蝶 (文春文庫 み 13-8)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167440084

作品紹介・あらすじ

インパール戦線から帰還した男は、銃で妻と情夫を撃ち、出所後、小豆相場で成功。北の果ての海に程近い「司祭館」に住みつく。ある日、そこに映画のロケ隊がやってきて…戦後の長い虚無を生きる男を描く表題作ほか、現代最高の幻視者が、詩句から触発された全八篇。夢幻へ、狂気へと誘われる戦慄の短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • ずっと読みたいと思っていた皆川作品をようやく初読みしました。

    自分の読書力と日本語力の未熟さを痛感させられたというのが、最初の、そして正直な感想です。

    いやぁ〜まいった。

    深い、実に深い。

    皆川文学を読むにあたって、手始めにと手にした理由は本書が短編集である事。

    さらっと読み進められると思っていた自分が情けないやら、恥ずかしいやら(苦笑)

    それぞれの物語に密接にかかわり、深みを増すのが添えられた俳句や詩。

    叙事詩的な文体であるが、これぞ日本の純文学なのであろう。

    現段階では最後に記された「遺し文」のみが、少し理解出来た気もするが、本作を読み取れる読書力を身につけ、再読した時にはきっと違った景色を想い描き、空気を感じ、涙することが出来るのだろう。

    その日を楽しみにこれからも読書を続けていきたい。

    説明
    内容紹介
    インパール戦線から帰還した男は、銃で妻と情夫を撃ち、出所後、小豆相場で成功。北の果ての海に程近い「司祭館」に住みつく。ある日、そこに映画のロケ隊がやってきて……戦後の長い虚無を生きる男を描く表題作ほか、現代最高の幻視者が、詩句から触発された全八篇。夢幻へ、狂気へと誘われる戦慄の短篇集。
    目次
    空の色さえ/蝶/艀(はしけ)/想ひ出すなよ/妙に清らの/龍騎兵(ドラゴネール)は近づけり/幻燈/遺し文/解説・齋藤愼爾
    『蝶』は、現代文学の砂漠の沖に光輝まれなる孤帆として、美の水脈を一筋曳いてきた皆川博子文学の一頂点といえる短篇集である。──解説より
    内容(「BOOK」データベースより)
    インパール戦線から帰還した男は、銃で妻と情夫を撃ち、出所後、小豆相場で成功。北の果ての海に程近い「司祭館」に住みつく。ある日、そこに映画のロケ隊がやってきて…戦後の長い虚無を生きる男を描く表題作ほか、現代最高の幻視者が、詩句から触発された全八篇。夢幻へ、狂気へと誘われる戦慄の短篇集。

  • 短編集。人間の「生という凶暴性」が、終戦後の時期に「自由」や「民主主義」を掲げていて、そのことを忌んでいたという風にも読み取れる。しかし実はそれよりも、人間のある部分、狂奔するのとはまた違う、「生きている」ナマの部分を繊細かつ骨太な文章で描き出しているように感じた。やわらかい、あやうい美しさが頭を内から照らし出すようであった。

  • 8篇から成る短篇集。それぞれに俳句、詩の引用が載せられている。
    皆川博子さん初読。大満足。まず「空の色さえ」から、灰まみれになった他人の想い出でも覗いているかのような感覚を覚え、物語に引き込まれた。片目のない叔父、小間使いと戯れる奥様……。「妙に清らの」と「幻燈」には特に惹かれた。幻想的な世界に夢中になって読んだが、自分に詩句の知識がないことが悔やまれる。どういう意図があってこの詩や俳句が引用されているのか、というのを知りたい。
    皆川さんのほかの作品も読みたいと思った。

    空の色さえ/蝶/艀/想ひ出すなよ/妙に清らの/龍騎兵は近づけり/幻燈/遺し文

  • 遠い水平線の彼方の幻想の世界に誘い込まれるような【皆川博子】による八編の短編小説集。表題作『蝶』に登場するインパ-ル作戦から帰還した敗残兵は、戦後日本で魂の抜け殻が彷徨うように虚無に生きる男を追った、いたたまれなく切ない作品である。

  • 詩句から触発された幻夢、全八篇。
    どれも素晴らしい味わい。日本人で良かったと心から思う。
    悲しくて、恐ろしい美の世界。『空の色さえ』は大好きなモチーフ、隠された人の話し(病気や何らかの欠落で蔵や座敷牢で暮らす人)一編目から幻夢の網の目に絡めとられて恍惚としてしまう。
    表題の『蝶』も良かったけれど一番は『龍騎兵は近づけり』二階の彼等、怖い怖い。波の音に微かにバグパイプの音色が聞こえてくるようで…胸が締め付けらる。皆川博子、やっぱり大好き

  • 日本語が綺麗。
    どの短編も喪失感が残る。

  • 表題作のほか、7つの作品が収められた短編集です。舞台はいずれも第二次大戦前後の日本。退廃的で、死の匂いのするこのような作品を美しいと思うのは、生きることは罪深く、哀しいことだと、誰もが知っているからかもしれませんネ。詩のように紡がれた言葉が描く、密やかで耽美な幻想世界に、どっぷり浸ることのできる1冊でした。

  • 戦前〜戦後にかけての個人の喪失感を描いた作品群。ただひたすら文も話も美しいです。割とどの話も後味の悪い終わり方をするのですが、読後感はさらっとしてます。久しぶりに当たりを引いた気分で、他の作品も読んでみようかと思ってます。

  • 乱歩の「うつし世はゆめ よるの夢こそまこと」がしっくりくる短編集。
    作品はすべて戦前から戦後を舞台に、戦前の生活は夜の夢のように追想される。

    各作品に引用された詩歌が印象に残って、1編は20分くらいで読めるみじかさでも読んだ後に想像が広がった。

    時代背景は共通しているが、連続性はないのでどこからでも読むことができるが、「艀」と「想い出すなよ」や、ラストの「遺し文」の並びも美しいと思う。

    特に気に入った「幻燈」は映像作品でも見てみたい。

  • ふとした契機で知った皆川さんの本。
    これが最初に読んだものだけれど、やばい。美しい。



    舞台は第二次世界大戦前後の日本。
    通信、伝達手段が限られている当時の世界は、とても閉鎖的で濃密に思える。 その中での人間との関わりはとても限定的で直接的で、生々しい。
    そんな中で彩られる幻。恐ろしくて気持ち悪くて、読んでいて鼓動が速くなった。
    …うん、私には皆川さんの感想を述べられるほどの語彙がないです。
    でも、とてもとてもおすすめ。

  • 現実と幻想の境界があいまいというか、わたしが幻だとおもうことが主人公たちにとっては当然の現実で、読んでいて一人とりのこされた気持ちになってくる。見てはいけないものを見て、知ってはいけないことを知ってしまったような感じ。こわくて美しくてぞわっとする。このぞわっがいい。
    どれも好きなのだけど、『妙に清らの』『龍騎兵は近づけり』『幻燈』が特に好き。『空の色さえ』のラストも好き。
    (もっと詩歌に造詣があればよかった...)

  • 大人になれないものうつろうものそして空はあり時はある
    時流に追いつくことができない
    たとえ居場所がなかったとしても美しいもの
    死の隣で生きる
    幻想における嘔吐

  • 最初の2篇だけ読んで断念。

    なんかこう…スラスラと頭に入ってこない文章。カロリーが高いというか。
    んでもって幻想…?となる。
    漂ってくる雰囲気の良さは伝わる…が、刺さりはしなかった。
    描写で見せたいのか幻想みで見せたいのか…よう分からんかった。
    もうちょいいろんなもの読んだ後に読みたくなったら戻ってこよう。

  • 4.07/777
    内容(「BOOK」データベースより)
    『インパール戦線から帰還した男は、銃で妻と情夫を撃ち、出所後、小豆相場で成功。北の果ての海に程近い「司祭館」に住みつく。ある日、そこに映画のロケ隊がやってきて…戦後の長い虚無を生きる男を描く表題作ほか、現代最高の幻視者が、詩句から触発された全八篇。夢幻へ、狂気へと誘われる戦慄の短篇集。』

    目次
    空の色さえ / 蝶 / 艀 / 想ひ出すなよ / 妙に清らの / 龍騎兵は近づけり / 幻燈 / 遺し文


    『蝶』
    著者:皆川 博子(みながわ ひろこ)
    出版社 ‏: ‎文藝春秋
    文庫 ‏: ‎221ページ

  • 詩句が引用され、そこから紡がれた物語はどれも暗い影が射し複雑な感情を引き出す。
    戦前から戦後と移ろう中で、人々の感情には容易に切り替えられない虚しさや悲哀が見て取れ、やり切れない。
    研ぎ澄まされた文章の裏を探りたくなる艶かしさがある。多くを語らない部分に奥深さを感じる。読後は悲しみに包まれ、今もふと考えてしまう。

  • 先の大戦前後の日本を舞台にした短編集。
    谷崎潤一郎のような悪魔主義的な背徳の美を綴る。
    筋書きや文章でなく、雰囲気を堪能する作品に思える。
    ひたすらに美しく、通州事件の生還者である令嬢が凄惨な最期を遂げる一篇「遺し文」にて、彼女の描写として選ばれる凄艶という語が、全作品の評価として最も相応しいのではないかと。
    現と幻、生と死、美徳と悪徳とが等価に溶け合い、その境界が曖昧であるために全作品が、一つの短編の題名である「幻燈」の如くに非現実的な色合いを帯びている。
    たまゆらの白昼夢に魂を奪われるかのような怖さを宿す一冊。

  • 空の色さえ


    想ひ出すなよ
    妙に清らの
    龍騎兵は近づけり
    幻燈
    遺し文

  • 暗澹たる心持ちのまま、通り過ぎていくモノクロの視界は虚無に染まっている。慟哭することも叶わず曇天を抱え、嵐にも雷雨にも大雪にも耐え得る鋼を手にしても、穏やかな春の陽射しが耐え難い。暗い眼差しの上でひとり滑るは舞台袖。匂い立つような女たちの色香は寂しく瞬く星に似ている。引き金に掛かる指先は疾うに痺れて痛みにさえ触れず。

  • 2019年12月21日に紹介されました!

  • 戦前戦中戦後の混沌とした空気と、残酷な昏さと静かな狂気に絡めとられる短編集でした。
    大好きな空気です。
    作中で使用される詩や句も素敵です。
    「想ひ出すなよ」の少女たちの残酷さ、「妙に清らの」の凄絶に美しい綾子叔母と叔父のラスト、「龍騎兵は近づけり」の勝男のバグパイプ、「遺し文」もその後が切なくて切なくて…皆川ワールドを堪能しました。
    皆川さんは幻想小説も美しくてとても良いです。
    もう逃れられません。

  • 2015-3-3

  • 昭和ロマン漂う短編集。独特の世界観。山場はなく単調な短編が多く印象に残る作品はなかったけど、哀愁漂う昭和レトロを味わいたい時に読むとグッとくるかも。

  • 回りくどくてちょっと抽象的だけど色気のある話
    皆川さんの本て、みんなこんな感じなのかな
    二度借り?
    でも読んだ記憶がない

  •  初めて読む皆川博子で、本書は8編からなる短編集。
     大半の作品は戦中・戦後が時代背景になっている。
     価値観が180度変わってしまった、いや180度変えなければならなかった時代に、上手く溶け込むことが出来なかった、あるいは迎合することが出来なかった人々の話が多い。
     著者の作品に対して、幻視、夢幻といった単語が散見できるが、確かにそう呼ぶ以外にない作品がある反面、現実そのものを描き上げたと思しき作品もある。
     ここに登場する、少年や少女、男や女たちは、きっとあの時代に実際に現実として存在していたのだろう、と思わせてくれるのだ。
     どの作品も壮絶であり、凄みがあり、妖しくも哀しい。
     どの作品も強く胸を締め付けられる。

  • 8作の短編集。太平洋戦争前から戦後直後くらいまでの時代の話です。
    子供の目から見た、大人の世界。
    変わってしまった世の中に復員してきた男。
    支配される女性。
    世の不条理さというものに押しつぶされそうな、いや、押しつぶされる人々の話なのかな。
    その不条理さを、それぞれ受け止められない者、受け流して行く者それぞれかもしれないけれど。


    好きとか嫌いとかそういう次元は超えてしまったと思われるような小説でした。
    言葉の強さというか、異次元の世界へ引きずりこまれたというか、何かの力に翻弄されて読み切ってしまいました。
    固い単語や文章で書かれていて、強烈な印象とともに、詩や歌が絡んでくるせいか、頭の中でセピア色のその場面が浮かんでくるようでした。
    なんだろう、どこか暗くて淫靡で、残酷で、清らで哀切。

    またこの作者の新しい本が読みたいです。
    でも言葉が難しい(T . T)

  • この作者、どうしてこんな小説が書けるのだろう。
    子供のもつイノセンスと、愛欲と、さらに大人にも備わるイノセンスと、愛欲。
    「たまご猫」などと比べて、異様に密度が濃い。

  • 皆川博子の本を読むときは、自然に背筋が伸びるような感覚を味わう。
    自分の感受性やら、言語感覚やらを、試験されてるような感覚。
    圧倒的な美意識の高さは、難解で、曖昧で、いつも必死ですがりつくような思いで読んでいる。
    楽しいか、面白いか、と言われればなんと答えればいいだろう。
    素敵です、とでも応えようか。

  • 耽美。ときに淫靡。

  • どの作品にも戦争が黒い影を落とす。引き込まれるというよりは向き合う作品。それまでとは180度変わった平和で民主的な戦後の世界。心にも身体にも残酷な傷を負った人々はどうやったら何もかも綺麗さっぱり忘れ前向きに生きられるでしょうか。なかったことにはできないのです。残るのは耐え難い狂気。読者はぽっかりと開いた真っ暗な穴に入っていく。銃口を当てられたようにひやりと冷たい感触と、相反するような妖艶さに身動きがとれなくなる。そして最後には虚しい悲しみが襲ってくる。

  • タイトルがなんだか耽美だなあと思って手に取ってみた作品。
    これは、筋肉少女帯とか江戸川乱歩とか京極夏彦が好きな人にはとってもはまる作家さんだと思います!あと若合春侑。

    退廃的でとても耽美。子供目線の、戦前〜戦後くらいの時期の短編集がいくつか収録されています。
    一番良かったのは、良縁を紹介してもらうために奉公しに行ったお宅の奥様と女性同士で恋仲になってしまった小間使いの話。奥様が防空壕で焼け死んでから最後までの幻想的なくだりが読んでいてドキドキした。

    戦時中〜戦後までのエログロというかなんというか、あの時代特有の暗いエネルギーに満ちています。ミステリーもたくさん書いているらしいので、読んでみたい。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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