ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集 (文春文庫 む 5-15)
- 文藝春秋 (2018年4月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167910563
作品紹介・あらすじ
旅をしている人にだけ見えてくる風景がある。そこには特別な光があり、特別な風が吹いている――ボストンの小径とボールパーク、アイスランドの自然、「ノルウェイの森」を書いたギリシャの島、フィンランドの不思議なバー、ラオスの早朝の僧侶たち、ポートランドの美食やトスカナのワイン、そして熊本の町と人びと――旅の魅力を描き尽くす、村上春樹、待望の紀行文集。「熊本再訪」初収録。目次・チャールズ河畔の小径 ボストン1・緑の苔と温泉のあるところ アイスランド・おいしいものが食べたい オレゴン州ポートランド/メイン州ポートランド・懐かしいふたつの島で ミコノス島/スペッツェス島・もしもタイムマシーンがあったなら ニューヨークのジャズクラブ・シベリウスとカウリスマキを訪ねて フィンランド・大いなるメコン川の畔で ルアンプラバン(ラオス)・野球と鯨とドーナッツ ボストン2・白い道と赤いワイン トスカナ(イタリア)・漱石からくまモンまで 熊本県(日本)1・「東京するめクラブ」より、熊本再訪のご報告 熊本県(日本)2・あとがき
感想・レビュー・書評
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村上春樹氏の紀行文集。
ラオス、ギリシャ、フィンランド、イタリア…観光地を巡る旅ではなく、自身がかつて生活した場所を巡ったり、現地の人の暮らしに近いスタイルの旅に、憧れをかきたてられました。
特に行ってみたくなったのはアイスランド。
本書を読むまで名前しか知らないような国だったのに、パフィン(エトピリカ)のコロニーがあり、たくさんの温泉に恵まれた読書好きな国にすっかり魅了されました。
長い冬に温かい暖炉を囲みつつ本を楽しむ、というシチュエーション…人生で一度はそんな冬を過ごしてみたい。
それから、熊本の旅も魅力的でした。
オーディオ・マニアの父子が営む電気屋さんやたくさんのトピアリーが居並ぶ国道11号線…、そして看板猫・しらたまくんが迎えてくれる橙書房。
ああ、いつか行ってみたい…!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
村上さんが、仕事やプライベートの「旅」で感じたことを紡ぎ、その独特の感性をとおして旅の楽しみ方を教えてくれる一冊。
本書で村上さんが訪れている場所、例えばボストンとかトスカナとかフィンランドとかそういう場所を訪れたことがある方は、その地を知っているからこそ「共感」できる部分と、村上さんのフィルターを通した新しい視点でその場所を見ることによる「発見」が詰まっていて、昔わざわざお金と時間をかけて行った場所にまた行きたくなってしまうのでキケンです。
村上さんがおっしゃるように、ラオスに一体何があるのか?は行ってみなければわからないし、その何かを見つけるのが旅の醍醐味であるという点、そしてその例えにラオスを使っている点(さらにタイトルにまでしてしまうところ)にとても共感しました。
実はラオスのルアンプラバンには2年ほど前に旅行で訪れたことがあります。
おそらく実際には、「日本にあってラオスにないもの」の方が、その逆よりも圧倒的に多かったのだと思います。でも旅から2年経った今覚えていることの大半は、「日本にはないけどラオスにあったもの」、つまり托鉢が練り歩く朝の静謐な空気とか、メコン川の魚を使った(と思しき)初めて食べる美味しい料理とか、日々の喧騒を忘れられるゆったりした時間とか。そういうものに触れられただけでラオスに行った意味があると思うし、心が疲れたときには脳内旅行で今でもたまに訪れたりして。
実際に訪れる前は、ラオスなんて(という言い方は失礼ですね、ごめんなさい)、死ぬまでに一度でも行けば十分だと思ってたのに、この本を読んでまた行きたくなっちゃったんですよね。他にもまだ行きたいところはたくさんあるのに、困った困った。 -
村上作品はこれまで幾度となく挑戦し、最後まで読んでもあまり面白さはわからなかった。
旅行記なら面白いと聞いて読んでみたが、小説よりは確実に楽しめた。
「ラオスに一体何があるというんですか?」
確かに、それがわからないからこそ旅行に行くのであって、それを見つけることが旅行の醍醐味。
写真ではわからない、写真では残せないものを感じて脳に焼き付けたい。
ワインに詳しくなりたいと思った。
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ワインは全然飲めないし興味はないんだけど、イタリア編、面白かった。食いしん坊なので、ポートランドも惹かれたし、スペッツェス島の「パトラリスの店」も行ってみたくなった。
気軽に読めて、とても良かった!
旅行だけではなく海外の様々な地域で暮らす著者の淡々とした行動力凄いな〜と思う。 -
村上春樹の旅行記。題名のラオスだけではなく、ボストン、ニューヨーク、ギリシャ、トスカナ、熊本など。
村上春樹は、ラオスでは、首都のビエンチャンではなく、ルアンプラバンを訪れている。
私は、ラオスには、旅行で一度行った。ビエンチャンとルアンプラバンだ。本書の題名の「ラオスにいったい何があるというんですか?」は、村上春樹が、ルアンプラバンに行く際のトランジット先のハノイでベトナム人に言われた言葉。
でも、ルアンプラバンって、ラオスの古都で、世界遺産にも登録されている結構有名な旅行先。私がラオス旅行した際も、ビエンチャンでは、観光客をほとんど見なかった(観光する場所が、あまりない)が、ルアンプラバンは、観光客で一杯だった。村上春樹も書いているが、結構、洒落たレストランやカフェもあったりもする。
だからといって、確かに何か重要なものがあるわけでもなく、「何があるというんですか?」と面と向かって問われると、困るかも知れない。 -
村上春樹の紀文集。
作中あまり印象に残らないラオスからなぜタイトルをとったのか疑問だったが、その答えはあとがきにあった。「人々が不思議に思う、何の変哲もない場所にも何かしらの訪れる価値や意味がある」。なるほど。
村上さんに独特で的確な表現は健在でどの作品も小粒ながらウィットに富んでいて面白いが、個人的にはアイスランド編か熊本県編が好きだ。 -
本書は、村上春樹(1949年~)氏が、1995~2015年にいくつかの雑誌のために書いた紀行文をまとめたもの。大半の初出は、JALのファーストクラス向け機内誌「アゴラ」(但し、雑誌に掲載されたものより長いバージョンだそう)で、その他は、雑誌「太陽 臨時増刊」、雑誌「タイトル」、雑誌「クレア」である。2015年に出版、2018年に文庫化された。
訪れた場所は、米ボストン、アイスランド、米のオレゴン州ポートランドとメイン州ポートランド、ギリシャのミコノス島とスペッツェス島、ニューヨークのジャズクラブ、フィンランド、ラオスのルアンプラバン、イタリアのトスカーナ地方、熊本で、村上氏が過去に数ヶ月~数年間滞在した場所(ボストンやギリシャ)への再訪もあれば、初めて訪問した場所もある。
私は、本はよく読むものの、多くがノンフィクションで、村上氏の作品についても、読んだ記憶があるのは、初期の『風の歌を聴け』、『羊をめぐる冒険』、『ノルウェイの森』あたりまでで、その後の小説は全く読んでいないのだが(私は天邪鬼的なところがあり、村上氏が注目されるようになるほど、読む気がしなくなったのだ)、紀行文集である本書は出版当時から気にはなっており、今般(出版から随分経ってしまったが)読んでみた。
そして、読後感は予想以上に良いものであった。私は旅も好きなので、ノンフィクションの中でも、紀行文や世界各地を取材したルポルタージュをよく読むし、それらの大抵のものを面白いと感じるのだが、紀行文やルポは、書き手の感性や文章表現の特徴がよく出るジャンルなので、その面白さの差(更に言えば、好き・嫌い)が意外にはっきりするものである。そうした点で、村上氏の紀行文は、関心の対象やそれらの表現の仕方が自分に合っていて(例えば、村上氏の紀行文では、( )書きの細かい補足や、一つの段落が「・・・だけれど。」という逆説で終わっていることが比較的多いが、これは書き手の思考・表現のくせだと私は思っており、私もそういう文章を書くタイプである)、心地よく読むことができた。
また、私の最も好きな書き手は(紀行文に限らず)沢木耕太郎で、本書を読んでいる途中で、しばしば、沢木氏の作品を読んでいるような錯覚に陥ったのだが、それは、両者の感性と表現の仕方が似ている(また、全体にスマートさを感じさせる点も似ている)からなのだと思われる。
村上氏が90年代に数年間住んだというボストンについて書かれた文章の中に次のようなくだりがある。「かつて住民の一人として日々の生活を送った場所を、しばしの歳月を経たあとに旅行者として訪れるのは、なかなか悪くないものだ。そこにはあなたの何年かぶんの人生が、切り取られて保存されている。潮の引いた砂浜についたひとつながりの足跡のように、くっきりと。そこで起こったこと、見聞きしたこと、そのときに流行っていた音楽、吸い込んだ空気、出会った人々、交わされた会話。もちろんいくつかの面白くないこと、悲しいこともあったかもしれない。しかし良きことも、それほど好ましいとはいえないことも、すべては時間というソフトな包装紙にくるまれ、あなたの意識の引き出しの中に、香り袋とともにしまい込まれている。」
私も村上氏と同じように、数ヶ月から数年の期間住んだ外国の街がいくつかあるのだが、是非改めてゆっくり訪れてみたいと強く感じた。(国内の街でも同様のことは感じるのであろうが、外国の街の方が、それは一層強いに違いない)
(2024年4月了) -
旅の記録、短編集。読みやすく、素朴な文章で面白く読めた。旅というのは、イベントや見どころばかりではなく、日常を観察することでも楽しめるものなのだなと感じた。
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村上春樹の紀行文は初挑戦。小説とは少し趣向が異なると言うかシンプルで飾りのない文体で綴られる旅行記は本当に気軽にその場所に行ったかのような気分にさせてくれる。コロナで海外なんて行けないし、紀行文読み漁っていきたいところの想像を膨らませるのもオツなものです。
特に気になったのはアイスランドとフィンランドの章。アイスランドに行って、ブルーラグーンに入ったら僕もパフィンを保護してみたい。
フィンランドは読んでいくたびに多崎つくるを思い出して、懐かしいような物悲しいような気分になった。旧友との再会って必ずしも喜びに溢れているとは限らないもの。 -
他人の金でファーストクラスの豪華旅行三昧。うらやまし過ぎる。「旅の直後に文書を残しておけば良かった」には同感。これこらやってみるか。