少年と犬 (文春文庫)

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  • 文藝春秋
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  • / ISBN・EAN: 9784167920210

感想・レビュー・書評

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  • 2023.11.22 読了 ☆8.0/10.0



    多聞という名の犬と、多聞と関わった7人の人生を描いた連作短編小説です。それぞれの話を辿っていき、最終話で全て繋がり、終結する展開になっています。



    各章は、東日本大震災によって飼い主を亡くした多聞という犬を中心に語られる物語。
    短編集とは言うものの、それぞれの話は多聞を中心に繋がっていて、多聞と出逢った人々の生き様や境遇は多種多様。



    現実でも、バラバラになった飼い主と犬の話を聞いたことがあります。飼い主のもとに自力で帰ってきた犬の話で、本作も似たような展開ではあるものの、さらに神秘的で奥深く、運命的な話のように感じられた。


    ただ、レオを通じて事情を抱えた人たちが登場し、レオと出会ったことで心を癒していき、前を向いて歩いていこうとする姿勢に感動し、引き込まれていきましたが、ところどころでバッドエンドなのが思ってたのと違くてがっかりしました。


    「多聞は本当に守り神なのか?」と疑ってしまう結末も多々ありました…
    事故死、ヤクザに殺され、滑落死、殺人で自首、猟銃で撃たれ、2度目の震災…犬と関わった人達の最後が可哀想すぎて…逆に死神の話?と思ってしまいました。


    ハートフルでハッピーエンドで終わり、それぞれの話の主人公がまた別の話で間接的にも登場して繋がっていくような、群像劇のような展開を期待していた反面、少し拍子抜けしてしまいました。



    強調しておきたいのは、この作品自体が悪いのではなく、合う合わない、本のテイストの好みだということです。

    必ずしもハッピーエンドで追わないのが人生であり、現実社会です。

    だから、本書もそれが魅力であり、味なんだと思います。


    読んでいて、「あぁ、自分は主人公が傷つきながらも己と向き合い、再生していくような、ハッピーエンドで心温まる話が好きなんだな」と改めて思いました。


    話自体は面白く、引き込まれる反面、フィクションだからこそ本の世界ではハッピーエンドで終わって欲しいなぁと個人的には感じました。



    〜〜〜〜〜以下、心に残ったフレーズ〜〜〜〜〜



    ”あんたたちの魔法って、人を笑顔にするだけじゃないんだね”


    ”人にとって犬は特別な存在なのだ。
    人という愚かな種のために、神様だか仏様だかが遣わしてくれた生き物なのだ。
    人の心を理解し、人に寄り添ってくれる。こんな動物は他にはいない。

  • 馳星周『少年と犬』文春文庫。

    第163回直木賞受賞作。

    多聞という名の犬と、多聞と関わった7人の人生を描いた連作短編小説。全ては最終話に帰結する。

    この連作短編小説の面白さは、多聞という犬を主人公にして、多聞に関わる人間を脇役にしたところだろう。多聞は人間の言葉を話せないだけに、その気持ちは脇役である人間の反応で知ることになるのだ。

    『男と犬』。

    多聞という名の犬と出会ってから細やかな幸福な日々を過ごしていた男が陥る悪夢。人生山あり谷ありと言うが……馳星周らしいピカレスクと男と犬の奇跡の出会い。

    東日本大震災から半年後の仙台。暴力団と関わりのある先輩からヤバい仕事を貰いながら何とか暮らす中垣和正は仕事の途中で多聞という名の痩せて傷付いた犬を拾う。和正には認知症の母親と姉がおり、母親を施設に入れるためにも喉から手が出るほど金が欲しかった。先輩から金になる仕事と頼まれた外国人窃盗団のミゲルとホセ、リッキーを車で逃亡させる仕事に手を染めるが……

    『泥棒と犬』。

    逃亡する窃盗犯とトラック運転手の二人の外国籍の男。袖振り合うも多少の縁と言うが、二人はそれ以上の魂の繋がりを感じる。

    多聞の飼い主は外国人窃盗犯のミゲルに代わる。仲間のホセとリッキーを見捨てたミゲルは多聞と共に福島に向かい、新潟を目指す。ミゲルが稼いだ大金を狙い、ミゲルの行方を追うヤクザ。

    道の駅でヤクザたちに見付かり、車を捨てて多聞と逃亡するミゲルはトラック運転手に拾われる。ハーミと名乗る外国籍の運転手と会話するうちにミゲルは故郷での過酷な日々とショーグンという名の犬のことを思い出す。

    『夫婦と犬』。

    どちらかが相手に依存し過ぎても夫婦関係は壊れる。勿論、相手に興味や信頼を失えば、それまでなのだが。子はかすがいと言うが、犬はかすがいの役目を果たすのか。

    既に多聞と書かれた首輪の文字はかすれ、名前を失った多聞。

    中山大貴がトレイルランニングの練習中に山中で多聞と出会う。大貴はアウトドアグッズの専門店を営んでいたが、妻の紗英が経営する無農薬野菜と手作り雑貨のネットショップが順調なのを良いことに仕事をお座なりにし、トレイルランニングに没頭する。

    何時しか擦れ違い始めた大貴と紗英の夫婦関係。大貴は多聞をトンバと呼び、紗英はクリントと呼ぶ。ある日、大貴が多聞と山にトレイルランニングに出掛けるが……

    『少女と犬』。

    前の3編では、多聞の飼い主となった者が命を落としている。多聞は守護神などではなく、死神だったのか……

    居眠り運転のトラックとの事故で両親と右脚を失った瑠衣は自殺しようと車椅子で東尋坊付近をさ迷う。そんな時、瑠衣は多聞と出会い、かつて飼っていた犬の名のマックスと呼び掛ける。

    多聞と出会い、多聞と歩いて散歩したいと願う瑠衣はリハビリを再開し、義足を着けるために懸命に努力する。

    やがて、多聞は姿を消し……

    『娼婦と犬』。

    いよいよ判明する多聞の過去。出会った人たちを癒しながら、長い旅を続ける多聞はどこへ向かうのか。

    夜の滋賀の人里離れた山中で瀕死の重症を負い、道に蹲っていた多聞と出会った美羽は多聞を動物病院に運ぶ。多聞の体内に埋め込まれたマイクロチップから岩手県で飼われていた四歳の牡犬であることが判明する。

    マイクロチップの情報から飼い主に連絡を取るが、連絡は付かず、美羽が多聞を引き取り、レオと名付ける。

    しかし、美羽は大きな問題を抱えていた。美羽は、晴哉というヒモのような男のためにデートクラブで体を売っていたが、晴哉の浮気を目撃し、衝動的に殺害してしまったのだ。

    多聞と過ごした束の間の幸せな時……

    『老人と犬』。

    どのような形で人生の最後の時を迎えるのか。後悔ばかりの無様な迎え方はしたくないものだ。

    多聞は島根に居た。何故か九州を目指す多聞は、老猟師の片野弥一と暮らすことになる。ステージⅣの膵臓癌に冒されながら、治療を拒む弥一は多聞にノリツネという名前を与える。

    体力も衰え、痛みに苦しむ弥一は手負いの熊を仕留めるために山に入るが……

    『少年と犬』。

    表題作にして感動の最終話。ついに奇跡のような多聞の5年間にも及ぶ旅の目的が明らかになる。犬は賢いというが、多聞は取り分け賢いのだろう。涙無しには読めない。

    多聞は熊本に現れる。5年もの長き時間を掛けて熊本まで旅を続けていたのだ。

    ガリガリに痩せて傷付いた多聞を内村徹が動物病院に連れて行くと、マイクロチップの情報から多聞は内村が妻の久子、息子の光と暮らしていた岩手県釜石市で、出口春子に飼われていたことを知る。

    その後、知人に調べてもらうと出口春子が東日本大震災の津波により亡くなっていることが解り、多聞を引き取る。

    内村の息子の光は釜石市で東日本大震災を経験し、そのショックで言葉を失っていた。ところが、多聞を見た光は……

    本体価格780円
    ★★★★★

  • 文学書評
    読書レベル 初級〜中級
    ボリューム 308頁
    ストーリー ★★★★★
    読みやすさ ★★★★★★!
    ハマリ度  ★★★★
    世界観   ★★★★★
    知識・教養 ★★★
    読後の余韻 ★★★★★
    一言感想:
    【第163回直木賞受賞】
    読書初心者で直木賞受賞作に挑戦してみたい方、心温まるストーリーが好きな方、犬を飼っている(飼おうか悩んでいる)方にオススメの書籍です。

    1本の長編ストーリーですが、6つの短編で構成されており、難しい言い回しもほとんど無いため、読みやすさが抜群に良いです!

    各章の主人公がそれぞれ異なった悩みを持っていて、偶然出逢った犬がその主人公達の心の隙間を埋めてくれるという物語ですが、人間と犬の寄り添う描写が絶妙過ぎて心がポカポカになります。

    短編にも関わらず、それぞれの主人公の抱える悩みや心情、気持ちの変容がとても丁寧に描かれていて、各短編の世界にどっぷりと入り込むことができました。そして、無性に犬を飼いたくなりました(笑。

  • 再読用に文庫で購入♪
    以下は文庫化前の電子書籍で読了した感想です。

    〜ここから〜
    話は、あの東日本大震災によって飼い主を亡くした多聞という犬を中心に語られる短編集。
    短編集とは言え、それぞれの話は多聞によって繋がっており、犬と出逢った人々の生き様は多種多様。
    始めは、多聞と関わった人々の結末から、多聞は死神なのかと思わせることもあったが、最後の章となる「少年と犬」ですべてが分かり、喜びと悲しみが入り交じりながら涙が溢れてしまう。

    実際のニュースでも、離ればなれになった飼い主のもとに自力で帰ってきた犬の話はあり、本作も似たような展開ではあるものの、もっと神秘的で運命的な話のように感じられた作品であった。
    〜おわり〜

  • また初読みの作者さん。
    東日本大震災で主人を失くした犬・多聞と、彼に出会った人々の物語。7つの話からなる連作短編集。

    前半の3話は犬の賢さに比べ人間たちの愚かさが目立つばかりであまり興が乗らなかったが、4話目の交通事故のせいで両親と自らの右足を失った少女の心を癒し再生したところから面白くなってきた。全体の中でも、話の続きに希望が見えたこの4話目が一番良かった。
    そこから娼婦の懺悔や老猟師の悔恨を洗い流し、少年との奇跡的な邂逅に至る話は、出来過ぎた話とは思いつつ、動物を飼おうとは思わない私のような人間でもその温かさにじんわりと浸されたような心持ちを覚えたのだった。

  • 人間にとって犬は必要不可欠な存在であると、本書を読み再認識しました。

    ストレスや寂しさを緩和させてくれる犬、頼り甲斐のある相棒のような犬、悪いことから遠ざけてくれる守り神のような犬。なんて素晴らしい存在なんでしょうか。
    知能が高く、人間の言葉を理解し、躾を守ることが出来るのは、犬の他に居ません。だからこそ、こんなにも身近に感じる動物なのでしょう。

    本書は連作短編です。犬を通じて人間が癒されたり影響されたりします。(性描写有り)

    感想を述べるにあたって、私が最も重要だと思っているのは起承転結です。
    評価を星三にした理由として「結」の部分がかなり雑だと感じました。
    登場人物の死亡オチが多かった。人間の不条理さ、現実の残酷さ、リアルさを出したかったんでしょうが、無理やり「死」を登場させなくても良かったのでは?うーん…自分に合わないからかもしれないが。

    サクッと読めて、サクッと感動出来る。短編の良いところを引き出している。
    特に「少女と犬」が良かった。(「少女と犬」は文庫で初収録だそうです)
    思っていたラストで良かった。定石。ここで酷かったら嫌だとヒヤヒヤしました。
    犬飼いたくなりますね。中型犬。もふもふに癒されたいです笑

  • 私、ひねくれ者なので……

    公園で仲良くなった少年を釜石から日本中を探して熊本まで辿りつく?人間でもできる?ましてや飼い主でもないのよ!

    途中、事情を抱えた人達と出会い、心を癒していく様に感動し、引き込まれていきましたが、最終章があまりにもいい話過ぎて逆に冷めました。
    本当に守り神なのか?事故死、ヤクザに殺され、滑落死、殺人で自首、猟銃で撃たれ、2度目の震災…犬と関わった人達の最後が可哀想すぎて…逆に死神の話?と思ってしまいました。なんと直木賞‼

    • TTさん
      ねー
      ねー
      2023/07/16
    • せりぐまんさん
      激しく同意です。笑
      私もひねくれ者なので。なぜこんなに評価されるのでしょうか。
      最終章によっては深い話になったような気がしますが…
      激しく同意です。笑
      私もひねくれ者なので。なぜこんなに評価されるのでしょうか。
      最終章によっては深い話になったような気がしますが…
      2023/07/16
    • honwakamihaさん
      話に引き込まれる部分もあったので文章はとても上手だと思うのですが、不自然なくらいの登場人物達の不幸な死と、ラストの無理やりにも思える感動の展...
      話に引き込まれる部分もあったので文章はとても上手だと思うのですが、不自然なくらいの登場人物達の不幸な死と、ラストの無理やりにも思える感動の展開…
      作者さんが何を伝えたいのわからなかったですー。
      2023/07/16
  •  一匹の犬と様々な人との温かく、せつない交流を描いた連作短編集。

     犬が旅する目的を縦軸に、出会う人たちとの交流や絆を横軸に展開するという形式で、物語に深みを感じました。

     そこで出会う人たちは、みな生きることに課題を抱えており、多聞という名の犬と出会い、交流を深めていくことで、生きる意味を見つけていくという再生の物語だと感じました。

     しかし、だからといって、結末はそれぞれ違っており、それが人生の厳しさであり、切なさなのではないかと思いました。

     一匹の犬の生き方を通して、自分の生き方を見つめ直していきたいと思う今日この頃です。
     

  • 第163回直木賞受賞作である『少年と犬』
    シェパードと和犬とのミックス犬その名は「多聞」単独では、毘沙門天と呼ばれ、四天王としては、多聞天と呼ばれ北を守るとされる守護神に由来されるという。
    この物語は、7篇の短編集であると同時に
    「多聞」という犬を中心にした連作短編集でもある。
    この「多聞」岩手県釜石市で東日本大震災を受けて、5年をかけて九州 熊本県まで旅をする。
    その先々で、さまざまな人と出会い、その人々の人生の一部分に深く関わり、影響を及ぼし、助け、守り、そして去っていく。
    「多聞」の旅の目的は?
    1遍から6篇まで、出会った人々を癒し、守護天使の如くその人々に寄り添う・・・
    そして7篇、表題作である『少年と犬』。
    「多聞」の旅の目的が明らかになる。
    最終目的地 熊本で待ち受けている、感動と哀しみ ラストは、涙が止まらない程でした。
    個人的な思いとしては、「多聞」の最終目的地である熊本に住んでいること、熊本地震を体験し、さらに当時飼っていた犬と数年前に死に別れた事なども思い出してしまい、人間が理解出来ない犬の持つ力をこの物語をとおして感じることが出来たと思っております。
    北方謙三先生の解説も素晴らしかったです。

  • この物語が犬(=人間がパートナー関係を築いた最初の動物)だからこそ納得感があった。犬から受け取るメッセージは、冷静な時の主人公自身の言葉だろうと思いつつ、特によく出てくる表現については犬からのメッセージな気がした。

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著者プロフィール

1965年北海道生まれ。横浜市立大学卒業。出版社勤務を経てフリーライターになる。96年『不夜城』で小説家としてデビュー。翌年に同作品で第18回吉川英治文学新人賞、98年に『鎮魂歌(レクイエム)不夜城2』で第51回日本推理作家協会賞、99年に『漂流街』で第1回大藪春彦賞を受賞。2020年、『少年と犬』で第163回直木賞受賞した。著者多数。

「2022年 『煉獄の使徒 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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