ソ連が満洲に侵攻した夏 (文春文庫 は 8-11)

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  • Amazon.co.jp ・本 (374ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167483111

感想・レビュー・書評

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  •  日ソ中立条約に頼り切ってソ満国境の危機に無策の日本軍首脳。昭和20年8月9日午前1時前、ソ連軍の侵攻開始。殺戮、暴行、強姦、略奪のかぎり、長年に及ぶシベリア抑留。百万邦人が見捨てられた昭和史の悲劇。邦人を見捨て、軍と軍の関係者が先に逃げるとは。半藤一利(2021.1.12没、90歳)「ソ連が満州に侵攻した夏」、357頁、ノンフィクション、2002.8発行。

  • 以前読んだ「日本のいちばん長い日」が面白かったので半藤利一氏の著書2冊目
    この本も「日本の一番長い日」同様に太平洋戦争終戦時の歴史書。
    今回は終戦直前にソ連が連合国軍に参戦し満州に侵攻する様子、終戦(敗戦)に向けた日本政府(軍部)の動き、連合国の思惑等々を時系列的に書かれています。

    日本政府(軍部)の読みの甘さ、外交ベタとは対照的に、スターリンの野心的(狡猾)な外交術が目立つ。
    我々は後の歴史的結果を知りながら読んでいるので、当時の当事者の感覚がどうであったのか想像するしかないが、日本の外交ベタは”腹が立つ”を通り越して胸糞が悪くなる。
    正直”ヘタ”では済まされない事象が次々と。。。
    まあ、それまで日本軍は敗戦を経験したことが無いのだから仕方ない部分もあるが・・・

    終戦のタイミング一つで歴史が大きく変わる可能性があったことは、かなりのインパクトだった。

    この著者の歴史書は面白い。
    自身の意見を多く挟む事なく、かなりフラットな状態で冷静に事実を述べながら読者を引き込んでいく。
    少々重いので次から次へとはならないが、機会があればまた別書を読んでみよう。

  • 第二次世界大戦時のソ連との戦いについてはほぼ知らなかったため、勉強になった。
    文献に基づいて客観的に書かれながらも、ぽろりと感情がこぼれ出るような名文。

  • 「半藤一利」のノンフィクション作品『ソ連が満洲に侵攻した夏』を読みました。

    『指揮官と参謀―コンビの研究』、『ノモンハンの夏』、『「昭和」を点検する』に続き「半藤一利」作品です。

    -----story-------------
    かくして皇軍は百万邦人を見棄てた!
    中立条約を平然と破る「スターリン」、戦後体制を画策する米英。
    世界史の転換点で溺れゆく日本軍首脳の宿痾と、同胞の悲劇を壮烈に描く。

    日露戦争の復讐と版図拡大に野望をいだく「スターリン」、原爆を投下し戦後政略を早くも画策する米英、日ソ中立条約を頼り切ってソ満国境の危機に無策の日本軍首脳―三様の権謀が渦巻く中、突如ソ連軍戦車が八月の曠野に殺到した。
    百万邦人が見棄てられた昭和史の悲劇を、『ノモンハンの夏』の作家が痛烈に描く。
    -----------------------

    太平洋戦争終結直前の昭和20(1945)年8月9日、、、

    突如、満州に侵攻したソ連… 関東軍上層部は退避し、多くの将兵や邦人が見棄てられ、五十万人にも及ぶ人々がシベリアに送られた悲劇について、『ノモンハンの夏』に負けず劣らず、切れ味鋭い筆致でまとめてある作品でしたね。


     ■第1章 攻撃命令
      …七月十六日、米国は原爆実験に成功した。
       それが序曲だった。
       スターリンはワシレフスキーに行った。
       「前進し給え」と。
     ■第2章 八月九日
      …深夜午前一時、侵攻の火蓋は切られた。
       大本営陸軍参謀次長河辺虎四朗中将は自らの手帖に認める。
       「予の判断は外れたり」
     ■第3章 宿敵と条約と
      …満州とは日本、ソ連にとって何であったのか?
       宿敵の日ソは中立条約を結ぶが、両者の思惑には天と地の隔たりが…。
     ■第4章 独裁者の野望
      …スターリンは昭和十七年に対日参戦を決意していた!
       列強の権謀が渦巻く中、この男の野望が徐々に浮かび上がってくる。
     ■第5章 天皇放送まで
      …「語族協和」の理念は崩れ去った。
       関東軍は"撃破"を放棄し、上層部は退避する列車に乗り込む。
       こうして悲劇が始まった。
     ■第6章 降伏と停戦協定
      …「天皇の軍隊」は国民を守らず、降伏の仕方さえ知らなかった!
       国際法を無視したソ連軍によって、五十万人がシベリアへ…。
     ■第7章 一将功成りて
      …スターリンは日露戦争の復讐戦に勝利し、その陰で十八万余の日本人が果てた。
       「正義の戦争」など、ありえようもない。
     ■あとがき
     ■主要参考文献
     ■解説…辺見じゅん


    戦地では終戦記念日の8月15日に戦争は終わったわけじゃなかったんだ… ということを改めて知ることができました。

    そして、ぼんやりとイメージしか知らなかった、中国残留孤児やシベリア拘留、満州からの逃避時に発生したソ連軍等による悪行について、キチンと知る機会となりましたね。


    兵士だけではなく、開拓民や居留民一般民に対する殺戮、強盗、略奪、暴行、強姦… そして長年に及ぶシベリア拘留等々、国際法を無視したソ連軍の非道な行為については憤りを感じますが、、、

    その過酷な運命と凄惨な受難を生じさせた根本的な原因は、前線の将兵を残し、開拓民や居留民を敵地と化した曠野に放り出して、自らはいち早く退避した関東軍上層部の無責任な行動や、日本政府や日本軍の無責任な判断なんだと感じましたね。


    特に都合の悪い(起こって欲しくない)ことは起きない(=ソ連は攻めてこない!)ということを信じ込み、妄想、幻想、現実逃避をしていた陸軍上層部の責任は重い… 仕事では絶対にやってはいけないことだよなぁ。


    その後、日本は南進施策を進めることになるのですが、事実を丹念に積み上げていくと、東西の二正面作戦を避けたかったスターリンに操られていたとしか思えない… これにより、ソ連は対独戦に集中することができ、対独戦終了後に満州に攻め込んでくる、、、

    日独伊ソの四国連合なんて夢でしかないですよねぇ… 当時の国際情勢を客観的に見ることができていれば、日本政府や日本軍は楽観的な思い込みはしなかったはず。

    ソ連のことを甘く見過ぎていたとしか思えないですね。


    本書を読んで、ソ連が第二次世界大戦に参戦した際、アメリカからソ連に大量の援助物資があったことを初めて知り、その規模の大きさに驚きました、、、

    ただし、日本本土上陸作戦への転用を恐れ、上陸用舟艇だけは援助しなかったとか… アメリカはソ連を利用しましたが、ソ連を信じてはいなかったんでしょうね。


    悲惨な経験を繰り返さないためには、正しい歴史認識を持つことが大切だと感じました。

  • 日ソ不可侵条約を一方的に破棄して・・・などという認識などとは程遠い次元で、冷厳な政治戦略が渦巻いていたことを改めて認識する。

  • ノモンハンより読みやすかったです。
    昭和も平成も令和もわー国はなーんにも変わってないっすね。
    半藤一利の陸海軍への怒りの筆は現在の日本国政府にもぶつけないといけないのではないかと。先見性や想像力の欠如とかね…

  • 満蒙開拓団の悲劇は有名だが、そこに行くまでの詳細な過程が分かり、大変ためになった。それにしても、戦闘開始前から満洲防衛が放棄されていたとは。

  • H29.8.27-H29.9.23

  • 日本はソ連の侵攻に驚いた。でも、連合国側では約束事であり、かつ米国の原爆投下が分かったソ連は侵攻を早めたのだ。日本はこのソ連を介して和平工作を進めていたほど、お人好しな国だった。悲しい事実だ。

  • 満州物は被害にあった人間の目線に立って感情に訴えてくる本が多い。
    特に反戦プロパガンダを目的としたものはそうだ。
    この本は半藤氏の怒りのようなものは書かれてはいるが割合と淡々と書かれていて良かった。
    過度に醜聞を目に入れずに事実関係を鳥瞰するにはいい本だった。

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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