北関東「移民」アンダーグラウンド ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163916453

作品紹介・あらすじ

 北関東というのは独特の匂いのする地域である。
 大宅賞作家・安田峰俊の最新作は、その北関東に地下茎のごとく張り巡らされた、「移民」たちのネットワークのルポだ。
 移民に「」がつくのは、日本には制度上、移民はいないから。しかし、悪名高い、技能実習生制度のもと、ベトナム人だけでも実習生は20万人近く。その一部は低賃金や劣悪な環境に嫌気がさして逃亡、不法滞在者の「移民」として日本のアンダーグラウンドを形成している。彼らは自国の経済が発展し、出稼ぎに出なくても食えるようになると、日本になど来なくなる。そのため、アンダーグラウンドの主役はどんどん変わる。かつて中国人が主役だったアンダーグラウンドを、今、占拠しているのは、無軌道なベトナム人の若者たちなのだ。
 ベトナム人によるアンダーグラウンド社会が日本人に知られたのは、群馬県で起きた「豚窃盗事件」。養豚場から盗まれた豚は、彼らのアパートで解体され、彼らのネットワークの中だけで処理されたため、警察の捜査は難航した。このように、アンダーグラウンドで完結する犯罪は表に出にくいのである。桃などの果物も、かなり派手に盗まれているが、犯人はなかなか逮捕されない。
 本作では、筆者と通訳の「チーくん」(彼は日本育ちのベトナム難民の2世だ)が、まるでホームズとワトソンのように、「移民」による事件現場を訪ね歩く。血なまぐさい殺人現場、タトゥーだらけのしたたかな不法滞在者たち、常にただよう薬物とバクチと女のニオイ。あちこち探り歩いて、ついに北関東ベトナム人アンダーグラウンドのボス、「群馬の兄貴」にたどり着く。スキンヘッドに気合の入った刺青、見るからに恐ろしい「群馬の兄貴」が犯した真の罪とは……。
 豚の窃盗から、誘拐、殺人と、あらゆる犯罪現場に、ベトナム人の好物である雷魚とアヒル、そしてビールを手土産に走り回る2人。
 恐ろしくて面白い、アンダーグラウンドレポート!

感想・レビュー・書評

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  • 表紙がタトゥーがっつりの男の上半身、色はマゼンタという毒々しさなので、ちょっと手に取るのを躊躇するが、内容はちゃんとしたものだったので、ちょっと表紙で損しているかもと思う。

    ボドイと呼ばれるベトナム人(逃亡技能実習生など)の絡んだ事件を調査し、当事者に会い、現地取材もしていてすごく読み応えがある。

    他の取材記者と違って著者が彼らの本音を聞き出せたのは、言葉の問題をクリアできたこと(チー君という日本生まれのベトナム人通訳が活躍)、手土産(ベトナム人は「金麦」が好き)、一緒に食事したことらしいが、言葉と食事というのは高野秀行さんが外国人と仲良くなるためにいつもやってることと同じだなと思う。

    読んでいると彼らの「秩序を担保するのは民間の暴力装置と、個人による人治的な権力だ」(P107)というところなんか昭和のヤクザみたいでもある。
    著者はベトナム人=悪という書き方はしない。彼らを生んだのは日本とベトナムの経済格差と、「現代の奴隷制」である技能実習生制度だときちんと書いている。
    経済成長しない日本で物を安価で売るために外国人不法労働者が黙認されている、ということはうすうす認識していた。しかし、
    「(技能実習生を送り出す国々は)人権意識が充分に確立していない、しかも庶民が権力を批判する自由が制限されている強権的な非民主主義国家」であり、「これらの国の「優秀とは呼べない」人たちは、たとえ自分の人権が侵害されても、自覚できなかったり、異議の申し立てを諦めていたりする。そういう土地からそういう人を選んで連れてきて、日本でも母国と同様に制限された人権環境に置く。かくして低コストを実現させているのが技能実習制度の本質的な仕組みなのである。」(P29)というところには、ショックを受けた。国家として人権侵害をしているだけでなく、他国の人権侵害を奨励してるようなものである。
    日本の平和で純朴な人々が暮らす農村や漁村で「最もうるわしき日本の姿と並行して、ベトナム人技能実習生が織りなす『蟹工船』さながらのストーリーが展開している。」(P92)
    以前は中国人が多かったが中国が経済成長して少なくなり、現在底辺労働者として来る中国人は「本人の学力も実家の経済力もなく、人付き合いも苦手なタイプの、中国社会でうまくいかない地方出身の若者たちである。往年のハングリーな中国人と違って、甘く打たれ弱いが権利意識が強い」ってのもショック。これ、日本の若者にも同じタイプたくさんいる。もし日本がもっと貧しくなれば、こういう若者が海外で出稼ぎするのは明らか。というか、もうやってるだろう。暗澹たる思いがする。

    これを読んだ後、ベトナム人によるユニクロ集団万引きのニュースを見たが、驚かなかった。
    日本の経済力の低下、少子高齢化などとも絡み、簡単な解決策はないが、とりあえずこの現状を認識することは大切だと思う。
    著者には体に気をつけて頑張って欲しい。

  • なんでもありなんだな。よくここまで取材してくれたんだなって思ったり。
    いまは円安になって日本が貧しくなってるのを見て、移民たちはどう思ってるのか聞きたい。

  • 知られざるボドイの社会。
    美味しいカキフライが安く食べられているのも技能実習生の労働搾取の上に成り立っているんだなぁ、、と。日々知らずに享受している。日本経済がもっと上向けば故郷にちゃんと仕送りできる外国人労働者増えるのかな、など色々考えさせられる。

  • 生々しい

  • 不法滞在・不法就労状態にあるベトナム人の元技能実習生(ボドイ)たちがおこす「ろくでもない」事件やコミュニティに著者は接近し、その生態を明らかにしていく。
    現代の日本社会が深く依存し、あらゆる日本人が無自覚のうちにお世話になっている技能実習制度。制度そのものは本書のテーマではないが、それが遠因となって起こっている事件やトラブルを取材している。
    ボドイを「悪い人たち」や「かわいそうな人たち」といったわかりやすい言葉でまとめてしまうと、多くのものを取りこぼす、という著者の姿勢に好感がもてる。

  •  ベトナム人移民が日本人に利用されている。使い捨て人材として…
     どうして日本人は他国人を尊重できないのだろう。特に東南アジア人に対しては酷い。そのうち逆転するかもしれない。

  • 2023/07/19

  • まず、ベトナム人すべてがここに登場する人たちではないと言う前提で読んでも、ベトナムの文化を少し垣間見て勉強になった。
    これが、日本の労働環境の実態であって、外国人労働者、特に、今はベトナムの方に依存をしている中で、このような労働環境も、外国人の方に与えている事実を、もっと可視化していくべきだと思う。
    しっかりと取材をされた記者の方に、敬意を表したい。

  • p282 かつて中国がいた場所に、いまやベトナムがやってきたことは既に何度も書いた。今後、いつかベトナムが説業する時代が来れば、次はインドネシアやカンボジア、もしくはミヤンマーやネパールあたらいが舞台の中心に立つ。円安が進行した場合、主人公が交代する速度はより早まるだろう。
    ゆえに、実はポドイ問題は非常に簡単な解決方法が存在している。
    これから長くとも15年ほど、何もしないで待っているだけでいいのだ。そうすればベトナムと日本の経済格差が就床し、ポドイは日本社会から消える。往年の在日中国人の不法滞在者やマフィアがいつの間にかほとんどいなくなったのと同じ現象が起きるのだ。

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著者プロフィール

ルポライター

「2023年 『2ちゃん化する世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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