無敵の読解力 (文春新書 1341)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166613410

作品紹介・あらすじ

最強のコンビには何を語ってもらっても面白い。今回は、各章で3~4冊の書籍を参考資料にして、現代社会を縦横無尽に斬りまくる。
まず、第1章のテーマは「人新世から見た仕事術」である。ここでの参考図書は、斎藤幸平『人新世の資本論』、グレーバーの『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」、それから白井聡『主権者のいない国』の3冊。斎藤氏が切り拓いた、新しい『資本論』からの視点と、「クソどうでもいい仕事」から、リモートワークの現在や、仕事そのものと資本主義について考える。
第2章は、「米中対立 新冷戦か帝国主義戦争か」というホットなテーマを取り上げる。参考書は、ミアシャイマーの記事、レーニン『帝国主義論』、ホブソン『帝国主義論』、マルクス『経済学・哲学草稿』。いま世界が抱えているのはやはり米中対立の問題である。それを読解するには、レーニンの「帝国主義」が最適である。なぜなら、中国がやっていることは帝国主義路線そのものだからだ。この対立を歴史的にどのように捉え、どう対処していくべきかを探る。
第3章では、「なぜオリンピックはやめられなかったのか」を分析する。部分合理性が全体の不条理を招くという意味で、東京五輪は、ガダルカナル戦やインパール戦に共通する。
参考書は、菊澤研宗『組織の不条理』、後藤逸郎『オリンピック・マネー』、ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』、『日本陸軍 作戦要務令』。日本人に特有の病理が浮かび上がってくる。
第4章のテーマは「愛読書から見るリーダー論」。日本の歴代首相、党代表は一体、どんな本を読んできたのだろうか。その結果は、目を覆いたくなるような惨状で、まともに本を読んでいるのは歴代の共産党代表と、中曽根康弘、細川護熙ぐらい。小泉純一郎、枝野幸男、田中真紀子、土井たか子・・・その浅さ、教養のなさに唖然とする。菅前総理が挙げたマキアヴェリ『君主論』にいたっては、二人の舌鋒は火を噴く。日本という国はつくづくと凄い国なのである。
ちなみに参考書は、マキアヴェリ『君主論』と早野透『政治家の本棚』。
第5章では「日本人論の名著を再読する」を論じる。参考書はルース・ベネディクト『菊と刀』、オフチンニコフ『桜の枝』、ライシャワー『ザ・ジャパニーズ』。日本人は外側から見られた日本人論が大好きだ。この三冊が名著と呼ばれるにはそれだけの理由がある。『菊と刀』は戦後日本のグランド・デザインをつくるベースとなった点が重要だ。さらに、外部の視点から書かれた日本人論は、私たちが気づかない点を突き付けてくれる。制度や経済状況などによって変わった点はもちろんあるが、いま、わざわざ読み返してみる価値を詳述する。

感想・レビュー・書評

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  • この二人の共著というか対談集を読んだのは本書で4冊目だ。

    相変わらず二人の知識と知性には脱帽ものだ。

    なかでも「愛読者から見るリーダー論」では誰もが知る政治家を知の巨人が二人してめためたにこき下ろすのには笑えた(笑
    菅義偉、小泉純一郎、枝野幸男、菅直人あたりは知識人から見ると全くだめなのか。

    世界のなかでも日本の大学生はあまりにも学ばないという話題が出て来たが、よく言われる話で、ご多分に漏れず私もそうだった。
    そのようなことを考えるにつけて、上に挙げたような人を国民の代表に選ばざるを得ない私達国民ももっと学ばねばならないんだろうと思う。




  • このお二方の共著(対談)これで15冊読みました。
    本当に面白いんですよね。

    つい最近、他の方の対談を読んだ時に
    「一人一人は面白いのに、これはどうも…」
    と思った私ですが、池上さんと佐藤さんには満足するのです。

    きっと対談本を出すにも、ノウハウがあるのだと思いました。
    たとえば【第三章】オリンピックはなぜやめられなかったのかのところで
    佐藤「オリンピックに突入してしまった段階ではガダルカナル戦で説明できるんですが、もう少し前の段階ならばインパール作戦が近いんでしょうね」
    池上「インパール作戦はビルマを攻略した日本軍が、インド侵攻のために、世界屈指の密林を越えてインドのインパールに進撃する作戦です。………」
    と、ただ言葉の投げっぱなしでなく、
    それについて私たちにわかるように説明が続くのです。

    だからこんな私が15冊も読んでしまったのだし
    出版社もこのコンビと仕事したくてたまらないのでしょう。

    この本では、
    【第一章】人新世から見た仕事論
    【第二章】米中対立 新冷戦か帝国主義戦争か
    【第三章】オリンピックはなぜやめられなかったのか
    【第四章】愛読書から見るリーダー論
    【第五章】日本人論の名著を再読する
    が書かれていて、どれも面白かったのですが
    第四章では『政治家の本棚』を見て辛辣な感想を述べているので笑った。

    やっぱり前から気になっていた塩野七生さんの『わが友マキアヴェッリ』を読まなくちゃなぁ、と思いました。

  • 「読解力」とは何か。もちろん、私達は普段から何かを読解している訳だけど、そのレベルについて意識することはあまりない。
    本書を通して、深いレベルでの読解とはこういうことかと思った。
    前提となる圧倒的な知識は遥か及ばないにせよ、本を読んでどのように考えて、どのような感想を持ち、どのような結論を導くのか。そういう流れを学ぶことができた。
    ここら辺は単なるHow to本を読んで得られるものではなく、具体的な実例と共に理解していく方が、理解を深められる気がする。
    雑談っぽい緩さと知的に高度な会話に引き込まれ、一気に楽しく読んでしまった。

  • 対話形式で読みやすかった。
    ただただ池上、佐藤両氏の読書量と質に驚くばかり。

    台湾有事を必要以上に煽ることが実現性を高めてしまうこと、均質な中国人化を進め国民国家を目指す中国の悲哀、東京オリンピック2020と日本軍の失敗は同じ根っこの限定的合理性によるもの、日本の舵取りをする方々の愛読書と教養の低さの相関性、たびたびブームになる日本人論のカラクリはどれも俯瞰してものを見ない視野狭窄によるのかなと感じた。

    両氏とまでは難しくとも普遍的な価値や知識には触れておくべきで、それはやはり古典と呼ばれるものを熟読する必要を感じた。

  • 政治家の愛読書を分析する章は楽しめた。
    菅義偉、小泉純一郎、田中真紀子ボロクソ(笑)

  • 本書は「読解力を育てる」というよりは、著者の読解力を用いた書評である。

    著者の対談についてはすでに何冊も本が出ているが、いずれも知的刺激が得られる良書。今回も時事問題を取り混ぜながら、「書籍」を軸に論が展開されているところが面白い。

    「組織の不条理」など、取り上げられていた中ですでに読んだ本は何冊かあるものの、今回の対談以上のものを私自身が読み取っていたか自信がなく、良い意味での反省点となった。もう一度再読してみようと思う。

  • このタッグの本は何冊か読んでいるが、内容よりも2人の読書量が気になる。
    聞いたことのない著者の聞いたことのない題名の本を読んで当たり前のように言えるのはどれだけの本を読んできたらそうなるのか。
    とても追いつける気はしないが、この本で紹介されていた本で気になったものは読んでみようと思う。

  • 本の読み方は人それぞれ、修行のような人もいれば、ただただ娯楽としてという場合も多い。知識を得る、論理を紐解く、ストーリーを追う。そのためにも、行間と文脈を理解する必要がある。文字通りにしか理解できないのがAIの弱点だと、ロボットが東大に入れるかを考察する新井紀子が解説していた。多義的な文章を一義的に解釈できるには、経験や共感、想像が必要だからだろう。

    では、佐藤優と池上彰の言う〝読解力”とは。
    本質を見抜き、いやそれを悠々と突き破り、文章以外の連想から著者の言外を広げる力。二人の対話が知的にスリリングだと感じる程、面白かった。対話本の相互に忖度するような予定調和ならウンザリだが、もはやその次元ではない。後半、政治家の本棚を嘲笑する様はやや悪趣味だが、言いたい事は分かる。

    もう一つ。オマケのようだが、この本で、斎藤幸平論やディープステート論について二人の考え方が知れた事も収穫。ー 公式なルートではなく、属人的なネットワークで難問が解決される。日本なら、麻布、開成、筑駒。そうした現象は増えてきていて、ディープステートと本質は変わらない。まさに、その通り。

  • 読解力をつけるには 一冊の書籍、さらにいえば、古典をじっくり読むこと。p18

    『組織の不条理 日本軍の失敗に学ぶ』菊沢研宗
    個別合理性と全体効率性は必ずしも一致しない p144

    日本人論の名著 『菊と刀』ベネディクト、『桜の枝』Bオフチンニコフ、『ザ・ジャパニーズ』ライシャワー←日本を知るのにおすすめp239

    おわりにp254
    小説、ビジネス書、エッセイ、自己啓発書を中心に読む日本の政治家や経済人 演説はその場は面白いが心に残らない
    ドラッカーやカーネギーのビジネス書、デイヴィッド・ロックフェラー、チャーチル、キッシンジャーの回顧録はいつになっても古くならない
    アカデミズムで行われているテキスト批判、解釈学の手法を入り口だけでもよいので政治家やビジネスパーソンの読書に取り入れるべき

  • この二人の対談本はいつも興味深いけれども、もう少し話を深掘りしてほしいと思うこともしばしば。
    個人的には、一番の読みどころは第四章。現代の政治家たちがめった斬りにされていくのは読んでいて痛快だし、日頃から薄々感じていた政治家(のみならず現代日本人全般)の「薄さ」が言語化されていて腑に落ちた感じがした。

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著者プロフィール

池上彰(いけがみ・あきら):1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、73年にNHK入局。記者やキャスターを歴任する。2005年にNHKを退職して以降、フリージャーナリストとしてテレビ、新聞、雑誌、書籍、YouTubeなど幅広いメディアで活躍中。名城大学教授、東京工業大学特命教授を務め、現在9つの大学で教鞭を執る。著書に『池上彰の憲法入門』『「見えざる手」が経済を動かす』『お金で世界が見えてくる』『池上彰と現代の名著を読む』(以上、筑摩書房)、『世界を変えた10冊の本』『池上彰の「世界そこからですか!?」』(以上、文藝春秋)ほか、多数。

「2023年 『世界を動かした名演説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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