- Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167909567
感想・レビュー・書評
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ものすごく切ない気分になる短編集でした。
読みやすく美しい文体に、ファンタジックでありながらも、人間の内面をえぐるような心情描写とそのリアリティさ。堪能させていただきました。
本書はフォロアーさんの素晴らしいレビューを読んで手に取った本でした。著者の桜庭一樹さん自体も初読みの作家さんです。
「一樹(かずき)」という名前から男性の作家さんだと思っていたのですが、女性の作家さんなのですね。恥ずかしながら知りませんでした。2008年には直木賞も受賞されているし・・・。いやはや、まだまだ知らないことばかりです。
本書は、人間そっくりの姿をした竹の妖怪である吸血種族『バンブー』と人間との禁じられた交流を描いた物語3本が収録されている中短編集です。
吸血種族といえば『吸血鬼バンパイア』を思い出しますが『バンブー』はバンパイアとは若干違います。血を飲んだり、日光に当たると死ぬところなどは同じですが『バンブー』は不老不死のバンパイアと違って、歳は取りませんが不死ではありません。『バンブー』の寿命は120歳くらいで人間よりも少し長生きというところです。
本書に収録されているのは
〇 ちいさな焦げた顔
〇 ほんとうの花を見せにきた
〇 あなたが未来の国に行く
の3篇で、どの短編も『珠玉の逸品』と言っていいでしょう。
3篇とも描かれた時代が違い、登場人物もほとんど変わってしまいますが、各篇が少しずつリンクしているので
「ああ、あの時のあれはそういうことだったんだ!!」
という驚きがあって楽しめます。
特に僕は第1篇の『ちいさな焦げた顔』が良かったですね。
『ちいさな焦げた顔』は、マフィアによって一家皆殺しにあった家族で唯一生き残った10歳の少年をバンブーの青年が助けるところから物語は始まります。
バンブーの青年は相棒の男性バンブーと二人暮らしをしており、そこへ人間の少年が入り込み、バンブー2人と人間の少年1人という奇妙な3人の同居生活が始まります。
そして人間の少年はマフィアの追っ手を逃れるために女装し、『少女』として新しい生活を送るのです。
バンブーの2人が人間の少年を実の弟のように、息子のように、そして恋人のように愛するところは微笑ましいのですが、そんな幸せな生活は長くは続きませんでした。
バンブーの2人はバンブーの重大な掟を破っていたのです。バンブーの厳しい掟では、バンブーは人間とかかわってはいけなかったのです。
彼ら3人に訪れる過酷な運命は・・・。
第2篇の『ほんとうの花を見せにきた』は、バンブーの掟を破った『はぐれバンブー』の少女と人間の少女との交流。
第3篇の『あなたが未来の国に行く』では、人間とバンブーが分かれて暮らすこととなった歴史的な事件が描かれます。
どの物語も非常に切なく、限りある命の大切さを思い起こさせてくれます。
どの物語の登場人物にも感情移入でき、自分だったらどうするだろうか?と自問自答する場面もたくさんありました。
この3篇の物語に共通するのは、
人間以上に『人間らしい心』を持ったバンブー達の美しい生き様
です。
この物語には、たくさんのバンブーが登場し、同じくたくさんの人間達も登場するのですが、第1篇のマフィア達のようにここに登場する「人間たち」のその心の汚く、愚かなことといったらありません。
この「汚い心を持った人間」と「人間以上に『人間らしい心』を持ったバンブー」の対比には、読者は考えさせられるところが多いと思います。
第1篇、第2篇に登場する「はぐれバンブー」の少女ですら、信じた人間との約束だけは絶対に破らないのですから。
この物語に描かれるようなバンブー達は理想の存在かもしれませんが、そのような心を持とうという意識を持つことは、僕たちでもできると思います。
日々の生き方をもう一度思い起こさせてくれるような素晴らしいストーリーでした。
ぜひ、バンブー達を主人公にした物語を今後も書いて欲しいと思います。
と言う訳で、物語は素晴らしかったのですが、一点だけ注文をつけるとすれば、文庫本版の表紙イラストですね。
特に、僕が感銘を受けたフォロアーさんが単行本版の方でレビューされていたので、本書の文庫本版を手に取った時の違和感ったら半端じゃありませんでした。
あれ?これ違う本じゃね?
と素直に思いましたよ。
そして、本書一読後に再度このイラストをまじまじと見てみたのですけど、
ちょっと誰だか分からない!
ネットで検索してやっとこの表紙の少女は第1篇の主人公の少年が女装した姿らしいというのが判明したのですけど・・・僕の脳内イメージとは違いすぎます・・・。女装した男の子の絵とか誰得・・・。
やはり、単行本版のようなダークなイラストの方が、本書には似合うのではないでしょうか・・・。
・・・・・・というか、もしこういうのが得意なイラストレーターの方に依頼するなら、表題作であり、第2篇の主人公『はぐれバンブーの少女・茉莉花』を描くか、いっそのこと、もっとこうBL本っぽいかんじで、第1篇の美男子バンブーの二人「ムスタァ」と「洋治」をフィーチャーしなきゃだめでしょ!!!(※念のため、本書にはBL要素はありませんのでご注意ください)
って、最後に訳分からないレビューになりましたけど、物語は最高ですので、ぜひ読んでみてもらいたい1冊です☆ -
ひさびさに、本で泣いた。
印象に残った言葉は、
「おまえのここに、火がある。生まれた時から、ずっとだ。だから俺たちは必死でおまえを守ってきた。おまえは、火だ。命が尽きる最後の日まで、人間は、火だ。
そのことをけっして忘れなかったなら、このさきどんなに辛いことがあっても、おまえはきっと生きていけるだろう。火だ。おまえは、おれたち二人が、いつさか気が狂いそうなほど深く愛するようになった、とくべつ明るい火だ。おまえの代わりはこの世のどこにもいねぇ。人間は、一人一人が、特別な火だ。
だから、消えるな。生きろ。頼む、がんばるって約束してくれ。戦うと言ってくれ。おまえの胸の火と、おまえのバンブーとの、けっして破れることのない永遠の約束を。」
長くてごめんなさい…
少し省略してますが、内容はそのままの形で載せました。
別れのシーンのこの言葉に号泣でした( ; ; )素直な言葉が言えなくなって、だんだん関係がこじれて、大事な気持ちが言えないまま突然訪れた別れ。最後の最後に想いが溢れるこのシーン、切なかった…。
いろんな人物目線で各章描かれ、真相や全体像が見えて、人間とバンブーの共存はむずかしいな…それぞれに想いがあったんだな…と思いました。
洋治の最期すごい辛かったな…。愛がどこまでもまっすくで温かくて、胸が張り裂けそうになった。 -
私は桜庭一樹の作り出す世界観が心底好きだなと改めて実感した作品。 まんまとメロメロになった。 あらすじを読んだ時点でこれはいかにも好きな感じだなと思ってたけど、本当にはずかしいくらい好みど真ん中で降参してしまった。 言葉ひとつひとつに力があって、でもたくましいだけじゃなくしっとりした色っぽさもあって、読点のタイミングや台詞回し、文章の端々に桜庭節が強めに効いている。 桜庭さんの選ぶ言葉は、くせがあるんだけどわざとらしくなく巧みだから、流れるようにすっと沁みて馴染む。 気持ちよく読めるのに何回も戻って目で追いたいフレーズがそこかしこにあって、いつも少しページを繰る手が止まる。 「私の男」でも「ほんとうの花を〜」でも、短編でもそうだけど、掴みどころはないのに人間くさくて生々しい、乾いてるのに湿っぽい、邪気がないのに色っぽい、そういう矛盾した愛情の発露が桜庭作品のいちばんの魅力だと思う。 大好きです。
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痛いくらい美しい世界観。
梗ちゃんの狂おしい愛情が一方的なものなんかじゃなかったことが、洋治の最期や帰って来たムスタァ、茉莉花の執着から伝わってきた。生きることの意味や価値が、人間だけじゃなくて竹族にもあるんだって類類の姉さんが教えてくれた。種族が違ったって変わらないものはきっとある。 -
涙が止まらなかった。
ページをめくることがこんなにも辛い本に出会ったのは初めて。
妹と一緒に涙でぐちゃぐちゃになりながら読んで、間違いなくこの本は一生記憶に残ると思った。
恋と愛の違いを知ることができた。 -
すごくよかった。
やっぱり桜庭一樹さんの本は好きだ。
言葉のセンスがすごいと思う。私好み。
ちいさな焦げた顔
ほんとうの花を見せにきた
あなたが未来の国に行く
の3篇からなる。
全部が繋がっていて、すごく切なかった。
ある話では悪役に見えたヒトが、ある話ではその背景が分かって読んでて悲しくなったりとか。 -
感受性が豊かで、ガラスみたいに透き通って繊細な時期に出会っていたかった、そういう作品。
私はもう大人で家庭だって持ってて社会人としての経験も人並み…以下かもしれないけどあるわけで、そういう立場の大人が読むと、物足りなさやいわゆる寒さを感じかねない作品ではあった。
けれどもし私が10代で、傷ついていたあのころに読んでいたなら、この作品はかけがえのない物語となって心に残ったと思う。
愛とは何か、この作品に教えてもらうことができたのだろう。
大人なので、このスケールの物語ならもっと長く濃密な形で読みたかったなあと思ってしまった。でももっと年を取る前に読めてよかった。 -
読んでいて涙が出た。ちょっと切ないファンタジ。桜庭作品は何冊か読んでいるが,こういう作品も描けるのかと驚いた。
あらすじ(背表紙より)
中国の山奥からきた吸血種族バンブーは人間そっくりだが若い姿のまま歳を取らない。マフィアによる一家皆殺しから命を救われた少年は、バンブーとその相棒の3人で暮らし始めるも、人間との同居は彼らの掟では大罪だった。禁断の、だが掛けがえのない日々―。郷愁を誘う計3篇からなる大河的青春吸血鬼小説。 -
止まった時間と進み続ける時間が重なる瞬間を小説に捉えた話。
直木賞の授賞式で桜庭一樹自身が言った言葉が、その感覚が、切なさと心地よさと懐かしさを引き出し魅力となっていると思う。
全力で愛して、無垢なまでのその愛情は他人を裏切りながら続いていく。それでもあまりの無垢さに裏切りさえも受け入れられていくように感じる。
こちらにもコメントありがとうございます!
いや、本当にいいお話でしたよね。
確かにあのムスタァと洋治を選ばなきゃならな...
こちらにもコメントありがとうございます!
いや、本当にいいお話でしたよね。
確かにあのムスタァと洋治を選ばなきゃならないシーンは泣きました。どちらも選べないですよね・・・。
それに僕は茉莉花と梗ちゃんの関係性も好きでした。茉莉花はちょっと駄目な子ですけど、すごく純粋な娘なんでしょうねぇ。彼女が花に変わるラストシーンには泣かされました。
やはり、文庫本のイラストはちょっとですよね・・・。単行本版をそのまま使っても良かったのに(笑)。
レビューとはちょっと離れるのですが、どうしても気になったことがありまして。
アメリカインディア...
レビューとはちょっと離れるのですが、どうしても気になったことがありまして。
アメリカインディアンの昔話に「小さな焦げた頬」という有名なお話があるのです。
高学年から大人用で、私も素話の持ちネタにしています。
インディアン独特の神秘的な宇宙観を持った美しいお話なのですよ。
焦げた頬と言われるくらいですから、お姉さんたちにやけどを負わされて、
前半は可哀想なんですけどね。
すみません。場違いな話で。
桜庭さんは、あるいはタイトルだけ拝借したのですはと思います。
ストーリーを読むと、似てなくもないようでしたので。
返事遅くなってすいません。
「小さな焦げた頬」というお話があるのですね。知りませんでした。
桜庭...
返事遅くなってすいません。
「小さな焦げた頬」というお話があるのですね。知りませんでした。
桜庭さんは、そのお話をオマージュして本書を書いたのでしょうかね。
インディアンの神秘的な宇宙観ということでちょっと気になります。
興味深いコメントありがとうございます!