パラレル (文春文庫 な 47-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167693039

感想・レビュー・書評

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  • 女の人は足を開くの、嫌じゃないのかな、
    とか考えながらするセックスの描写が何より記憶に残ったのは、
    平然と、日常のような顔をして、
    いつでもわたしたちはわざとらしくて、
    記号を積み重ねて生きていることを、
    まざまざと思い起こさせられたからだ。

  • 不思議な読み口の作家さんでした。
    ちょっと癖のある文章ですが、それが逆に癖になる書きぶり。また、30代位のアホでエロな男たちの挽歌とでも言いましょうか。主人公七郎やキャバ狂い!?の津田の行動に身に覚えがある男性諸氏も居るのではないでしょうか。

    ・・・
    本作『パラレル』、タイトルの意味は何でしょうか?
    作品では『パラで付き合う』という表現がありました。複数の相手とへらへらと付き合うことを『パラで付き合う』と表現しており、それなのかなあ。

    時間軸が「大学時代」「ちょっと前」「現在」と三つに飛び飛びに展開しましたが、それはジャンプであってパラレルでもないしなあ、と独りごち。

    2004年という、だいぶ前の作品ですが、かなり典型的な男性目線の作品であり、今の今新刊では出せなさそうな作風です。潔癖というか完全な倫理観をお持ちの方は読まない方がよさそうな作品。

    ・・・
    解説によると、文芸誌では家族ものとして評価された一方、解説のゲーム作家さんが書くように『単行本発売記念の呑み会で、同席したすべての男性が「これ、オレなんだよー」と思っているようだった』とあります。つまり、多くの男性にとって親和性のある事柄が投影されていたとも言えます。

    友人津田のキャバ嬢狂い、妙ちきりんな倫理観(結婚式のスピーチで『結婚とは文化であります』とうそぶきつつ、複数女性とお付き合い)、主人公七郎とキャバ嬢との友人関係、奥様の浮気と離婚の様子、はたまた津田の会社の破産など。

    確かに30代という精力的な年代、お金もそもそこ自由になる世代(20代とか新卒当初と比較して)、こうして向こう見ずな生活の一端は私にもあった気がします。内向的な社会人生活を送っている私ですらそうでしたので、付き合いと称する呑み会が多そうな営業現場一筋とかの人は大いに膝を叩きそう。

    ・・・
    文章はややくせのある会話調が多く、かぎかっこで会話を描くも『』の後にもぽつぽつと会話が続くのが特徴的。だから、さらさらとは読めず、注意しつつ二度読みすることがしばしばありました。
    しかし、とっかかり・リードの発話と、それ以降のごにょごにょ(重要性低め)をこうした『』内外で分別しているのか、とも思いました。

    これは何というか癖になる心地よさがあります。

    ・・・
    ということで長嶋有さんの作品、初めてでした。

    もともと15年くらい前のBRUTUSで『読むべき現代の作家』みたいなチャラ目な特集だったのですが、特集ページだけ10ページくらいコピーして実家においてあって、近年ちょろちょろ購入し始めたというものでした。

    時代の一端を切り取っているといえば、確かにそうかもしれないと感じた一作です。

  • 七郎と奈美さんの掛け合いと気持ちの小さな変化がすごく絶妙。不倫も離婚も気持ちはわからないけどなんか文化を失うっていう喪失感はわかる気がする。

  • 初めて読んだ長嶋有さんの長編。
    感想難しいなぁ…というのが読後最初に思ったこと。面白さを楽しむ系統ではないし、ハラハラドキドキもしないし、ときめく系統でもないし、謎解きもないし。
    言葉や登場人物の台詞が印象に残る系統、とでも言えばいいのか。

    主人公の失職と妻の浮気がきっかけで(どちらが先か?という問いもあり)離婚した主人公夫婦。だけど離婚後も元妻から毎日連絡が来て、2人は頻繁に会っている。
    昔からの友人の津田はプレイボーイで、日々女の子を取っ替え引っ替えしているところが逆に厭世的に見える。主人公はプレイボーイではないものの、時々若い女の子と一夜を共にしたりする。
    主人公と津田の会話が俗っぽくて、実際男同士だとこういう会話もするのだろうな、とリアルに感じる。俗っぽいけれど、哲学を感じる部分もあったりして。
    人間関係ってすべてがすっぱりと割り切れるわけではなくて、主人公と元妻のように形としては別れているけれどなんとなく関係が続いていたり、そこに思いが残りながらも他の女性と肉体関係を持ったりもする。そういうところが何だか全部リアルに感じた。
    時系列が行ったり来たりして多少混乱するところも狙いなのかなと考えたりした。
    タイトルの意味が、時系列とか人間関係とか、様々な意味で「平行」なのかと。
    色んな小説を読んできたけど、読後好きなのか嫌いなのかも判別しづらく、後を引くようなそれでいてすぐ忘れてしまうような…とにかく初めて読む感覚の物語だったので、とりあえずそういう意味でとても印象に残った。

  • 「結婚は文化であります。
    夫婦のようになった、と感じる時、その二人の間には確かに文化が芽生えているのです。(それ、がなにかわかる、建具を開ける力の入れ具合を二人だけが会得している)そういう些細なものの集合体は全て文化で、外側の人には得られないものなのです。
    籍を入れずに同棲することを選カップルもいます。恋人のままでいいじゃないか、と。だけれども、これは断言しても良いですが、文化のない場所に人間は長くいられません。
    お二人は夫婦という文化に守られるのではなく、結婚によって自分たちを守る文化を築いていってください。」

    「物語が終わるのは「悲しい」だけど、文化がなくなるのは「怖い」なんだ」

    「夫婦円満の秘訣は信じることです。信じるとは、何か疑わしいことがないから信じるのではなくて、ただもうむやみに信じるのです。屁理屈も理屈、邪道も道、腐れ縁も縁。」

  • 少しずつ少しずつ、何かが心に積もっていくような小説だった。
    悲しいようで、希望がある。

  • 時制があちらこちらに飛ぶ割には読ませるが、妻との距離感の微妙さについてもっと言及があってもよかったかも。子どもがいなけりゃ離婚してもこうしたライトな付き合いが出来るのか。でも別にそのことを求めて読んだのではなかった。僕にとってはどうでもいい内容の小説だと読んでみて思った。構成は巧みだけど。

  • 別れた奥さんより親友との友情が良いね。

  • 別れたばかりの若い夫婦の微妙な距離感が面白く感じられた、という普通の感想では何も描けない不思議な雰囲気の文章。台詞と記述がつながって書かれていてどこが会話かどこが心の中かを、考えるというより感じながら読み進めた。いまひとつ登場人物に共感できずに近寄れずにいたことが読み手として消化不良だったか。

  • 好きな歌人、枡野浩一さんが長嶋さんについて本の中でふれたり、対談が掲載されていたのをきっかけに読んでみました。
    初めて読む作家さん、気になっていた作家さん。
    さてさて。


    会社を辞め、離婚した七郎。
    プレイボーイの友人・津田、別れても連絡をまめによこす元・妻…過去と現在、様々な人間関係が交錯する物語。

    物語が進む、時間が進む…と思ったら、戻る…そして、また一度は進んだ時に戻る…不思議な流れを持った作品です。
    慣れぬ内はちょっと目が回る、私は特に反射神経が鈍いから。

    題名と表紙の雰囲気などからくる勝手なイメージでほんわかしたお話なのだと思い込んでいたら、内容自体は不可思議ではない。
    非常に現実味を帯びたお話。
    だからこそ、物語の進み方が錯綜していることが引き立つのかな。

    文章も会話文が地の文にたくさん入り込んでいる、今まで読んだ作家さんの中では一番入り込んでいるかも。

    主人公は三十代、男性、バツイチ、元・ゲームデザイナー。
    ラブとジョブ。あと、友情、これがけっこうぐっときてしまいました。

    主人公も、他の登場人物も、それぞれが山あり谷ありの人生を送っていて、右往左往している。
    一見器用そうな津田だって、一見不器用そうな七郎だって、同じ。
    そして、いつか、光が射す。
    希望の物語。

    ただ、正直、三十代男性にもうひとつ感情移入はできず…残念。
    けして広くはない世界の中での物語、丁寧な描写をされる作家さんだという印象は残りました。

著者プロフィール

小説家、俳人。「猛スピードで母は」で芥川賞(文春文庫)、『夕子ちゃんの近道』(講談社文庫)で大江健三郎賞、『三の隣は五号室』(中央公論新社)で谷崎潤一郎賞を受賞。近作に『ルーティーンズ』(講談社)。句集に『新装版・ 春のお辞儀』(書肆侃侃房)。その他の著作に『俳句は入門できる』(朝日新書)、『フキンシンちゃん』(エデンコミックス)など。
自選一句「素麺や磔のウルトラセブン」

「2021年 『東京マッハ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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