生きる (文春文庫 お 27-2)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167141646

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  • 人間の矜持とは何かを語り掛ける3作。

    表題作の「生きる」
    追い腹を禁じられた男はどう生きるのか
    安穏河原
    娘を身売りさせてしまうほど落ちぶれた男の親子の物語
    早梅記
    身の回りを世話してくれる女を通じ家族とは何かを問う作品

    どれも淡々とした筆致から、心の奥から考えさせられる作品。

  • どこかのテレビ番組で「愛」と「お金」とどちらが大切かなどとやり合っていたが、凛とした生き方をしながらも世の流れに逆らうこともできずにどんどん生活が苦しくなって、それでも凛とした生き方を通すなんて、実際にはできないけど憧れる気持ちが自分の中に存在することに驚きを感じた。

  • 恩顧のあった主君の死に殉じ「追腹」するはずが藩命により禁じられる男の話だが、特定の時代の特殊な話ではないなと感じた。現代でも凶悪事件を起こした犯人の家族は、この主人公の男と同じく、「あれだけの大恩を受けながら(あれだけの事件を起こして)のうのうと生きていくつもりか」という周囲の白眼視を浴びながら、身内内での不和や離散を経験する人たちはいる。主人公は最初、自身の身の処し方だけの問題だと思ったに違いないが、案に反して周りの家族が次々と彼の下を去り、うろたえ、落胆し、いつしか眼だけが自身の生を主張しはじめる。

    ラストの2つのサプライズはなくてもいいかな。むしろ暗示だけにとどめ、その前の再度出仕を始めると決心したところで終わってくれれば、その後の展開は読者の想像で充分楽しめたのに。

  • 現代日本では、すでに追従自殺が強いられることもないし、餓死寸前の空腹を感じることもない。あったら犯罪。理不尽であっても、自分の力では抗えないこともあの時代は多かった。武士として主家があるために、動きが不自由な男と、その男に仕える女。3篇のお話では、男よりも翻弄された人生を送らざるを得ない女が生き生きと描かれる。彼女達の生活は俗に言う「幸せ」ではないかもしれないが、なんて強い生き方で、他人任せでなく、己が選んだものなんだろう。ここに同じ女性として教訓があると思った。男はここでは、ある意味気の毒な存在だ。

  • 死ねないが生きれない。
    今の時代ならもっと自由に生きれたのかもしれない。
    でも、誰もが生まれた時代に生きるしかない。
    この状況を私なら耐えられただろうか。
    多くを語らない男性の心的描写が胸に響きました。

  • 藩主への忠誠を示す「追腹」を禁じられた主人公は死ぬほうが楽と思えるようなイジメや嫌がらせを受ける。その上次々と起こる身内の不幸。生きる意味を失いかけた時に、今までの自分を振り返った。その時見えたものは“力を出せば克服できたのに何もせず嵐が去るのをただ待っていた自分”だった。それから主人公は本当の意味で「生きる」ことに向き合っていく。どん底から立ち上がるところが感動だ。

  • ずっしりと重たく品格を感じる筆は時代小説にふさわしく読んでいて安心感あり
    この筆致で描かれる世界は全編通して暗いが、そこに人生の苦しさと一筋の光を凝縮している
    視覚的に鮮やかなシーンが頭に浮かぶ小説たち
    しかし、ちょっと暗すぎかな・・・

    二作目が素晴らしい出来だと思う
    テーマも短編としての切れ味のよさも、直木賞にふさわしい一級品
    しかし表題作は、時代ものならではのテーマで、それゆえに普遍性は全くなく、現代に生きる我々はどう読めばいいのか分からなかった
    最後の短編も暗くて渋すぎ、共感は難しい

    この作者の文体はすごく好み、他の作品も読んでみたいけど、この作品集が直木賞を受賞したことには疑問を感じます

  • 乙川さん、大好きです。派手さがあるわけではない、夕凪の海のように落ち着いた美しさに酔わされる、そんな作品です。

    三作ともほんとに素晴らしかったと思います。個人的には表題作が特に好きです。

    派手さがない、目新しさがない、と評価する人がいるかもしれませんが、逆に問いたくなります。こんなに綺麗な文章が書ける人がそうそういますか、と。

    奇をてらう発想や予想だにしないどんでん返しもときには味わいたいものですが、きれいな話をきれいに書く、そこを生きる人を描く、小説の根幹のようなものを教えてもらえたと思います。

  • 直木賞

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著者プロフィール

1953年 東京都生れ。96年「藪燕」でオール讀物新人賞を受賞。97年「霧の橋」で時代小説大賞、2001年「五年の梅」で山本周五郎賞、02年「生きる」で直木三十五賞、04年「武家用心集」で中山義秀文学賞、13年「脊梁山脈」で大佛次郎賞、16年「太陽は気を失う」で芸術選奨文部科学大臣賞、17年「ロゴスの市」で島清恋愛文学賞を受賞。

「2022年 『地先』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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