下流の宴 (文春文庫)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (510ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167476403

感想・レビュー・書評

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  • 多分、発行直後に読み、再読。

    東京の中流家庭としての誇りを持つ由美子。
    高校中退の息子、翔がフリーターの珠緒と結婚すると言ったことで、自分が下流に落ちてしまう、と恐怖を覚える。
    そこで、断固阻止を決意する。
    ずっと由美子に馬鹿にされ続けた珠緒は、私が医者になれば、結婚を認めるか?と啖呵を切り受験勉強を始める。

    中流は、決して上流になれない。
    下流を蔑むことで、プライドを満足させる。
    なんて話だ!と思って読んだのは、発行直後の2010年。
    その時と、12年経過した今では、同じ本を読んでいるのか、と思うほど自分の感じ方が違う。

    幼い時から、母親の価値観が全という世界で育ち、中学受験をして高校に進学した頃から、反抗することで自分を見つめ直す翔。
    今時の、と言っても2010年の若者の、ずっとフリーターで何が悪い?
    この考え方は2022年の今も、ますます増長して受け継がれていると思う。コロナで成人式が無くなった、2000年産まれ、あんなにミレニアムベビーと騒がれた子どもの20年後。
    子どもは産まれたときから不況で、私自身は決して裕福だった生活とは思えないが、子どもは、私を恵まれた生活を送ってた、という…

    気の毒なことに、高校中退した翔には見本となるモデルがいなかった。中流家庭の自分たち家族はいかに立派か、由美子の父親は、医者だった(からエライ)その感覚は今の子には伝わらない。
    翔の父親は、なんか頼りにならない。早稲田理工学部出身でも。
    翔の姉の可奈は、対照的で、最後の大学でブランド女子大を選び、卒業後も正社員で決まっていたところがダサいという理由で断り、ハケンで華やかな商社に勤める。
    そこで、自分で稼ぐではなく、稼ぐ夫を探す。
    大変な努力により、きちんとそんな夫を確保する、しかもデキ婚で。
    周りを正しい高収入の暮らしで固めたら、幸せになると疑いもしなかった。それがあっという間に崩れ去る。
    いやらしいけど、読者としては、ざまあみろと思う。

    翔の好きだった珠緒は、受験勉強の二年間で、離れた存在になってしまう。ここに格差が生まれるが、努力に努力を積み重ねた珠緒は、これからの人生に目的が見えてきた。
    翔は変わらないから、その場に立ち止まってしまう。

    世の中や男性をナメてきた可奈の将来も気になる。
    シングルマザーとして再起するか、夫を回復させ尻を叩いて、もう一度セレブとして返り咲くのか。

    林真理子の小説で面白いのは、とにかく学歴フィルター、家系フィルター、ものすごくはっきり分かりやすく描かれているところ。
    そしてバブルっぽい描写も素晴らしい。
    話し方も…ッ、というのは、ほぼどの本でも健在。

    多分、また10年経って読んだら、また違う感想を抱きそう。また読みたい本です。自分への戒めとしても。

  • 途中でやめたので評価しません。

    好みではありません。
    前半部分のみですが、人を上流と下流で分けて見る母親と娘の愚痴を永遠読まされてる感じでつまらなかったので。


  • がんばる人がんばれない人、っていう対比。わたしはどっちだろうって考えて、どちらにもなると思った。私から見てがんばりすぎてる人を思い浮かべると、たしかに劣等感や責められている気持ち、その人がいることで自分の評価が相対的に下がることへの妬み、少なからずある。逆にもっとがんばろうよとかこうしてみたら楽しいよって言いたくなる人もいる。そういう人とは結局話が合わないし一緒にいると世界が狭まる感覚がある。

    この気持ちみんなどう処理してるんだろう?みんな同じような気持ち抱えてるけど隠してるのか、人格者はそうならないのか。

    生活レベルのことだけじゃなく、よりがんばりたいっていうのもキリがないよね。がんばっているのが正義になってしまったら、永遠に自分を認められない。珠緒はそうじゃないと思う。天性の(?)100%人と比べない幸福の感じ方。珠緒の台詞には人と比べて自分を卑下したり立場が上と感じたりそういうのはなかった気がする。

    珠緒に勇気もらったなぁ。
    あと、うまく言えないけど珠緒っていうキャラクターが本の中の人って感覚があまりないかも。珠緒に出会わせてくれてありがと〜林真理子さんって言いたくなる。

  • うわー面白い!

    こんな親にはならないし、子どももこうは育たないとは思ってはいるけど、紙一重だわ。
    私自身の環境に似てるところがあって、身につまされる…

  • 人間その気になって頑張れば、とんでもない夢でも叶えることができる。
    この本を読んでそんな風に思えるほどわたしは若くないので、ただただ「林真理子の小説」というものを楽しんだ。

    早稲田の理工学部出身の夫を持つ由美子の悩みは、20歳になる息子の翔のことだ。中学受験をして入った中高一貫の名門校に入学するも「何か合わない」と言う理由で、高校を中退してしまった息子の翔。まさか一流大学出身の夫とそこそこの女子大を出ている自分との子どもが中卒フリーターになるなんて。。。
    そんな翔が結婚したい女の子がいると言う。相手は沖縄出身の2歳年上の女の子で名前は珠緒。高卒でブスで下品だし、ちゃんとした家庭に育っていない。そんな子がうちの息子と釣り合うわけがないと由美子は思う(翔は中卒なのにね)。
    二人の結婚に絶対反対の由美子は「あなたとわたしたちではそもそも住む世界が違うのだ」と言う。「わたしは医者の家庭で育った」「うちはきちんとした家だ」を繰り返す由美子にしびれを切らした珠緒は「わたしが医者になったら、翔君との結婚を認めてください」と啖呵をきってしまう。
    由美子にはもう一人、可奈という娘がいる。彼女は結婚して専業主婦になり、いい暮らしをするためだけに、男性受けがいいお嬢様女子大に行き、そこそこめぐまれた容姿にお金と時間をかけ、せっかく決まりかけた堅実な会社の正社員の採用を辞退して六本木にオフィスがあるIT企業の派遣になり、日々高学歴高収入の男性との食事会に明け暮れる。
    可奈は父親から影で「男を食い物にして」と思われているが、わたしは自分の夢に向かって出来る限り最大限の努力をするという点では、珠緒も加奈も同じだと思う。医者になるため医学部合格を目指す夢と、みんなに羨ましがられるようなセレブリティな家庭を持つための殿方をつかまえる夢。人がそれぞれ持つ夢に、他人が文句を言う筋合いはない。

    とにかく、このどうしようもない世間知らずのぐうたら息子を、由美子は一生面倒を見ることになるのだろう。本人の持って生まれた性格や後から育った自我などを一切無視して育てた結果が、この無気力で非生産的な人間なのだから。
    結局、由美子は貧しい家庭を嫌っているわけじゃなくて、学歴がない人を下に見ているような気がした。
    学歴があったって、お金をかせげない人はこの世の中にたくさんいる。信じられないようなお金持ちも、見るに堪えない貧困家庭も、今この瞬間にそれぞれがそれぞれの思いをかかえながら、懸命に、もしくは自堕落に生きているのだ。
    そんな地層のような階級の、わたしはいったいどの辺りなんだろうと、ふと考える。



  • 相変わらず達者な筆さばきで一気読み

    「人間を目利きする視線を描かせたら、林真理子の右に出る者はいない」
    と桐野夏生さんがこの本の解説、中流の本質をついた作品だということである

    ストーリーは
    中流家庭の一姫二太郎4人家族
    建売だが一軒家を持ち
    夫は高学歴一流会社勤め、主婦も国大卒でお医者の娘だったプライドあり
    カルチャーセンターで趣味を満喫しながら、子育ても手を抜かなかったのに

    息子が高校中退、つまり中卒でフリーターになってしまい
    うまく育ったと思った姉娘も親の望み以上に「上流好み」
    あげくに息子は年上フリーター娘と結婚したいと言い出すので
    「ああ、うちが下流に落ちてしまう」のでは...

    ま、ものがたりは矢継ぎ早に展開して息もつかせないおもしろさである

    しかしなぁ、この息子のフリーター生活嗜好はどーいうことか
    もしこんなひとがほんとうに増えているとしたら暗澹たる気持ち

    下流とはなんぞや

    基準にするのは金の高だろうか
    幸せ度に関係してくるのか
    気骨のありなしということなのか

    下流とはほどほど生活ということなのか
    かつかつの生活が出来るだけ、または足りればいいと
    そこそこの賃金しか得ないでだらだらしている
    上昇志向を望まず頑張らないのが好きなのである
    貧すれば鈍する、こころが下流になるのであろうか

    現状、居心地が良ければいいという考え
    気楽な幸せ度で測る人生

    若いうちはいい、親がいるうちはまだいい
    最終的に貯金なんか出来てないから
    病気&老齢になったら公的保護になるだろう
    いえ、もうなれないだろうに(この国の財政破たんしているよ)

    どーするの!!

  • 面白かった。
    自分も由美子みたいなこと思ってるかも。

  • バブル経済崩壊以降、急激に変わる現代社会。そして、ますます広がる格差社会。一方で、世代間の意識・価値観の格差も。とはいえ、少なからず日本のどこでも誰もが潜在的にもちうる「上流」「中流」「下流」の意識。そんな現代おける「中流」の本質がストレートに描かれている。

  • 翔の無気力 覇気のなさ お金に意味を感じない、 努力を強要されると息苦しい、 頑張ってることは すごいと思うけど 自分はやりたくない などの言い分が痛い。 由美子が 翔にあの手この手で 上を目指させるところに 笑えない苦労を感じます 段々 どっちがいいのか わからなくなるな

  • 林真理子って格差が好きなんだね~。ちょっと長かったけど後半が痛快でよかった!

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著者プロフィール

1954年山梨県生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、コピーライターとして活躍する。1982年、エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』を刊行し、ベストセラーとなる。86年『最終便に間に合えば』『京都まで』で「直木賞」を受賞。95年『白蓮れんれん』で「柴田錬三郎賞」、98年『みんなの秘密』で「吉川英治文学賞」、13年『アスクレピオスの愛人』で「島清恋愛文学賞」を受賞する。18年『西郷どん!』がNHK大河ドラマ原作となり、同年「紫綬褒章」を受章する。その他著書に、『葡萄が目にしみる』『不機嫌な果実』『美女入門』『下流の宴』『野心のすすめ』『愉楽にて』『小説8050』『李王家の縁談』『奇跡』等がある。

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