月は誰のもの 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫 う 11-18)
- 文藝春秋 (2014年10月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167901998
作品紹介・あらすじ
超人気シリーズが、書き下ろし長編小説に!
髪結いの伊三次と芸者のお文。仲のよい夫婦をめぐる騒動を、江戸の夜空にかかる月が見守っている。大河ロマン的な人情時代小説です。
感想・レビュー・書評
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人気シリーズの14作目。
ただし、初の文庫書下ろし。
8作目の「我、言挙げす」のラストで火事があって家を無くした伊三次とお文一家。
9作目「今日を刻む時計」では、10年がたっていたのです。
この10年間の空白に起きた出来事を描く内容になっています。
伊三次の妻で芸者のお文は、父親を知らずに育ちましたが、しだいに察してはいました。
お座敷の客として訪れた侍の海野との偶然の出会いから、互いにそれと気づきます。
さっぱりした気性のお文の、胸のうちに秘めた思いが切ない。
互いに名乗りはしないまま、手を差し伸べてくれる実の父親の気持ちを受け取ります。
祖父とは知らずに懐いていたお文の息子の伊予太。
子供の言葉がタイトルというのもいいですね。
一方、不破の息子龍之進ら奉行所の見習いの若い者らは、無頼派を名乗る若者集団を追っていました。
事件が落ち着いた後にふと出会い、互いを認め合う成り行きがまた妙味があります。
伊三次が焼け出されて、お文と離れていた時期の出来事。
不破友之進の妻いなみの、年を重ねた妻の思い。
一捻りした味わいが深く、読んでいてこちらも江戸市中をさまよい、人の心にまで共感したような心地になりました☆詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2016.9.17
昔語り。
お文と父親との交流が切ない。
火事見舞いに大枚を渡してくれた。
互いに名乗りあわずとも心通う。
味噌屋の事件が腹立たしい。下手人の悪どさにいたたまれない。真相がわかって良かった。
次郎衛と龍之進の不思議な友情にほっこりした。次郎衛は龍之進の小者になって近い将来、大事件を解決していくその伏線かも… -
今までは「オール讀物」に1年半くらいにわたって掲載してから単行本化していたのだが、病床で書いたためか、デビュー作のシリーズの気になる事柄に決着をつけておきたかったからなのか、初の文庫書き下ろし。
シリーズ最初から見守ってきた読み手へのありがたいメッセージとして受け止めた。
章立てはないが、4つのストーリーが描かれる。
(1〜8)父母を知らずに育ったお文が、十年前父親に巡り会い親子の縁を喜んだ話。泣ける。
お座敷の客として来た隠居の侍海野は、お文を見て美濃屋の内儀が探していた娘ではないかと問う。二人が駆け落ちし引きはがされた後に自分が生まれてたことを知っていたが、相手をおもんばかって否定するが海野は親愛の情をかけてくれた。「月は誰のもの」とは伊与太が海野に問うたことば。
(9〜16)本所無頼派を名乗り鬱憤晴らしに悪さを働いていた旗本の二、三男たちのリーダーだった薬師寺次郎衛に、不破の息子龍之進が邂逅し、互いを認め合う話。
龍之進ら奉行所の見習い組は、彼らを捕らえようとして最後の誘拐事件を解決するが、誰も捕らえられなかった。龍之進が荒れていた時期になじんだ芸者小勘が、勘当されて駄菓子屋の親父となった次郎衛と暮らしていた。
(17〜23)焼け出されてお文と別居していた時期の伊三次の、おでん屋の女将との淡い思いと捕り物の話。
(24)不破友之進の妻いなみの、嫁と不破への思い。 -
短編の様な長編。
10年間の空白が、雪が解けるように、氷解!
お文の父親にも再会。
どちらも、言葉に出さないのに、心と心が通い合う。
その描き方に、作者のうまさを感じる。
大火事で、何もかも、無くし、身体一つと家族だけが命からがら逃げることが出来たが、お文の子供伊与太が、おもちゃも無く、月を見て、『月はだれのもの』と、訊ねる所は、子供にとって、自分の所有物の無さに、無念を感じているのかと、ほろりと、させられてしまう。
人情味豊かな作者が、描く人物像が、素敵である。
龍之進と次郎衛の昔話から、江戸の武士の長男、次男の差が、理解出来、又それゆえ、友と呼べる仲には、難しい物があったのだと、、、、
又、武士の嫁姑の面白さも描かれており、楽しく読み終えた。
66歳で、乳がんで、永眠との事、このような人情味あふれた時代小説が、読めなくなるのが寂しいです。合掌。 -
2014年10月刊。今まで語られなかった10年が語られる。シリーズ初の文庫書下ろし。いくつかのお話があるが、お文の実の父である要左衛門の話が良い。 小さな伊予太が要左衛門に聞いた「月は誰のもの」がタイトルになっているのが楽しい。
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これは何冊目だろうか。髪結い伊三次捕物余話。さて伊与太と茜の行く末はどうなったかなと思いきや、そんな新しい話ではなく、お文や龍之進の昔話の回想を主題とするスピンオフ長編だった。お文の実の父親の話、揺れる伊三次の心情の話、若き八丁堀純情派と本所無頼派の話、それぞれがしんみりとして読ませる。以前なにかのあとがきに著者が個人的な事情でどんどん時代を進めているような話を書いていたが、友之進から龍之進、伊三次から伊与太、お文からお吉とどんどん世代が変わって物語が進んでいくのもおもしろいが、こんなふうにふと立ち止まって語られなかった過去を振り返ってみるというのも興がある。さすがの手練だ。
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人気シリーズも14弾目、シリーズ初の文庫書下ろし作品。
お文の回想から始まり、過去の出来事と現在の事件が絡み合いながら、話が進む。作者自身も、シリーズを振り返りながら、書くことを楽しんでいるよう。ますます筆がさえる。