望郷 (文春文庫 み 44-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167905231

作品紹介・あらすじ

日本推理作家協会賞受賞! 心に刺さる連作短編集島に生まれ育った私たちが抱える故郷への愛と憎しみ…屈折した心が生む六つの事件。推協賞短編部門受賞作「海の星」ほか傑作全六編。

感想・レビュー・書評

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  • 島が舞台となった6つの短編集。

    著者の柔らかい方の思考で描かれた作品といった印象で、どのストーリーも結末が美しくて、美し過ぎて、私には少々物足りなかったが、「海の星」の話は久々に琴線にふれた物語であった。

  • なんとも美しいお話。ただ、勝手に連作短編集かと思っており「みかんの花」でのサスペン臭を起承転結の「起」だと、壮絶な勘違いをしていた。

    受賞作「海の星」は読み終えてからの表紙とのリンクに柄にもなくロマンチックな気持ちになった。
    暗黒書物大好きマンには少々、綺麗過ぎる気がするが、たまにはグレーに荒んだこの心を0綺麗にしなくてはいけない。

  • 旅というものに何を求めるでしょうか?どうしてその場所を目的地として選んだのでしょうか?もしその旅に、日々の生活の疲れを癒すため、現実逃避がしたいとを心が求めている、そういう場合には、日常との落差を感じさせる場所を敢えて選ぶように思います。でも実際に訪れて、そこに普段暮らす日常と変わらない風景があったなら、日常の象徴であるコンビニが同じようにあったなら、一気に興を削がれると感じるかもしれません。これが一過性の旅人であれば次回はもっと違う場所にと、行き先を変えることができます。でも、それが故郷を後にして、例えば東京で暮らす人だったらどうでしょうか。故郷をどう思うかは人次第だと思います。過去と今を比べて、どちらが輝いていると感じるかでも変わってくるでしょうし、過去に苦い思い出があれば、幾ら美しい風景でもどんよりと陰ったもの以上には見えないでしょう。一方で昔は良かったと感じている人は、過去の記憶に縋りたくなります。過去が変わってしまうことが、過去の幸せだった記憶まで変質させられるように感じてしまうこともあるかもしれません。でも、故郷を離れ、東京で暮らす人の気持ちはどれだけ大切なものなのでしょうか。故郷が変わる、離島だった島が本州と繋がる。その時、『無駄に騒いだのは、島外に出て行った人たちだ。』普段生活をしている人でなく思い出に生きる人が守ろうとする島、故郷。『故郷を守りたくないのか?それなら、あんたが島に住んで税金を納めろ。』相反する利害の対立。『出て行った人たちはお気楽なものだ。白綱島は昭和なんとか村というアトラクション施設ではない。人間が生活をしている場所なのだ。出て行った人たちに、ノスタルジーがどうの思い出がどうのと、文句を言う権利などない。』そこに暮らす人の視点、思い、複雑な感情を背景に物語は展開します。

    湊さんの出身地である因島をモデルにしたとされる白綱島。都を追われ、失明したお坊さん。暗闇の中に一本の白い綱が見えた。それを辿りながら歩き続けた先、白い綱が海に向かって伸びていった先にあったとされ、かつては造船で賑わった島。高校時代に駆け落ちして島を出て売れっ子作家になった姉の25年ぶりの凱旋帰郷。認知症になった母と島に残った妹。久しぶりに帰った我が家で姉が料理を作ると言い出します。それに対して『やめて。出て行った人に、台所に立たれたくない。』と叫ぶ妹の複雑な感情・思い。でも本当の真実はそれとは全く異なるところにあった衝撃の結末。〈みかんの花〉というどこか甘酸っぱい章題、ノスタルジーな風景に隠された25年前の真実。最初の章からすっかり魅せられてしまいました。

    〈みかんの花〉を含め六つの短編から構成されたこの作品。白綱島を舞台にちょっとミステリーな物語がそれぞれ展開します。いずれも今と過去の二つの時に光を当て、その対比、その繋がりが巧みに描かれます。舞台となる白綱島の風景がそれぞれの章で少しづつ丁寧に描かれていることもあって、読み終わる頃にはこの島の過去と今の情景がそれぞれが浮かび上がってきました。

    もう一点、〈光の航路〉では、いじめについても取り上げています。『誹謗、中傷、窃盗、暴力、行きすぎたこれらの行為は大人がやれば犯罪とされるのに、子ども同士で起きれば、平仮名三文字の重みのない言葉で誤魔化される。』という視点。同じ子どもでも街中でこれらの行為を行えば犯罪とされるのに、全てが『いじめ』の三文字と共に聖域化されてしまう不思議な場所・学校。そんな聖域で受ける仕打ちに声をあげられない『いじめられる側』。湊さんは『誰かに相談するということは、いじめられっ子であるのを自分自身が認定するということだ。』と書きます。多くの作家が一度は取り上げようとする題材『いじめ』。それは、大半の大人が過去に過ごした聖域の中で何かしら目にした、関係した光景だから、そしてこの先も決してなくなることのない永遠のテーマだからなのだと思います。そこかしこにある目の怖さ、閉塞感のある日常を舞台に、かつて高校の先生でもあった湊さんのリアルな描写が胸を苦しくしました。

    色々な視点からの六つの短編、人の心の闇を描きつつも、それでいてみんなどこか前向きであることが共通していたさわやかなミステリー、湊さんってこういう作風なの?そんな印象も持った読み応えのある作品でした。

  • 『望郷』湊かなえ 著

    1.湊かなえさんの作品
    この書籍は、親戚からいただいた一冊です。
    湊かなえさんの本を読み始めるとき、緊張をともないます。
    なぜならば悲哀が押し寄せ、ときには読み進めることが困難になるからです。

    2.「望郷」
    短編集でもあったため、悲哀が長く続くことはなかったです。
    人間の心の奥底に流れている、自己への欲求と逃避の狭間での葛藤が見えてくる作品でした。
    舞台は、四国に浮かぶ島です。

    3.読みおえて
    島を離れたかった人、またその理由。
    島に戻りなくなかったが、戻らなくてはいけない事情。
    一つひとつの短編で丁寧に描かれています。

    誰もに存在する生まれた土地、それが故郷です。

    故郷を望む気持ちは持ちつつも、それを決して声には出せない事情、生き方は実際に存在するはずです。

    自分と他者。
    今の土地と故郷。
    どこに折り合いをつけて、心の拠り所にするのか、、、

    それを探し続けることは、まして一人で探すことは、決して易しくないと理解できます。

  • 湊さんの作品はどれも面白くて大好きな作家さんです。日本推理作家協会賞受賞作品が収録されているということで、興味は持っていたんですが、ようやく読めました。

    舞台は瀬戸内海にある白綱島。この島に住んでいる人、出て行った人、移り住んだ人達を主人公とした6作品で構成されています。

    島という閉鎖的な空間で独特のしきたり・伝統に振り回される主人公達。6作品どれも暗く重い気持ちになる作品ですが、終盤にかけて、物語が逆転し、最後は晴れやかな気持ちになれます。

    やっぱり湊さんの作品は面白いですね。過去の作品を読み返したくなりました。

  • よくテレビで田舎暮らしの特集をしていて、ゲストの芸能人が「羨ましい!私も住みたい」などといっているが、閉鎖的で迷信深いという負の面があることを知っているのだろうか⁈
    そんな裏の顔を作者の故郷、因島(白綱島)を舞台に書き綴った短編集。
    あまり好みの作家ではないといままで感じていたが、この一冊は心に響いた。辛い状況に陥っている人に勧めたい傑作だと思う。

  • 口コミが良かったので購入。
    あまりミステリーは読まないけれども、これは物語として良かった。
    人の光の部分と闇の部分が描かれている。
    人の弱い部分が丁寧に書かれている。
    短編集で話は以外な結末を迎える。
    本の表紙にもなっていますが、海の星と呼ばれている夜光虫を見てみたいです。

  • 白綱島で生まれ育った主人公たちが成長して、それぞれの生い立ちや、島での生活で抱えてきた、謎や不満や後悔等々を、再び白綱島に関わることで解決したり、納得したり、思い直したり…。

    23区内出身の友達は、実家のある生まれ育った所を「故郷」とは言わないから、生まれ育った所が田舎だから「故郷」というキレイな言葉が当てはまるのかもしれない。
    あの田舎ならではのモヤモヤを私も主人公たちのように抱いていて、なんだかどの短編も共感出来た。

  • “嫌な気持ちにもなるが、泣けることもある”

    そんな一冊。

    「性格の悪い、不快な人たち」が登場するのだが、
    それに対して、主人公は「実に性格の良い人たち」。
    その対比が、なんとも涙ぐましい。

    「貧乏」「いじめ」といった不幸は、涙をさそう。
    これはいつの世も変わらない。

    “嫌な気持ちにもなるが、泣けることもある”のは、
    「貧乏」「いじめ」といった不幸を描いているから、といえる。

    *

    「石の十字架」の章に、とても印象的だったセリフがある。

    “ 「言葉は知らないうちにナイフになる、ってことはわかってるのに、どの言葉がナイフになって、どの言葉がならないか、区別することはできなかったから。これは大人になった今でもできない」”

    昨今のSNSにおいて、これは非常に突き刺さる言葉ではないだろうか。

    結局、“わからない”のである。

    どの言葉がよくて、どの言葉がいけないのか、
    どの言葉が人を傷つけて、どの言葉なら人を傷つけないのか。

    “わからない”。

    これが結論なのではないか。

    私もいまだにわからない。



    最後に、ちょっと思ったこと。

    文庫本の最後に、光原百合氏による解説がある。

    その解説の中で、
    “『望郷』の舞台となっている白綱島は、作者である湊かなえさんの故郷である因島をモデルにしている”
    と書かれている。

    これを読み、そのことを全く知らなかった私は、「え!そうなんだ!」と驚いた。

    これを知っているのと、知らないのとでは、作品の読み方や受け取り方が変わってこないだろうか。

    例えば、「どうりで島の情景描写がうまいんだな」とか、
    「島に住む人、島から出た人、それぞれの思いが交錯するのだが、これがやけにリアルに感じられるのは、著者が島出身だからこそ…」とか、
    「生まれ故郷を舞台にしているのだから、これは著者にとって思い入れのある作品なのではないか」とか。

    “作者の故郷をモデルにしている”という情報があるかないかで、本書の印象がずいぶん変わる(「作品は『作品のみ』で評価されなければならない」という考えの人にとっては、このような読み方は不純に思われるかもしれないが)。

    ところで。
    電子書籍版だと、おそらく、この解説がないのではないか?
    (というのも、電子書籍版になると、解説がカットされている小説が多いから。本作の電子書籍版を読んでいないので実際のところはわからないが)

    以前から、紙の本と電子書籍の違いとして、【解説があるかないか】はとても大きな違いであると思っていたけど、本書でもそのことを痛感した。

  • 衰退を辿る白綱島に住む人達の深い事情が語られる連作短編集。とはいえ短編同士にあまり繋がりはない。短編でありながらも少し描写を細かくすることで長編として成立するのではと感じる濃密な内容を小気味よく読ませてくれるので読了後の満足度が高い。どの作品も主人公はとても辛い立場を主人公目線で描かれ、感情移入がすっかりできた時点で他方の目線から真相が語られる仕立てて、深く納得感のもてる終わり方だと感じます。
    読みながら本のタイトルが何故「望郷」なのか理解出来なかったですが、解説で作者の故郷である因島がモデルになっていると知り納得。
    人生が辛く思えるとき、作者なりの考えかた、生き方の解として提示してくれている。

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

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