メタボラ (文春文庫 き 19-23)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (688ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167920111

感想・レビュー・書評

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  • 舞台が沖縄の小説といえば原田マハさんの小説!
    そして、どちらかというと沖縄の人達の人柄や陽気さに惹かれて読後感も何となくナンクルナイサーな気分が味わえる。

    しかし、本作も舞台は沖縄ではあるが非常にネットリというか、じっとりというか、まるで熱帯雨林の湿度と森の中の土の匂いが漂ってくるような小説でした。

    2000年代初頭から団塊の世代がドロップアウトした平成の後期まで、労働者や働きたい若者にとって非常に不遇の時代であった事は間違いない!
    低賃金、ブラック労働、失業と倒産の恐怖の中で家族やマイホームを持たなければいけないという周囲の圧力に負けない強さが逞しさが、この時代の生きるという事なのではないか?と考えさせられました!


    主人公は記憶喪失の状態で沖縄のジャングルの中で気がつく!?
    気が付いて一番最初に出会った男、昭光から『ギンジ』と命名され、無一文の何も持たない状態からギンジの人生はスタートする!

    桐野夏生さんの事だからギンジと昭光に甘いような展開は無いんだろうなぁという気持ちの中で読み進んでいくと・・・

    章が変わった時に結構衝撃を受けました!

    600ページオーバーの超大作ですが、第二章まで進めば一気読み必至です!!!

  • いやはや、凄かった!
    674ページ!夢中で読みました。
    ギリギリの世界を生きる若者たちの息苦しさと、容赦ない描写と、しばしば危うさを感じ、苦しみも伴いました。(普通にずっと出てくる沖縄の島の方言、正確には分からないまま読んでいたけど、雰囲気で分かるの)

    記憶喪失…って、昔はよくマンガで読んだ気がする。自分が何者なのかさっぱりわからないって、よく考えたら(考えずとも)物凄く恐ろしく怖いことだ。しかも、自分が何者か教えてくれる人が周りに皆無なのだ。何も持たず何も分からず、ただただ生きることだけを考える前半と、あることから記憶が蘇ってくる後半。上手い!
    貧困、格差、ニート、請負労働者、バックパッカー、様々な状況の迫力ある展開に圧倒されながら…それでも、それでも、後半に感じていたのは、「不幸の状況がたとえ同じであっても、やはり、本人がそれをどう捉え、どう考え、どう動くか、ということで分かれ道が出来るのではないか?」ということ。主人公と妹の対比が象徴的だ。

    しかし、こういう作品を読むと、そんな考えすら、屋根のあるところで住んでいる私だから言えるのだろうか?と思ってしまうほど、辛かった。

    この作品、以前から気になりつつ、文庫になったので、おっ!と即買いしました。私にとって、桐野さんは信用度が高い作家さんなので、心配はせずガッツリ読み進め、やっぱり私は桐野さんが好きだ〜と思うのでした。キツイところは沢山あるけれど、桐野さん独特の凄みが、いつも読み応えを感じさせます。平和だと思ってる世界には様々な不幸が溢れているのだと、深く感じたのでした。

    印象に残ったところ少し。
    ーーーーー
    細胞は生まれ変わる。夕方の僕は、朝の僕ではない。

    結局、相手にコケにされているとわかっていても、得られない心が欲しくてあがくのが、恋さいが。

    僕の負の感情は、この日から一気に、大きな悔いとなって僕を苦しめた。でもそれはやはり憎しみと裏表だった。

    作業が辛くて仕方がないのに、何とかノルマを果たすべく頑張る、律儀な僕。作業が好きなのに、ノルマを果たせず、皆の手を煩わせる、怠け者の原口。

    人生には、取り返しのつかない日や、その日を境にしてすべてが変わる日、というのが存在する。

    愛情は変質する。人は死んでいく。空も海も毎日違い、この世に絶対変わらないものなんてない。
    ーーーーー

    解説の中でも印象深かった言葉を一つ。
    『自己責任というものは存在する。それは、誰かの不幸を他の誰かが代わってあげることはできない、ということだ』


  • 大好きな桐野夏生さん。
    やっぱり面白い。
    貧困、孤独、格差
    重い‥重すぎる‥なのになんでこんなに
    惹きつけられるんだろう。

    記憶を失った主人公のギンジと
    故郷の宮古島を捨てた昭光が
    安住の地を求めて放浪する。

    二人の関係は友情?とは言えないものだけど
    孤独で極限の状態にいる二人にしかわからない
    心の繋がりがあるのだろうな。

    主人公の家族が崩壊していくシーンは
    辛かった。
    例え家族であろうと、人との繋がりは
    努力して維持していくものなんだと感じた。


    ラストは切なかった。
    逃げても逃げても明るい未来なんてないのかもしれない。
    解説にある
    安っぽい同情など愛ではない、自己責任
    誰かの不幸を他の誰かが代わってあげることは
    できない
    厳しいけどこの言葉が刺さる。

    自分が若い頃に読んだら
    どう感じたのかな。

  • 大事なことは解説に全部書いてある。
    前半ちょっとダラダラした気がするけど、記憶を取り戻すあたりからスピード感でてよかった。
    自己責任て言葉は嫌いなのですが、それにしたって流石に…な人達のオンパレードなので、悲惨な結末もまあ、そうなるよね…と受け止めるしかない。

  • 自分が20代の時に、この小説に登場する人物達と似たようなことをやっていた。 日雇い労働、季節労働者、バックパッカー、渡り。 楽しいけれど、自由であるけど、地に足がつかず不安定で病む精神。
    立ち寄った、精神科では冷たくあしらわれ。
    いろんな事を思い出した。

    そして、沖縄。 2007年くらいが背景だと、自分が行っていた年代とかぶる。 あの頃、通り過ぎていった皆は元気だろうか。

    今回、大人の沖縄旅行がダメになった。 この本を読んでいる時は、自分の心は沖縄に飛んだ。

  • かなりの長編。でも読み応えがあった。桐野さんの初期の作品OUTと同じ路線。2人の真逆の境遇で育った若者が自分の居場所を求めて流れて行くストーリー。登場人物が個性豊かで一人一人に興味を持ってしまうし場面や会話がとても細かくドラマを観てるようだった。昭光が墜ちていくのは予想はできたがギンジまでもが墜ちてしまうなんて。そういえば私の中で救いようのない小説を書く作家さんは桐野さんだった。

  • 真っ暗闇の森の中を逃げる〈僕〉。
    逃げている理由はおろか自分の名前すら分からないままひたすら山を下り、疲れ切って動けなくなった時に出会ったのが昭光だった。
    昭光によってギンジという名前を与えられた〈僕〉はゼロからギンジを生きることになる‥。
    予備知識なく読み始めたので、初めはギンジが過去に何か大きな犯罪を犯したのだと思ったが、その方がむしろ良かったと思うほど、読んでいて疲弊する生い立ちだった。ただ不幸だというだけではない、もどかしさとやるせなさ。苛立ちや諦め。
    一方、刹那的な生き方を自ら求めている昭光の末路も衝撃的だ。
    若者も中年も、登場人物のすべてが溜め息が出てしまうような生き方で、でもこれが100%が非現実なわけではないんだよな、と思うと、痛いところにスポットライトを当てられたような気持ちになった。

  • 面白すぎて700ページ弱イッキに読んだ。
    沖縄貧困について。記憶を取り戻していくシーンは秀逸。ネット集団自殺や工場労働などはあまり知らなかったため勉強になった。考えただけでぞっとする。
    登場人物皆が受動的すぎたり情報欠如故に努力する方向がズレてたり、、、。最後の解説の自己責任という言葉が刺さった。

  • 読み応えがあり、新しい価値観が蓄積していく感覚があって有意義な読書体験だった。が、いかんせんつらすぎる。次読む本はバカバカしいやつにしよう、と思った。

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

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