリアリティがすごい。格差社会、異常気象、メタバース、バーチャルフィギュアなど、すぐに現実になりそうな感じがする。そういう世界で、どんな心の持ち方で日々の生活を過ごしていくのか? やっぱり心を通わせられる相手がいる事が重要だと思った。作中に時々、本心という言葉が使われており、普段何気なく使っている言葉だが、出てくるたびに考えさせられた。

  • 最愛の人の他者性

    分かった気になることが、その人の口を塞ぐことになる

    優しくあるべき



    物語の最後でぐぐぐっと引き込まれた。やっぱり平野さんの哲学は好きだなと実感。
    社会がこんなんだと、テロや暴力に頼りがちだけど、実際にそんな事件が今たくさんあるけれど、この主人公のように少しずつでも社会を変えていけるような人になりたい。
    この作品に勇気をもらった。

  • 貧富の格差はさらに広がり、意志で人生を終えることのできる「自由死」が認められている近未来(2040年代)の日本を舞台にした小説。

    主人公は母子家庭で育った、こっち(貧富の貧側)にいるアラサーの男性。ブラック企業が運営する会社でリアルアバターを職業としている。

    彼が死んだ母の記憶を使ったVRを持つところから物語が進みだす。ちょっと怪しい同僚、母の友人、アバター制作であっち(冨の側)にいる男、母のお気に入りの作家…貧しさによる絶望と母の喪失で絶望の淵にいた彼を取り囲む状況が少しずつ変わっていく。

    「SFの皮をかぶった、ナルシスト系純文学かぁ、ちょっと重いなぁ」と思って読み進めていたが、なんと後半は挫折からの復活と成長の小説に転じる。ロバートBパーカーの諸作にも似た「一度落ちた主人公の再生劇」で読み終わった後の余韻は、読書中に考えていたものとは違うスッキリ感。

    人とのつながりの良し悪し、孤独の良し悪し、世の中を良くするためのアクションの選び方…前半ウジウジ展開で張られた伏線の回収が、まさかこんなに深い教訓として後半に生きてくるとは!文学ってこんなこともできるんやなぁ。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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