スタッフロール

著者 :
  • 文藝春秋
3.51
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感想 : 85
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  • Amazon.co.jp ・本 (469ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163915180

作品紹介・あらすじ

戦後ハリウッドの映画界でもがき、爪痕を残そうと奮闘した特殊造形師・マチルダ。
脚光を浴びながら、自身の才能を信じ切れず葛藤する、現代ロンドンのCGクリエイター・ヴィヴィアン。
CGの嵐が吹き荒れるなか、映画に魅せられた2人の魂が、時を越えて共鳴する。

特殊効果の“魔法”によって、“夢”を生み出すことに人生を賭した2人の女性クリエイター。その愛と真実の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 特殊効果を思考錯誤しながら開発していた時代からCGへ。アナログからデジタルへと発展していった映画の世界を舞台に80年代の特殊造形師のマチルダとその30年後のCGアニメーター、ヴィヴィアンの活躍がそれぞれ描かれる。現実の映画や監督達の名が次々挙がっていて嬉しい。幼い頃に見た黒い犬の怪物に魅せられ、女だてらにハリウッドでの特殊造形師の道に進んだマチルダ。アニメーターとして天性の目を持ち、ロンドンのスタジオで仲間達と日々充実した日々を送るヴィヴ。二人が生き生きと描かれているので腕は評価されているのに個人名が出ない悔しさや、高評価に萎縮したりといった苦悩、新しい技術に慄いたり、新しい技術が世間に貶されたりといった感情のうねりが真に迫ってくる。マチルダ章が時代とはいえ色々じめじめしていたのでヴィヴ章になり二人が怪物“X”が橋渡しとなって交錯していく展開のスピード感や、素敵なラストはとても心地良かった。

  • 面白かった。初読作家。結構読みやすかった。ざっくり言うと特撮とCGの映画世界で活躍する2人の女性のバイオ風話。つながりのある二部構成で、前半が特殊造形、後半がCG、実在人物のバイオ小説風に実在作品も詳しく描かれていて、本当にメイン人物たちが実在するような楽しい錯覚を抱かせてくれる。前半の造形師マチルダは私の親世代、後半のCGアニメーターヴィヴは私の子世代で、登場する映画はほとんどがリアタイで鑑賞しているが、実際に映画館での公開時に見て、虜になっていたのがスターウォーズ、道との遭遇、ET。邦画だとゴジラのメカゴジラぐらいから記憶があるり、非常に興味のある分野なので、ある程度の基礎知識があることで、さくっと読めたが、SFX映画に興味のない、蘊蓄型の小説が苦手な人には少々しんどい作品でもあんではないかとは思う。無駄な恋愛沙汰とかしょうもないドラマはほぼないのが、非常に読みやすい(主観)。が、主役のマチルダとヴィヴのナイーブさが、天才的な”女性”のクリエイター的というか、ステレオタイプぽくてちょっと、まあ、めんどくさい感じ。あと、ファンがかなりエキセントリックというか、偏った感じに描かれている。私自身はどんなんでも良質SFXは全て好物なので、そこまで意固地になるかな?的なゴリゴリのファンにはいまいち共感できないが、そう言う人ほど、やたらとSNSで大騒ぎするからねぇ。まあ、どこの世界も偏った人というのは居るものだとは思うし、小説にしたらそういうのも入れたほうがええんかとは思う。まあ、色々と突っ込みどころはあったが、軽くて面白い、後味のいい作品。

  • 映画やドラマ、アニメを見終わったあとに流れるスタッフロール。
    作品を見終わったらスタッフロールは見ないで映画館の席を立ったりテレビのスイッチを消してしまったりする人もいるけれど、私は映画館でも家でも、わりとじっと見てしまう。見るたびにこんなにもたくさんの人がかかわって作られているのか、と驚く。
    そこに名前が載らない人もいたんだな、と寂しく思う。

    映画にくわしいわけではないから、専門用語がたくさんあるという前評判を聞いて、読めるかな?と不安だったけれど、そんなに気にならずに読めた。

    第一幕の舞台は戦後の映画界。男社会のなかで苦しみながら奮闘する特殊造形師のマチルダが主人公。第二幕は現代の映画界でCGクリエイターとして活躍しながらも葛藤するヴィヴイアンが主人公。

    第一幕のマチルダの苦悩が読んでいてつらい。ずっと暗かった。
    自分が信じて大切にしてきた特殊造形が、実はCGに飲み込まれてしまうかもしれないという不安。CGにはこんなことはできない、と思いたいのに、その進歩を突きつけられて絶望してしまう。残酷だけど、これが現実だよなとも思った。

    第二幕になると、男社会だった戦後の映画界とはうってかわって物語は明るくなる。そこに第一幕にでてきた人物たちが再び登場して物語がどんどん広がっていく。
    第一幕でマチルダを苦しめたCGの側にも、やはりCGなりの苦悩があって。
    あたり前だし何だか薄っぺらくなってしまうけれど、何を選んでも完璧ってないんだよな。

    映画界から姿を消したあとに評価されたマチルダ。時間は経ってしまったけれど、なんとかしてマチルダの名前をスタッフロールに載せようと動く人たちの姿がすごく良かった。
    やっぱり自分の名前がスタッフロールに載ることってとても意味がある。
    ラストのマチルダの反応については一文しか描写されていないけれど、その穏やかな表情がじんわり目に浮かんできて、良かったねと抱きしめたくなる。
    すごく良いラストだなと思った。


    「待っていますから。あなたの才能を信じる私を信じてください」

  • 文藝春秋|雑誌|別冊文藝春秋_1609
    https://www.bunshun.co.jp/mag/bessatsu/bessatsu325.htm

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    スタッフロール 深緑 野分(著/文) - 文藝春秋 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784163915180

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      『スタッフロール』深緑野分著(文芸春秋) 1870円 : 読売新聞オンライン
      https://www.yomiuri.co.jp/cultu...
      『スタッフロール』深緑野分著(文芸春秋) 1870円 : 読売新聞オンライン
      https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20220607-OYT8T50021/
      2022/06/10
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      【書評】『スタッフロール』深緑野分(ふかみどり・のわき)著 映画をつくる魔法と科学 - 産経ニュース
      https://www.sankei....
      【書評】『スタッフロール』深緑野分(ふかみどり・のわき)著 映画をつくる魔法と科学 - 産経ニュース
      https://www.sankei.com/article/20220612-FDYBFCADK5PIRND4DECCDREFS4/
      2022/06/13
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「スタッフロール」書評 映画愛する者たちの哀歓が暴発|好書好日
      https://book.asahi.com/article/1464225...
      「スタッフロール」書評 映画愛する者たちの哀歓が暴発|好書好日
      https://book.asahi.com/article/14642255
      2023/03/09
  • 1970〜80年代の特撮映画ネタがあれこれ出てきて懐かしい(笑)。
    特撮とCGのせめぎ合い(?)というか、CG側の後ろめたさ(?)が、なんとなくわかる(?)ような気がして興味深い。

    でも、ヴィヴがオスカー取り損ねてメンタルにきてる?というところは、正直、今ひとつピンとこなくて。

    そもそも、その映画のキャラクター造形を任されているとはいえ、勝手に一人でモデルを改造して、改造した本人は消えたのに置き去りにされたモデルがそのまま映画キャラクターとして採用されるとか、それが30年も経ってからリメイク版のスタッフロールに載るとか、映画作る現場って、そうなの?とその設定にピンとこなくて。

    映画好きなら楽しめる作品かな、と思いました。

  • 前半は戦後ハリウッドで奮闘した特殊造形師・マチルダ、後半は現代ロンドンのアニメーターでCGクリエイター、ヴィヴィアンの視点で語られる。
    創作者としての苦しみと性別ゆえの苦しみ。鑑賞者は勝手なものだなと己を棚にあげて嘆いてみる。当事者でなければわからない苦しみは何にでもあるもので、短絡的な批判者にはなりたくないものだが。

  • 書くお話がいつも海外文芸のようで、映画の様な深緑さんがついに映画の話を書いたのか…と言うのが第一印象。

    自分は単純に映画が好きだから、凄いCGとかを見ると別に深いことも考えず素直に凄い!!
    となるけど、映画への愛が深ければ深いほどCGに対する評価は色々とひねくれていくのだな…と思ってしまった。
    一から手作りしているジオラマやクリーチャーの方が意味があった。CGはマッドサイエンティストだなどなど…
    映画が好きで愛していると言う根底は同じなのにぶつかり合う。
    色々な沢山の人の思いがぶつかり合うことで映画も作品として奥が深くなっていくのかも。
    この本を読むと、いつも何気なく見ていた映画のスタッフロールがなんだか愛しくなってくる。

  • 全470頁。それぞれが長編と言っても良さそうな2部構成の作品です。
    1986年以前を描く前編は映画の特殊造形師を、2017年以降を描いた後編は3DCGのアニメーター(動きをつける人)の二人の女性が主人公。どちらもかなりの能力を持っているものの自信がなく、制作陣の一員です。そうした現場でもがく主人公達の視点から垣間見られる映画製造の世界や、過去の名作/名監督の評価はなかなか面白く。後半に出てくるミステリー要素は、なかなか良いキャラが引っ掻き回して期待したのですが、竜頭蛇尾というか大山鳴動して鼠一匹の感があります。
    特に後半ですが、仲間内のやり取りを専門用語で説明している所が沢山あって、読み飛ばすしかなく、それが冗長感につながっているように思います。例えば主人公の傍に業界外部の人を配置し、そこに説明する形でも取ればもう少し読みやすかったのかな~と思います。とはいえ、なかなか読み応えのある作品でした。さらに映画好きなら堪らない作品でしょうね。

  • リーダビリティの高い良作。著者の新境地では? ミステリではない。

  • 妥協は死くらいの覚悟で自分が信じるものや愛するものに取り組む人々の物語。

    映画に限らず、音楽や文学、芸術作品を受け取る側としてこれからは製作者側の覚悟や意気込み、作品への愛情なども受け止めようと思わされました。

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著者プロフィール

深緑野分(ふかみどり・のわき)
1983年神奈川県生まれ。2010年、「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題作とした短編集でデビュー。15年刊行の長編『戦場のコックたち』で第154回直木賞候補、16年本屋大賞ノミネート、第18回大藪春彦賞候補。18年刊行の『ベルリンは晴れているか』で第9回Twitter文学賞国内編第1位、19年本屋大賞ノミネート、第160回直木賞候補、第21回大藪春彦賞候補。19年刊行の『この本を盗む者は』で、21年本屋大賞ノミネート、「キノベス!2021」第3位となった。その他の著書に『分かれ道ノストラダムス』『カミサマはそういない』がある。

「2022年 『ベルリンは晴れているか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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