四月になれば彼女は (文春文庫 か 75-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167913076

感想・レビュー・書評

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  • 4月、精神科医の藤代のもとに、初めての恋人・ハルから手紙が届いた。だが藤代は1年後に結婚を決めていた。愛しているのかわからない恋人・弥生と。失った恋に翻弄される12か月がはじまる…。なぜ、恋も愛も、やがては過ぎ去ってしまうのか。川村元気が挑む、恋愛なき時代における異形の恋愛小説。

  •  解説で、作家のあさのあつこ氏が述べている通り、私も川村元気の作品を読むと「妙な胸騒ぎと焦燥感に似た(…)感情に揺さぶられて、落ち着かない心持ちになる」(276頁)。まさに「読み終えた後、自分が当たり前だと信じ切っていたものがすっぽり抜け落ちる感覚」(278頁)になってしまう。
     『世界から猫が消えたなら』を読んだときは、死を目前にした主人公が、過去に置いてきてしまったものを取り戻そうとする姿に、どうしようもない焦燥感と悲しみを感じた。涙が止まらなかった。それでも、主人公が父親への許しと理解に至ったように、“改めて自分の大切な人に思いを馳せるきっかけが与えられた”と考えることで、カタルシスを得ることができた(ように記憶している)。
     『せか猫』と本作での読書体験の違いは、「死」の登場が遅かったこともあり、物語の残酷さに気付かないまま読み進めてしまった点だ。
     川村元気氏の文体はとても読みやすいのに、ところどころで登場人物たちの言葉が引っ掛かり、同じ箇所を読み返してしまう。この不可解さはなんだろう?愛とはなんだろう?結婚とはなんだろう?そんな謎の焦燥感と不安に駆られているうちに、クライマックスの断崖絶壁から突き落とされてしまった。

    ~~~~~
     ところで、本作を読んでいる間に、私はパートナーと大きめの喧嘩をした。原因は、本作に触発された私が、結婚と不倫についてパートナーに持論を展開したところ、予想外に考えを拒絶されたことだった。わかり合えない苦しみから、喧嘩をしている間は、相手がとても遠い存在に感じられた。そして、自分たちの置かれた状況に、藤代と弥生が重なり、恐ろしくなった。私たちも些細なすれ違いで心が離れていき、いつか愛が失われてしまうのだろうかと。

    ~~~~~
     愛は日食のようで、重なり合うのは、ほんの一瞬。

     最終章で示される結論は、とても残酷だ。
     けれど、「一瞬を共有できたふたりだけが、愛が変わっていく事に寄り添っていける」ともハルは言う。これは、救いの言葉なのだろうか?愛が失われるとしても、人は誰かと幸せになれるのだろうか?
     読み終えても尚、消化しきれていない。
     ただ、恋や愛を信じて憧れている人はこの物語を読まない方がいい、と言う、あさのあつこ氏の意見に同意できることだけは確かだ。

  • 彼女が撮る薄色の世界が好きだった。昔の恋人から突然手紙が届く。薄れゆくはずだった記憶が鮮明に蘇る。現在と過去の恋愛が交錯し、その度に切なさが増していく。素敵な言葉を見つけると嬉しくなり、愛とは何かを考えさせられた。

  • 今の私の心にとても沁みた。

    愛は日食のようなもので、その愛は変わっていく。その一瞬を共有できれば、愛が変わったとしても永遠に一緒に生きていくことができる。

    私は愛した時に、はじめて愛された。
    それはまるで、日食のようでした。
    私の愛とあなたの愛が等しく重なっていた時は、ほんの一瞬。
    避け難く今日の愛から、明日の愛へと変わっていく。けれども、その一瞬を共有できたふたりだけが、愛が変わっていく事に寄り添っていけるのだと思う。


    誰かの気を引こうとする時には、人はどこまでも優しく魅力的になれるんです。でもそれは一時的なものでしかない。手に入れたあとは、表面的で無責任な優しさに変わってしまう。ほとんどの人の目的は愛されることであって、自分から愛することではないんですよ。
    それに、相手の気持ちにちょっとでも欠けているところがあると、愛情が足りない証拠だと思い込む。
    男性も女性も、自分の優しい行動や異性に気に入られたいという願望を、本物の愛と混同しているんです。本物の愛ならば、もっと不格好で不器用に表現されるはずです。


    彼とどんなことがあってもすれ違いがあっても、一緒に生きていきたいと思えた本でした。
    タイムリーすぎて心が強くなった。支えられた。無敵になりました。

    看護師の奈々の言葉にもハッと気づかされることが多く、学びにもなりました。

  • なんかつかみにくい話だなぁと思う。今の世界を表しているような感じはなんとなく分かるような。
    藤代くんがそこまで魅力的には感じなかったけど、モテてるのかな。

  • 世界から猫が消えたならから連続で
    読んでしまったせいで川村元気地獄に
    呑み込まれてしまった〜。うつ小説てやつかな。

    愛とは重なった瞬間だけで、また離れていく
    ハルと藤代
    藤代と弥生
    大島さんと奥さん
    なんかどれにも、共感できず。
    お互いに愛しあっていたのに、
    今は、分からない。
    その愛が真実じゃないようにされるけど。

    毎日の穏やかな生活も愛
    母親になれば、いったん旦那さんより
    子ども子ども!ていう時期があったり。
    それも愛
    て思う私には、そんなウツウツ考えてどーする
    て思ってしまったけど

    よ〜く考えると
    無くなっているものに
    理由がつけたくて、それを愛と
    いうことにしている
    深層心理を突いてこられてるから
    この拒絶反応なのかもしれないと思ったり。

    作家は、多くの人が
    自分でも気付いていない感情を
    えぐってくる
    のかもしれない。

    でも、すぐにまた蓋をしちゃうから
    無かったことにできるのだ

  • 素敵な恋愛小説。言葉も物語も綺麗。何度読んでも同じ気持ちに戻してくれるような本だなと思う。

  • 映画を観たかったので読んだ。
    愛について考えさせられる作品だった。
    共感したり、ハッとさせられたりと、印象に残る文章がたくさんあった。
    引用していない部分も含め、奈々や純のセリフが特にグッときた。
    映画も楽しみだな。

    ✎︎____________

    あのときのわたしには、自分よりも大切な人がいた。あなたと一緒にいるだけできっとすべてがうまくいくと信じることができた。

    誰かに恋をしている。いまここに打ち寄せる波のような気持ちは、口にしたときから、淡い夢ではなく現実となる。相手の反応に心が揺れる。悲しい結末を避けたくて気持ちが混乱する。辛い。苦しい。それでも人は恋をする。それはなぜなんだろう。

    愛を終わらせない方法はひとつしかない。それは手に入れないことだ。決して自分のものにならないものしか、永遠に愛することはできない。

    誰かの気を引こうとするときには、人はどこまでも優しく魅力的になれるんです。でもそれは一時的なものでしかない。手に入れたあとは、表面的で無責任な優しさに変わってしまう

    人は誰のことも愛せないと気づいたときに、孤独になるんだと思う。それって自分を愛していないってことだから

    「わたしの愛」と「あなたの愛」が等しく重なっていたときは、ほんの一瞬。
    避けがたく今日の愛から、明日の愛へと変わっていく。けれども、その一瞬を共有できたふたりだけが、愛が変わっていく事に寄り添っていけるのだと思う。

    生きている限り、愛は離れていく。避けがたく、そのときは訪れる。けれども、その愛の瞬間が、いまある生に輪郭を与えてくれる。わかりあえないふたりが一緒にいる。その手を握り、抱きしめようとする。失ったものを取り戻すことはできないのだとしても、まだふたりのあいだに残っていると信じることができるもの、そのカケラをひとつひとつ拾い集める。

  • たまらなく好きな本だな
    2022年シガーロスワールドツアーを見に行ったのでこの本を読み返したくなった。
    川村元気さんの中でもこの作品は特別
    この小説は映画化されてないのかな??
    それはシガーロスが出てくるからかな

    結婚を控えた藤代が、学生時代の恋人のハルから手紙をもらう。
    別れの理由は何だったのか
    婚約者との関係はうまくいくのか
    「愛」とは何か。「永遠の愛」は存在するのか。

  • 藤代さんという男の人を中心に、いろんな人のいろんな恋愛価値観、恋愛経験を描いたお話。
    四月から三月までひと月ごとに章わけされていて、一年のお話なのかなと思ったら、大学生から大人の、年も場所もいったりきたりする書き方だった。
    川村元気さんの作品は、前にひとつだけ読んだことがあったのだけれど、こんなにかというくらい印象に残すことができていなくて、今回は少し緊張しながら読みはじめた。
    前半から真ん中にかけて、自分が絶対に生きたくない世界の話を書いているなと思って、なかなか読むのが大変だったのだけれど、後半からは徐々にすんなり読めるようになっていった感触。

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著者プロフィール

かわむら・げんき
1979年、横浜生まれ。
上智大学新聞学科卒業後、『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『君の名は。』などの映画を製作。2010年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、’11年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。’12年に初の小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞にノミネートされ、佐藤健主演で映画化、小野大輔主演でオーディオブック化された。2作目の小説にあたる本作品『億男』も本屋対象にノミネートされ、佐藤健、高橋一生出演で映画化、’18年10月公開予定。他の作品にアートディレクター・佐野研二郎との共著の絵本『ティニー ふうせんいぬものがたり』、イラストレーター・益子悠紀と共著の絵本『ムーム』、イラストレーター・サカモトリョウと共著の絵本『パティシエのモンスター』、対談集『仕事。』『理系に学ぶ。』『超企画会議』。最新小説は『四月になれば彼女は』。


「2018年 『億男 オーディオブック付き スペシャル・エディション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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