文豪、社長になる

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163916675

作品紹介・あらすじ

100年企業の土台は、人望。それだけ!

1923年 
大ベストセラー作家・菊池寛の手によって
文春は産声をあげた

「楽しいんだ。菊池さんと仕事してると。それだけっ」

仕事が、仲間が、人生が愛おしくなる
2023年最高の感動歴史長篇

文藝春秋創立100周年記念作品



(あらすじ)
 芥川龍之介や直木三十五、川端康成などの協力を得、菊池寛が発行した「文藝春秋」創刊号はたちまち完売する。読者が、時代が求めた雑誌は部数を伸ばし、会社も順風満帆の成長を遂げていく。
 しかし次第に、社業や寛自身にも暗い影が。
 芥川、直木という親友たちとの早すぎる死別、社員の裏切り、戦争協力による公職追放、そして、会社解散の危機……。
 激動の時代に翻弄されながらも、文豪として、社長として、波乱に満ちた生涯を送った寛が、最後まで決して見失わなかったものとは――。
『家康、江戸を建てる』『銀河鉄道の父』の著者による、圧倒的カタルシスの感動作


菊池 寛(きくち・かん)略歴
 明治二十一年(一八八八)、香川県高松市に生まれる。本名は菊池寛(ひろし)。京都大学英文科を卒業後、時事新報社社会部記者に。この頃、「父帰る」「無名作家の日記」「恩讐の彼方に」など、後に名作とされる作品を次々と発表。
 大正九年(一九二〇)、新聞小説に連載を開始した『真珠夫人』が大ベストセラーとなり、一躍流行作家に。
 同十二年(一九二三)に雑誌「文藝春秋」を創刊。その後も文藝春秋社社長の傍ら、旺盛な執筆活動を続ける。
 昭和十年(一九三五)、早逝した親友・芥川龍之介、直木三十五を悼み、二人の名を冠した文学賞を創設。日本文学の振興に大きく寄与した。
 同二十二年(一九四七)、戦時中の軍部への協力により公職を追放。翌二十三年(一九四八)、狭心症により五十九歳で急死。

感想・レビュー・書評

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  • 特に何か凄い事件が起こるわけではないのに、日本の近代文学史が描かれているせいか、非常にワクワクして面白かったです。

    明治21年生まれの菊池寛が作家になり『真珠婦人』をヒットさせ文藝春秋社という会社を立ち上げ、雑誌『文藝春秋』を創る話です。


    1話目の寛と寛(ひろしとかん)には芥川龍之介が登場します。芥川龍之介は『鼻』が認められ、文壇でどんどん名をあげていくのに対し菊池は『真珠婦人』までヒットがありません。
    大正12年に菊池は『文藝春秋』を創刊します。
    そして芥川は神経を病み自殺。
    菊池寛の本名はひろしと読みますが、芥川は自分の長男に比呂志(ひろし)という名前をつけていました。

    2話目は貧乏神
    直木三十五の話です。
    横光利一、川端康成などとともに直木三十五も登場します。
    直木三十五の本名は植村宗一ですが、筆名の由来を初めて知りました。
    直木は働き過ぎて、結核から脊椎カリエス、脳膜炎を併発して亡くなります。

    この2話で、今、毎年二回必ず話題になる文学賞、芥川賞、直木賞の創設の意図がよくわかりました。

    第3話会社のカネでは、社内で起きた横領事件。

    第4話ペン部隊では満州事変。

    第5話文藝春秋では会社の立て直しの様子が描かれます。


    明治から昭和初期の文化人の名前がたくさん出てくるので(夏目漱石、柳田國男、小林秀雄、石井桃子、向田邦子他多数)その頃の文学がお好きな方には面白く読める本だと思います。

    菊池寛には『真珠婦人』のヒットはありましたが、文化人というより会社人間として成功した人だったのだと思いました。
    菊池寛の死因は、接待などでの暴飲暴食による狭心症でした。

    • まことさん
      ベルがモットさん、おはようございます♪
      菊池寛には『恩讐の彼方に』もありましたね。
      本作にも、出てきましたが、レビューに書くのを忘れまし...
      ベルがモットさん、おはようございます♪
      菊池寛には『恩讐の彼方に』もありましたね。
      本作にも、出てきましたが、レビューに書くのを忘れました。
      私も文藝春秋社の創立者だったことはこの本で知りました。
      門井慶喜さんの作品は他も何作か読みましたが、面白いです。
      私の好みに合っています。
      2023/07/16
    • しずくさん
      まことさん、コメントに今気付きました!
      ごめんなさい(>_<)
      一月遅れの返信となりましたが、本作に満足されたようで良かったです。 門井さん...
      まことさん、コメントに今気付きました!
      ごめんなさい(>_<)
      一月遅れの返信となりましたが、本作に満足されたようで良かったです。 門井さんの「銀河鉄道の父」「定価のない本」なども好きです。
      2023/08/15
    • まことさん
      しずくさん♪

      たぶん、コメントに気がつかれていないだけだと思っていたので、気になさらないでください(*^^*)。
      私も『銀河鉄道の父』『定...
      しずくさん♪

      たぶん、コメントに気がつかれていないだけだと思っていたので、気になさらないでください(*^^*)。
      私も『銀河鉄道の父』『定価のない本』も好きです。
      2023/08/15
  • 文藝春秋社の創業者、菊池寛の生涯を中心に、社の歴史や近代日本文芸界を描いた歴史物語。文藝春秋社100周年記念として執筆されたものらしい。

    時代を読む力に長けたやり手で、情にもろく豪快な人物、というのが本書での菊池寛の描かれ方だが、100周年記念ということで品よくまとめたのかな、という印象。実際には現代的にNGなエピソードも多々あったのではないだろうか。
    時代を読み過ぎたのか、太平洋戦争中は積極的に戦争に貢献し、戦後公職追放になっていたことも初めて知った。ちなみに、文藝春秋社は戦後にいったん解散したため、現在の文藝春秋社は戦前と別組織なのだそうだ。

    会社がどんどん大きくなっていくエピソードも興味深いが、本書の魅力は、なんといっても菊池寛と交流のある作家たちのエピソードが豊富に描かれるところにある。
    師と仰ぐ夏目漱石の葬式から始まり、同窓の芥川龍之介、才能ある若手として引き立てた川端康成や横光利一など、菊池寛を通じた意外な交友関係を垣間見ることができて面白い。

    特に印象に残ったのは、直木賞に名を冠する直木三十五。文藝春秋の雑誌が出始めたころに文芸ゴシップ記事を執筆し、初期の売り上げに貢献、それ以降の社の方向性を決定づけたと言ってもよい人物である。本書では、口数が極端に少なくて何を考えているのかわからないうえに、新しいことを始めては失敗して借金を作ることを繰り返す困ったちゃんとして描かれるが、親分肌の菊池からするとほっておけないタイプだったのだろう。

    児童文学作家・翻訳家の石井桃子さんのエピソードも面白かった。
    彼女については、以前に読んだ『岩波少年文庫のあゆみ』という本の中で、文庫の刊行に貢献した人物としてエピソードが紹介されていたが、本書では、学生時代のアルバイトから目をかけられて文藝春秋社に入社した優秀な社員であり、社内が戦争賛美派に舵を切りつつあったタイミングで見切りをつけた芯の強い女性、という別の側面が描かれていて興味深かった。

    本書を読むと、登場した作家たちの小説を読んでみたくなる。今年は近代文学を少しずつ読んでいきたい、と思っていたので、いいきっかけになりそうだ。

  • 菊池寛の作家&実業家としての成功物語。反抗的・破滅的で中途半端な学生時代から、社会部記者としての社会人スタート、新進作家への転身と同級生・芥川龍之介から受けた恩、善意・親分肌から一念発起した出版事業立ち上げ、変人直木三十五との奇妙な縁、放漫経営とカネの問題、そして戦争に向かう世相の中での大衆迎合、戦後の文藝春秋社解散と公職追放などを盛り沢山に描いている。

    本書が描く菊池寛を一言でいうと、頑固で天の邪鬼で強引、情に脆い人情家で親分肌、意外と時世に敏い現実主義者という感じかな。

    とにかく筆が早かったらしい。彼は社会部記者として「好むと好まざるとにかかわらず、ほんものの華族の妻や、令嬢や、船成金や、画家や、政治家や、学者や、実業家と直接会って種取りをした。彼らの口調、ものの考え方、ちょっとした仕草の特徴はすっかり頭に入っていた」。これらのネタを使って作品を量産した。また、助手何人かを使って海外小説を要約させ、それをヒントに現代日本の物語を書きまくったという。大衆の心をつかむのがとにかく上手い娯楽小説の大家。なんとなく抱いていた戦前の文豪、崇高な芸術家というイメージは大きく崩れた。何しろその出世作「真珠夫人」からして昼ドラ原作のような作品だしな。

    菊池寛がポケットマネーで創刊した文藝春秋、創刊時からゴシップ記事を売りのひとつにしていたことも意外だった(なんとゴシップネタは直木三十五が執筆!、菊池寛は積極的ではなかったらしいが発行部数が増えるので黙認していた?)。「名士に対しては、民衆は嫉妬する権利がある。かくてゴシップの出番である。ゴシップとは名士がほんとうは自分と同じ凡庸人であるという当たり前のことを暴露して、それによって嫉妬の症状をやわらげる一時的な解毒剤だからである」。文春砲のルーツは創刊号にあり。これじゃあ若手作家の登竜門を自ら作り出すという菊池寛の崇高な理念も霞むなあ。

    戦時の対応も、いかにも現実主義の俗仏っぽいな。「菊池寛という男の奇妙さは、それほどの戦争嫌いでありながら、その戦争を、雑誌のためには積極的に利用したことだ」。そして、天の邪鬼な性格のなせる技か、「ペン部隊」への積極的な関与が大きな汚点となる。

    菊池寛、その作品は後世に読み継がれるような名作揃いではなかったようだが(この点、芥川と対照的)、「文藝春秋」や「オール讀物」の創刊、「芥川賞」・「直木賞」の創設など、文壇の発展に大きく貢献したことは間違いない。

    という訳で、なかなか読み応えのある作品だった。

  • お恥ずかしながら菊池寛の存在をこの小説で初めて知りました。
    まさに文豪であり、実業家。
    周りを動かす人望ここにあり。

    毎年話題となる芥川賞と直木賞も菊池寛によって作られた。
    その経緯を知り、また注目の仕方が変わる。
    受賞者はもちろん、賞そのものも長生き。
    その目標は今も受け継がれる。

    亡くなり方が印象的だった。
    こんな幸せなことがあるか。
    最後まで文藝春秋を思い続けた彼の生き様をご堪能あれ。


    He was a stubborn and devious person.
    However, a lot of people loved him because he was a big brother type and bold.

  • 柚木麻子さん作『ついでにジェントルメン』の一章に「Come Come KAN!!」があった。文芸春秋社のサロンで、主人公の新人女性作家がそりの合わない担当編集者と打ち合わせをしていて、菊池寛の銅像が突如話しだすという奇想天外な展開で始まっている。文藝春秋社を菊池寛が興したと初めて知った。菊池寛と云えば、随分前に昼ドラでドロドロとした愛憎劇『真珠婦人』をやってて菊池寛の原作だとわかり、それまで持っていた『父帰る』のイメージが裏返ったのを思い出した。いつか彼の作品を読んでみたくなった。
    タイミングよく、門井慶喜さんによる本作が今春に出版されていて、まずは菊池寛さんの経歴を知ることにしようと思い立って読み始める。
    芥川龍之介や直木三十五、川端康成などのそうそうたる小説家が登場する中に、彼の助手として石井桃子さんが出てきて、そしてその流れで向田邦子も登場するのが意外で興味深い。菊池さんは同時代に活躍した所謂文豪たちと異なっていたのは、小説を書くだけでなく『文藝春秋』を創刊する経営者としてのノウハウや度量があった。実業家として手腕をふるう一方で、小説家であることもあきらめなかった菊池寛。何かの本で読んだ蔦屋重三郎が浮かんだ。蔦重は、自身もそれなりに描いていたが自分に才能がないと見切りをつけ、才ある人たちの作品を売り出す側に回った人だった。蔦重と比較するのは間違いかもしれないが、彼は二足の草鞋を選ばずに、貸本・小売を手掛ける本屋「耕書堂」を開業。『文芸春秋』が引き継がれているように、江戸時代に創業した蔦屋重三郎に由来するとも云われているのを現在に残している。名高いカルチュア・コンビニエンス・クラブが手掛ける、レンタルや書籍販売などを行う複合量販店チェーン「TSUTAYA」がそうらしい。
    菊池寛は結婚相手には資産家の娘と結婚することを考え、金持ちの妻を娶る。高松藩の旧・藩士奥村家出身の奥村包子(かねこ)と結婚し、妻側からの莫大な援助を得ている。さすがだ。経営者としての意識が強まったことで、学友に対する扱いが無意識のうちに疎かになってしまった。大きかったのは(本書によると寛さんの思うところではなかったらしいが)戦争を進める政府に迎合して、結果的にペン舞台を繰り出す素地を作ってしまった。終戦後GHQから、菊池寛は日本の「侵略戦争」に文藝春秋が指導的立場をとったというのが理由で、公職追放になった。その間「大映」の社長に就任し、国策映画作りにも奮迅していたのだから止むを得ない。
    菊池寛は思う存分、時代を駆け抜けた日本人離れした人に思える。

    • まことさん
      しずくさん、こんばんは♪

      私もこの本、今日図書館で、借りてきたばかりです。
      期限までに、読めるといいのですが。
      菊池寛はよく知らないのです...
      しずくさん、こんばんは♪

      私もこの本、今日図書館で、借りてきたばかりです。
      期限までに、読めるといいのですが。
      菊池寛はよく知らないのですが、石井桃子さんや、向田邦子さんも、登場するのですか。
      豪華ですね!
      しずくさんのレビューで、読むのが、楽しみになりました。
      2023/07/05
    • しずくさん
      まことさん、コメントに今気付きました!
      ごめんなさい(>_<)
      一月遅れの返信となりましたが、本作に満足されたようで良かったです。 門井...
      まことさん、コメントに今気付きました!
      ごめんなさい(>_<)
      一月遅れの返信となりましたが、本作に満足されたようで良かったです。 門井さんの「銀河鉄道の父」「定価のない本」なども気に入っています。
      2023/08/15
  • 文藝春秋社百周年を記念しての出版らしく、多分にヨイショ感はある。菊池寛が親友の芥川や直木三十五を偲んで賞を作ったのは有名な話で、別な書籍でも詳しく書かれている。
    が、ここでは、一筋縄では行かないが、魅力的で親分肌の菊池寛がよく描かれていて好感が持てた。小林秀雄、井伏鱒二、今はビッグネームの作家がゾロゾロ出ててそこも興味深かった。

  • おもしろい、門井さんの小説。今回はあの菊池寛さん。小説家であり、「文藝春秋」の創刊、文藝春秋社そして芥川賞と直木賞の文学賞の設立。まさに、小説家であり実業家である。


    そこには、大きなことを成し遂げる者の大胆さと無神経さが表裏一体にある。概してお金には無頓着で何度もの危機は乗り越えながら、突き進んでゆく。そこには、周りに集まる人たちのパワーがあり、そのそのパワーを熟成させたのはほかならぬ、菊池寛そのものである。


    物語は、五つの章に分かれており、章によって出来というか楽しめる度合いが違うのに少し戸惑いましたが、私は第1章の「寛(ひろし)と寛(かん)」がお気に入りでおます。

  • 菊池寛の伝記小説。
    文藝春秋を作り、芥川賞、直木賞も作った人。
    無知とは恐ろしい。全然知らなかった。芥川龍之介、直木三十五、夏目漱石、川端康成。錚々たる登場人物の数々…。
    幼少期から小説家になるまで、芥川龍之介との関係、直木三十五との関係。当時の様子がありありとわかる。
    僕らは、日本の先人達の作った礎の上に生きてるにも関わらず、本当に何も知らないんだなぁ

    伝記小説…。いいなぁ

  • こちら(↓)で書評を書きました。

    https://www.rinen-mg.co.jp/web-rinentokeiei/entry-5628.html

    直木賞作家による菊池寛の伝記小説。「文藝春秋創立100周年記念作品」だそうだ。

    タイトルと帯の印象から、“経営者としての菊地寛”にグッと寄った内容を期待したのだが、意外にそうでもなかった。ま、そこそこ面白い。

    一般の大企業であれば、「周年記念作品」として刊行される創業者の伝記は、ヨイショと神格化に終始するだろう。
    さすがに本作はそうではなく、菊池寛の弱さ、人間臭さまで赤裸々に描き出している。

    まあ、そうだろうな。「文春砲」とかやっている会社が、創業者だけは聖人君子扱いでは、筋が通らないもの。

  • 文藝春秋をつくった男、菊池寛。文豪であった彼が何故出版社をつくったのかが分かるのが本書。100年の記念の年に歴史小説として文豪小説としても上手い書き手の門井慶喜さんが紐解いていく。時系列とともに短編形式で進行していき、芥川賞、直木賞をつくった理由や戦争の中で揺れ動く心をつぶさに描いていく。魅力ある男として菊池が描かれているのが印象的。当時の文豪はかくもこうだったのかと思われるが豪快で直線的。周りを巻き込みながらグイグイ進む。まさに土台は人望かに思える。

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著者プロフィール

1971年群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。2003年、第42回オール讀物推理小説新人賞を「キッドナッパーズ」で受賞しデビュー。15年に『東京帝大叡古教授』が第153回直木賞候補、16年に『家康、江戸を建てる』が第155回直木賞候補となる。16年に『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、同年に咲くやこの花賞(文芸その他部門)を受賞。18年に『銀河鉄道の父』で第158回直木賞を受賞。近著に『ロミオとジュリエットと三人の魔女』『信長、鉄砲で君臨する』『江戸一新』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

門井慶喜の作品

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