我々はどこから来て、今どこにいるのか? 下 民主主義の野蛮な起源

  • 文藝春秋 (2022年10月26日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784163916125

作品紹介・あらすじ

 ホモ・サピエンス誕生からトランプ登場までの全人類史を「家族」という視点から書き換える革命の書!
 人類は、「産業革命」よりも「新石器革命」に匹敵する「人類学的な革命」の時代を生きている。「通常の人類学」は、「途上国」を対象とするが、「トッド人類学」は「先進国」を対象としている。世界史の趨勢を決定づけているのは、米国、欧州、日本という「トリアード(三極)」であり、「現在の世界的危機」と「我々の生きづらさ」の正体は、政治学、経済学ではなく、人類学によってこそ捉えられるからだ。
 下巻では、「民主制」が元来、「野蛮」で「排外的」なものであることが明らかにされ、「家族」から主要国の現状とありうる未来が分析される。
 「核家族」――高学歴エリートの「左派」が「体制順応派」となり、先進国の社会は分断されているが、英国のEU離脱、米国のトランプ政権誕生のように、「民主主義」の失地回復は、学歴社会から取り残された「右派」において生じている。
 「共同体家族」――西側諸国は自らの利害から中国経済を過大評価し、ロシア経済を過小評価しているが、人口学的に見れば、少子高齢化が急速に進む中国の未来は暗く、ロシアの未来は明るい。
 「直系家族」――「経済」を優先して「人口」を犠牲にしている日本とドイツ。東欧から人口を吸収し、国力増強を図かるドイツに対し、少子化を放置して移民も拒む日本は、国力の維持を諦め、世界から引きこもろうとしている。

みんなの感想まとめ

人類の歴史を「家族」という視点から再構築する本書は、民主主義の起源に潜む野蛮さや、現代社会の分断を鋭く分析しています。著者は、民主主義が必ずしも弱者の味方ではなく、教育や経済的背景によって格差が拡大し...

感想・レビュー・書評

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  • よく言われるのは、資本主義は格差を助長するが、民主主義がその抑止力になる。つまり、少数の富裕者に対し、多数の大衆層により民主主義的な手続きによって、資本主義の暴走にブレーキを利かせられるのではという発想だ。しかし、実感としてはあまりこれが機能している気がしない。本書を読むにあたり、サブタイトルの「民主主義の野蛮な起源」というのが何の事かと思った。革命を通じて成立させたというその起源の暴力性を指すだけなら、その革命の歴史を振り返るだけで、大した本にはならなかっただろう。トッドが指摘するのは、今も野蛮な側面がある、という点だ。

    キーワードから考えるなら、メリトクラシーのような人類の序列化。これを権威主義と言うか、ただの学歴や年収志向とするかは言い方次第だが、生まれつきや環境による「能力の差」があり、それを測定するステータスやスコアがある。そして、この上位者によって民主主義が乱用されやすい。必ずしも、民主主義は弱者の味方ではないのだ。そして、弱者にも責任がある。頭の良い人に任せておきたいという諦め、印象論やポピュリズムに左右されやすい性質。こうした人類の本源的性質には、動物的「野蛮さ」が内在したままだ。そこでは、自由も平等も強者の詭弁となる。

    家族構成からのアプローチについて。核家族は、高い個人主義。もう少し大人数の家族形態だと、やはりそれなりの統率者が出てきて、集団主義的になる。わけのわからない、我が家のルール、お父さんのいう事は絶対!みたいな感じの到達地点として、プーチンの言う事は絶対!みたいになっていく(かなり論理を飛躍したが)というのがトッド。上巻では、これと識字率、財産の管理などとの因果関係を解説されていて流石トッド!と思ったが。だが結局、ビッグダディだらけの国家があるかどうかで、そこから独裁が生まれやすいのか、結局そこは良くわからなかった。ただ、民主主義の野蛮さ≒ヤバさ(奇しくも似た音)を感じられる読書となった。

    • kuwatakaさん
      「資本主義×民主主義」は平和が長くなるほど格差が拡大して、むしろ戦争の方が富の分配には寄与するというのは皮肉なことです。人間社会では、確かに...
      「資本主義×民主主義」は平和が長くなるほど格差が拡大して、むしろ戦争の方が富の分配には寄与するというのは皮肉なことです。人間社会では、確かにメリトクラシーや遺伝子や遺産相続が階層化に力を発揮しそうですね。

      気になるのは、UNIVERSE25というネズミ実験です。ネズミ社会では力が強い者が富を築いて(住処もメスも獲得)階層化が進むのですが、25回同じテストをしてすべて「繁栄→停滞→減少→絶滅」を辿るんです。オスが階層化するとすべて絶滅してしまうんです。

      ネズミ社会がそのまま人間社会に当てはまるとは言いませんが、トッドさんにはぜひ「核家族→直系家族→外婚制共同体家族→内婚制共同体家族」と進む過程で社会のサスティナビリティ性にどのような影響を与えているのか突っ込んでほしいと期待してます。
      2024/10/10
    • Rafさん
      kuwatakaさん 
      興味深く、思考を広げて下さるようなコメントを有難うございます。ネズミ実験については私もどこかの本で読んだことがあり...
      kuwatakaさん 
      興味深く、思考を広げて下さるようなコメントを有難うございます。ネズミ実験については私もどこかの本で読んだことがあります。過密が原因みたいなことだったと思いますが、給餌は無制限だったので、資源不足で滅んだというよりも、閉鎖環境での過密による「異常行動の増加」で絶滅したという事でしたね。

      これはもしかすると、加速試験的な方法のやり方の問題であって、階層化がなされなくとも、つまり「繁栄」状態から試験を開始しても、結局「過密」による過度なストレスが異常行動を齎して滅ぶ、という事かと思います。だとしたら、ここから得られる教訓は「階層化は繁栄を齎す」と「絶滅を齎すのは閉鎖性によるストレス」という二つに分けられるのかもしれません。

      似たような現象として、ニワトリの閉鎖空間におけるペックオーダー現象(つつきによる序列化)がありますが、ニワトリも開放空間に放てば、閉鎖による異常行動はなくなるようです。

      人類にも、仮想的あるいは実存的に「閉鎖空間」があり、それがユヴァルの言う、虚構の共有(国家、宗教、会社など)に例示されるという気がしています。共同幻想をどうメンテするか、つまり、その領域設定や領域内でのルールをいかに見直すかという点が肝要かと考えます。
      2024/10/10
    • Rafさん
      すいません。「階層化が繁栄をもたらす」は、この実験だけでは言えませんね。単に閉鎖空間に雄と雌を置いたら、階層化とは無関係に乱交状態で一時的に...
      すいません。「階層化が繁栄をもたらす」は、この実験だけでは言えませんね。単に閉鎖空間に雄と雌を置いたら、階層化とは無関係に乱交状態で一時的に繁栄し、それによってギュウギュウになって滅ぶという事もあり得ますよね。寧ろ、階層化競争はストレス因子の方で、閉鎖的な息苦しさと同時に過度な競争が二重にストレスとなり、絶滅を齎す、という言い方もできそうです。
      2024/10/10
  • 原作はトランプ当選、ブレグジット、フランス極右政党の拡大があった2016〜2017直後に出版されているが、その当時すでにここまで情勢について分析・理解が進んでいたとは驚きだった。ブレグジットについては社会の上層が下層に寄り添った結果だと評価する姿勢だったが、あとがきで最新のイギリスの動向(ロシアフォビアと米国追従)について懸念が示される立場となっている。初等教育→中等教育→高等教育受講者割合が高まっていく傾向は先進国に共通しているが、教育の階層化によって格差が広がり社会の分断が生じている。英米はとくに、エリート層が短期的に最大利潤を得るためにグローバル化を進め、産業をどんどん労働力の安い海外に移転させた。国内産業は空洞化し特権階級である白人の中間層も生活がどんどん苦しくなっている状況で、その反動の結果がトランプによる保護貿易主義だが、今さらモノづくりやエンジニアリングを復活させることなど不可能で、安い賃金のヒスパニックなどに労働資源としての競争にも勝てず、関税を上げたせいで物価は上がりますます厳しくなる一方の状況。白人の死亡率上昇などデータでも示されている。それに対して日独はレベル1の直系家族システムの影響により垂直方向の伝承が大事にされる傾向と、もとからの保護主義傾向により英米ほどの状況にないとの分析。
    そもそも工業化、都市化が進む先進国では家族システムも核家族に収斂されていくのでは?と疑問があったが、人口学者たちも同じ立場からスタートしていた模様。しかし地理データが示す結果は、家族システムによる影響が未だに継続していることを示す。日本でいえば長男が親元で老後の面倒みなければならない、といった慣習は確かに残っている。
    本書は遠い過去〜最近の過去まで、様々な比較データを用いることで、現代を生きる我々がどういう世界にいるのかを俯瞰させてくれる良書である

  • 文化人類学から世界経済や社会の動向を捉えようとする意欲作。ところどころ、論理が飛躍しすぎているようにも思ったが、著者の広範な知識には驚嘆させられた。ところどころノーベル経済学賞に批判的なところが面白い。著者がフランス人の視点から記述していることが本書の魅力の一つと思う。とにかく読むのに時間がかかった。。。
    16章の日本の記述は最も興味深かった。少子化は本当に深刻な問題で、その回復のモデルはロシアにあるのかもしれない。移民に頼らず、自国の技術、エンジニアを大切にして、ユニークな日本の伝統・文化・治安が守られることを願いたい。

  • 上巻はだいぶ体力の要る読書だったが、そのおかげで下巻はすんなりと理解できた。
    アメリカ、フランス、イギリス、中国、ドイツ、ロシア、日本など、異なる家族形態や宗教、教育がたどってきた歴史をもとに、現在を読み解いている。

    個人的に興味深かったのは、教育、特に高等教育が不平等主義を後押ししているという現象。識字が課題となる初等教育の普及段階では、教育が平等主義とつながっているが、高等教育になればなるほど、当然のことではあるが格差が広がる。民主制は指導者が必要だから、エリートも必要なわけだが、経済格差と教育格差がリンクして議論されている日本でも、まさにこの部分を直視して問題の落としどころをさぐらねばならないのだろうと思う。

    もう一つ面白かったのは、同性婚の法的承認がなされ、女性の社会的ステータスが高い国ほど出生率が高い、という相関関係があるという事実。女性のステータスに関しては、社会的システムの整備など十分想像できる結果だが、同性婚については個人的には新たな視点で勉強になった。

  • 上下で1ヶ月以上読むのにかかってしまった。
    トッドさんの家族の話は、ときおり読んできたけれど、これだけしっかりとした本は初めて。
     権威主義国家のロシア、中国と民主主義国家の対立という見方に対し、共同体社会のロシア、中国と核家族社会の英米という見方。同じ民主主義国家でも直系家族社会のドイツ、日本は少子化という大問題を抱える。
    引用が多く読むのに少し苦労するけれど、図表やデータで楽しめる。

  • 家族構成から民族の特性を語る!
    日本人に関して、納得します。

  • 新しい視点、家族のあり方、民主主義の野蛮性を得られたことで、世界を見る目に広がりを得たようにかんします。

    少し論に飛躍というか、そこはどうだろうとか思う部分もあったけれども、そこも含めいろんなことを考えたりしながら読めたのでおもしろかったです。

  • フロイトの精神分析的に社会を意識、下意識、無意識の重層的構造としてイメージすると今まで見えなかったものが見えてくる。
    •意識は政治、経済。この経済こそが決定的な要因を持つものとして分析するのが経済学。経済の発展段階の上部構造に政治があるというのが従来の考え方である。
    では、経済はどのようにして決まってくるのが。なぜ世界の地域により経済に差があるのか。
    例えばマルクスは(1) 原始共産制 → (2) 古代奴隷制 → (3) 封建制 → (4) 資本主義 → (5) 社会主義 → (6) 共産主義と生産力の発展に伴って進むと考えたが、西洋視点の偏りという問題点がある。

    これを人間で下意識と無意識に目を向けたのが本書である。
    •下意識層は教育。識字率、女性の教育率、中等教育から高等教育率の後を追って経済は成長する。
    •無意識層は宗教と家族構造。これらが経済構造と政治構造に大きな影響を与えることに気づくことでコペルニクス的転回がある。

    家族構造は原始は核家族から始まり、農耕の発展に連れて直系家族、共同体家族と発展する。何万年、何千年単位の大きな変化であり、数百年や数十年の短いスパンで見れば逆行や例外が起きる事はある。
    この観点で見れば最も進んだ形が共同体家族であり、その次が直系家族、そして最も原始的な形が核家族であることがわかる。つまり文明発祥の地に近い場所では最新の共同体家族、その周りに直系家族があり、文明から最も離れた周縁部に核家族が残っている。
    そして文明中心部では核家族時代に民主主義は経験済みで、今は英米仏といった最も遅れた地域で民主主義社会となっている。民主主義は産業革命の後の資本主義と親和性が高かったため、西洋が現在の世界覇権を握ることになったと言うストーリー。
    ちなみに対戦後に社会主義国となったのはすべて共同体家族構造の地域で、権威主義に基づく平等主義が受け入れやすい土壌があったと考えられる。現在のロシア中国はマルクス主義社会主義ではないが、共同体家族構造が受け入れやすい権威主義体制となっている。

    EU、ユーロはキリスト教の神に変わる支配体制。権威主義、不平等主義を受け入れる土壌がある直系家族やゾンビカトリシズムの国家が加盟している。
    英国はゾンビプロテスタンティズムかつ絶対核家族であることからユーロに加盟しなかった。EU離脱はその現象。
    社会主義国家が共同体家族国家にのみ発生したのと同じメカニズム。

    EU、ユーロはフランスがドイツを抑え込むために作ったが、フランスの意図に反してドイツとの経済戦争になり、フランスは敗北。

    EU、ユーロがもたらしたもの。
    ドイツの経済的一人勝ち。
    各国に財政規律=緊縮財政を強いることによる経済的低迷→失業率上昇→有能なエリートの若者のドイツへの流入→ドイツ出生率低下の穴埋め。
    グローバリズムにより米国では過去にないほど経済格差が広がっているが、EUを単一国家と見た時は同じ現象が起こっている。

    ドイツは経済成長のために移民導入を優先目標としており、そのためにEU内の国家さえ犠牲にしている。ウクライナへの介入もその文脈にあり、民主主義を守るなどは単なるお題目にすぎない。

    ウクライナ戦争は西洋の敗北である。ロシアはGDPで測れない強さがあり、西洋以外の国はむしろロシアを積極的または消極的に支持している。
    表層的な部分に囚われて本質を見誤ってはいけないことを気づかせる本書である。

  • ふむ

  • 人類史を家族構成から読み解き、民主主義の本質に焦点を当てる。
    著者によれば、現在先進国に見られる核家族の形態は原始的なものであるという。原始の人類は核家族を単位として生活していたが、それが直系家族、内婚性共同家族、外婚性共同家族などに分岐し、それぞれ独自の政治的経済的様態を生じるようになった。核家族の形態を持っている先進国においてはある意味原始の形態に収斂した結果という。
    そして核家族の形態の国々(個人の自由という概念が生まれやすい)が民主主義を発展させ、資本主義に基づく豊かな生活を謳歌しているわけだが、著者はこの民主主義に警鐘を鳴らしている。
    特に核家族形態を突き詰めた英米などは、資本主義に基づくグローバル化を推し進めた結果、体勢に順応した高学歴エリートとそこからこぼれ落ちたグループの分断が深まり、トランプの登場やイギリスのブレグジットなどを引き起こしたと分析している。
    本書を読んでいて、いくつか疑問が浮かぶ。なぜ家族構成が分岐した後、ロシアや中国などの共同体家族は核家族に収斂しないのか?核家族に収斂するのが例外的な事象なのだろうか?今後も家族構成のあり方が多様に展開するのだとするとすると、今後我々は「どこに行くのか」?
    これらについて、著者は確定的な言辞を避けているようにも思うが、もとより安易な予測はできないだろう。東西冷戦終結の頃フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」のように、リベラルな民主主義や自由経済が勝利を収めたような論調の時代感からすると、今日はあまりに混沌としていて先を見通すことができないとあらためて感じる。

  • 上巻に引き続き、読了。

    良い副題である。つまり、民主主義には必ず『生贄』が伴う、という意味である。例えば、アメリカはトランプ大統領の元、メキシコ人恐怖症を発症することで国内(白人と黒人の)統一を試みる。

    ただ、いざ民主化に成功しても、民主主義は教育の普及をもたらし、メリトクラシーによる客観的な能力主義を産む。『生贄』によって団結したはずの集団が、今度は学歴によって再び引き裂かれ、新たな階級闘争が生じる。何という皮肉か。

    本書は、イギリスにおいては上流階級の貴族的かつ謙虚な価値観から、労働者階級をそこまで蔑視しない文化があり、それが上下階級を統合できる可能性があるとして、同国への期待という形で締めくくられている。ただ、日本語版後書きでは、その期待が裏切られたと記しており、ため息。

    良くも悪くも英米世界は民主主義の最前線である。今日も、英米諸国(欧州も?)は、ウクライナに油を注ぎ、ロシアを『生贄』にすることで、民主主義を守ろうとしている。野蛮さは中々抜けないのである。本書を読むと、何だかロシアに同情したくなるのは私だけであろうか。

  • 前半は退屈だったが、後半になるほど具体的になってきて面白かった。家族構造と教育、人口動態、経済などを有機的に結びつけ、西洋社会の正義からは距離を置いた学者的な分析は興味深い

  • 過去課題本。あまり楽しい読書体験とはならなかった。いまだにヨーロッパでも「マルクス主義」が幅を利かせているところがあるんだなと、実感させられる一冊であった。

  • 上以上に、この著者の著作を読むのが初めてなので、単語の意味がとりにくく理解しにくかった。英語圏(英米)とそれ以外のヨーロッパ、その中でのドイツの存在、移民問題(東ヨーロッパ。旧共産圏。イスラム)英国のEUからの離脱よく知らなかったことが論じてあり、なかなか勉強になった。もっと前から読んでおけばよかった。

    〇農業発生の中心地に近ければ近いほど、家族的・社会的形態が経験した時間(すなわち歴史)が長く、家族構造がより高度に複合的であり、逆にその中心地から遠ざかれば遠ざかるほど、流れた歴史の時間が短く、家族がより核家族的なのである。
    〇個人主義的・民主主義的・自由主義的イデオロギーが、ユーラシア大陸の周縁部に、歴史の短い諸地域に位置している。逆に、反個人主義的で権威主義的なイデオロギー──ナチズム、共産主義、イスラム原理主義──は、ユーラシア大陸のより中心的な地理的ポジション、より長い歴史を持つ諸地域を占めている。
    〇原始時代は、緊急時には統率者を選出できる多数の集会で構成されている世界だった。
    〇ヨーロッパでは、絶対主義が「革新」であり、立憲主義は「保守」であった。
    〇ある意味でフランスは、西欧全体をポスト宗教の普遍性の内に導いたのだった。
    〇直系家族文化の人びとの集合体は、強大であれば自らをヒエラルキーの上位に見るが、弱小であれば特殊性を強く主張するだけに甘んじる。
    〇個人主義をベースとする移民の統合が可能になる。ただし、それが本当に可能であるためには、どこか近くに、忌避対象の役割を果たして他を引き立て、その一つを除くすべての同化を可能にするような「他者」が存在していなければならない。
    〇英米世界の特殊性の一つは、そこに普遍的人間を非普遍的人間から分かつ境界線が存在している、ということである。
    〇アメリカが近代民主制を発明したのは、白人住民のほとんどが読み書きできるようになっていて、教育上の具体的な平等主義が市民の平等を充分に考え得るものにしていたからである。
    〇人口における世代交代のリズムに沿って、その水準も、高等教育修了者が人口の30%~35%という上限(とりもなおさず、若年世代における高等教育修了率である)に近づいていった。すべての世代を一緒にした全人口がこの比率に達した時点で、教育普及の上昇運動が停止し、社会全体における教育普及の停滞が始まる。
    〇思春期以前の集中的読書がホモ・サピエンスの知的能力を高めるということに言及した。集中的読書を放擲したがゆえに頭脳の性能が落ちたとしても、いささかも意外ではない。
    〇米国では、平等の問題の中心にあるのが、イギリスでのように階級への所属ではなく、人種への所属だということである。突き詰めれば、イギリス人にとって、劣等なのは、結局つねに労働者、プロレタリアートだ。ところが、アメリカ人にとっては、それはつねに黒人なのである。
    〇ポスト産業時代の中都市が繁栄するか衰退するかは、しばしば、そこにアカデミアが存在するか否かに依る。
    〇今日では、人が高等教育レベルに就学するのは、野心的であるならば社会というピラミッドの上層部に到達するためであり、良家の子女ならばその上層部にとどまるためであり、庶民の出であるならば「落ちこぼれ」ないためである。
    〇自由貿易は企業の利潤率をアップし、不平等を拡大する。
    〇自由主義的だが、非平等主義的でもある絶対核家族は、英語圏のすべての国民に共通している。この家族システムは、個人主義と、世代間の断絶を助長する。
    〇連邦国家はとりもなおさず黒人の味方であり、非民主的である、なぜなら最高裁判所を頂点とする司法を後ろ盾にしているのだから、というものであった。当時の司法機関は、高学歴白人層のリベラルなイデオロギーに支配されていた。
    〇高等教育は、社会的上昇への道であるよりも、社会的転落から身を護るものとなっていた。
    〇ドイツの戦略的目標の一つは今や、中国に毀損された米国産業にとどめを刺すことなのだから。
    〇英語圏における民主制の失地回復──ブレグジット、次にトランプの当選──は、イギリスでは反ポーランド人、米国では反メキシコ人というかたちで、色濃く外国人 恐怖症に染まっているように見える。
    〇われわれは、誤った歴史観の犠牲になっている。経験主義的・人類学的であるよりも演繹的・哲学的な見方で民主制を捉え、その誤りの犠牲になっている。
    〇ナショナリズムとは、「他者」──大抵の場合、自分たちにとって特に脅威だと感じられる隣国の人民──に対抗する社会的集団の確立にほかならない。
    〇民主制、それは結局、自らの領土において、自らのために自らを組織化する特定の人民のことだ。
    〇国内の「内輪」では自由で、平等で、解放的である外国人恐怖症的諸国民の並行的な前進が、最終的には、民主主義的で自由主義的な普遍を実現するかもしれない。
    〇人民の内部で個人を解放し、隣国の人民にも同じ傾向の存在を見抜くという条件を満たすならば、民主制はより高いレベル、すなわち普遍的要求を発する段階、民主制レベル2に進むことができる。このゲームをすでに演じたことがあるのは、米国とイギリスとフランス、それぞれの人類学的基底によってア・プリオリに個人主義的と定義される三つのネイションである。一方、ネイションの人類学的基底が個人の出現を促さない国々──ドイツ、日本、ロシア、中国──では、自由主義的民主制を普遍化する構想が開花するのはあまり見かけない。
    〇自由貿易は、資本を有しない者を一律に、実にまったく公平に圧し潰すのだ。
    〇直系家族はもはや、ドイツのものであれ、日本のものであれ、現代の居住地のほとんどの部分を構成する都市空間には存在していない。
    〇世界のどこでも民衆階層は、程度の差こそあれ、ホモ・サピエンスの自然な家族により近い状態にとどまっており、したがって国や地域を超えて近似し、要するに「アメリカ」に近似しているのである。
    〇教育水準の低い地域では失業率が高く、極右勢力の得票率も高いことが確認できる。
    〇生きた家族システムとは、ホモ・サピエンスの原初的家族類型をテーマとするところで示唆しておいたように、 一つのテリトリーにおいて配偶者交換をし、 子供を生み出す家族群の総体なのだ。
    〇重要なのは、多くの個人が弱く有している価値観が、集団レベルではきわめて強く、頑丈で、持続的なシステムを生み出し得るということである。
    〇日本自身が昔から自らの特殊性を主張しており、グローバリゼーションに決定的なやり方で参加していても、ヒロシマとナガサキの悲劇以来、諸国家間のパワーゲームに加わることは拒んでいる。日本が担う外交上の役割は取るに足らず、あの国の有するテクノロジーのパワーとはかけ離れている。
    〇迂闊に変化を前提し、不可避的に人類の収斂という結論に行き着くようなパラロジスム(誤った推論)に陥らぬように。
    〇フランス人には、今日では非常に長期にわたることもある高等教育の終了以前に子作りをする可能性がある。ドイツでは、学業と子作りの両立は論外とされており、その結果、学歴による出生率の差が最大化している。
    〇絶対核家族と、かなりゾンビ化の進んだプロテスタンティズムに支配されている英米世界では、パイプカット(精管結紮術)の実施頻度が高い。これは、望まない生殖のリスクから男性を解放する技術で、女性の潜在力に対する見事な抵抗を示すともいえる。
    〇いくつかの先進社会で女性の学歴の平均水準が男性のそれを上回るようになった結果、人類史において根元的に新しい何かが顕在化しつつあることは確かだ。
    〇父系制レベル1は、女性たちの教育を禁止しないだけでなく、子供の教育係としての母親を大いに尊重する。しかし女性たちは、学業ののちに職業労働に就こうとすると、男性の特徴──子供を産まないということ──を自分のものとしなければならない。「核家族」型社会は、高等教育を受けて職業労働に就いている女性が女性であり続け、子供を持つことを許す。
    〇世界の生産活動の中の特定の隙間(ニッチ)を支配し、多角化よりも、自らの製品または得意領域の完璧化を好む中小企業群のダイナミズムである。
    〇米国人、イギリス人、フランス人は、経済理論の要求するとおりに行動し、ある財を買うときにはホモ・エコノミクスになる。消費者は直接的な個人利益を追求し、いちばん安い製品を選ぶ。
    〇ドイツや日本の個々の消費者は、経済理論の想定通りになど行動しない。ドイツ人と日本人は、商品価格を見る前に、相変わらず生産国に関心を向け、そうすることが可能な場合には毎度、自国の製品を買う。
    〇ドイツの経済活動の主要な場を成す西洋世界はドイツ連邦共和国の普遍主義を額面どおり信じようと努める。この事情のゆえに、ドイツは言葉の上では自由貿易論を唱えつつ、行動においては保護貿易主義であることができる。
    〇ひとつの社会は、経済の成功・不成功を気に病む前に、自らの人口の再生産を確実に維持しようとしなければならない。
    〇一つは、経済の決定力が何物にも優るという信念。もう一つは、諸々のネイションのあり方が消費社会の中で収斂していくという仮説。欧州統合のプロジェクトは、経済が歴史のエンジンであるような世界においてなら、そして、経済的効率が欧州の北から南まで、東から西まで同程度であったなら、成功できただろう。
    〇欧州連合(EU) は今では、内部に一種の「中国」〔「世界の工場」の意〕を保有しているのである。
    〇ユーロのせいで、経済の強い国と経済の弱い国の間の競争が苛酷になった。単一通貨の下では、経済の弱い国が自国通貨の平価切り下げによって、その国にとって条件的に無理のある競争から自国経済を護るということができない。したがって、イタリアやフランスの産業は、ドイツやスカンジナビア諸国との競争に耐えることができなくなった。
    〇現下の歴史的真実はといえば、ドイツがフランスに経済戦争の宣戦布告をおこない、そして本当にその戦争に勝利しつつあるということなのだ。
    〇ユーロは、フランス側が考案したのであり、その公式の目的はドイツ通貨のマルクを縛ることにあったのだが、今やその無益さは、かつてのマジノ線〔フランスが対独防衛のために築いた要塞群。第二次世界大戦ではドイツ軍の機動部隊に迂回され、役に立たなかった〕 にも劣らない。
    〇一個の国家の建設は、畢竟、中間層による社会の枠付けを制度的に結晶化したものにすぎないのである。
    〇2015年および2016年初頭に連邦共和国に入ったのは、無意識的な模倣によってドイツ文化の中に溶け込み得る個々人ではなく、必要となれば自分たちだけで集まって閉じ籠もりかねない諸々のコミュニティであった。
    〇米国の同化システムとは、黒人を排除することによって、あらゆる出自の白人、またアジア人、さらには、米国建国時に征服されながらも生き延びたインディアンたちをも含めた統合を可能にするという方式である。
    〇1990年に創設された欧州連合(EU)は、自由で平等な諸国家のシステムというように描出できた。今日では、権威と不平等こそが、欧州システムを描出するのに適切な二つの概念となっている。豊かな国と貧しい国、強い国と弱い国、支配する国と支配される国といった、さまざまに異なる諸国家を包含する階層秩序が現れた。
    〇ヨーロッパで発展した政治的・経済的・社会的システムは、諸国民を位置づける階層秩序、緊縮政策、経済的不平等、代表民主制の欠落などを伴い、まさに直系家族が、ゾンビ・カトリシズムの支援を得て(また、イタリア中部、バルト三国やフィンランドでは、不平等は奨励せずとも権威主義を強化する共同体家族が供給する補充兵部隊と共に)、生み出すべくして生み出した正常な形態なのである。
    〇その固有の歴史展開の中では、大陸ヨーロッパは、オランダ、ベルギー、フランスとデンマークを別にすると、自由主義的かつ民主主義的であったことが一度もない。
    〇われわれがとりわけユーロ圏の中で覚悟しなければならないのは、民主制の廃止という展望である。
    〇権威主義は人民の中に根を張っており、「場所の記憶」によって際限なく再生産される共同体家族の価値観を源泉にしている。
    〇エネルギー価格の急落にも耐え得るのである。現場から離れた場所で論議する戦略家たちは、その急落によって「プーチン体制」が瓦解することを期待するが、そんなことは起こらない。
    〇経済システムであるのと同程度に宗教でもある共産主義の崩壊は、勝ち誇る西洋から提示された野放図な自由主義に根本的に不向きなロシアの人びとを10年にわたる無重力状態と苦しみの中に投げ込んだ。
    〇高齢化は頭脳流出も伴う。これは人口という国の実質を成すものの流出であり、資本流出を補完する。
    〇人口の社会増減がマイナスであることは、中国の人口規模を思えば大した問題ではない。けれども、その人口喪失の質的な効果は過小評価できまい。国に帰ってこないのは最良の科学的頭脳なのだ。
    〇さらに困ったことに、最終的に外国移住してしまう人口の内で、表現の自由を熱望するタイプの中国人たちの比率が明らかに高い。したがって、人口の地理的な流れが、中国人人口の中で潜在的に最も自由主義的な人材を絶え間なく削減し、結果として、中国の権威主義的システムを強化するのである。
    〇中国のスポークスマンたちが、繰り返しわれわれに南京大虐殺を思い出させようとする執拗さには、何かしら愁嘆場的なものがあるといわざるを得ない。何といっても中国は、共産党の滅茶苦茶な経済政策──「大躍進政策」〔1958年~1960年に中国が毛沢東主席の下で強行した経済政策〕 ──によって、外国の介入などいっさい受けることなしに、3000万人もの中国人を死に追いやったことのある国なのだから。
    〇女性たちを周縁化したり、家の中に閉じ込めたりすれば、彼女たちの教育にブレーキをかけ、ひいてはその息子たちの教育にブレーキをかけ、結局、父系制の親族網の中に閉じ籠もるよう息子たちを仕向けることになる。こうして、男たちもまた、本物の個人であることをやめてしまう。
    〇今日、先進諸国のエリートたちと民衆を捕らえている無力感は、あるリアルな力についての無知に由来している。実はその力が外に表れて、飽くことなく、一般に理解し難いといわれるさまざまな現実──テクノロジーの進歩と裏腹な不平等の拡大や生活水準の伸び悩み、宗教的に表現されるニヒリズム、外国人 恐怖症、ネイションの概念が時代遅れだといわれている中で起こっているネイション間の紛争──を生み出しているのだ。
    〇家族システムの差異化に起因するさまざまなネイションのあり方の分岐という仮説を受け容れることこそが、緊急に必要である。もし人類の平和を大切にしたいのならば。
    〇かつての第三世界が、初等・中等・高等教育の普及の面で進歩し、世代ごとに先進世界に近づいている。しかしながら、発展途上の国々は、頭脳の不足し始めた先進世界の国々によって自分たちの頭脳を略奪されるという、恒常的な脅威の下で生きている。
    〇歴史には、主要な次元が二つある。その二つの次元の両方から歴史にアプローチすることが求められる。下意識のレベルは、教育が作用を及ぼすレベルであり、世界の教育が同質化へ向かうにせよ、向かわないにせよ、歴史の普遍的な次元を表す。教育の普及に時間的なずれやテンポの違いはあっても、その軌道は、ホモ・サピエンス種全体にとって同一だ。二つ目の次元は、人類学的な与件の次元であり、こちらは教育の次元とは反対に、少なくとも諸国民間の持続的な分離を、そしてもっと悪くすると、どんどん強まっていく一方の分岐をもたらす。
    〇女性の解放は普遍の趨勢のように見えるが、実はそうではない。
    〇今日の世界で、安定したシステム(米国やロシア、またおそらくは、自国の人口減少を受け容れている日本)と、不安定なシステム(ドイツと中国、なぜならこの二つの国は、それぞれの教育普及と人口動態から見て到達不可能な目標を自らに課しているから)が共存していることも判明する。
    〇普遍的な初等教育が倦まずたゆまず民主制の可能性を培う一方で、高等教育がこれまた倦まずたゆまず上層階級を供給するのだが、この上層階級は、メリットに応じて選別されたがゆえに、自分たちの知的・倫理的優越を事実上ではなく権利上のものとして自明視する。
    〇ANYWHERES(どこででも暮らせる「エニウェア族」) と、SOMEWHERES(特定のどこかに所属している「サムウェア族」) の対立に注目し、イギリスに限らずどの社会にとっても、この両者の世界観の間の交渉が欠かせないことを説く。
    〇フランスの行政府はもはや、EUの意向から独立した経済政策を決定する能力を持っていない。次のようにさえ言えるだろう。フランスには相変わらず特権層が存在するが、指導層はもはや存在しない、なぜなら、指導すべき大事なものは一つも残っていないから、と。今やフランスでは、経済の分野で重要な選択をおこなうこと自体が不可能なのである。
    〇米国は、中国と異なり、今後、人口減少という問題には直面せずに済むと見込まれますが、問題は、エンジニアのおよそ半数が外国出身者であることです。とくに中国系とインド系が圧倒的に多い。米国は生産物だけでなく、生産に携わる労働者まで国外に依存しているわけです。
    〇保護貿易と国内産業の再生のためのブレグジットではなく、自由貿易を推進するためのブレグジットだったのです。
    〇米国にとってイギリスは、いちいちその意向を気にしなければならないような国ではありません。久しい以前から、両国の国力の差は歴然としています。しかし米国のエリート層には、無意識にも「英国スタイル」「英国の上流階級の振る舞い」が重要な参照基準として存在してきました。

  • 2022I201 361.63/To2
    配架書架:C2

  • 362||To||2

  • ●民主制は常に原始的であったが、高等教育に侵食されていく。
    ●ドイツと日本の出生率は低い。父系制。
    ●ゾンビ・カトリシズム

  • いやー難しいけど面白い!
    伝統的な家族形態,初等教育,高等教育が政治システムや国の在り方までの起源となり,様々な「敵」をなぜ作るのか,なぜ必要悪なのか?
    こんなにも説明ができるものなのかと感嘆.
    最終的にどんな国家のシステムも否定しない,かつ変化の途上とするのは,読後の満足感にはつながらないけど,世界を公平に見る,と言う原点に思い至らずにはいられない.

  • ・訳文は上巻と同じく、こなれていなくて、読みにくい。
    ・「アメリカの本当の神秘は、われわれの共通の未来を表現する国として現れてきていながら、われわれの過去をもまた内に含み持っているという点にある。アメリカはわれわれに、進歩の希望と退行の幸せを同時に提供する。」
    ・外婚制か内婚制か、教育の程度、出生率、人口の自然動態と移動動態といった指標はわかりやすい。
    ・教育のメリトクラシー(能力主義的)階層」による社会の分断

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著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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