アスベストス

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 86
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163914794

作品紹介・あらすじ

かつて建築資材などに広く使われていたアスベスト(石綿)。その細かい繊維を肺に吸い込むことで、長い潜伏期間を経て肺がんや中皮腫を発症することから、「静かな時限爆弾」とも呼ばれる。著者は若い頃、電気工事工として働く中、現場でアスベストを吸い込み、今なお後遺症を抱えている。その経験をノンフィクションとして、『石の肺―僕のアスベスト履歴書』に書いたが、本書はその小説版と言える。仙台、ロンドン、東京、尼崎とアスベストの被害に苦しむ人びとの運命を綴った連作小説集。行政の対応が後手に廻り、結果として弱い個人が犠牲となっていく構図は、コロナ禍にも通じるものがある。 

感想・レビュー・書評

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  • アスベストを題材にした四つの物語からなる短編集。『せき』、『らしゃかきぐさ』、『あまもり』、『うなぎや』の四篇のうち最後の『うなぎや』が読んでいて分かりやすかった。アスベストによる健康被害は、発病するまでの期間が長いため、本当に大変なことだと感じた。

  •  佐伯一麦という作家の作品と出会ったのは、新潮文庫の新刊「ア・ルース・ボーイ」でした。1994年の出版ですから、今から30年前です。「あっ、こんな作家がいるんだ!」と思いました。「ショート・サーキット」(福武文庫)、「雛の棲家」(福武書店)と読み継いでファンになりました。
     作品の底には、どの作品にもイガイガとした現実との接触感に対するいら立ちがながれていて、それは苦悩とか自己嫌悪とか言う、主観的な判断ではない直接的な痛みでした。勝手な言い草ですが、このイガイガ感に惹かれて読み続けてきました。
     作家の肉体を苦しめ続けるイガイガがこの作家の文学を支えているというのがぼくの思い込みです。
     その佐伯一麦がイガイガを直接作品化したのが本書でした。読み終えて感無量ですね。ここの作品のよしあし以前に、30年、書き続けてきた作家の今を思い浮かべました。
     「やあ、アスベスト君」
     作家の、そんな呼びかけが木霊している作品集でした。
     ブログにも、ウダウダと、案内しました。
        https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202205090000/
     

  • この切迫感と弱者への共感が佐伯一麦の真骨頂ですね。

  • 自身が被害者であることで、症状や痛みの表現など、大変痛々しく読みました。
    奇跡の鉱物に対する評価をやり過ごし、人間の都合を優先した結果のしっぺ返し。誰が命を守るのか。水俣や福島となんにも構図は変わらない。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000055867

  • アスベスト被害に遭った4人の連作短篇。
    ある日突然アスベストによって
    日常を奪われる様が淡々と描かれている…。
    アスベストって
    一時期ニュースでよく観たなぁ…ぐらいで
    アスベストの問題はもう終わったと思っていたけど
    終わってなかった……。
    実は恐ろしい物で「静かな時限爆弾」
    石綿の粉が肺に刺さり
    30年後になって発病するだなんて…
    電気工事とか、
    その手の職業の人が罹る病気だと思ってたけど
    そうでもなく知らないうちに罹る可能性もあるとは…
    企業の隠蔽に政府、
    お役人の対応…
    日本って!!って思わさるよ…(怒`・ω・´)ムキッ

    作者自身も被害者。

  • コロナもそうであるが、この種健康被害に対し適切に規制権限を発動しない国の責任は重い(平成26年の最高裁判決も参照)。本書は、これをテーマにした短編小説集である。日常生活の何の前触れもなく忍び入り、被害者の人生を奪う様は戦慄する。小説仕様だから伝わるのであり、また、著者の力量に負うところも大きいだろう。140頁の小さな本だが、内容は重い。
    著者の作品ははじめて読むが、本テーマを扱う『石の肺』というノンフィクションも著しておられるらしい。機会があれば読んでみたい。
    未だ現実に苦しんでおられる方々が存在しており、終わった問題ではないことを改めて自覚させられる。

  • アスベストによる健康被害を主題にした4篇からなる連作短篇集。佐伯さんの作品を読むのは初めてだが、ご自身も過去にアスベストを吸い込み後遺症を抱えているらしい。その経験を踏まえてなのか、私小説なのかはわからないが、どのような状況でアスベスト被害に遭ったのかがとてもリアルに描かれている。
    問題を先送りし後手に回った挙げ句、なんの救済もないまま放置された方々を思うと胸が痛む。コロナの後遺症に苦しんでいる方々には支援の手が届くのだろうか?

  • 小説なのかノンフィクションなのかちょっとわかりにくいが、中古マンションのリフォームの話は、築40年近くの軽量鉄骨に住む身としては他人事でなく読んだ。

  • 静かな時限爆弾のアスベスト。身近な建材に健康被害が認知されたにも関わらず30年以上使用された。今後それが使用された家やマンションが解体された時の管理が不安。また、震災や水害で被害を受けた家やマンションからもアスベスト飛散が考えられる。過去の問題がまだまだ未来へも。

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著者プロフィール

1959年、宮城県生まれ。84年、「木を接ぐ」により海燕新人文学賞、91年、「ア・ルース・ボーイ」で三島由紀夫賞、「遠き山に日は落ちて」で木山捷平文学賞、『鉄塔家族』で大佛次郎賞、『山海記』で芸術選奨・文部科学大臣賞文学部門を受賞。ノンフィクションに『アスベストス』、エッセイに『Nさんの机で ものをめぐる文学的自叙伝』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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