月夜の羊 紅雲町珈琲屋こよみ

著者 :
  • 文藝春秋
3.46
  • (5)
  • (33)
  • (29)
  • (5)
  • (2)
本棚登録 : 253
感想 : 34
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163914435

作品紹介・あらすじ

コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」を営む杉浦草は、秋のある日、道端で「たすけて」と書かれたメモを拾う。
折しも紅雲町では女子中学生が行方不明中。メモと関連づけ、誘拐・監禁を視野に警察も動き出すが、直後に少女は家出とわかる。そして、無関係なメモの件は放置される。
腑に落ちないお草は周辺をあたり、独居の老女が自宅で倒れているのを発見、救助する。ところが数日後、留守のはずの老女宅に人の気配を感じて――。
親の介護や「8050問題」に悩む人びとに、お草さんの甘いだけではなく厳しさも伴う言動は響くのか。
人気シリーズ第9弾!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ9作目ですね。
    お店物語、人情話、恋愛、成長物語そして日常の謎の本格探偵推理小説と読みごたえのある作品でした。
    朝の散歩で「たすけて」と書いてあるふきだしメモを拾った草はいつも通り気になる手応えを感じる。おりしも女子中学生の失踪事件が紅雲町で話題になる。巻き込まれた事件を見逃しに出来ないのが草の悪い癖、物語は動き始める。
    吉永さんのファンに成ってから随分になると思ったら9作目になるのですね。デビューから読み続けていますが、ますます筆が冴えますね。
    複雑な人間模様と人間心理を良く書きこなされていると思いました。最後は心温まる展開に「お草さん」の今後の活躍を期待してやみません。

  • 2021年10月文藝春秋刊。書き下ろし。シリーズ9作目。引きこもりと家族の問題を軸に草さんのストーキングのようなお節介が始まり、いちおうのハッピーエンドな結末までの息をつかせぬ展開は見事。中学生の聖ちゃんが個性的で格好いい。

  • 【収録作品】昼花火/桜が一輪/ストーブと水彩絵の具/コツン、コツン/月夜の羊
     草が拾った「たすけて」と書かれたメモ。折しも女子中学生が行方不明になったことを知り、不安になるが、それは違った。では、誰が書いたのかと気になった草は、メモを拾った辺りの様子を調べ始める。
     高齢者問題、中年の引きこもり、右傾化する教育現場、などなど現代の問題が扱われている。女子中学生は大人びていておかれている環境の厳しさを見せる。メインの問題は、物語だから解決するけれど、ともやもや。遠隔地での老親の介護問題は身につまされる。

  • シリーズ9
    ここまでくると、家族同然
    久実ちゃんと一ノ瀬さんの恋の行方も見届けないと

    今回のテーマは、「前へ一歩踏み出す」ではなかろうか

    日課の散歩で拾った『たすけて』のメモを無視できず調べていくうちに、9年間引きこもっている男性からのSOSと分かる

    近所の住人に疎まれながらも、郵便物の回収、掃除・・・と働きかけるお草さん
    医師の往診にまでこぎつけ、これで私が死んでも一応大丈夫と胸を撫で下ろす
    凄すぎる!

    「どこにいるのか、わからない」
    「抜け出したら、どこにいたのかわかるわよ」
    暗がりにとどまっていては呑み込まれる。きしむ心身をあえて動かし、別の場所へ、別の時間へと踏み出さなくては
    「とにかく前へ歩くの。歩けると信じてね」
    語りかけるお草さん

    久実ちゃんは、恋人の一ノ瀬さんをより自由にするために、小蔵屋の休日を利用して小学生のスキー教室のコーチに

    久実ちゃんのお母さんも何とか子離れしようと頑張る

    そして、毎回楽しみにしている小蔵屋のディスプレイ
    今回は、写真展『苦さを知る、十四歳』
    紅葉中学校の昔を知る貴重な写真でありながら、校長の独断で捨てられてしまった写真2枚、エチオピアやコロンビアの少年少女の絵葉書、草の厳しかった十代の頃のパネルを展示し、その下にこの秋限定スペシャルブレンドを

    コーヒーがつなぐ十代の様々な姿
    苦さの中においしさを見つける
    苦い経験の中で希望を見出す
    不安定だけれど、伸び盛り、生命力に溢れた季節
    お草さんのセンスとアイデアに脱帽!

    みんなが一歩踏み出そうとしている爽やかな読後感だった

  • このシリーズを読むといつもヒヤッとした空気を感じる。

  • 紅雲町珈琲屋シリーズ、第9弾。
    和食器とコーヒー豆の店、小蔵屋(こくらや)が舞台。
    今回も、お草さんの器選びやしつらい、盛り付けのセンスが光る。
    「秋のスペシャルブレンド」はまろやか過ぎて売り上げが伸び悩んだけれど。

    凶悪事件は起こらなくても、生きているだけで問題が山積で、なぜかお草さんの元には次々と厄介ごとが飛び込んでくる。
    (そして自ら深入りする。深煎りか?珈琲屋だけに 笑)
    毎回、話題の出来事をうまく入れてくるが、今回は数が多い。
    それだけ、この国の日常が危ない。
    お草さんは、何度も戦争中のことを思い出していた。

    ちょっと問題を整理しないといけない。

    ・紅雲町の校長が次々と過剰な校則を押し付け、生徒を統制しようとしている。
    教育を「大日本帝国」の時代に戻そうとする団体に所属している。
    ・引きこもりの40代男性と年老いた母の、声に出せない悲鳴。
    たった一組の夫婦の肩にのしかかる二つの家の負担。
    ・大手会社の暗部。尻尾切りで辞めなくてはならなかった社員。
    ・いつまでも子離れできない、久実の母親も。
    ・「そんなに安くて、作っている人はちゃんとお給金をもらえるのかしら」という由紀乃の何気ない一言。

    素敵だったのは『苦さを知る十四歳』
    コーヒーの美味しさを知る頃、人生の苦さも知っていくのだった。

    若い人が心配でも、信じて手放すこと。
    間違った扱いに対しては声を上げること。

    なかなかに勇気のいることだけれど。

  • 紅雲町は日本社会の縮図のような町だ。今回の謎の中心にいる親子のありよう、中学校の生徒たち、校長...。自身の過去との葛藤を抱きながら現代社会に向かって物申すお草さん。これまでと同様スッキリとは終わらずもやもやとしたところが残るが、そこは読者に投げられたボールとして考えていくべきところなのだろう。百瀬家の人々それぞれの幸せを祈る。聖ちゃんはいいキャラだな。続けて登場して欲しい。中学校~写真~コーヒーがつながっていく展開が良かった。校長に対抗した町の人々あっぱれ。久実ちゃんは以前から感じていたけど発想や行動に子どもっぽさを感じる。もう少し肩の力を抜いたらどうだろう。一ノ瀬への気遣いがかえって逆効果になってる。
    この著者はこれほどはっきり社会への見方を綴る人であったのだな。この部分は溜飲が下がった。シリーズを追ってきてよかったと思った。
    さてこの作品でもう一つ気に入っているバクサン(ポンヌフアン)、今回は登場がなかったので次回に期待。

  • 紅雲町珈琲屋このみシリーズ。草のシリーズ。
    あらすじ
      9月下旬、草は散歩の途中「たすけて」と書かれたメモを見つける。店員の久美と恋人の一ノ瀬が同棲を始める。お店に来た学生の噂話で、女子中学生がいなくなったと知る。その子は珈琲屋の近所に住んでいるらしく、母親も店に見かけていないか訪ねてきた。離婚した父のもとへ行っていたらしく、あっさり戻って来、草と顔見知りになる。地区の中学校では新しい校長が生活指導に厳しく、生徒たちは靴下の長さを守るために、登校中に靴下をハサミで切っては捨てているらしい。
     草は「たすけて」のメモが気になり、捨てられていた住宅街に行くと、一軒の家で老女が倒れているのを発見する。 後で分かったことだが、この家には8年間引きこもりの中年息子も住んでいた。息子はかつて会社で責任をかぶって退職し、そのまま引きこもっていたらしい。 東京には娘も住んでいるが、なかなか手助けはできない。なんとなく成り行きで草は引きこもりの一家、それから女子中学生とも関わりになる。

    感想・・・相変わらずまどろっこしいストーリーだなぁと思う。お互いの気持ちを慮るふりをしながら、実は自分の我を押し通したい気持ちがにじみ出ていて、さっと読めたけれども 歯痒いところが多かった。 特にひきこもりの息子と一緒に暮らしていた母親は、被害者のようなふりをしながら、息子がいないとダメという共依存ような関係になっていたのではないかと思う。その共依存の関係を保つために、当の息子には厳しい対応ができず、文句を言いやすい娘の方に「離婚して帰って来い」などとめちゃくちゃなことを言っていたのではないか。そう考えると、小説のこととはいえ、あまりにも自分勝手で気味が悪かった。
     女子中学生聖の母親もシングルマザーとはいえ、どうしようもない男性と付き合っていって、そんな母親を嫌がりながらもどこにも行けず、家事をこなしている聖の方が強く思えたし、たくましく見えた。次回もしかしたら久美はスキーを教えに休暇を取るかもしれないので、また新しい展開があるかなあと思う。イライラしながらも多分次作も読むと思う。

  • 良かった。お草さんの生き方の導きには、いつも孤独を受け入れる寛容さが在りながらも、弱さや老いを素直に見せてくれる姿がある。力任せに強がるで無いしなやかさに私は励まされる。
    シリーズで愛読しているので、もうご近所の感覚。毎回刊行はお草さんに会いに行っている感覚。
    介護、引き篭もり、不正会社、教育の右翼化などてんこ盛りで、今回はそれ故か兎に角、文章が密だった。わずか半ページで中身が濃く表現されていた。一文一文が情景も温度も内容も心情も深く密で、濃い濃いコーヒーの様だ。疎かな箇所も一切無いので、サラッと読むには出来ず、深い読書時間になった。
    14歳がコーヒーの目覚めのくだりや、量販店の下着が定価格安を由紀乃さんがいうくだり、誰しも孤独でなり得た今を表現するくだり等、ハッとさせられる箇所が今回は多かった。
    問題事や悩み事に対する怒りと理解と客観視のバランスが今回は絶妙、シリーズの中でも円熟感があった様に感じた。

  • 何かあったとき関われる人たちがいるってこと大事。面倒なことも確かにあるけど関わらずにはいられないンだよな。タイミングよく離れることが鍵。が、なかなかできない!

全34件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1964年、埼玉県生まれ。群馬県立女子大学文学部美学美術史学科卒業。2004年、「紅雲町のお草」で第43回オール讀物推理小説新人賞を受賞。著書に「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ『誘う森』『蒼い翅』『キッズ・タクシー』がある。

「2018年 『Fの記憶 ―中谷君と私― 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉永南央の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×