令和元年の人生ゲーム

著者 :
  • 文藝春秋
3.15
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163918082

感想・レビュー・書評

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  • 前作的な空気感を期待して読んだが、作者が違うのか?と思うほど、作風が違う。また、現代のお仕事小説的なノリでいつ、盛り上がるのか?と待っているうちに、終わってしまった。正直今作は全く響かず、良さが見つけられなかった。

  • Z世代、意識高い系。今の十代後半から二十代の若者たちのことか。
    高学歴で高スペックなのにどことなく薄っぺらい。従順で温厚で体温の低そうな彼らを知るための仕様書のような。
    沼田という一人の捉えどころのないオトコとかかわることで人生が動いていく若者たち。
    結局沼田って何者だったんだろう。一章ごとに変化する沼田の印象。嫌悪したり、同調したりしつつ、少しづつプラスが増えていった暁のラスト。
    このもやもやは、自分の中の沼田成分への嫌悪なのか。そうなのか。

  • 前作の「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」が地方出身の学生の東京への憧れ、という感じが強かったのに対して、今回は地方コンプレックスというよりは、キラキラした企業に憧れるZ世代の学生、がテーマの短編集。

    個人的にはあまり帯で宣伝されているような「Z世代の取扱説明書」という感じはしなかった平成1桁生まれです。

    短編集としては、前作の人が次の作品に絡んでいく、という好きな構成。
    特に4話構成のうち、3話で共通して登場する「沼田」のキャラが好きです。

    1話目の慶應のビジコンサークル。主人公はキラキラとした吉原先輩に憧れる。沼田はサークルの中でも嫌味で浮いている存在。最終的にキラキラしていた吉原先輩は高校生向けのオンラインサロンというえぐめなビジネスに手を出して消えていく

    2話目は唯一の女子主人公。この話が一番共感しながら読めて面白かった。リクルートをモデルにした人材会社、同期は100人、人財、バリューを生み出そう、みたいないかにもな企業のノリを冷めながらもうまくこなしていくのが主人公。彼女が一方的に好意を寄せていた同期のゆいかちゃんは、同期1年めでの23/100人目の退職者となり、会社を去っていく。最後までゆいかちゃんと本音でぶつかれないまま、「受け取れる愛が大きい場所に去っていく」彼女との最後のアフタヌーンティーが良かった。あぁ、もうこの友達とは二度と人生で合うことがないんだな、という瞬間を思い出す。感情の機微も(これが唯一の女子が主人公だったからか)読み応えがあった。ちなみにこの2人の同期に例の「沼田」がいて、歓迎会での宣言どおり「総務部でゆるく働き」つつも、社長勅命のエレベーター混雑改革をさくっと成功させるなど活躍しています。この沼田の働き方に憧れるのがZ世代の正しい取扱説明書、と読めばいいのでしょうか。笑

    3話目は、シェアハウスの運営を任される主人公、ほとんどが「意識高い系」大学生の住人の中、ここの住人のひとりが沼田です。
    学生のひとりが迷い込んできた保護猫に触発され、地域の議員も巻き込んだ地域猫保護活動をしよう、と言いだしみんながそれにジョイン(笑)していく(これに笑、とつけたくなるのが一世代前の感覚なのでしょうね)
    ここで出てくるのが「しろくま」エピソード。
    ふと気づくと、シェアハウスに入居している大学生の志望動機が共通していて、「高校生の頃に地球温暖化に苦しむしろくまの問題に取り組んだ」というものだったのです。そして、1話目で胡散臭い高校生向けオンラインサロンを始めた吉原先輩の塾が、高校生が「大学にAO・推薦で入るための体験をパッケージ化して売っている」と判明する。

    話は変わるけれど笑い事じゃないんですよね、これ。私の勤めている会社にも、企業訪問で来る高校生いるんですけど、なぜか最近はみんな「最後に写真を撮ってください」とお願いしてくるんです。どうやら大学に推薦で入るための自己PRに載せるようで、そういうことを指導している塾があるとか。。。

    ここまでの話が小説としてはややお粗末ながらも、扱うテーマの新鮮さで面白く読んでいたのですが4話目の銭湯改革のお話は尻すぼみ感が。
    なんというか、全体的に小説を没入して読むというよりも、そう没入できないんですよね、なんかすーっとこういう人も、こういう人生も、考え方もあるんだ、と流れていくような、それこそZ世代を前にしたような感覚の小説でした。

    僕が手にするはずだった黄金について、を読了したときの感覚と似ているのであれが楽しめる人なら楽しめるかも。
    麻布競馬場さんの前作よりはマウンティング感は薄め。

  • 麻布競馬場さんが書く「就活」、そしてその後の人生。
    前作のような展開を期待して絶対におもしろいだろうと思って読んだのだけど、文体や作風もがらっと異なるように感じられた。
    平成28年、平成31年、令和4年、令和5年、時系列で綴られる四つの連作短篇から成っているのだけれど、語り手(主人公)が毎話ちがうので人生ゲーム要素を感じられなかった。
    意識高い大学生集団をシニカルに描いた第一話は良かったのだけど、その後に続くだろうと思われる主題が曖昧なまま終わってしまった。ビジネスシーンのディティールばかりやたら細かく、情景描写や起承転結が圧倒的に物足りなかった……。

    沼田、という癖のある男性がキーパーソンらしく共通して姿を現しているのだけど、彼の人物造形もいまいちピンとこず、ただ不気味なだけの印象に終始したのが残念。
    令和の時代では、沼田のようにほどよく&要領よく手を抜きながら働くのが正解な働き方ということだろうか。それはきっとその通りなのだろうけれど。

  • 元ネタがわかる露骨な描写、揶揄するために単純化された人物設定、モブの記号的な出番。

    SNSで氾濫する今日的なキラキラした「正解」と、それを斜めに受け取るどちらも風刺する暗さ。

  • タイトルにひかれて購入。気付けば全部読んでしまっていました。
    こういう人たち居るよねって思うところもあれば、自分はどうなんだろうって色々考えさせられました。

  • 組織で「仕事」に取り組むとき。
    例えば、組織に新たなメンバーを加える際。
    意思決定者に承認を得ることは必須であり、その承認がどのような原則に基づくのか。
    データやロジックのみで語れるものなら、承認者は不要とも言える。
    そこの原則に、政治的正義、politically correctness、つまりデータでもロジックでも、本当の、正義でもないものが採用されるとき、世界は狂う。

    誰か、ときの権力を掴んだもの、もの達の政治的な意図に、最大限阿ったもの、もの達が世の経済的利得、名声を獲得する。
    つまり「正しさ」や「美しさ」は、政治に押し潰される。
    そうして、阿り、結果して、押し潰す側となった人たちは、ただ目端が効いているだけで、阿り、世を偏らせ、住みづらいものにしていることには、無頓着だが、なかには途中から気持ち悪さに居心地の悪い思いを抱えるものも後をたたない。

    「平和」や「平等」を80年以上謳歌し、混乱少なく過ごしてきた日本社会が、それゆえの歪みを抱え、軋んでいることを感じた。

    沼田氏の描写は、太宰治さんの作品の登場人物を想い起こさせるものだった。


    「結局そうして今も、就活で人事部に喜ばれそうな、意識の高い仲間たちと一緒に、チームワークを大事にしながら、ビジネスごっこをしているだけなんじゃないか?」
    p28

    「人生に対して真面目な人のほうが道徳的に優れているとか、経済的に成功に近いとか、そんなことは関係ないのだろう。むしろ自分の意思とは関係なく誰か賢い人の意見に全ベットするとか、思ってもないことを言うとか、そういうことができる器用な人のほうが、人生をうまく進められるんじゃないか。」
    p40

  • 沼田くんの物語。他者の視点から描かれる連作。「桐島」的?だが、個人的に「成瀬」。男性で都会的で、時は流れているが、飛んだ時間(時期)の物語も読んでみたい。震災やコロナの年に、沼田氏がどのように独創的で孤高であったか。
    学生時代が一番とんがっていて、エセ社会との距離感がいい。沼田氏が時を経て、だんだん自分の主張が薄れるし、何か大きな転機もあったようだが、今作では描かれない。タイトルも不明。想起させる過去の小説タイトルはあるが、連作に「元年」はないし。
    続きがありそう。タイトルが変わるかも。

  • Z世代というかもうちょい上じゃない?
    それはさておき、沼田がイタいけどちょっと自分に重なる面も見えてツラい。w

  • 年代、環境が合いすぎてて、今読むのがベストと思いつつ自分にぐさぐさきた。

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