街の灯 (文春文庫 き 17-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167586041

感想・レビュー・書評

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  • 『娯楽』★★★★☆ 8
    【詩情】★★★★☆ 12
    【整合】★★★☆☆ 9
    『意外』★★★☆☆ 6
    「人物」★★★★★ 5
    「可読」★★★★☆ 4
    「作家」★★★★★ 5
    【尖鋭】★★★★☆ 12
    『奥行』★★★★☆ 8
    『印象』★★★★☆ 8

    《総合》77 B+

  • なんてことない日常の謎という雰囲気が立ち込めているのに、最後まで読むと深刻じゃない?という意外性もあった。
    時代物というほどじゃないが昭和の日本が舞台になっているけど、とっつきづらさはなくむしろ主人公である金持ちの娘の生活を覗き見しているようで面白かった。

  • 昭和の初期が舞台。当時の銀座や軽井沢の様子などが丁寧に描かれていてもっと知りたくなる。
    家柄というものが重視されていた頃の話なので、女性や身分が低い者の扱いが不愉快に思われたり理不尽に思われる描写もあるが、それは敢えてのことだろう。推理小説という側面をもつが、自分ではどうしようもない力が働くなかで、どう生きていくかを賢く強く生きていぬ二人の女性の話のように読んだ。

  • ベッキーさんシリーズは三冊全冊とにかく好き。舞台設定が最高です。この本を読んでから、銀座に行くことの楽しみが増えました。

  • シリーズ第一弾。

    昭和七年の東京を舞台に、家老の出身である花村家の令嬢である英子と、彼女の運転手となった「ベッキー」こと別宮みつ子が、さまざまな謎を解くミステリ小説です。「虚栄の市」「銀座八丁」「街の灯」の三編を収録しています。

    昭和初期を舞台にキャラクター性の強い登場人物たちがかもし出す雰囲気に引き込まれてしまいますが、けっしてキャラクターありきの作品ではなく、手練の著者らしくミステリとしても比較的本格寄りで、構成の妙をあじわえる内容になっています。軽く読むことができる上質のミステリといった印象です。

  • ふつうに面白い。私が好きな系統。

  • 主人公とお付きの運転手「ベッキーさん」の、謎解き物語。
    短編3話で構成されているが、各々で描写されたちょっとしたことが、他の物語で関連して行く。

    颯爽としたベッキーさんの登場は、これから読む物語への期待を大いに煽る。

    昭和初期の華族日常と言っても、よくわからないはずなのに、素晴らしい表紙絵も手伝って、当時の日本橋や銀座が、生き生きと目に浮かんでくる。

    期待感満載。

  • 昭和7年が舞台。まだ、戦前からの爵位が残り、上流階級という別世界が公然と世間の中に位置していた頃。主人公の花村英子もそういった家庭のお嬢様で、士族に属し社長を勤める父の元で伸び伸びと育っている。
    そこに進歩的な父の計らいで女性運転手が採用された。英子の通学の送り迎えや外出の供をする、ほかにお芳さんという付き添いもいる。という生活で、この女性運転手の苗字が別宮(べっく)という。
    丁度集まりで「虚栄の市」という言葉が出て、気になって、自宅にあった原本を読んでいたときで、その主人公レベッカ・シャープに因んで、彼女を「ベッキーさん」と呼ぶことにした。それがそもそもの始まり。
    ベッキーさんは武芸にも秀で、文学的な素養も深い、そこが読者には謎なのだが、どういう背景を持った人物なのか好奇心をそそられる。
    シリーズは三部作なので、これは面白そうだと期待した。

    事件は身近に起きることもあるが、英子が日常の会話の中や事件について、ふと疑問を持ってベッキーさんに話すことから始まることが多い。

    中篇三編が収められている。


    虚栄の市

    花村英子は麹町のうちを出て、皇族、華族、貴族の子弟の通う学校に通っている。女子ばかりのおっとりとした気風で、言葉遣いも独特なものが多い。その中で英子は軍人の家系で士族、財閥系の会社を経営している家柄で、帝大に通う兄がいる。まぁ庶民には無縁の育ちで裕福な生活の中にいる。ときにはそういった上流階級だけの季節の集いに、招かれたり招いたりという付き合いをしている。

    指折りの資産家である有川伯爵家の「雛の宴」に招かれた。令嬢が英語の達者な英子に興味を持ち近づいてきて親しくなり、誘われたのだ。

    華族の集まりには園遊会という名前で折に触れての集まりがある。
    「雛の宴」帰り際、有川家の友人八重子姫から「花さん《ヴァニティ・フェア》って何のことかしら」と訊かれた。

    ここからサッカレーの「虚栄の市」の話になる。

    ここまでで、英子の暮らす上流階級のしきたりや学校生活がうまく紹介されている。
    大正からの生き残りのような階級の話なのだろうか、よくある、生活に困らない別世界に住むお嬢様が、庶民の生活を珍しく監察するような物語、そんな暮らしが舞台だと距離がありすぎて面白くないのでは、というのは杞憂だった。
    気風のいい美人のベッキーさん、物怖じしない英子さんは、「ベッキーさんと私シリーズ」三冊を十分楽しませてくれた。


    銀座八丁
    進歩的な父親が就けてくれた運転手のベッキーさんの運転で銀座に出かける。当時の服部時計店にいき、そのころの風景を描き出す。
    また華族の桐原邸に招かれる、そこには軍参謀本部付けの大尉である兄がいた。健康的な人物でベッキーさんを認め世情について話したりする。
    戦前ではあるが、こういう軍の階級制度には、いつしか不穏な未来を暗示させる部分もある。
    ここでのミステリ部分は軽い、学校で流行っている暗号を解くと言うもの。兄にも友人の謎賭けがあって、それが銀座と関わりがあり、ベッキーさんと街の裏道を通り、貧しい庶民の生活を感じる。そういった世界も知っているベッキーさんの話から、英子の世界が広がっていく。


    街の灯

    表題になった三編目は読み応えがある。
    夏になると軽井沢に行き恒例の避暑生活に入る。学校の友人たちも同じようなもので、道でであったりする。
    招かれた映画会で人が死ぬ。今回の謎解きのテーマ。
    だが、それだけではない、年頃のお嬢様が、将来を選ぶ時、しきたりや生活の安定、家同士のつりあいなど、拘らなければやすやすと手に入れることが出来ることに少しの不満と、大きな安心を感じていることもまたありがち。
    検事で作家の叔父がちょっと顔を出しているところも面白い。

    「街の灯」はチャップリンの映画から採っているが、そこの部分がとてもいい。話を引き締めている。

    英子はどう育つのだろうか。ベッキーさんの目から広い世界が見え始めてくる。


    作者の安定した穏やかな筆致を楽しみながら、「即興詩人」を引き「ブッポウソウ」について知る。様々な雑学(博学)が彩る中を読み進めることが出来る味わい深い一冊になっている。

    余談だが、私が始めて持ったペンタックスの「アサヒペン」らしい描写がある、普通なら一齣分のフィルムに二枚写せる。時代が違ってもこうしてあのカメラは生まれたのかと嬉しかった。

    参考にされた巻末の沢山の文献を見ながら、当時の風景を忠実に織り込みながら出来上がった小説が読めることが嬉しい。

  • 士族出身の某財閥のご令嬢花村英子と女性運転手「ベッキーさん」の物語。三篇が収められている。ベッキーさんの素性については雇い主である父は知っているが、読者と英子には知らされていない。きりりとした容姿、頭脳明晰、文武のどちらにも長けた謎の女性。このふたりが身近に起きる殺人事件や、ちょっとしたなぞ解きに挑戦する。上流家庭の女学校生活、銀座の町並み、お菓子、江戸川乱歩、帝国ホテルなど、ミステリーのあいまに漂う昭和初期の雰囲気を楽しめます。

  • 昭和7年の東京が舞台。
    主人公は士族出身の上流家庭のお嬢様とその運転手。
    色々な事件の謎を解いていくのだが、ところどころに時代を感じさせる描写が面白い。
    短編で楽しく読める一冊でした。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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