蜘蛛の巣のなかへ (文春文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (337ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167705107

感想・レビュー・書評

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  • 独特の文体に慣れるまで少し苦労した。慣れたら夢中。
    夏の田舎町の風景描写、繊細な人物描写がとても効果的。心に残る作品。
    目を閉じたら、描かれた風景が幾つも思い出せる。

  • 父の最後を看取るためにカリフォルニアから20数年ぶりに帰ってきたロイ。


    若い頃には逃げ出すことばかり考えていた故郷の、 ウェスト・ヴァージニア州キンダム郡は谷間にある貧しい炭鉱の町で小さい池や村落が点在し、川が一筋、 無舗装の道路が走っている取り残されたような場所であった、東北にあるウェイロードは電気もない、より貧しい地域でロイの父はここの出身なのを恥じていた。

    母も弟も亡くなってしまい、肝臓癌で余命いくばくもない父を看取るのはロイだけになっていたし、いくらお互いの間には憎しみの心だけしかなかったとしても帰らないわけにはいかなかった。

    もう二度と戻るまいと思って出た故郷の暑い夏の日、ロイは否応なしに、 心から締め出していたはずの過去に絡め取られていく、まるで暗い貧しい谷間に張られた蜘蛛の巣に絡まるように。

    一番深い心の傷となっている弟の死、無邪気で純真で明るく輝いていた弟が、ガールフレンドの両親を射殺して留置場で縊死した。母親はそれを苦に病死してしまった。

    ロイにも結婚を決意した美しいガールフレンドのライラががいて、この二組のカップルは事件の前にも一緒に居たのだ。
    そんなこともあってロイにも一時疑いはかかっていたが、逃げるようにカリフォルニアの大学に入ったロイの所にライラから突然、結婚は出来ないと手紙が来て、ロイは将来の夢とともにすべてを忘れることにしてしまった。

    帰ってきて、偶然川で死んだ男とかかわり、近所に住むライラの母から父の過去にまつわる話を聞いた。
    父の育った貧しい部落に行って話を聞いているうちに、若い頃の父親が次第に見えるようになる。
    寡黙で気難しく、母との結婚も家庭も不幸であり、不運を背負った人生は家族にまで及び家庭は崩壊していた。

    そんな父は、若い頃の話を心の奥にしまいこみ家族には決して話そうとしなかった。
    ロイはその過去に踏み込むことになり、父の深い暗い過去と対面する。
    父の救われない闇の中には、今引退して息子に譲ってはいるが元保安官の陰がちらついていた。
    独裁的な保安官はその権力を利用して弟に不審な行動を取らせたのではないか。
    ロイは初めて、捜査記録を調べことの真相を明らかにしようと思いたつ。

    犯人は果たして本当に弟だったのだろうか、ライラはなぜ急に約束を違えてしまったのだろうか。
    父の保安官に対する憎悪の根源は。
    謎が解き明かされるにつれ今まで憎しみと蔑みだけしか感じることの出来なかった父のかたくなな心が、すこしずつ理解できるようになる。

    謎解きも面白いが。クック独特の登場人物のもつ悲しい運命が心に残る。
    随所に見られるミステリーらしい仄めかしは情感の豊かな風景や心情の描写の中ではあまり露骨でなく、半ばで結末を予想して裏切られるちょっとした作為も、ファンなので気にしない。

  • まず、(どうでもいいことだけど)表紙が、なんか、すっごいビ、ミョー(笑)
    中心で帽子をかぶったスーツの男性って、たぶん主人公なんだと思うけど、一応物語(の現在)は1984年なわけで。
    84年にそういう格好の人はいないか?っていったらそんなこともないともないとは思うけど、84年っていったらLAオリンピックの年。前の年はマイケル・ジャクソンが例の赤い革ジャンで踊っていたそんな頃なわけで、そう考えると相当違和感ある。
    ま、違和感と言うなら、その上にいる2人はもっと違和感なんだけどさ(笑)

    そんな表紙はともかく話は面白かった。ラストは留飲も下がったし。
    要はカリフォルニアでもニューヨークでもない、ハリウッドでもウォール街でもないアメリカの、その繁栄から取り残された白人たちが住む「田舎町」で町を牛耳る保安官の悪事を某碇シンジくんがそのまま大人になっちゃったみたいな主人公と、シンジくんの父親が年をとって偏屈頑固ジジイになったような親父さんが暴き、復讐もしちゃうという話と言ったらザックリすぎか?(笑)

    ていうか、そう言っちゃうと、西部劇によくあるストーリーっぽいが、そういう感じない。
    むしろ、(アメリカならではの)因習にとらわれた地域で起こった出来事という意味で横溝正史の岡山物をアメリカ風にしたと言った方がわかりやすいのか?(←むしろわからんw)
    だからって、あのオドロオドロ感も連続殺人もないんだけど、つまり★4つと一つ減らしたのはそこなのかもしれない。
    というのも、全般に意外なくらい雰囲気がカラっとしているのだ。
    何年か前、たぶん同じ辺りが舞台なんだと思う『ウィンターボーン』という映画があったが、あのくらいやりきれないトーンで描かれていてもよかったように気がする。

    さらに言えば、なぜか後半が妙に駆け足になってしまったようなところがあるのが惜しかった。
    クックの物語のなにがいいって、どこかの時点で登場人物と一緒になって「あ…」と思ってしまう、その悲劇の分岐点の気づきにあると思うのだが、この話はそこが弱いように思う。
    確かに、主人公の望みを、親父さんは主人公の子供の時からの性分からみて「自分から逃げ出すこと」とずっと誤解していたことがボタンの掛け違えの始まりというのもわからなくはない。
    だって、世の中なんて、えてしてそんなものだもん。
    ただ、前半の親父さんの偏屈っぷりがここまで捻じ曲がるか!なだけに、小説としてはその分岐点があっけなさすぎ(ていうか、ちょっと喜劇っぽい)なんだよなぁ~(笑)

    ということで、その親父さん。前半とにかくうんざりな性格だったけど、、実は探偵役だったの?え!?みたいな展開は面白かった(一種のどんでん返し?爆)。
    とはいえ、ラストはちょっとスーパーマンすぎな気がも(笑)
    ま、その親父さんのスーパーマンっぷり(ってほどでもないか?)があるから溜飲が下がったというのはあるんだろう。

    ただなぁ…。
    うーん…、そう。だから、悪役側が過去のワルっぷりと比べ、物語の現在ではやや弱いというのも大きいのかもしれない。
    現在の保安官はいくらなんでも小物すぎるし。圧倒的な存在だった過去の保安官も物語の現在となっては、寄る年波に押されちゃって、多少なりとも甘っちょろくなっている感は否めない。
    そういう意味でも、過去にあった悲劇の分岐点…、と言ってしまうと主人公の弟の事件のことのようになってしまうので、ボタンを掛け違えてしまった事とするが、そこが(他のクックの話と比べ)ちょっと弱いのも含め、親父さんのエピソード、主人公が土地を離れるまでのエピソード、そして現在のエピソードともっと物語った方が(せめてあと100ページくらい)よかったように思う。

    というのも、アメリカ人ならウェストバージニア州というだけで、ある程度土地や人のイメージが出来るのかもしれないが、日本人からするとそれがわからないわけだ。
    ウェストバージニアってどの辺だっけ?とネットで見て、なるほど、キングダム群って、いわゆるヒルビリーとかプアホワイトとかそういう地域かと舞台がイメージ出来ることで、初めてその土地が醸し出す色やそこで暮らす人々といった風景が見えてくるようなところがあるのだ。
    確かにそれはアメリカ人であるクックに言ってもしょうがないことなのだが、それにしてもそういう舞台の話ならもう少し重く陰鬱なトーンで物語ってくれた方がよかったんじゃない?
    と、結局そこ(笑)


    この手の、何者かが町を牛耳っている町(スモールタウン)というのは、実は今のアメリカでも沢山あるのだろう。
    というか、現在のアメリカはトランプさんをはじめとして、その他ウォール街やプラットフォーム企業、その他金持ちに牛耳られた国とも言えるわけだし。
    と、翻ってみて、このニッポンはどうなのだろう?と考えてみると、具体的にはわからないけど、たぶんいろいろありそうな?
    それは昔ながらの因習もあるだろうし、企業城下町とか社会的なしがらみ等々。
    その辺りを題材に横溝正史の岡山物を現代風にリライトしてくれる作家、出てこないかなぁーなんて思ったんだけど、まぁそれはクックとは関係ない話(笑)

  • 主人公が父親の病気のために帰省。
    川で発見した遺体からストーリーが動き出す。
    地元での過去のできごとと現在を織り交ぜながら
    浮かび上がる真実。
    とても読みやすくて一気読みでした。
    読了後、なるほど、と。

  • トマス・クック物は かなり読んだけど
    これも同じような系統のミステリー。
    アメリカの貧しい地域の様子や 父子関係、
    その土地の権力者 Etc。 
    最後はハッピーエンドの趣もあって良かった。

  • アメリカでも地域によりとん閉鎖的で差別的なのかしら。いやだわ。

  • 父の最後をみとるために故郷に帰ってきた男が、弟を死に追いやった事件を追う過程で父と和解していく話。

    クックにしては珍しい、希望の残るラスト。

  • この親父は華がある。
    終盤の描写なんかさすがやな。

  • クック作品としては、分量もストーリー自体も軽量級。クックファンには物足りないかな。

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