マスク スペイン風邪をめぐる小説集 (文春文庫 き 4-7)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167916138

作品紹介・あらすじ

100年前の日本人は、疫病とどう戦ったのか? 文庫オリジナル!

スペイン風邪が猛威をふるった100年前。作家の菊池寛は恰幅が良くて丈夫に見えるが、実は人一倍体が弱かった。そこでうがいやマスクで感染予防を徹底。その様子はコロナ禍の現在となんら変わらない。スペイン風邪流行下の実体験をもとに描かれた短編「マスク」ほか8篇、心のひだを丹念に描き出す傑作小説集。解説・辻仁成

【収録作品「マスク」】
見かけは頑健に思われているが、実は心臓も肺も、胃腸も弱い。そんな自分に医者は「流行性感冒にかかったら、助かりっこありません」と言う。だから、徹底的に感染予防に努めた。でも暖かくなったある晴れた日に、黒いマスクの男を見かけて――。

感想・レビュー・書評

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  • コロナ禍中、ずっと読みたかったのだが後回しにしていたもの。
    スペイン風邪の…と書いてあったので、その当時の様子がメインなのかと思っていたら、
    菊池寛本人が身体が弱い判断が出されての、な話だったので少し印象が違った。
    が、結局マスクするのしないので心が移り変わる様子が描かれていて面白かった。
    本人の体験談というかエッセイのようなものなので、
    作品とはまたちょっと文体の雰囲気が違うのも生身の人間っぽくて良い。
    さすが文豪。

    これとは違うバージョンの電子書籍で読んだので、収録されている他の作品の
    ラインナップが違うかもしれない。
    私が読んだのはマスクの他は将棋、勝負事、出世、身投げ救助業が収録されていて
    どれも面白かったなぁ。身投げ救助業と勝負事が好きだったかも。

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    表題「マスク」より、人はいつでも自分本位…でもそこが人間らしさ。


    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)➕ネタバレ注意

    スペイン風邪が猛威をふるった100年前。作家の菊池寛は恰幅が良くて丈夫に見えるが、実は人一倍体が弱かった。そこでうがいやマスクで感染予防を徹底。その様子はコロナ禍の現在となんら変わらない。スペイン風邪流行下の実体験をもとに描かれた短編「マスク」ほか8篇、心のひだを丹念に描き出す傑作小説集。解説・辻仁成

    【収録作品「マスク」】
    見かけは頑健に思われているが、実は心臓も肺も、胃腸も弱い。そんな自分に医者は「流行性感冒にかかったら、助かりっこありません」と言う。だから、徹底的に感染予防に努めた。でも暖かくなったある晴れた日に、黒いマスクの男を見かけて――。

    誰もマスクをしないときにマスクをするのが文明人!と思っていたうちは、マスクをつけている人を同士よ…と思えていたのに、自分がマスクを外している時に見かけたマスクの若者を見て、小憎らしい!と思ってしまう。

    ⚫︎感想
    若者を見て、強者の態度を感じ取り、忸怩たる思いをする…という人間の自分本位な考えが浮き彫りになるのだが、マスクという軽い題材なので、クスッと笑える。

  • 強者と自惚れそうになる時に読み返す本

  • 表題の短編「マスク」では、今も明治も感染症対策は大差無いなと気づかされた。黒マスクって昔からあったのね。
    「身投げ救助業」が印象的。川に身投げして溺れた者を救助して小銭を稼いでいた老婆が...

  • 主人公の心の動き。
    自分がマスクをしている時としていない時の周りを見る目線がユーモアたっぷりに描かれている。笑っちゃいけにんだろうけど、つい。あ。

  • 物怖じしない反省文て感じ。これがテーマ小説ってやつか。

  • 表題が『マスク』だし、‘スペイン風邪をめぐる小説集’とあるので、その辺りの話ばかりかと思いきや、後半は特にそうではなく…その後半の作品たちが、とても面白かった。
    人の心の動き、人と人との関係(今ならコミュニケーションという言葉で表すのだろうけれど、もっと複雑な)日本的なもの。心が痛くなる瞬間が何度もあったけれど、心の表裏の描き方に心を奪われた。

  • 百年前のスペイン風邪流行時の東京の雰囲気を知りたくて読んでみた。
    ワクチンはないけど、人口密度と移動量を考えると、流行り具合は大差無いのかもしれない。
    「マスク」における主人公の言動、発想は、驚く程現代とそっくりだ。

  • 目次
    ・マスク
    ・神の如く弱し
    ・簡単な死去
    ・船医の立場
    ・身投げ救助業
    ・島原心中
    ・忠直卿行状記
    ・仇討禁止令
    ・私の日常道徳

    コロナ禍だからこそ出版された、菊池寛の短編集。
    とはいえ、スペイン風邪をめぐる小説集というのは言い過ぎ。

    表題作は、心臓の具合がよろしくないと言われた死を身近に感じておびえていた頃、流行性感冒が流行り始めてからの著者の行動が、全く現在のコロナかと被って面白かった。

    ”自分は、極力外出しないようにした。妻も女中も、成るべく外出させないようにした。そして朝夕には過酸化水素水で、含漱(うがい)をした。止むを得ない用事で、外出する時には、ガーゼを沢山詰めたマスクを掛けた。そして、出る時と帰った時に、叮嚀に含漱をした。”

    ”病気を怖れないで、伝染の危険を冒すなどと云うことは、それは野蛮人の勇気だよ。病気を怖れて伝染の危険を絶対に避けると云う方が、ぶんめいじんとしてのゆうきだよ。”

    また。「簡単な死去」では流行性感冒で亡くなった同僚のお通夜に出席する人を決めるためのくじ引きを行う。
    何しろみんな嫌なのだ。

    ”若(も)し当り籤が自分に残ったら、何(ど)うしよう。どちらかと云えば、病気恐怖症(ヒポコンデリック)な雄吉は、今度の感冒も極端に怖れて居る。社内で、誰よりも先に、呼吸保護器(マスク)を買ったのも、雄吉だった。硼酸(ほうさん)で嗽(うが)いもして居る。キナの丸薬さえ予防の為に、時々飲んで居る。”

    まあまあ、スペイン風邪関係は最初の三編のみで、あとは時代物の有名な短編作品。

    「船医の立場」は、アメリカに行こうと黒船に乗り込んだ吉田松陰の処遇について、「知性も品位も感じられる日本の有能な若者を、ぜひアメリカに連れて行きたい」という船長以下の意見に対して、船医の立場で意見を言った。ワトソン。
    船から降ろす=命がないであろうということはわかっていたのだが、言わざるを得なかった。
    しかし後に、狭い籠に押し込められた松陰たちを見て、自分の判断は一体正しかったのであろうかと思う。

    「仇討禁止令」は、過去の非道を隠し続けられるのか、それともすべて破綻してしまうのか。
    誰が悲劇的な最後をむかえるのか、と予想しながら読んだけれど、そう来たか。
    明治になっても、出世しても、己の中の武士は生きていたのか。

  • マスクはワクチン普及前のコロナ禍とかなり感染症対策が重なっていることに驚かされる(極力外出しない、常に手を洗う、でかけるときはマスクでがっちりガード)マスクをしないで外出する他人を見て憎悪を感じたというエピソードもあり。
     一緒に収録された作品の中では、黒船に乗り込もうとした吉田松陰を皮膚病のゆえに乗船拒否したことをのちに悔やんだ船医の立場、張合やプライドを無くしてしまうと行動の生き甲斐がなくなるという身投げ救助業、検事の思い込みを強引に被疑者から誘導した経緯を詳細に説明したために高瀬舟よりも安楽死への追及に関する深みはなくなってしまった島原心中、部下のお追従にある日気づいてからは何も信じられなくなり乱行の限りを尽くようになり改易によって初めて心の平穏を取り戻した越前の暴君、松平直正の内心を巧みに描写した忠直卿行状記、許嫁の父である佐幕派の家老を闇討ちで暗殺したのちに明治維新をむかえ開明派の武士の苦悩を描いた仇討禁止令、こういうものが掲載されているが、やはり日本のオーヘンリー、非常に好みの作品が多かった。

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著者プロフィール

1888年生まれ、1948年没。小説家、劇作家、ジャーナリスト。実業家としても文藝春秋社を興し、芥川賞、直木賞、菊池寛賞の創設に携わる。戯曲『父帰る』が舞台化をきっかけに絶賛され、本作は菊池を代表する作品となった。その後、面白さと平易さを重視した新聞小説『真珠夫人』などが成功をおさめる一方、鋭いジャーナリスト感覚から「文藝春秋」を創刊。文芸家協会会長等を務め、文壇の大御所と呼ばれた。

「2023年 『芥川龍之介・菊池寛共訳 完全版 アリス物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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