ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 下 (文春文庫 ハ 29-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (621ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167651831

作品紹介・あらすじ

「Die for a tie」(引き分けるために死ぬのだ)-中国参戦はないというマッカーサーの誤算が引き起こした消耗戦。この凄惨な戦争の始まりから終結までを、膨大な資料と生還した兵士たちのインタビューで詳述、その歴史的意義を新たな視点から照射する。ハルバースタムが10年の歳月をかけて取材執筆、最後の作品にして最高傑作。

感想・レビュー・書評

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  • トルーマンは人気がなかったが、歴史家が彼を救った。

  • 朝鮮戦争に関わった各国の政治・軍事のリーダーたちの誤算と、それによって犠牲になる兵士らを描いている。
    誤算、相手への無知や偏見といった朝鮮戦争の失敗は、ベトナム戦争でも繰り返されることとなった。これが、ハルバースタムが忘れられた戦争と言われる朝鮮戦争を書いた理由なのだろう。

  • 今まで持っていた朝鮮戦争のイメージが一変したし、マッカーサーのイメージも変わった。決して万人向けの本ではないし、何かに役立つわけでもない。でも、読んでよかった。

  • スターリンは日本に対する強大な朝鮮を望み、中国と米国の敵対を願い中国をけしかけた。毛沢東はスターリンが望むような操り人形からはほど遠かったが米軍が半島を統一すれば直接脅威を受けるのは中国だ。もはやいつ、そして誰が指揮するかが問題だった。そして林彪が病気を口実に逃げたため農民の将軍、彭徳懐が選ばれた。長征をともにした毛の腹心の部下であり、兵士からの人気の高い中国軍の英雄だった。

    マッカーサーの後を継いだマット・リッジウェイは40年後に「私が最も理解しがたく、そして許せないのは、東京の司令部が、兵士達がどんな状況で戦わなければならないかということを完全に忘れていた事実である」と述べている。マッカーサーは敵を侮り、北朝鮮の厳しい冬や待ち伏せに格好の山道の事を気にもせず。あらゆる危険信号を見ないようにした。さらにマッカーサーは毛の中共軍がいかにして内戦に勝利したかに驚くほど無関心だった。

    11月25日ついに中国軍が動いた。中国軍は米軍に関して正確な情報を持っていた。敵を十分に引き込み退路に伏兵を置き人海戦術で圧倒し逃げたところをせん滅するのは内戦中に鍛え上げられた中国軍の得意技だ。北朝鮮には18万人の連合軍が長く伸びた前線の西側で待っており東には12万人の部隊がいた。中国軍も同様に30万いたが姿を現さず、情報本部のウィロビーはマッカーサーの望むように中国軍は最大7万人と見積もった。同様の情報操作はベトナムやイラクでも繰り返されている。

    マッカーサーのお気に入りで西海岸の軍団司令官コールターは東京が自分のことをどう見ているかのみに関心を持ち1個師団が壊滅しかかっている時にも何もできなかった。師団司令官のカイザーはそのコールターに危険を伝える以外何もできず撤退のための貴重な時間を無駄に潰した。同じくマッカーサーの子分で東部戦線を指揮したアーモンドは攻撃を受けてもさらに北へ向かえと主張した。それがマッカーサーの望みだからだ。アーモンドの命令を危うく思った海兵隊のスミスは意図的に侵攻を遅らせ、連隊の分裂を防ぎ結果としてアーモンドの司令部を救ったがアーモンドには臆病者と謗られた。スミス以外にも優秀で勇敢な将校は多くいたがマッカーサーの狂気のために多くのものが倒れ、11月の最後の数日間に数千の命が失われ、恐怖に感染した国連軍は潰走した。年末には38度線まで逃げ、1月末にはソウルを明け渡した。

    状況が不利になるとマッカーサーは政府批判を始める。ワシントンが中国国内基地の攻撃を認めないからだと。さらにマッカーサーは蒋介石の国民党軍を引き込もうとさえした。マッカーサーは「部隊を大々的に増強しない限り、まもなく橋頭堡まで徹底を迫られるだろう」と予言したが、本来マッカーサーがやるべきだったのは自ら二つに分けた第八軍と第十軍を統合し防衛戦を再編することだった。火力は米軍が圧倒しているので互いの側面を守って補給を整えば持ちこたえることができたのだ。朝鮮半島の大きな問題は兵站の長さであり、今度は毛沢東が米軍を侮り中国軍の能力を超えた目標を追求し始めた。彭徳懐は懸念を示したが毛は受け入れなかった。

    米軍では 事故死したウォーカーに変わり冷徹な現実主義者のリッジウェイが登場する。リッジウェイは中国軍をなめることなく、マッカーサーに対しても対決を恐れず指揮権を東京から奪い取った。リッジウェイが最初に覚ったのは、中国軍が攻撃してきた時に退却するのは大惨事につながるということだった。中国軍は内戦の時と同様に常に逃げ道に伏兵を置いていた。自陣を守り圧倒的な火力で中国軍に打撃を与え続ける。リッジウェイにとっての勝利とは中国軍に耐えがたい損害を与え続け、自分達は勝てないとわからせることだ。

    決戦の地はソウルから釜山へ向かう交通の要所原州と砥平里。ポール・マギーの小隊はこの戦闘で最も激戦になる砥平里の南の陣地を守り、ここは後にマギーヒルと名付けられた。マギー小隊は隣の小隊が撤退したため突出し今や中国人に包囲されていた。しかし自分達のいる場所が連隊全体の弱点になっており、中国軍に奪われればさらに多くの中国軍が攻めてくる。最期まで持ち場を守った弾薬が尽きたマギーが撤退した時に自力で脱出したのは4人だけだった。中国軍はついにマギーヒルを占拠したがそれは中国軍にとっても大きな犠牲を伴うものだった。

    「老兵は死なず。ただ消えゆくのみ。」もしマッカーサーが仁川の後に退役していたら偉大な英雄であり続けただろう。金日成と李承晩にとっては多大な流血と犠牲の挙げ句の果てに得られたものはほとんどなかった。中国軍は大きな犠牲を払ったが毛沢東にとっては中国が米軍を退けたこと自体が大きな勝利となった。毛沢東の権力に並ぶものはなく、誰も毛を止められない。毛が指導した大躍進政策では数千万人が飢饉で亡くなった。農民の将軍彭徳懐は毛に私信を送ったことがきっかけとなり文化大革命で吊るしあげられ、紅衛兵に殴り殺された。

    分断国家を統一すると言う金の妄想が米中の戦争に発展し、休戦後60年たった今では南は大きく発展し、北は時間が止まったままでいる。この本ではポール・マギーをはじめとする多くの前線で戦った米軍兵の姿が描かれている。同じく勇敢に戦った中国兵は名前も出てこないが朝鮮戦争はマッカーサーと毛沢東の頭の中の戦争であると同時に現場の兵士にとっては得られるものの少ない悲惨な戦争だった。

  • アメリカ側については、トルーマン大統領、マッカーサー将軍に始まり、周囲の政治家、士官級にまで個人の背景が詳細に語られ、そこが持ち味でもあるのだろうが、冗長にも感じた。また朝鮮、韓国、ロシア側の声はアメリカ側ほど詳細には語られていないように思えたのは仕方ないことか。それにしてもマッカーサーの暴走ぶり、己の夢想のために現実を捻じ曲げ、恥じることない様は、確かに歴史がトルーマンに味方したとは言えるが、その悪影響を被った者にとっては筆舌に尽くしがたかったであろうと思われる。ただ、権力者たちが何を考え、どんな情報を活かし、また活かせなかったか、握りつぶしたか、そのために戦線がどうなったかは詳細に語られていた。また、彭徳懐の造形が一番心にのこった。常に兵士たちとともにあり、兵を守るために直言し、戦後は、農民の苦境を毛沢東に直言し、左遷され、文化大革命で殴殺される際も、自らのただしさを信じ屈せずに死んでいった愚直な将軍のことが。以下、備忘録。/毛沢東はソ連指導部にとって、自らの成果と自分が中国人であることにあまりに大きな誇りを持ち、独立心があまりにも強かった/毛沢東はマッカーサーと同じく現実のままの戦場ではなく、頭の中でこうありたいと願う戦場を見るようになった/死んだ同僚を運ぶフランス兵が、死に対して無感覚になり、何事もなかったかのように、時に笑ったりし、死者を悼む気配が感じられないのを目の当たりにしたアメリカ兵の驚き/中国軍は三日は強烈に戦えたが、それ以降は補給の困難、肉体的持久力の限界、巨大な米空軍力のために、敵との接触を断つことが必要となる/これこそ自らの目先の必要に合わせて歴史を書き換えるマッカーサーの真骨頂であり、国防総省の他の多くの高官も過去に何回となく対処しなければならなかったマッカーサーだった/若手の多くは、マッカーサーの命令無視、中国軍参戦の際に責任を認めなかったこと、軍に対する文民統制を故意に無視したことに激怒していた。/アメリカは参戦しないというシグナル、中国軍が参戦しないという誤った確信、毛沢東が自分の優位を過大評価し南進しすぎて損害を拡大したこと。スターリンが果実を得たかに見えたが、中ソ決裂の萌芽が生まれた/

  • 単なる文字記録だけでなく、関係者の証言があり、丁寧でノンフィクションの名作。
    下巻は戦場のシーンがかなりの部分を占め、戦記モノに苦手な人には読みづらいだろう。
    しかし、それを上回る歴史の連続性、国家間の交渉、組織内闘争などの内容は、決して読み手を選ばないと思う。

  • 単行本で既読。

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