- Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167679583
感想・レビュー・書評
-
一言で言えば、この小説はズルい。借景の作品である。1970年前後の世代のバイブルである作品たちへのオマージュである。特に手塚治虫の。
技術者として思うのは、機械工学、材料工学は空想科学が望んだ未来よりもかなり遅く進んでおり、それがロボットを残念な存在にしていると考える。そんなことを改めて考えさせられる。
そもそも空想科学は、我々技術者に目標を与え続けてきた。空想科学に憧れるからこそ、その技術が進歩したのだと考える。当時で言えばロボット。今で言えば魔法であろうか。
ジャスト世代の自分にとっては、当時の衝撃や感動を思い出せた。そういう意味ではありがたい小説である。気になるのは世代ではない若者はどう考えるのかといいこと。この小説の面白みはけっこうそこにあるのて気になるところだ。
筆者は小説を書く前に精緻に調査をすることで定評があると記憶しているが、今回も細かいディテールまで、それもかなり広い範囲で提示している。その点については流石だなぁと感心した。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これまでの瀬名作品に比べ面白くなかった。しかし、ロボットの可能性について一つの現実的答えが描かれている。一度ちゃんと鉄腕アトムをみてみたいと思った。
-
現代の科学では、機械の義手や機械の義眼を生体に接続することができる。一方ロボットもそれ独自に発達を遂げている。生物と機械が融合、あるいは相補的に動作する日も近いかも知れない。ロボットの人格・尊厳とは何か?その問題を瀬名さんがいくつかのショートストーリーを紡ぎ合わせて物語っている。ただ、ひとつひとつの事象に共感はするが、漠然とした価値観を取り扱うために、瀬名さんが「パラサイトイブ」「ブレインバレー」でみせた切り口の鋭さはそこにない。ロボットに人格をもたせるヒューマニティがそこを覆う。科学の背景把握は生物学のほうがずっと深く、視点も斬新であったが、工学ベースのロボットでもう一歩独特な発想がほしかった。いくつかジンとする話もあるし、読みやすい作品。