- Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167200503
感想・レビュー・書評
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今年のNHK大河ドラマは「鎌倉殿の十三人」。大河ドラマは「花神」以来見ていませんが、鎌倉の街が好きという理由で、今回は見ます。ついでに鎌倉幕府を扱った本書も読んでみました。文庫のカバーは大河ドラマの主人公を扱っていることを強調した新しいカバー、従来のカバーと二重になっていて、売ってやるぞ感の強い文庫です。しかし、複雑な鎌倉幕府の内幕をわかりやすく描いた、非常に面白い歴史小説であり、睡眠不足になりました。
本書は源頼朝の伊豆挙兵から鎌倉幕府の成立を中心にした連作短編集です。「悪禅師」では阿野全成(頼朝の弟)、「黒雪賦」では梶原景時、「いもうと」では北条保子(北条政子の妹で全成の妻。阿波局)、「覇樹」では北条義時をそれぞれ主人公としています。
短編集ですが、4編の短編は時系列に並んでいて、頼朝の伊豆挙兵、平家の滅亡、頼朝の死、鎌倉殿の十三人の登場、実朝の暗殺、承久の乱までが俯瞰できます。そして、読者が知るのは鎌倉時代が陰謀と裏切りが渦巻く、非常に血なまぐさい時代であったということ。小説は短編集の4人の主人公が何を考え、何を成し遂げ、何を失敗したのかを複雑な人間関係の中で描きます。一歩間違えると首が飛びかねない極限状態での主人公の死に物狂いの言動は、読み始めると止めることはできませんでした。
大河ドラマのタイトル「鎌倉殿の十三人」は何となく和気藹々とした雰囲気もありますが、小説は「一見合理的にみえるこの制度は彼らの野望の渦が苦し紛れに生み出したものでしかなかったのだ。だから合議制は始まった時から比企、北条の血なまぐさい相剋をはらんでいた」と説明しています。読んでゆくうちに、「鎌倉殿の十三人」が合理的な合議制というシステムではなく、殺し合いクラブのような恐ろしさを含む集まりであることがわかります。
昭和40年の直木賞受賞作。お勧めです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
来年2022年のNHK大河ドラマは、三谷幸喜作品の「鎌倉殿の13人」です。そんな時代を描き直木賞を受賞した永井路子さんの代表作品。「炎環」。主人公・北条四郎義時を中心に鎌倉幕府成立の裏には、彼らの野望が激しく燃え盛っていた。
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いやぁ面白かった。時代を超える名作だと思った。さすが直木賞受賞作というか。特に、梶原景時の話が印象に残った。この時代の小説が意外に少ないのが残念。
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大河ドラマのキャストが発表されたので、予習のために読んだ。鎌倉幕府成立期を舞台にした連作中編で、主人公はそれぞれ、全成、梶原景時、阿波局、北条義時。前の3つは雑誌に掲載されたものだが、最後の1編は単行本にするときに書き下ろしたものだという。たしかに、これだけ異質だった。展開が駆け足で、入れ替わり登場人物が現れるので、固有名詞を追いかけるのに苦労した。ドラマの人物相関図を見て、役者のイメージで補いながら読了。小説の読み方としては邪道かもしれないが、それでようやく話を消化できた。面白いけど読みにくさはあった。
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北条義時主人公の大河ドラマ化が決まったので、読んでみることに。源氏旗揚げ〜承久の乱までを描く。
物語は章で主人公が異なり、出来事が重複する部分もあるが、同じ出来事、歴史でも主観が違えば、こうも違うものになるのかと感心。
鎌倉時代は初めてだったが、興味を持った。
有力御家人の争いは、戦国大名のそれ以上に血生臭さを感じさせるものがあった。 -
何度読んでもいい。三谷幸喜の大河ドラマが決まって久しぶり読み返した。高校生の時にはわからなかった主人公らの気持ちが、年をとってわかるようになった。
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鎌倉幕府の成立の裏側で起きた覇権争いを、阿野全成・梶原景時・阿波局・北条義時の視点から語られている。
勝者から見た歴史だけでなく、敗者や脇を固めた人々の視点から見る歴史は事象を多面的に捉えることができて、一人一人の信念や思惑がひしめき合って歴史が作られていくのだと感じられた。
特に梶原景時は義経との対立もあり、これまでは讒言で人を陥れるという印象が強かったが、自分の立場を弁え頼朝の武家による政権成立のために憎まれ役を買った人だったと考えると、頼朝や義経の違う側面が見えてきて面白い。
もう一人、阿波局は最後までその真意が掴めない、不思議かつ恐ろしく感じる女性だった。
全体的に中心人物から一歩引いた位置で俯瞰している四人だったので、それぞれに感情移入をすることは少ないが、それが逆に時代の流れを濃く感じられたように思う。 -
四篇の連作で、ひとつの『炎環』という作品をなしている。
四篇とは、
『悪禅師』
『黒雪賦』
『いもうと』
『覇樹』
であり、それぞれ、全成、梶原景時、阿波局、北条義時が
主役に据えられている。
あとがきに、
「一人一人が主役のつもりでひしめきあい傷つけあううちに、
いつの間にか流れが変えられてゆく――
そうした歴史というものを描くための一つの試みとして、
こんな形をとってみました。」
とある。
まさに、その試みが成功し、
多面的に鎌倉時代の幕開けを描くことができている。
私は『黒雪賦』が一番好きだった。
梶原景時が、義経の側から見ると讒言者のように見られることもあるが、
彼は彼なりに頼朝の意を汲んで自分の役回りを全うしたという見方が、
新鮮で面白かった。
永井路子さんの作品の中でも特に面白い一冊だと思った。