婚礼、葬礼、その他 (文春文庫 つ 21-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 58
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  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167854010

作品紹介・あらすじ

「呼ぶことはできなくても頻繁に呼ばれる人生」を送るOLのヨシノ。友人から結婚式招待状が届き、申し込んだその日に旅行をキャンセル。二次会幹事まで頼まれ準備万端当日を迎えたが、途中で上司の父親の通夜手伝いに呼び出され、空腹のまま駆けつけるはめに…芥川賞受賞後、ますます快調な著者の傑作中篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 同僚が結婚式を挙げた。
    わたしは出席していない。

    友人が亡くなって一年が経った。
    わたしは彼女に会いに、地元に帰れていない。

    結婚式は、事前に出席者の予定を空けておくように告知がなされる。その時点で、最重要案件である。一方で、葬儀は突然告知される。当然だが、突如として最重要案件となる。
    では、そんな結婚式と葬儀が重なった場合。あなたならどうするか。
    この作品では、主人公ヨシノがその重なった最重要案件に立ち向かっていくお話。
    まるで、そんな日常を一挙手一投足で描いたエッセイのような作品でした。

    本作品でも、津村さん持ち前のユーモアが冴えわたっている。そして、主人公の正義感の強さとなめらかに吐き出される愚痴の数々。
    津村作品の素晴らしいところは、この毒のような愚痴が、ポップに、心地よいリズム感でもって描かれているので、全く不快ではなく、ブラックユーモアとして冴えわたっている点にある。そして、不快にならないのはもう一点、登場人物それぞれみんな、ちょっとどうしようもないのになぜか魅力的なのである。

    そして、解説でわかりやすく描かれているが、「与えられる情報は実は最低限」なのである。
    先ほど「登場人物それぞれみんな、ちょっとどうしょうもないのになぜか魅力的」と書いたけれど、津村作品では、登場人物に関する情報があまりないまま物語が進み、会話や過去・現在の出来事から、読者側がその人物像を構築していく作業が必要になるのだ。外見や設定がかなり控えめに描かれているからこそ、そのキャラクターに俄然興味がわき、どんな人物なんだろうと想像力をかきたてられる。そこをほとんど描かなくてもこんなにも生き生きと描き、読者に印象を残し、魅力を伝えることができる。この描き方はすごい。

    表題作と一緒に収録されている「冷たい十字路」。
    この作品は、人物像が分かっても、その人物像の背景が分からないまま物語が進み、十字路に関する人々が代わる代わる主人公となって語られていくうちに、全体像が見えていくというものである。主人公が変わりながら進んでいく物語は数多くあるけれど、津村さんの毒がこんな風に、ある種ミステリ作品のように描かれるのは非常に珍しい。

    そしてたぶん、間柄にもよるけれど、わたしは主人公と同じ立場なら、結婚式の方を優先するだろう。

    • アールグレイさん
      こんばんは、初めまして、ゆうママと申します!
      皆さんのお喋りに大変失礼します!ーーーこの本面白そうだなーーーとnaonaoさんのレビューを読...
      こんばんは、初めまして、ゆうママと申します!
      皆さんのお喋りに大変失礼します!ーーーこの本面白そうだなーーーとnaonaoさんのレビューを読ませて頂きました。結婚式、葬儀、あまり縁のない私ですが、いつやってくるか判らないのですよね。きっと、この本読むと思います。面白い話好きです。皆さん、良い本があったら教えて下さい。
      \(^_^)/
      2021/04/16
    • naonaonao16gさん
      ゆうママさん

      おはようございます!
      コメントありがとうございます^^

      どんどんお喋りに加わってくださいませ~
      なかなかレビューがうまく書...
      ゆうママさん

      おはようございます!
      コメントありがとうございます^^

      どんどんお喋りに加わってくださいませ~
      なかなかレビューがうまく書けなかった作品だけに、嬉しいお言葉です!

      ありがとうございます!
      また是非遊びにいらしてくださいね\(^o^)/
      2021/04/17
    • アールグレイさん
      おはようございます、naonaoさん!ブクログ歴2ヶ月程の私。最近皆さんにいろいろな本を紹介して頂いています。Book ofにいったり、図書...
      おはようございます、naonaoさん!ブクログ歴2ヶ月程の私。最近皆さんにいろいろな本を紹介して頂いています。Book ofにいったり、図書館予約したり、本屋さんも大好きですが、主婦にとってはどうしても図書館サマサマです。ブクログに入って、私の読書路線が逸れてきているようです。青山さん、伊坂さん、両作家さんともほとんど読んでいないのに、皆さんの本棚を見せて頂いたおかげで、今や読みたい本だらけ(^_^)皆さんこれからもよろしく
      \(^_^)/
      2021/04/17
  • 割と対照的な中篇2作収録。それぞれにわくわく楽しめた。

  • ヨシノさん、大変!
    色々と呼びつけられて
    アタフタしている彼女と一緒にワタワタしました
    お疲れさまでした
    お腹すいたねえ
    目指す人生、きっと送れる気がします
    ヨシノさんなら

    二編目の「冷たい十字路」
    視点が面白いです
    ただカタカナの名前について行けませんでした

    津村記久子さん 好きです

    ≪ 婚礼と 葬礼どっち? てんやわんや ≫

  • 冷たい十字路
    「ん?…ってことは!?」の構成。
    登場する全部の関係性やその後が明示されるわけではないので、人々の生活の一部を切り取ってきたような印象の中編。

  • 津村さんの描く「怒り」が好き。この人の世界観が好き。

    この作品は表題通り、冠婚葬祭に翻弄される主人公の話です。「行かなければ・・・」と思いながら参加するそれらは、まさに“召喚”という表現がぴったり。所々、毒づいてはみるけれど、その毒に共感するし、結局「イイヤツ」な主人公が好き。

    ブログにて詳しいレビューしています*
    https://happybooks.fun/entry/2015/05/15/000000

  • 津村記久子作品の映像化ブーム来てほしい。津村記久子さんの会話劇を映像で見たいと強く思う。なんなら津村記久子さんが脚本を書いても良いのでは。現代の向田邦子だ。どこか企画してほしい。

  • 招待客の旅行の日程など関係なく人は結婚するし、結婚式の日取りに関係なく人は死ぬ。本作の主人公ヨシノは、ひとり旅でもしようと旅行会社に申し込んだその日に、しばらく疎遠だった学生時代の友人から連絡があり、結婚式と披露宴への出席ばかりかスピーチと二次会の幹事まで頼まれる。断れなくて、段取りに奔走。ついに当日を迎えたら、これから披露宴というときに会社の常務から電話。ヨシノの上司の父親が亡くなったから、直ちに来いと。社員18名の会社は良くも悪くも家族的で、誰かが亡くなれば必ず全員で通夜の手伝い。なぜ本葬ではないのかといえば、18名の会社は平日昼間に会社を閉めるわけにいかないから。

    表題作の『婚礼、葬礼、その他』は、これまで人を呼びつけた記憶がない、常に腰の低いOLヨシノが、こんなふうに踏んだり蹴ったりな目に遭います。婚礼葬礼両方の様子も面白ければ、その他の部分はもっと面白い。当日の朝に寝坊して食事できなかった。だけど披露宴でご馳走にありつけるからいいやと思っていたのに、飲まず食わずで通夜の手伝いに行かねばならなくなり、ヨシノは腹ペコ。人が幸せでも不幸でも腹は減るもの。

    もうひとつ収録されている『冷たい十字路』は、地下鉄の駅に降りる道に面した十字路が舞台。通勤通学の自転車が無尽蔵に走るこの十字路は危険なことこの上ない。ある日起きた高校生同士の衝突事故。その目撃者や、この十字路を校区に持つ学校の教師、十字路前にあるスーパーで働くパート女性などの話で構成されています。人間模様の描き方が丁寧でこれまた面白い。

    どちらの話も幸せとはいえないのに、最後はちょっぴり優しさを感じてほっとします。長い夜と心の隙間を埋めるのは、結婚式よりもめでたくはなく、葬式よりも重要ではないものかもしれないけれど、それでいいというヨシノの言葉が響いてきます。

    しかしこれから披露宴というときに訃報が届いたら、結婚式<葬式は致し方のないことなのか。故人は一面識もない人だというのに。

  • 「とにかくうちに帰ります」を楽しく読んだ思い出が蘇った。人を呼び出す才能がないことに悲観してなくて、受け入れてるところが津村さんらしくてよい。冷たい十字路のほうもいい。朝交差点で起きた自転車事故を複数の視点で書く。周りの人の視点。いろいろ思うんよね。人がいろいろ思う小説が好きなので、冷たくても笑えなくてもいい。

  • ヨシノの話はとにかくにやにやがとまらないくらい好きな話。
    友だちの結婚式に幹事として行ったのにその最中に会社全員参加型の葬式に呼ばれる
    空腹の中、全く知らない人の葬式にでてる心中が面白くて。津村さんの言葉選びが好き。

    ただ2話目の話は主人公が短い間に何人もでてきて、、そして1話目の話が面白かった分すこしスピードダウンしてしまった。
    自転車で事故ったカップルの2人乗りの女の子が気になる存在だった。。

  • 友人の結婚式に出席中、職場の上司の父親が亡くなったから今すぐ通夜に来いと呼び出されてしまったヨシノのドタバタな1日のお話。津村記久子らしく細部での共感度が半端ない。友人関係や職場の人間関係のちょっとした出来事に、良いことも悪いことも「あるある」と思わされるし、主人公の憤りに共感しつつその言い草にクスっとさせられる。結局、結婚式にしてもお葬式にしても「呼ぶ、呼ばれる」ということは、万難を排してその場に駆けつけてくれる友人がどれだけいるか、ということだろう。

    同時収録「冷たい十字路」は、高校生同士の自転車事故にまつわる周辺人物の群像劇。こちらも「あるある」共感度はとても高いけれど、ややシリアスめ。

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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