- Amazon.co.jp ・本 (571ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167902797
作品紹介・あらすじ
ファンたちが、思い思いの選手を組み合わせて、ペナントを戦うシミュレーションゲーム「ファンタジーベースボール」。全米野球ファンの頂点を争う戦いで、見事に優勝した野球好きの青年、大野俊太郎は、ニューヨーク・ヤンキースでGM補佐を務めた立花の抜擢で、IT企業に買収されたばかりの新生横浜ベイズの副GMに就任する。ビリー・ビーンの「マネーボール」に代表されるように、野球を統計学から分析するセイバーメトリクスを駆使し、万年下位の弱小球団をテコ入れし、見事チームに首位を快走させる辣腕フロントとなる。だが、俊太郎に、思いもよらぬに新たな試練が……。それは、ベイズと球界の盟主・東都ジェッツとの合併話だった。しかし、合併話は、大変革への単なる序章にすぎなかった。東都ジェッツのオーナーである東都新聞社主の京極四郎は、日本の球団を四球団に再編。なんとメジャーリーグの極東地区の一部に編入することを画策していた。大野はこの歴史的大転換の渦に巻き込まれていく。日本球団とメジャーの合併が実現したら……。デビュー作『ノーバデイノウズ』で、サムライジャパン野球文学賞を受賞した著者が、統一球や経営難がたびたび持ち上がり、くすぶる球界再編や、スターのメジャー流出で揺れる現在の球界の行く末を、暗示するかのようなシミュレーション小説に挑む。「ベースボール」と「野球」の本質の違い、そして、合従連衡で揺れる日本各地の地域性、随所で描かれる迫真の野球シーン、そしてグッズや審判の問題にいたるまで、選手たち、オーナー、監督たちの葛藤と苦悩、そして、野球への思いをリアルに描きだした傑作。これは、まさに野球のTPP問題! 単行本刊行時には、多くの書評で絶賛された、日本プロ野球を愛するすべての人々に捧げたい、これまでになかったスケールで描く野球小説。
感想・レビュー・書評
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自分が野球を見始めたのは、2003年の阪神が18年ぶりにセリーグを制覇したときでした。その後パワプロで阪神と、関西人なので近鉄でそれぞれのペナントレースをプレイし、ローズ・中村紀洋コンビでひたすらホームランを狙っていた記憶があります。この二人、ヒットの時と、ホームランの時とでバットの振り切り方が変わるので、それがとにかく爽快でした。
だから、その一年後に近鉄がオリックスと合併し球団消滅なんて、想像の遙か上のことでびっくりしました。そしてそのときに近鉄の厳しい資金繰りや、セリーグとパリーグの格差についても知り、子供心に野球って夢のあることばっかりじゃないんだな、と思った記憶があります。
この『球界消滅』が描くのは、その更に上をいく事態。国内の12球団は4球団に統合。そして韓国や中国とともにアジアリーグを作り、その全ての球団がMLB傘下に入るというもの。
あらすじだけ読んだときは、まったくピンとこなかったのですが、作中の説得力がまあ、半端ない……
豊富に示されるMLBの経営データは、いかにアメリカがスポーツをビジネスとして成り立たせているかを示し、対しての日本の商業スポーツの力不足、認識不足を示します。そして作中で描かれる各球団の力関係であったり、立ち位置の示し方も非常にリアル。
一応架空の球団という体ではあるのですが、野球ファンから見れば、それぞれの球団のモチーフは一目瞭然。さらには、あの在京球団のオーナーまで、分かるように書かれていて、野球ファンはにやりとさせられるかも。
登場人物たちの視点も非常に多角的。球団のオーナーや関係者などはもちろん、選手、新聞記者、ファン、審判、広告会社、それぞれの立ち位置から、日本球界の消滅という不安と、一方でのMLB参加への期待、という二項対立を描きます。
小説の特徴の一つは"ホラ話"であることだと思うのですが、ここまでな壮大なホラ話を、データからも、またそれぞれの人物の立場からも描き、絵空事を現実に近づけていく力量というのが、ただただスゴい。作者の本城雅人さんが野球を題材にした小説を書かれているのは知っていましたが、ここまで野球に迫っていくとは、思っていませんでした。
4球団構想の中に隠された思惑、壮大なシュミレーション小説を読んでいるようでもあり、経済小説を読んでいるようでもあり、ミステリ要素もある。そして一方で資本や商業の枠を超えて、プロスポーツとはどうあるべきか、選手たちは何を基準にするべきか、ファンが求めるものは、そのことを問いかけられているような気もします。
野球好きな一ファンとして、賛成できる面、感情的に割り切れない面、色々あって考えさせられました。そしてさらに今年はコロナウイルスで、プロ野球をはじめプロスポーツの収益は、他のエンターテインメント業界同様に大打撃を受けていることもあり、改めて現実の球団は大丈夫だろうか、と心配に感じてしまいます。
ファンあってのプロ野球とは言うものの、実際は資本や経営状況とは切っても切れないもの。夢や理想を見せる野球の裏にある現実と、それでも捨てられないもの。この『球界消滅』はそうしたものを描こうとしていたように思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
コロナ禍の影響で楽しみにしていたプロ野球の開幕も大幅に遅れている今日この頃、野球成分を補うために積読となっていたこの小説に手を伸ばした。
セイバーメトリックス理論に基づきチームを作りあげる大野俊太郎。一方でとてつもない計画を立案、秘密裏に進行させる牛島輝也。その計画が明らかとなり、選手、フロント、ファン、オーナー、新聞記者…さまざまな立場の人たちの思いが交錯する。練りに練った計画に唸らされたり、それぞれの立場の正義を応援したくなる。中盤以降は一気読み。伏線もすべて回収されスッキリ。私にとってはハッピーエンドでした。
しかし、日本のプロ野球頑張れ!と改めて応援したくなりました。 -
面白かった。日本プロ野球界の考えるべき課題がリアリティ十分に描かれている。球団オーナー、選手、GM、ファン、その家族などがそれぞれの立場で悩み、考え、奔走する姿が全く間延びすることなく描かれている。物語としての結末もエンディングも良かった。
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10数年前に国内を揺るがしたプロ野球再編問題。その衝撃再びの如く、日本のプロ野球チームが4球団に統合されMLBに加入したとしたら…。豊富なデータに裏打ちされた戦慄のシナリオ。
今後のプロ野球の目指す道を考えさせられる。グローバル化を目標とするか、草の根的の『おらが町のチーム』を選ぶのか。近年の広島、福岡、東北、北海道の地域球団の元気さをみると、日本が選択すべき道は後者のような気がする。赤瀬川隼さんの『球は転々宇宙間』を再読したくなる。 -
再読しました。
ダークヒーローとも言える牛島の造形は見事だと思います。
日本プロ野球のステークホルダー相関を考え直してしまう。良書だと思います。
スポーツ小説でもあり、経済・企業小説でもあります。
一昔前、実際にパ・リーグで球団が消失し、1リーグ制が提唱されました。その時、ファンと選手会が反発し選手会が主導してストライキに突入しましたが、ファンを中心とした世論のほとんどは選手会を指示していました。
その様子は非常に感情的でポピュリズムと捉えられても仕方がない状態でした。
プロ野球は文化なのか?ビジネスなのか?
プロ野球球団にとってのステークホルダーとは誰なのか?
プロ野球球団の社会的目的は何なのか?
あの騒動のあと、そんなテーマを冷静に考えることなく現在に至っています。
プロ野球をビジネスと考えたとき、またプロ野球球団の運営の主軸を企業価値の向上と考えたとき、日本プロ野球のその様態はアメリカのそれと比べるとあまりにも脆弱に映ります。
好むと好まざると資本の波は押し寄せて来るでしょう。そんなとき我々は自分の足で立っていたいものです。 -
日本プロ野球がメジャーに吸収。球団が企業のお荷物へ。
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ハードカバー発売時には「話題にはなってるけど、文庫待ちでええか」と思い、いざ文庫になったらなったで見落として、やっと読みました。
中盤までは、特に選手、球団内のシーンは堂場瞬一っぽいけど、堂場瞬一の方が上かな、という印象。女性の書き方が薄っぺらく感じるのも堂場っぽい。いや、どちらもそこにそれほど重点が置かれてない、ってこともあるんでしょうけれども。
その分、後半のスパイ探し辺りからの企業活劇はなかなか。スピード感もむしろこちらの方が試合のシーンよりある。 -
メジャーに日本球界話が飲み込まれる話。
4球団に整理統合されるとか。 -
フィクションとは思えない!