真珠夫人 (文春文庫 き 4-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167410049

作品紹介・あらすじ

真珠のように美しく気高い、男爵の娘・瑠璃子は、子爵の息子・直也と潔い交際をしていた。が、家の借金と名誉のため、成金である勝平の妻に。体を許さぬうちに勝平も死に、未亡人となった瑠璃子。サロンに集う男たちを弄び、孔雀のように嫣然と微笑む妖婦と化した彼女の心の内とは。話題騒然のTVドラマの原作。

感想・レビュー・書評

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  • 菊池寛、寛忌。
    大正9年「大阪毎日新聞」「東京日々新聞」連載。
    大正華族の没落「通俗小説」
    20年前の文庫帯が残っていて、

    日本小説史上の大傑作、復刊‼︎
    美しき男爵令嬢を襲った残酷な運命

    当時、テレビドラマ化されているらしい。
    だって、昼メロの匂いがする。

    そして、菊池寛文学全集からとなるが、解説が川端康成。菊池寛について、他の作品にも触れて語っている。

    まず、プロローグ部分が惹きつける。
    たまたま、当時はまだ贅沢なタクシーに同乗した美しい青年の事故死。彼の残した大学ノート。
    遺言は、ノートは、海へ捨ててください。
    腕時計を“るりこ”に返してください。
    同じタクシーに乗り看取った男は、その遺言を叶えようと動き出す。

    圧倒的な美貌を持つ気高い未亡人、るりこが、主人公。彼女は、正義感の強い男爵の元、大切に育てられていた。この男爵は、人望も厚く政界で活躍するが、生真面目さと面倒見の良さで家計は逼迫している。
    そんな時、るりこは恋人と共にあるパーティに出席して、正田という男の反感を買ってしまい、金を使った罠に嵌められていく。
    身動きできないところまで追い詰められ、るりこは、正田と結婚する決意をする。
    そこから、るりこの反撃が始まる。るりこの思惑通り、彼女の美貌と行動力で、正田家は、るりこの思惑通りに崩れていく。
    しかし、彼女の心の傷は癒えない。彼女は、その美貌と英智から男たちを虜にしていく。
    それは、別れることになってしまった恋人への想いを忘れるため。
    最期の時、彼女は、遂に初恋の恋人に会うことができる。哀しい別れとなるが、彼女の気持ちは、報われたのか。
    さすが、小説の神様。

    • ゆーき本さん
      ドラマやってたねぇ、と思って調べたら
      「牡丹と薔薇」と勘違いしてた笑
      ドラマやってたねぇ、と思って調べたら
      「牡丹と薔薇」と勘違いしてた笑
      2024/03/07
    • おびのりさん
      猪野郎ね。
      あれも名作。
      猪野郎ね。
      あれも名作。
      2024/03/07
  • 長さを感じず、あっと言う間に読める。面白い。
    人間の表裏一体な感情が見事に描写されているように思う。特に女性の揺れ動く様々な感情が、さらけ出したくないのだが良くわかる。菊池寛、男なのに恐るべし。

    人の感情は常に揺れ動く。しかし信念、信条をもって覚悟を決めれば揺るぎない人になれる。瑠璃子しかり、信一郎しかり...

    この時代ならではの事情で、自分の思い通りにいかない結婚になった瑠璃子だが、揺るぎない覚悟は相当だったのではないか。自分の信念を貫くのか、人としてどうかという道徳。相反するときにとる行動は?

    人としてを選んでいる私。そして常に不満を抱いている私。

    瑠璃子は、芯があり、最高の美貌をもってしても、あのような生き方しか出来なかったのか…?時代のせいなのかも知れないが、初恋は拗らせたら駄目なのね。
    最後は報いを受けるが、一番解放された瞬間だったのだろう。胸が痛くなる。

  • 芥川賞と直木賞の創設者であり、文藝春秋社の創始者である菊池寛の長篇小説。

    園遊会に招かれた華族に生まれた若い恋人達が、拝金主義の主催者の男と口論になり、お金こそ全てと信じて疑わないその男は、侮辱された恨みを晴らすため、女性の父が金策に窮することにつけ込んで罠に嵌めます。
    追い詰められた女性は、恋人と引き裂かれて、憎むべき男と愛の無い結婚を選ぶことに。体を許さぬうちに、その男も亡くなりますが、美貌の未亡人を世の男性たちが放っておくはずも無く、サロンと化した自宅に集う男たちを翻弄することが常態化していきます。そのような様子から、しだいに妖婦と言われるようになりますが、はたして彼女の本当の心の内は…。

    この小説は、新聞に連載されていたこともあり、それぞれの章が短くて読みやすかったです。しかし、短いが故に主人公と父が、拝金主義者に追い詰められていく過程の中で、若い恋人とのやり取りや葛藤などが、もう少し書かれていたらなとは思いました。とはいえ、小説全体からすると些細なことで、話しはとても面白かったです。

    この『真珠夫人』というタイトル、愛する人のために守るものを守った女性の真の強さをよく表していると思います。ただ、これが小説だから心情を解することができますが、リアルの世界では、彼女はかなり嫌われるでしょうね。通俗小説として割り切って読むことが肝要です。

  • 以前昼ドラでやっていましたね(観てはいませんが)。新聞に掲載された通俗小説だけに、ストーリーに惹き込まれました。会話文が大袈裟かつ滑稽で、どことなく漫画みたい。「ははははは」という笑いが会話の後にくるのが拍子抜け。こんなに長い小説を、一定の情熱とブレない調子でもって、縷縷として原稿用紙に綴っていた明治大正の文豪はすごいですね。解説が川端康成。

    硬い殻をわると、気品のある純白の輝きを放ちながら堂々と座しているかのような真珠。「真珠」を冠するにぴったり。こんなご婦人いないでしょうね。貴重です✨

  • まず表紙の鮮やかな人物画に目を奪われました。意志の強そうな瞳、真珠のような柔肌、麗しい唇、艶やかな波打つ黒髪。美しく気高い瑠璃子のイメージにぴったりです。
    家の借金と名誉ため、身勝手な男の意地のため、瑠璃子の初恋は実りませんでした。そして彼女は自ら愛憎の渦へ身を投じます。
    けっして体も心も許さなかった結婚生活は、憎き夫の思わぬ死によって幕を下ろします。ここで瑠璃子は初恋の直也の元へ戻りませんでした。やはり、お金に苦労していた生活から財力がほしいままに使える今の地位は手放せなかったようです。そして処女のままとはいえ、一度直也との愛を自ら手放したことで戻ることが出来ないと思ったのかもしれません。娘となった素直で優しい美奈子のことも気がかりだったでしょう。運命の分かれ道はここだったのに・・・
    未亡人になった瑠璃子はたくさんの男を弄び、孔雀のように嫣然と微笑む妖婦と化します。瑠璃子は美しく誰もが跪くような女性ではあったけれど、聡明ではなかったのかもしれません。彼女が選択していく人生は、ますます直也との初恋に胸をときめかせていた純真な彼女自身から遠くなっていくだけのようでした。でもそれは彼女が彼女自身を許せず、直也への償いもあって自らを貶めていたのかもしれないなと思いました。
    だから、娘となった美奈子の初恋を誰よりも守ってやろうと願っていたのでしょう。それなのに、瑠璃子自身がその初恋を汚すことになってしまいます。そして、とうとう悲劇が起こります。
    女性が思いのまま生きられなかった時代。その時代に抗おうとしたひとりの女性。
    男たちの愛を手玉にとり、華麗奔放に生きた瑠璃子。彼女の駆け抜けた短い人生はスキャンダラスなものでした。
    それでも読後感は、そういうドロドロしたものではありませんでした。
    生涯、瑠璃子が大切にしていた写真。みなしごになった美奈子の為に死期迫る中、呼び寄せた人物。
    初恋に捧げた瑠璃子の生き様は、女の意地とプライドを掛けた高潔なものにわたしは思えたのです。

  • 「瑠璃子」さんにどんどん魅かれて、読むスピードも早くなってあっという間に読みきってしまった作品でした。本当に男性が書いたのかと思うような女性目線の作品です。時代設定もあるからか、男性と女性の価値観に関して、当時の社会や文化を知ることもできる。男性優位の社会のなかで、このような強い女性を描かれているので、時間が経っても色あせないので、今でも読まれている作品なんだと思いました。

    最後のほうの主人公が瀕死状態のときに現れた昔の恋人とのシーンが忘れられません。唯一本当の主人公の姿を知っている昔の恋人への最後の笑顔を塑像すると、彼との約束を守ったことを無言で伝えたのではないだろうかと思えてきました。

  • 新婚の渥美信一郎が偶然タクシーで乗り合わせ、交通事故で死亡してしまった学生の遺品を受け取り、彼が死の間際に漏らした「瑠璃子」という言葉を耳にする。信一郎は学生の葬儀に参列し、人を圧する威厳と理知的な美しさを併せもつ二十過ぎの未亡人である荘田夫人を目にし、彼女が瑠璃子であることを知る。物語は過去に遡り、気位の高い貧乏華族である唐沢男爵の娘の瑠璃子が、どのようにして年の離れた成金の荘田勝平に嫁いで未亡人になるに至ったかの経緯と、彼女が漂わせる妖しい魅力の源流をたどる。そして再び現在、多くの男友達にかしずかれる瑠璃子に魅了されつつある信一郎の視点に戻る。

    大正九年の新聞紙上で連載された小説。作者にとって初の本格的な「通俗小説」とされており、そのことを意識してか、作中にも登場人物たちが通俗小説の定義をめぐって論争をするシーンがあります。そのことを最も強く感じた場面は終局、瑠璃子を中心とした主要人物に対する解釈が作者によって定められている点でした。語りようによっては判断を読み手に委ねることができる作品について回答まで提示しているのは、娯楽作品を志向した作者の明確な意図によるものなのでしょう。ちょうど一世紀前の分量も少なくない作品にもかかわらず、違和感なくサクサクと読み進められたのは、作者の試みが成功した証かもしれません。

  • ストーリーの展開を含めて、ぐいぐいと惹きこまれていく。
    大正時代の小説、古臭い小説、との先入観を持つ必要は全くない。いや、大正時代だからこそ、新たな価値観の萌芽の時代だからこそ、男女の価値観において、このような興味深い小説が書けるのかもしれない。

    女性の生き方、フェミニズムをテーマにしているのだが、今でも色褪せないテーマであるし、考えさせられることも多々ある。

    ***
    「男性は女性を弄んでよいもの、女性は男性を弄んで悪いもの、そんな間違った男性本位の道徳に、私は一身を賭しても、反抗したいと思っていますの。今の世の中では、国家までもが、国家の法律までが、社会のいろいろな組織までが、そうした間違った考え方を、助けているのでございますもの。」

    「そうそう、ワイルドの警句に『結婚の適当なる基礎は双方の誤解なり』という皮肉な言葉がありますが、貴君の私に対する、結婚申し込みなんか、本当に貴君の誤解から出ているのです。」

  • 90ページすぎたあたりからぐっと引き込まれてしまい、月曜から夜更かしして読了。一番は若者の非礼を本気に取りすぎて執拗に嫌がらせをした勝平が良くなかったと思うのですよ。私は死に際の言葉を聞いても瑠璃子のように心動かされず、彼のこと最後まで嫌いでした。。獣と戦ううちに獣に似てしまった瑠璃子ですが、心の底は…。彼女だって若かったし仕方ないと思う。報い受けてるし。通俗小説ではありますが、それこそ時代背景をどのくらい知っているか、読み手が女性か男性かで印象は大きく変わるでしょう。(そんな議論が作中にもありましたが)

  •  
    ── 菊池 寛《真珠夫人 1920‥‥ 20020802 文春文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4167410044
     
     
    (20231128)

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著者プロフィール

1888年生まれ、1948年没。小説家、劇作家、ジャーナリスト。実業家としても文藝春秋社を興し、芥川賞、直木賞、菊池寛賞の創設に携わる。戯曲『父帰る』が舞台化をきっかけに絶賛され、本作は菊池を代表する作品となった。その後、面白さと平易さを重視した新聞小説『真珠夫人』などが成功をおさめる一方、鋭いジャーナリスト感覚から「文藝春秋」を創刊。文芸家協会会長等を務め、文壇の大御所と呼ばれた。

「2023年 『芥川龍之介・菊池寛共訳 完全版 アリス物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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