沼地の記憶 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2010年4月9日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (448ページ) / ISBN・EAN: 9784167705855

感想・レビュー・書評

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  • 作者のねっとりとしたところが嫌いではなく記憶シリーズを読んだ時期がありました。が、これは焦らし過ぎ。まず文章が変わる時、主語と時代がはっきりせず、確認したくなり、気持ちが途切れがち。思わせぶりが多く読みにくかった。

  • ストーリーはまずまずなんだけど、訳が良くなくて、ツッコミどころが多く、物語から現実に戻ってしまい、集中できず。読みづらく、読むのに時間がかかった。

    調べるとおそらく本作の訳者の方はベテランと思われるんだけど、文章センスないんだよなー。
    クック作品は翻訳を読んでいても、おそらく原文が訳しづらいんだろうなーと想像はできるんだけど、「緋色の記憶」では鴻巣さんが素晴らしい訳を付けてくださっていた。
    それとどうしても比べてしまって。
    他の作品も鴻巣さん訳してくれないかなぁ。

    他のクック作品も読みたいけど、他の作品も今作の訳者の方が訳されているものが多くてガックリなんですよねー。

  • なんか、ツライ。疲れた。光は見えなかった。

  • 題名には無理があるように思うが、最後まで読むと、やはり巧みな構成が納得できる。クック流の過去の回想にいまだにいえない悲しみが尾を引いている、そんな物語にひかれる。


    クックの作品では「死の記憶」の評価が高い。
    それに加えて彼の傾向として「蜘蛛の巣の中へ」という作品のように、父親と息子の心の交わりが繊細に書かれた作品もいい。

    フロリダのレークランド高校が舞台になっている。
    「MASTER OF THE DELTA」という原題なので記憶シリーズに続くスタイルにしたのだろう。

    クックのスタイル、この作品も老ブランチの回想で、話されるこの時にはすでに彼は老いてその父親も亡くなっている。

    レークランド高校の特別教室で「悪」について講義をしていたジャック・ブランチは、地方では名家の生まれで苦労もなく育ち、周りからは一目置かれる存在だった。
    彼の教室にエディという目立たない生徒がいた。彼の父親は殺人犯だった。ブランチはレポートの課題を出し、エディには父親のことを書くようにいう。そうすることで彼は今より自由に生きることができるのではないかと考えた。
    レポートを書くために、エディは父の事件を調べ始める。

    ブランチの父も同じ高校の教師で、狭い町にすむ子供たちはほとんどが教え子だった。
    当時の新聞や関わりのあった人を訪ねてエディはレポートを書いていく。彼は成績は優れていいとは思えなかったが、文章は彼の思いやりのある人柄と感受性を反映していて、ブランチは彼の将来を引き受けようかとまで思うようになっていた。

    貧困層と富裕層に住み分けられた土地にある学校で、あえて「悪」についての授業を行うことは、生活に恵まれない彼らの将来に必ずいい影響があると信じていた。
    美しい女生徒が、見栄えも、環境も最低だと言うことで相手にもされなかったエディを選んだことが、生徒間にトラブルを起こし始めていた。
    ブランチもその間、同僚の高潔な教師と恋仲になる。
    そして、それらの事柄を巻き込んで悲劇の種子は徐々に膨らんでいった。

    当時はまだ未成年であった生徒たちも、今では中年を迎えそれまでの人生の軌跡を見せている、美貌には影が差し、幾人かは亡くなり、中には刑に服していたり、町も面代わりしている。
    ブランチは今でも立ち直れずにいる、過去の悲劇が何時までも尾を引いて、解決されていない罪の意識に、悲しんでいる。

    そして足の長さの違う郵便配達が外のニュースを届けてくれるのを待っている。

    親友の批判は避けているように、好きな作家の作品は黙って読む。


    憔悴した父の体は人生の終わりになって、ようやく編み上げられたものが息をするたびに少しずつほぐれていくように見えた。あたかも人生をつかみとろうとして怒りを買い、人生からしかえしされて、生きることが生理的に苦しくなり、生きることが少しも重要でなく、これっぱっちも楽しくなくなってしまったように


    こういうフレーズが好きなので。

  • 特殊系ミステリー。
    殺人者の息子が調べた自分の父親の記憶。
    しかしながらそれは、禁断の知への扉を
    開けてしまったのでした…

    主人公は自分の境遇から
    ある種死に取りつかれてしまったようです。
    それをその息子に調べさせる自体に
    狂気さえ感じるのです。

    だけれども、止めることはできませんでした。
    そして思わぬ事実がどうも露呈されて
    しまった模様です。
    (ただしそれが真の情報かは提示されていません)

    で、悲劇はそれだけにとどまらなかったのです。
    一番の地雷原が爆発し
    最悪の悲劇を招きます。

    救えねぇな、まったく。

  • 2016-08-10購入

  • 悪について豊富な知識を学生に与え、教育をしている
    つもりが、自ら本当の悪を知ってしまう物語。
    語り手が経験した事件が断片的に進む中、
    物語の中心をなしているようにみえながらも
    少年が自らの父の起こした事件を
    読者の前に明らかにしてくなかで、
    この物語がどこに向かっているのか、
    つかみきれなかったが、ページをめくる手は止まらず
    著者のインタビューにあるように
    何がおこり、なぜなのかという興味へ、
    自然とのめりこんでいく。
    何度か、読者の予想を誤った方に向けさせて
    真の結末まで持っていく、事件や真相云々でなく
    読み直したり思い出したりで
    物語の構成のしたかたも楽しめる。

  • 女子大生を殺した男の息子が、自分の父を題材に「悪」についてのレポートを書く。それをサポートする上流階級の若くて情熱的な教師が主人公。

    なかなか真相が明らかにはならないが、不安にさせる要素が次々と出てくる。父親への複雑な感情描写がうまい。

    ただ、父親がひた隠しにしていたノートに自分の出生の秘密が書かれていると思ったら素人小説だったり、最後にエディが生きているとわかって肩透かしをくらったような気がする。

    とはいえ、目をかけていたエディは大きく羽ばたくこともなく、生まれた町で年老いていったという現実は、終わりのない倦怠と栄光の残骸といった余韻を残す。

  • 第1回(2011年度)受賞作 海外編 第9位

  • 一人の男が遭遇したある事件を、年老いてから回想する…という物語。なんとなく最後はスッキリしないというか「あの件はどうなったの?」というのがあったので、2回くらい読まないと理解は出来ないのかも…。

  • 記憶シリーズは、毎回哀愁漂う美しい回想の物語。
    今回はその第5弾。

    現在と過去が入り混じりながら、
    次第に哀しすぎるコトの全貌が明らかとなる。

    今回も血縁との確執や、狭い世界から決して
    抜け出ることの出来ない重い宿命を感じさせられた。

    若干主人公の身勝手さが気になったけれど、
    好きな作家なのでそこは無問題。

    著者は巻末のインタビュー(フアンにとっては垂涎物!)で、
    『暗い物語は光を届ける為に書かれるのであって、
    闇をもたらす為ではない』と語っているが、暗い物語はやっぱり暗い。

    光が届かなくて、人生の哀切さを否応なしに突きつけられてしまう。
    でもクックだからこそ、その闇に引き込まれてしまうのだろう。

    蛇足ながら…、鳴り物入りのジョン・ハートの前作が、
    どうしてもクックの模作に思えて仕方が無い。

  • けっこういろんな読み方ができそうな本作。「わたし」ことジャック・ブランチの回想という体裁を取るが、時制を巧妙に前後させることで、「事件」を理解しようとする読者を幻惑させる。とりわけ、「事件」に連なると想像させる細部の情景や心理描写は、核心を伏せるようなもったいぶった筆致もあいまって、読み手を幻惑させる。悲観的な物言いや不吉な兆候から、最後には悲劇が待ち受けているのだろうが、それがどれほどのものか見積もれない。陰鬱なアメリカ南部の因習を付け合せにした不幸な人々の物語。ラストのネタばらしに、救いを見るか、諦めを感じるか、読む季節にもよるかもしれない。梅雨にはちと向きませんな。作品としては再読したくなる出来です。

  • 読者の心を暗く陰鬱にしてくれる作家。

    読者にも真相がわかりかけてるような気にさせながら、物語に引き込んでいくのは、回想録のように話が進むからなのか。一気に読みました。

  • 虚しく、切ないエンディング。

    なんともやりきれない余韻を残すために、この物語はあったのだろうか。

    トマス・H. クックの得意とするもののひとつ、人間の深層心理を暴き出すこと。

  • NHKで以前ドラマにもなった記憶4部作で有名なトマス・H・クックひさびさの作品。ミステリー評価本ではアーチャーに次いで海外小説第2位の実績があるとか。セントラルパーク動物園を舞台とする「鹿の死んだ夜」、そして記憶4部作はストーリー展開もラストも大好きであったため、期待が高すぎたこともあり、星2つに近い星3つの評価。l記憶を回想しながら時代が複合的におり交る展開、多彩な比喩、何か不吉なことが起こりそうな陰鬱な空気感、米国のディープな社会階層・人種問題など、いつも通りであったが、ラストシーンでやや肩透かしを食った印象。「オチでびっくり」という小説を書く気がしなかった、とのコメントがあったが、ファンとしては、過去のラストシーンの精巧さを求めてしまった。クックにご興味がある方は、まず記憶4部作から読まれることをお勧めする。ほんと読み応えあり。

  • 読了までかなり時間がかかってしまったが、読書の魅力に溢れる作品だった。現在と過去が際限なく挿入される展開は、何か忌まわしい事件があったことを早々に知ることになる。だが、その事件が何であったか最後まで分からず、グイグイと惹きつけられる。

  • 一気本。
    これだからクックはやめられない。。。

  • 久々のクック。彼の得意とする「知らぬは読者ばかりなり」のスタイルが存分に活かされている。現在の“わたし”が過去を回想する構成。全体の構図はなかなか明らかにされないのだが、徐々に変化していくそれぞれの微妙な心理が、否応なくストーリーを不穏なものに巻き込んでいく。その手ごたえがはっきりと実感できるため、結末を知っている“わたし”の洩らすヒントに過剰に反応し、いつしか物語の底辺に深く沈み込んでいた。

    恵まれいる人物は偽善者で、そうでない人物は被害者──そういう見方もできるかもしれない。生まれついての悪者はいない、この町では。そう読者に思わせるだけの雰囲気作りが抜群で、重いテーマや設定をそう感じさせない手腕も見事。

    決着はつけるものの、想像の余地も残しながら謎のままで終わらせている部分もある。こういう負担のない重さがクックの魅力かもしれない。読後、さらりとストーリーを思い返してみるに、複雑で哀切な人間ドラマではあったが、その一方でやはりミステリなのだと納得する感覚が少し心地よかった。

  • やっぱりクックは最高。

    最初は粗かったモザイクがだんだんと細かくなって最後に全体像が見える。そんな物語をここまで巧みに描けるのはさすが。

    ものごとの展開を通して主人公をとりまく人間との心理的な距離が変化していく様がサスペンス色強く、とても読ませる。

    また、場面場面でぽろっとこぼれる端的に真理を言い表そうとする表現も秀逸。エディがチャンドラーを評したところなんかはすごくぐっときた。

  •  本を読み終わった後、その余韻に浸らせてくれる作品が
    あるが、まさに 本作が これにあたる。

     トマス・クックらしい 哀切感が いつもの
    フラッシュバックのような 記憶とともに 漂ってくる。

     事件を追うというよりも、人間を描くミステリは
    とかく 嫌う人も多いが、

     私は クックのモザイク模様が
    はがれていくように 過ぎ去った過去の真実が明らかになっていく
    という 世界が 好きである。

     人の罪の痛みと哀しみを綴っていく 作品を
    これからも 出して欲しいと 思う。

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著者プロフィール

1946年、東京生まれ。訳書に、シャルル・ペロー『眠れる森の美女――シャルル・ペロー童話集』(2016)、ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』(上下巻、2012)(以上、新潮文庫)、イアン・マキューアン『未成年』(2015)、ジョン・バンヴィル『いにしえの光』(2013)、マイケル・オンダーチェ『ディビザデロ通り』(2009)(以上、新潮クレスト・ブックス)、トマス・H. クック『サンドリーヌ裁判』(早川書房、2015)、ジョン・バージャー/ジャン・モア『果報者ササル――ある田舎医者の物語』(みすず書房、2016)ほか多数。

「2016年 『果報者ササル ある田舎医者の物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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